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三章
18話 ヒュドラ戦
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2日目 朝
「いてててて、ホントに昨日は死んだかと思った。走馬灯が見えたぞ」
俺は草むらの上で伸びをする。隣には同じくパンイチの剣士、2号がいる。彼は笑いながら俺に言う。
「いやー、昨日のあれは傑作だったな。お前、骨も内臓も全部ぐちゃぐちゃになるくらいには、攻撃されてたけど、よく治ったな」
「笑いごとじゃねーぞホント。これがギャグ系の物語だから、傷は次の話で治ってるけど、良くあるファンタジーもんなら、全治何週間だぞ。……いや、そもそもファンタジー系のチート使いは、こんな風にはならずにハーレムを満喫するもんか……」
「……お前、時々よく分からないことを言うよな」
気にするな。と俺は一言言って、朝食へと向かう。
朝食の時間で、俺はエナに必死に告白の件を弁明した。彼女の顔が何度もピキピキしていたが、殴られなかったのは僥倖だ。それでいて、エナももう諦めたのか俺に、
「あーもー、分かったわよ。あの件は水に流してあげるわ」
「まじですか? エナ様! ありがたき」
「……そのかわりに、今回の報酬は全部私のものになるけどいいわね?」
「「あ、別にそれは最初から分かっていたわ」」
その返答は2号も同時に言った。俺たちは久しぶりにちゃんと笑った。
3日目 ヒュドラのいる街
なんか展開早くないですか? と思っても言っちゃダメだ。テンポ良く行くのが異世界ファンタジーであり、ギャグ系なのだから。
「ふー、やっと着いたわね」
「長かったな流石に。まさか3日も歩くとは」
「俺なんて力もないのに、荷物持たされてるし、骨バキバキに折られるし、不幸だ」
「業得だろ」
2号がそう自業自得を略して言い、俺たちは街へと足を運b
「ねぇ、2人ともどこ行くの? 街に入ったってお金ないんだから、なんもできないわ。ささっとヒュドラの谷へ行くわよ」
「「………………は?」」
「いやだから、お金ないから街なんて寄らないわよ」
「……旅の疲れ癒さないの?」
「癒さないの」
「……他の街観光しないの?」
「しないの」
「「はぁーーーーー」」
エナの言葉を聞いてため息を吐き、俺と2号はトボトボと歩き出す。
なんてこった。初めて他の街まで来たのに、街の中には入れないなんて……。どれだけお金ないんだよぺたんこのやろう。
エナとは、ライブ事件の前までの関係には戻った。これで殴られることにはなったけど、あのモヤモヤとした関係よりはずっとマシだ。
疲れきった足で歩くこと、K分後。先程までの街らしい景色は消え、重々しい雰囲気になってきた。
枯れた木、舗装されていない道、所々紫色の水たまりがある。
俺の直感が言う、もうあと2分も歩いたら、目的のモンスターが居ると。
「ふー、やっとここまで歩いてきたわね。あと30分くらいで、ヒュドラのいる谷よ。……? 何落ち込んでるの1号」
「…………何でもない」
俺はより一層重くなった足で、30分ほど歩いた。
ヒュドラの谷への最後の道は、下り坂だ。その道は、横側に毒々しい紫色の結晶があったり、ボコボコと泡を出している毒々しい毒たまりがあった。
坂を下ると、巨大な紫色の池があった。肝心のヒュドラはいなかった。
「おい、ヒュドラはどこだ? まだ先と言うのか?」
俺の発言に、はぁ? と言う顔をするエナ。
「パンイチは何も知らないのね」
「おい待て、パンイチだと俺もそのバカに含まれる」
あっそ。と2号の言葉を切り捨てたエナは、近くにあった5メートルほどの岩を両手で持ち上げる。
「……ッ! どんな力だ。……それをどうするつもりだ?!」
「ヒュドラを呼び出すのよ!!!」
そう宣言し、その岩を池目掛けて投げつける。
沈ッッ!!! 岩が水面に衝撃を与えることで、池の水がこちらへと跳ねてくる。
落ちてきたその滴は、転がっている岩に当たると、シュワーとその岩をすぐに溶かした。
「…………え? 溶けた?」
俺がそんな感想を呟くと、2号が荷物を横に投げた。そして彼は、刀を構える。
「おい、くるぞ。ヒュドラが!!!」
咆ッッッッ!!!! 獣の叫び声がすぐ近くから聞こえた。
顕ッッ!! エナが岩を投げ入れた毒々しいその池から、あまりに巨大なドラゴンの顔が現れた。その頭の数は、神話通り9つ。
「な、な、デカ過ぎだろ!!!」
池から現れたヒュドラの大きさは、目測することができなかった。敢えて例えるなら、三階建ての家一軒ほどの大きさは軽くあった。
ヒュドラが池から出てきたことにより、毒の水が波を生み出し、こちらへと向かってくる。
「や、やべー! 逃げねーと!」
俺がそう言って来た道の方を向こうとした時。
「テメーは逃げる気か? 1号!」
そう言って、刀を抜いた2号がその波へと突っ込んでいく。
「葉月 炎波!!」
彼はそう言い、炎を纏った刀を横一線に虚空を斬る。
刹那、刀の炎が乱舞し火の波を作る。火の波と毒の波が衝突し、相殺される。
「逃げるなんてダサいわね、パンイチ。刀変態でも見習いなさいよ」
いや、あの巨大な生物を見て逃げ出さないのは、チート使いだけだろ。
「さて、私もやるわよ! ひっさしぶりの強敵で楽しみだわ!!」
「こんな奴と戦うのが楽しみって、戦闘民族かよ……」
「あ? なんか言っt」
「いえ、滅相もございません。私後ろで見学しています」
俺はヒュドラから逃げるように後ろへ走り出す。
べ、別に怖いから逃げてるんじゃないからね?! 俺がいると? 迷惑かかるし? ね? 俺だって? チート能力でもあれば? 戦ってるんだからね?!
そんなことを考えているうちに、戦況は変化する。
9つのうちのひとつの頭から、毒の刃のようなものが吐き出され、2人を襲う。
「葉月 熱風」
2号は刀を右上から左下へと振り下ろす。刀に纏ってある炎が踊り、火の風となってその毒刃を触れ合い、溶かす。
「エンハンス2!!」
エナの方はエンハンスを使う。いつもより赤く、それでいてバチバチと電気が流れているようなオーラを纏う。
「日頃のストレス発散!!!!」
彼女はそんな気合いとともに、毒刃へ向かって拳を炸裂させる。その拳は毒刃には当たらず寸止めされる。
風ッッ!!! その拳の風圧で、毒刃はベクトルを変えられ、サイドにある岩や石に飛ばされる。
「…………あのぺたんこやべー。拳の風圧だけで、ヒュドラの攻撃を受け流すのかよ」
なんか言った?! と遠くからエナが叫んでくるが、俺はそれを無視しつつ、目を閉じる。
俺も少しでも役に立たないとな。せめてこの眼でヒュドラの特徴でも理解しておくか。
俺は念じ眼を開ける。
黄色のフィルターを通して見たようなその視界で、ヒュドラをとらえる。
文字が浮かび上がって来た。そこには、
《好きなもの:人の肉 嫌いなもの:炎》
……なんて怖い好きなものだ。俺たちここにいていいのか? いや、今はそれよりヤツの嫌いなものが炎と分かったことが、優先だ。エナたちに伝えないと。
エナはヒュドラの毒光線に、2号はヒュドラの毒霧の対応をしていた。
エナはその光線をアニメの忍びのような動きで華麗にかわす。2号は毒霧に対して、これまた炎を纏った刀で応戦する。
俺は彼らに向かって大声で叫ぶ。彼らに確実に伝えたかったからだ。
「おい! ヒュドラの弱点が分かったぞ!! コイツは! 炎に弱い!!!」
「「知ってるわ!!!!」」
「………………へ? 知ってるの?」
「ったく、弱点って聞いて期待させんな変態!」
「ホントよ! ヒュドラは炎が弱点なんて絵本にも書いてあることよ?!」
ぐすん。そんな責めなくてもいいじゃないか。
俺が不貞腐れてる間に、ヒュドラはその長い首を活かして、エナと2号に直接攻撃を仕掛けてくる。
咆ッッ!! 地を這うようにその巨大な頭が、キバある口を開けてエナたちを飲み込もうとする。
だが彼女らは、臆さない。
エナはふーと呼吸を入れて、
「分身!!」
というと同時に、エナが3人に増える。そのうち2人が突っ込んでくる首の横側に移動する。
その場に残ったエナは腕組みをし、ヒュドラの頭をじっと見る。
エナが食われるその刹那。
ベコッッ!! プラスチックを潰すような音とともに、ヒュドラの首の左右に回っていたエナが、その首を思いっきり蹴り飛ばした。
その蹴りでできた跡は、小さなクレーターだ。
蹴りをいれたエナはシュンと消えるが、腕組みをしているエナは無事だ。
一方の2号は、
「チッ、痺れをきらしやがったな首長竜がよォ。その自慢の首を切断してやるよ」
向かってくるそのヒュドラの頭を見据えて、刀を抜刀する。
「葉月 煉獄」
獄ッッ!!! 先程の何倍までの炎がヒュドラの頭へと襲来する。頭に炎が触れた瞬間、その炎とヒュドラの体に纏ってある毒とが激しい押し合いをする。その炎が消えた時、断ッッ!! ヒュドラの首が切断された。
「つ、つぇーーー。毒を纏ったモンスターにアイツらビビってないぞ。ホントに倒してしまいそうだ!」
しかし喜んだのも束の間。倒されていない7つの頭が一切に、エナと2号に襲いかかる。
「ッッ、ヤベ! 師走!!」
「ヤッバ! エンハンス3!」
頭をひとつずつ倒したエナ達は、一瞬のうちに、何十メートルも離れた俺のところへ飛んでくる。
流石にヒュドラの頭もここまでは届かないようだ。
「ふー、あぶねあぶね。しかしアレだな。目の数があんだけ多いと、死角がねーから戦いづらい」
「変態刀に同情するわ。頭をひとつ倒しても、次々攻撃がくるから、エンハンスレベル3まで使ってしまったわ。長時間はもうもたない」
「おい、今変態刀って言ったか?」
「うるさいそのお口、文字通りチャックにしてあげましょうか?」
「…………お前らすごいな。こんな時でも冗談を言えるのか」
「アホねパンイチ。ギャグ系なんだから言わないとダメでしょ?」
「…………仰せのままに」
「やっぱり、あやつの目を潰さないときついな」
「ホンソレね」
ぺたんこ、ホンソレとか言うのかよ。
俺がそんなことを考えていた時、後ろから歩く音が聞こえた。
振り返ると…………。
「いてててて、ホントに昨日は死んだかと思った。走馬灯が見えたぞ」
俺は草むらの上で伸びをする。隣には同じくパンイチの剣士、2号がいる。彼は笑いながら俺に言う。
「いやー、昨日のあれは傑作だったな。お前、骨も内臓も全部ぐちゃぐちゃになるくらいには、攻撃されてたけど、よく治ったな」
「笑いごとじゃねーぞホント。これがギャグ系の物語だから、傷は次の話で治ってるけど、良くあるファンタジーもんなら、全治何週間だぞ。……いや、そもそもファンタジー系のチート使いは、こんな風にはならずにハーレムを満喫するもんか……」
「……お前、時々よく分からないことを言うよな」
気にするな。と俺は一言言って、朝食へと向かう。
朝食の時間で、俺はエナに必死に告白の件を弁明した。彼女の顔が何度もピキピキしていたが、殴られなかったのは僥倖だ。それでいて、エナももう諦めたのか俺に、
「あーもー、分かったわよ。あの件は水に流してあげるわ」
「まじですか? エナ様! ありがたき」
「……そのかわりに、今回の報酬は全部私のものになるけどいいわね?」
「「あ、別にそれは最初から分かっていたわ」」
その返答は2号も同時に言った。俺たちは久しぶりにちゃんと笑った。
3日目 ヒュドラのいる街
なんか展開早くないですか? と思っても言っちゃダメだ。テンポ良く行くのが異世界ファンタジーであり、ギャグ系なのだから。
「ふー、やっと着いたわね」
「長かったな流石に。まさか3日も歩くとは」
「俺なんて力もないのに、荷物持たされてるし、骨バキバキに折られるし、不幸だ」
「業得だろ」
2号がそう自業自得を略して言い、俺たちは街へと足を運b
「ねぇ、2人ともどこ行くの? 街に入ったってお金ないんだから、なんもできないわ。ささっとヒュドラの谷へ行くわよ」
「「………………は?」」
「いやだから、お金ないから街なんて寄らないわよ」
「……旅の疲れ癒さないの?」
「癒さないの」
「……他の街観光しないの?」
「しないの」
「「はぁーーーーー」」
エナの言葉を聞いてため息を吐き、俺と2号はトボトボと歩き出す。
なんてこった。初めて他の街まで来たのに、街の中には入れないなんて……。どれだけお金ないんだよぺたんこのやろう。
エナとは、ライブ事件の前までの関係には戻った。これで殴られることにはなったけど、あのモヤモヤとした関係よりはずっとマシだ。
疲れきった足で歩くこと、K分後。先程までの街らしい景色は消え、重々しい雰囲気になってきた。
枯れた木、舗装されていない道、所々紫色の水たまりがある。
俺の直感が言う、もうあと2分も歩いたら、目的のモンスターが居ると。
「ふー、やっとここまで歩いてきたわね。あと30分くらいで、ヒュドラのいる谷よ。……? 何落ち込んでるの1号」
「…………何でもない」
俺はより一層重くなった足で、30分ほど歩いた。
ヒュドラの谷への最後の道は、下り坂だ。その道は、横側に毒々しい紫色の結晶があったり、ボコボコと泡を出している毒々しい毒たまりがあった。
坂を下ると、巨大な紫色の池があった。肝心のヒュドラはいなかった。
「おい、ヒュドラはどこだ? まだ先と言うのか?」
俺の発言に、はぁ? と言う顔をするエナ。
「パンイチは何も知らないのね」
「おい待て、パンイチだと俺もそのバカに含まれる」
あっそ。と2号の言葉を切り捨てたエナは、近くにあった5メートルほどの岩を両手で持ち上げる。
「……ッ! どんな力だ。……それをどうするつもりだ?!」
「ヒュドラを呼び出すのよ!!!」
そう宣言し、その岩を池目掛けて投げつける。
沈ッッ!!! 岩が水面に衝撃を与えることで、池の水がこちらへと跳ねてくる。
落ちてきたその滴は、転がっている岩に当たると、シュワーとその岩をすぐに溶かした。
「…………え? 溶けた?」
俺がそんな感想を呟くと、2号が荷物を横に投げた。そして彼は、刀を構える。
「おい、くるぞ。ヒュドラが!!!」
咆ッッッッ!!!! 獣の叫び声がすぐ近くから聞こえた。
顕ッッ!! エナが岩を投げ入れた毒々しいその池から、あまりに巨大なドラゴンの顔が現れた。その頭の数は、神話通り9つ。
「な、な、デカ過ぎだろ!!!」
池から現れたヒュドラの大きさは、目測することができなかった。敢えて例えるなら、三階建ての家一軒ほどの大きさは軽くあった。
ヒュドラが池から出てきたことにより、毒の水が波を生み出し、こちらへと向かってくる。
「や、やべー! 逃げねーと!」
俺がそう言って来た道の方を向こうとした時。
「テメーは逃げる気か? 1号!」
そう言って、刀を抜いた2号がその波へと突っ込んでいく。
「葉月 炎波!!」
彼はそう言い、炎を纏った刀を横一線に虚空を斬る。
刹那、刀の炎が乱舞し火の波を作る。火の波と毒の波が衝突し、相殺される。
「逃げるなんてダサいわね、パンイチ。刀変態でも見習いなさいよ」
いや、あの巨大な生物を見て逃げ出さないのは、チート使いだけだろ。
「さて、私もやるわよ! ひっさしぶりの強敵で楽しみだわ!!」
「こんな奴と戦うのが楽しみって、戦闘民族かよ……」
「あ? なんか言っt」
「いえ、滅相もございません。私後ろで見学しています」
俺はヒュドラから逃げるように後ろへ走り出す。
べ、別に怖いから逃げてるんじゃないからね?! 俺がいると? 迷惑かかるし? ね? 俺だって? チート能力でもあれば? 戦ってるんだからね?!
そんなことを考えているうちに、戦況は変化する。
9つのうちのひとつの頭から、毒の刃のようなものが吐き出され、2人を襲う。
「葉月 熱風」
2号は刀を右上から左下へと振り下ろす。刀に纏ってある炎が踊り、火の風となってその毒刃を触れ合い、溶かす。
「エンハンス2!!」
エナの方はエンハンスを使う。いつもより赤く、それでいてバチバチと電気が流れているようなオーラを纏う。
「日頃のストレス発散!!!!」
彼女はそんな気合いとともに、毒刃へ向かって拳を炸裂させる。その拳は毒刃には当たらず寸止めされる。
風ッッ!!! その拳の風圧で、毒刃はベクトルを変えられ、サイドにある岩や石に飛ばされる。
「…………あのぺたんこやべー。拳の風圧だけで、ヒュドラの攻撃を受け流すのかよ」
なんか言った?! と遠くからエナが叫んでくるが、俺はそれを無視しつつ、目を閉じる。
俺も少しでも役に立たないとな。せめてこの眼でヒュドラの特徴でも理解しておくか。
俺は念じ眼を開ける。
黄色のフィルターを通して見たようなその視界で、ヒュドラをとらえる。
文字が浮かび上がって来た。そこには、
《好きなもの:人の肉 嫌いなもの:炎》
……なんて怖い好きなものだ。俺たちここにいていいのか? いや、今はそれよりヤツの嫌いなものが炎と分かったことが、優先だ。エナたちに伝えないと。
エナはヒュドラの毒光線に、2号はヒュドラの毒霧の対応をしていた。
エナはその光線をアニメの忍びのような動きで華麗にかわす。2号は毒霧に対して、これまた炎を纏った刀で応戦する。
俺は彼らに向かって大声で叫ぶ。彼らに確実に伝えたかったからだ。
「おい! ヒュドラの弱点が分かったぞ!! コイツは! 炎に弱い!!!」
「「知ってるわ!!!!」」
「………………へ? 知ってるの?」
「ったく、弱点って聞いて期待させんな変態!」
「ホントよ! ヒュドラは炎が弱点なんて絵本にも書いてあることよ?!」
ぐすん。そんな責めなくてもいいじゃないか。
俺が不貞腐れてる間に、ヒュドラはその長い首を活かして、エナと2号に直接攻撃を仕掛けてくる。
咆ッッ!! 地を這うようにその巨大な頭が、キバある口を開けてエナたちを飲み込もうとする。
だが彼女らは、臆さない。
エナはふーと呼吸を入れて、
「分身!!」
というと同時に、エナが3人に増える。そのうち2人が突っ込んでくる首の横側に移動する。
その場に残ったエナは腕組みをし、ヒュドラの頭をじっと見る。
エナが食われるその刹那。
ベコッッ!! プラスチックを潰すような音とともに、ヒュドラの首の左右に回っていたエナが、その首を思いっきり蹴り飛ばした。
その蹴りでできた跡は、小さなクレーターだ。
蹴りをいれたエナはシュンと消えるが、腕組みをしているエナは無事だ。
一方の2号は、
「チッ、痺れをきらしやがったな首長竜がよォ。その自慢の首を切断してやるよ」
向かってくるそのヒュドラの頭を見据えて、刀を抜刀する。
「葉月 煉獄」
獄ッッ!!! 先程の何倍までの炎がヒュドラの頭へと襲来する。頭に炎が触れた瞬間、その炎とヒュドラの体に纏ってある毒とが激しい押し合いをする。その炎が消えた時、断ッッ!! ヒュドラの首が切断された。
「つ、つぇーーー。毒を纏ったモンスターにアイツらビビってないぞ。ホントに倒してしまいそうだ!」
しかし喜んだのも束の間。倒されていない7つの頭が一切に、エナと2号に襲いかかる。
「ッッ、ヤベ! 師走!!」
「ヤッバ! エンハンス3!」
頭をひとつずつ倒したエナ達は、一瞬のうちに、何十メートルも離れた俺のところへ飛んでくる。
流石にヒュドラの頭もここまでは届かないようだ。
「ふー、あぶねあぶね。しかしアレだな。目の数があんだけ多いと、死角がねーから戦いづらい」
「変態刀に同情するわ。頭をひとつ倒しても、次々攻撃がくるから、エンハンスレベル3まで使ってしまったわ。長時間はもうもたない」
「おい、今変態刀って言ったか?」
「うるさいそのお口、文字通りチャックにしてあげましょうか?」
「…………お前らすごいな。こんな時でも冗談を言えるのか」
「アホねパンイチ。ギャグ系なんだから言わないとダメでしょ?」
「…………仰せのままに」
「やっぱり、あやつの目を潰さないときついな」
「ホンソレね」
ぺたんこ、ホンソレとか言うのかよ。
俺がそんなことを考えていた時、後ろから歩く音が聞こえた。
振り返ると…………。
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