秘匿された第十王子は悪態をつく

なこ

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最終章

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あの事件をきっかけに、不正を行なっていた貴族たちや、それに関連する者達が次々に粛清された。

王からの容赦ない処分は、他の貴族たちにとってある意味見せしめのようなもので、三年という月日が経った頃には、貴族たちの勢力関係が大きく変化した。

国に忠義を誓う実直な者たちによって、新たに経済が循環し始め、それはこの国により大きな富をもたらすようになった。

父の隣でその仕事を補佐しながら、合間にまたからくり造りなんかをして、変わりゆく国の様子を城の中から感じる日々だ。

城の外に出ることは許されないが、城内なら何処でも自由に動き回れる。

護衛がなくても、城の中は安全だ。俺に手を出そうものなら、どんな処罰が下るかわからないと、腫れ物のように扱われている。

「入るぞ。」

返答も待たずに簡素な扉を開くと、部屋の中は色とりどりの布で溢れかえっていた。

部屋の中心にいるのはマホだ。

「また勝手に…」

「今度は何を作っているんだ?」

「ナターシャ様に頼まれたドレスだよ。ニイナ様の分も頼まれているんだ。忙しいんだから、邪魔しないで。」

せっかく来てやったのに、こちらを一瞥もしないで作業に集中している。

「…お前、一応俺も王子なんだけど。」

「ああ、そうだね、分かってる。何でも持ってる王子様だよね。ぼくのこと、不敬罪で捕らえる?」

「そんなことしないって、分かってて言ってるんだろ。」

マホはくすくすと声を出して笑った。

三年前の姿とは別人のようだ。

ユリウスとの婚約解消を言い出したのは、マホからだった。

あんな風にやられてしまうなんてがっかりしたと、だから解消すると言い出したマホの元へ乗り込んだあの日が懐かしい。

そんな台詞を言いながら、マホはずっと泣いていたし、ユリウスを助けた俺に何度も感謝を述べていた。

その後、どういう訳か母様たちの支援で裁縫の道に進み始め、王宮の片隅でひっそりと暮らしている。

王宮内なのに給金はなく、細々と暮らしているが、その姿はどこか生き生きとしている。

あの頃のマホは嫌いだったが、今のマホのことは気に入っている。

マホがどう思っているのかは、分からないが。

「…ユリウスから何か連絡はあったか?」

針を手にし、口にも咥えて、布地を仮止めしながら、マホは首を横に振る。

「そうか…。一体何処で何をしているんだろうな。」

マホからの婚約解消を受け、二年前まで騎士として事件の収集を務め上げた後、ユリウスはある日忽然と城を去ってしまった。

元々騎士は辞めていた。責任を感じてやるべきことをやり終えただけだ。ユリウスを止めることは誰にもできなかったと言う。

俺にもマホにも何も言わずに、ユリウスは何処かへ行ってしまった。

生家に帰ったという者もいれば、いや生家にも帰っていないらしいという者もいて、その真偽は誰にも分からなかった。

ルドルフもシオンも、ユリウスとの連絡は取れていないと言う。

「…何処かで、ユリウスの好きなように生きていてくれたら、それでいいよ。」

よれた布地を正しながら、マホはポツリと呟いた。

「…会いたくないのか?会ってまた、側にいたいんだろう?」

マホに投げかける言葉は、オレ自身の願望だ。

「…分からない。でも貰ったお金を返したいかな。それと、あの頃とは違う自分を見て欲しい。こうしてちゃんと生きてるよって、ありがとうって、それだけでも伝えたい。」

最後にあった時のユリウスのように、マホはどこか吹っ切れたような、そんな風に見える。

…変わらないのは、俺だけなのかな。

マホが手を入れるドレスは不思議な色合いで、ゆらゆらと揺れるドレープが美しい。

「すごいな、マホ…」

「…支援してくれるって人が現れたんだ。小さな店だけど、王都に店を構えられるかもしれない。妃様たちも応援してくれるって…。だから、頑張りたいんだ。」

また作業に集中し始めたマホを暫くの間眺めて、そうして部屋を出た。

ユリウスもマホも、もうあの頃とは違う。

俺だけが、一人だけずっと取り残されたまま…。

もしかしたら、ユリウスももう俺のことなんて忘れているんじゃないだろうか。

三年の間、一度も連絡はない。

ノアールが夢に現れることもなくなっていた。




ここの所、身体の不調が続いている。元から体温は高いが、微熱が続いて常に熱っぽい。

なかなか父の目に留まる婚約者は見つからないようだ。

このままずっと見つからなければいい。でも今はこの身体の不調が何を意味するのか、よく分かっている。

待つことには慣れていたが、もう時間はないのかもしれない。

新たな婚約者候補が見つかるのも、きっと時間の問題だ。

毎日のように思い返していたユリウスの顔や声は、今ではもう朧げだ。

『迎えに行きます…』

本当にユリウスは迎えに来るなんて言ったんだろうか。

その記憶すら朧げで、すでに自信がない。

不調を抱えたままやり過ごす日々の中、届いた書簡に目を通した父から、婚約に関する件で、明後日立ち会うよう命じられた。

それはあまりにも唐突だった。

俺を娶りたいと申し立てしてきたらしい。

あの王相手に堂々と申し立てしてくるなんて、きっとなかなかの強者に違いない。









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