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14.窃盗
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歓迎パーティでドレスを引き裂かれた話をすると、リンゴは大笑いをしていた。
「それは災難だったわね。あの娘、大人しい顔をして本当に強気だわ。でも下着姿を見つからずにどうやって城まで帰って来られたの?」
「運よくマントが落ちていたの。だから私だとも気づかれずにコッソリとね」
「面白そうなパーティ! 私も見たかったぁ」
全然面白くはないけれど、あっけらかんと笑われると悲壮感も飛んでいく。
「見つかりもせずにあなたの方がサッサと城に帰っていて、カタリーナは驚いていたんじゃない?」
「ええ、どうも私を探させに予め人をやっていたようだけど、幸いそれにも引っ掛からずに戻れたの。不幸中の幸いね」
毒殺なんかされるよりもこちらの方がずっと良い。ずーっと可愛い。
「ジゼル様は本気でそう言ってる気がするから不思議だわ。なんなのかしら。確かにどう足掻いたってあなた以外に皇妃にはなれないんだけど。それからくる余裕?」
微妙な顔をして肩を竦めると、「相手をするのも馬鹿らしいくらいに幼稚ってことか」とリンゴは勝手に納得してくれる。
カタリーナはなんと後日に文句まで言いに来た。
「ジゼル様のせいで危うく嘘つきになる所でございました」
「どこがどうして私のせいになるのかしら」
「離宮でのんびり暮らしたくはないのですか!?」
「行く時は自分で申し出るので、余計な働きかけは不要よ」
「そうですか? でもやっぱり心配ですし、次の小芝居も考えておきます」
カタリーナは性懲りもない。
「どうして心配があるの? あなたは寵姫で私は星読みで選ばれただけの身よ」
「ええ、わかっています。確かに私には陛下からのご寵愛がある……ですが愛されているという自信がないのです」
「……そうですか」
「どうでも良さそうですね」
カタリーナは悪人じゃない。陛下も罪作りなことをなさる。
彼にとって‘寵姫’とは手段だと、私は既に知っている。この無限に思えるループを脱する為に選ばれた大公家の娘。カタリーナはローズティーを一口飲み、薔薇色とは程遠い溜息を零す。
「カタリーナ」
「なんですか」
「幸せにおなりなさい。あなたは渦に飲まれず、あなたのやり方で、幸せを見つけるのよ」
つい老婆心から要らぬ忠告をしてしまう。
「では皇妃を降りてくださいませ」
「それが出来れば苦労しないわ」
星に言ってちょうだいな。
リンゴは私が持参した毒見済みのアップルバイ、二つ目に手を伸ばす。
「皇妃を降りてくれだなんて、とんでもないことを言うのね」
「即位は避けられないけれど、実質的な妻としての役割を代わってくれという意味よ。離宮を勧められたわ。皇帝は彼女を大事にされていらっしゃるし、城の人々も城下でも皆がカタリーナを応援している。言うほどにとんでもないことでもないと思う」
私がそう言うと、まなじりを決する。
「何を言っているのよ!! 星読みを軽視しないで。あなた方が……皇帝とジゼル王女が結ばれることに意味があるから星が呼んだの。二人がこの先の国を作る、あなた方の御子がその先の世を作る。何度やってもブレなかった。強い導きがあった! こんなことはないわ。大きな話なの。カタリーナと結ばれるなんて有り得ない、歪んでしまう!」
「そうなったらなったで存在する未来だってあるでしょう。未来が歪むなんておかしな考えじゃない?」
「だめ! 正しくない!!」
リンゴが叫ぶ。
星読みとは何なのだろう。
まるでなにもかも決まっているみたいで、はいそうですかとは思えない。
私たちは何の為に大きな流れに従って、あるいは導かれて生きていくのか。
足掻いても結局逃げられていない。
今逃げられてもまた戻るのならば、意思や選択にも意味なんてなくなってしまう。
「ねぇ、リンゴ。本当に例えばだけど……私が自死した場合、その星読みの結果は上書きされるのかしら?」
金髪のふわふわが、ブワッと逆立ったように見えた。
「じ、自死!? だめよ、だめよ、だめよ!!!」
「例えば、の話よ。しないわ、ただ聞いてみただけ」
慌てて取り繕う。どうせ自死しても死に戻るだけだろうから、それも面倒ですらある。
「いい? ジゼル様。生き物は皆、巡るの。生きて、死んで、また生きて、また死ぬ。だけどね、自らそれを断ち切ってしまったら輪から弾き飛ばされる」
「え……それって、もう生まれないということ?」
「さぁ。何もない永遠の無があるだけかもしれない。わからないわ。だけど生まれてきたとして、少なくとも二度と辛かった種には戻らないでしょうね。虫や花や鳥や馬なんかに生まれ変われるかもしれない。望んでいた平穏な、落ち着くべき場所へと流れて行ける……そういう慈悲はあると思いたいけどね」
最後はおどけて杖をくるくる滑らせた。
「輪から弾き飛んでしまう影響は、残った者たちにも大きく出るわ。例えばレオポはこれから何度生まれ変わってもあなたという連れ合いと出会えないまま終わるかもしれない。この国も命運も変わるの。御身は大切になさるがよろしい。絶対ね!」
「わかったわ、ありがとう」
輪から外れるならば、記憶を失くして新品の自分になれる。
それは少し、魅力的に聞こえた。
****
翌月、真っ白な雪が降り始めた。フラリエヌよりも北に位置するバザロスの冬は寒い。
ウェイとミントと城内を歩いていると、顔色の悪いウルと出くわした。大股で歩き、声をかけるまで私に気づかない。
「これはジゼル様! 大変失礼いたしました」
「どうされました? そのように慌てて。珍しいですね」
「窃盗被害がまた」
「またですか」
この所、城内では小さくて大事なものが無くなる被害が相次いでいた。
展示されていた初代ティアラ、他国から献上された仕掛け付の宝石箱、催しではいつも人気の音楽が鳴る巻貝。
「今回はなんですか?」
「それが、今回はカタリーナ様がご実家からお持ちになっていたヨークレア家から代々伝わるネックレスが」
「まぁ」
カタリーナはさぞ青褪めているに違いない。
「衛兵は立っていなかったのですか」
ウェイが問うが、ウルは首を振る。
「カタリーナ様は押しかけです。国費を充てるのは禁止されているので、大公が衛兵を固辞されています。代わりに私兵が立っているのですが、護衛も兼ねていてカタリーナ様が出かけられる時は一緒に出ることもあり」
「なるほど、施錠しているだけで、留守中誰か入ってもわからないというわけですね」
「でも皇室エリアのすぐ側の部屋よ。門番もいるわ」
「仰る通り、特に怪しいような者の報告もありません」
「次から次へと大変ですね。何か私に出来ることがあれば言ってください」
「ありがとうございます!」
と、言っていた日が私にもありました。
壇上の玉座から、レオが私を見下ろしている。
「大変申し上げにくいことですが、一連の事件の犯人、全ての宝物を盗んだのはジゼル様なのです!」
私の横で、カタリーナが叫んだ。
突然立たされた謁見の間で、私は今、窃盗の罪を着せられている。
小芝居の程度が低すぎるわ。
「ほう。宝物は見つかったのか?」
冷たい声が質問すると、隣から嬉しそうに「ジゼル様の衣裳部屋から見つかりましたの」と言う。つまり自室の奥にあるクロゼットの部屋のことね。
レオポルドがウルに目を遣ると、老人は恭しく書きつけた紙を広げる。
「十二月三日、カタリーナ様の嘆願によりジゼル王女殿下の衣裳部屋への捜索がうちうちに決定し、翌日四日にミントを案内としてお衣裳部屋を検めさせていただきました。するとその……確かに初代ティアラも、宝石箱も……全ての物が見つかりましてございます」
私は目を丸くしてミントを見ると、難しい顔をして頷いた。
「盗んでおりません。衣裳部屋へ誰かが運んだのではないでしょうか」
「しかし、皇妃の間には休みなく衛兵が二名立ちます。これを抜けて侵入した者はおりません」
思わずレオを見上げると、明後日の方向を見て首を振っている。
隠し通路を使って侵入できるけれど、レオではないらしい。
レオが犯人でも意味がなさすぎる窃盗だけど。
「衣裳部屋への捜索は誰がいた」
皇帝が問いかけると、ウル本人、近衛兵二名、ネックレスの確認の為にカタリーナ、ミントだとウルが答えた。
なるほど、カタリーナの自作自演か。
盗まれたと嘘をつき、他の盗んだものと一緒にして「ありましたわ!」とやるわけね。初歩的過ぎて残念なくらいよ。レオも目を閉じ、私には馬鹿らしそうに見えた。
「衣裳部屋で実際に宝物を発見したのは」
「カタリーナ様です。あの黒い布は何かしら、と仰いました」
間髪入れずにミントが答えた。
謁見の間に気まずい沈黙が生まれる。皇帝は黙り、シュヴァルツとウル、ミントは楽しそうな大公家のご令嬢を湿った目で見ている。私の後ろで馬鹿正直に怒っているウェイはさておき、私は気になったことを尋ねた。
「ウル内宮長、あなたはカタリーナ嬢が『あやしいから捜索せよ』と言えば皇帝の間にも押し入る権利を持っているものなのですか。よほどの根拠がなければ主不在時に私の部屋で物を検めるなど、出てきたから良かったものの、出て来なければ処罰ものでは」
「それにつきましては、実際にその提案と言いますか、予言をしたのはカタリーナ様ではなく、子どもなのです」
「子ども?」
聞き返すとシュヴァルツがその先を引き取る。
「先日、お招きいただいた晩餐の際にお話した王城前で荷馬車に轢かれた子どもです。イルマリーが子どもは失せものを探してくれるというので少し前から話題に上がっておりました。リンゴが子どもを見た所、発露はまだですが、恐らく呪術師の素質を持つ人間だろうと」
ガタッ と、突然レオポルドが立ち上がった。
「陛下?」
「子ども? 何の話だ」
「いえ、お耳に入れる程のことでは」
「良いから話せ! いや、いい、連れてこい。その子どもとリンゴをここに。今、すぐ!他はもう下がれ。沙汰は追って下す」
「レオポルド様、御待ち下さいませ! サーシャは私の大切な友人です。私も立ち合いますわ。この私が責任を持って彼を大きくするつもりなのです。それよりジゼル様はどうされますの? お部屋から出るのはいけませんわ。また大事な国宝が盗まれたら大変ですもの。いっそ離」
レオが私を強い目で見下ろした。
「そうだな……出歩かない方が良い。王女に謹慎を命じる。良いと言うまで部屋から出るな、一歩もだ。衛兵の数を増やせ、誰も入れるな!」
「そんな!」
後ろでウェイが叫んだ。
「それは災難だったわね。あの娘、大人しい顔をして本当に強気だわ。でも下着姿を見つからずにどうやって城まで帰って来られたの?」
「運よくマントが落ちていたの。だから私だとも気づかれずにコッソリとね」
「面白そうなパーティ! 私も見たかったぁ」
全然面白くはないけれど、あっけらかんと笑われると悲壮感も飛んでいく。
「見つかりもせずにあなたの方がサッサと城に帰っていて、カタリーナは驚いていたんじゃない?」
「ええ、どうも私を探させに予め人をやっていたようだけど、幸いそれにも引っ掛からずに戻れたの。不幸中の幸いね」
毒殺なんかされるよりもこちらの方がずっと良い。ずーっと可愛い。
「ジゼル様は本気でそう言ってる気がするから不思議だわ。なんなのかしら。確かにどう足掻いたってあなた以外に皇妃にはなれないんだけど。それからくる余裕?」
微妙な顔をして肩を竦めると、「相手をするのも馬鹿らしいくらいに幼稚ってことか」とリンゴは勝手に納得してくれる。
カタリーナはなんと後日に文句まで言いに来た。
「ジゼル様のせいで危うく嘘つきになる所でございました」
「どこがどうして私のせいになるのかしら」
「離宮でのんびり暮らしたくはないのですか!?」
「行く時は自分で申し出るので、余計な働きかけは不要よ」
「そうですか? でもやっぱり心配ですし、次の小芝居も考えておきます」
カタリーナは性懲りもない。
「どうして心配があるの? あなたは寵姫で私は星読みで選ばれただけの身よ」
「ええ、わかっています。確かに私には陛下からのご寵愛がある……ですが愛されているという自信がないのです」
「……そうですか」
「どうでも良さそうですね」
カタリーナは悪人じゃない。陛下も罪作りなことをなさる。
彼にとって‘寵姫’とは手段だと、私は既に知っている。この無限に思えるループを脱する為に選ばれた大公家の娘。カタリーナはローズティーを一口飲み、薔薇色とは程遠い溜息を零す。
「カタリーナ」
「なんですか」
「幸せにおなりなさい。あなたは渦に飲まれず、あなたのやり方で、幸せを見つけるのよ」
つい老婆心から要らぬ忠告をしてしまう。
「では皇妃を降りてくださいませ」
「それが出来れば苦労しないわ」
星に言ってちょうだいな。
リンゴは私が持参した毒見済みのアップルバイ、二つ目に手を伸ばす。
「皇妃を降りてくれだなんて、とんでもないことを言うのね」
「即位は避けられないけれど、実質的な妻としての役割を代わってくれという意味よ。離宮を勧められたわ。皇帝は彼女を大事にされていらっしゃるし、城の人々も城下でも皆がカタリーナを応援している。言うほどにとんでもないことでもないと思う」
私がそう言うと、まなじりを決する。
「何を言っているのよ!! 星読みを軽視しないで。あなた方が……皇帝とジゼル王女が結ばれることに意味があるから星が呼んだの。二人がこの先の国を作る、あなた方の御子がその先の世を作る。何度やってもブレなかった。強い導きがあった! こんなことはないわ。大きな話なの。カタリーナと結ばれるなんて有り得ない、歪んでしまう!」
「そうなったらなったで存在する未来だってあるでしょう。未来が歪むなんておかしな考えじゃない?」
「だめ! 正しくない!!」
リンゴが叫ぶ。
星読みとは何なのだろう。
まるでなにもかも決まっているみたいで、はいそうですかとは思えない。
私たちは何の為に大きな流れに従って、あるいは導かれて生きていくのか。
足掻いても結局逃げられていない。
今逃げられてもまた戻るのならば、意思や選択にも意味なんてなくなってしまう。
「ねぇ、リンゴ。本当に例えばだけど……私が自死した場合、その星読みの結果は上書きされるのかしら?」
金髪のふわふわが、ブワッと逆立ったように見えた。
「じ、自死!? だめよ、だめよ、だめよ!!!」
「例えば、の話よ。しないわ、ただ聞いてみただけ」
慌てて取り繕う。どうせ自死しても死に戻るだけだろうから、それも面倒ですらある。
「いい? ジゼル様。生き物は皆、巡るの。生きて、死んで、また生きて、また死ぬ。だけどね、自らそれを断ち切ってしまったら輪から弾き飛ばされる」
「え……それって、もう生まれないということ?」
「さぁ。何もない永遠の無があるだけかもしれない。わからないわ。だけど生まれてきたとして、少なくとも二度と辛かった種には戻らないでしょうね。虫や花や鳥や馬なんかに生まれ変われるかもしれない。望んでいた平穏な、落ち着くべき場所へと流れて行ける……そういう慈悲はあると思いたいけどね」
最後はおどけて杖をくるくる滑らせた。
「輪から弾き飛んでしまう影響は、残った者たちにも大きく出るわ。例えばレオポはこれから何度生まれ変わってもあなたという連れ合いと出会えないまま終わるかもしれない。この国も命運も変わるの。御身は大切になさるがよろしい。絶対ね!」
「わかったわ、ありがとう」
輪から外れるならば、記憶を失くして新品の自分になれる。
それは少し、魅力的に聞こえた。
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翌月、真っ白な雪が降り始めた。フラリエヌよりも北に位置するバザロスの冬は寒い。
ウェイとミントと城内を歩いていると、顔色の悪いウルと出くわした。大股で歩き、声をかけるまで私に気づかない。
「これはジゼル様! 大変失礼いたしました」
「どうされました? そのように慌てて。珍しいですね」
「窃盗被害がまた」
「またですか」
この所、城内では小さくて大事なものが無くなる被害が相次いでいた。
展示されていた初代ティアラ、他国から献上された仕掛け付の宝石箱、催しではいつも人気の音楽が鳴る巻貝。
「今回はなんですか?」
「それが、今回はカタリーナ様がご実家からお持ちになっていたヨークレア家から代々伝わるネックレスが」
「まぁ」
カタリーナはさぞ青褪めているに違いない。
「衛兵は立っていなかったのですか」
ウェイが問うが、ウルは首を振る。
「カタリーナ様は押しかけです。国費を充てるのは禁止されているので、大公が衛兵を固辞されています。代わりに私兵が立っているのですが、護衛も兼ねていてカタリーナ様が出かけられる時は一緒に出ることもあり」
「なるほど、施錠しているだけで、留守中誰か入ってもわからないというわけですね」
「でも皇室エリアのすぐ側の部屋よ。門番もいるわ」
「仰る通り、特に怪しいような者の報告もありません」
「次から次へと大変ですね。何か私に出来ることがあれば言ってください」
「ありがとうございます!」
と、言っていた日が私にもありました。
壇上の玉座から、レオが私を見下ろしている。
「大変申し上げにくいことですが、一連の事件の犯人、全ての宝物を盗んだのはジゼル様なのです!」
私の横で、カタリーナが叫んだ。
突然立たされた謁見の間で、私は今、窃盗の罪を着せられている。
小芝居の程度が低すぎるわ。
「ほう。宝物は見つかったのか?」
冷たい声が質問すると、隣から嬉しそうに「ジゼル様の衣裳部屋から見つかりましたの」と言う。つまり自室の奥にあるクロゼットの部屋のことね。
レオポルドがウルに目を遣ると、老人は恭しく書きつけた紙を広げる。
「十二月三日、カタリーナ様の嘆願によりジゼル王女殿下の衣裳部屋への捜索がうちうちに決定し、翌日四日にミントを案内としてお衣裳部屋を検めさせていただきました。するとその……確かに初代ティアラも、宝石箱も……全ての物が見つかりましてございます」
私は目を丸くしてミントを見ると、難しい顔をして頷いた。
「盗んでおりません。衣裳部屋へ誰かが運んだのではないでしょうか」
「しかし、皇妃の間には休みなく衛兵が二名立ちます。これを抜けて侵入した者はおりません」
思わずレオを見上げると、明後日の方向を見て首を振っている。
隠し通路を使って侵入できるけれど、レオではないらしい。
レオが犯人でも意味がなさすぎる窃盗だけど。
「衣裳部屋への捜索は誰がいた」
皇帝が問いかけると、ウル本人、近衛兵二名、ネックレスの確認の為にカタリーナ、ミントだとウルが答えた。
なるほど、カタリーナの自作自演か。
盗まれたと嘘をつき、他の盗んだものと一緒にして「ありましたわ!」とやるわけね。初歩的過ぎて残念なくらいよ。レオも目を閉じ、私には馬鹿らしそうに見えた。
「衣裳部屋で実際に宝物を発見したのは」
「カタリーナ様です。あの黒い布は何かしら、と仰いました」
間髪入れずにミントが答えた。
謁見の間に気まずい沈黙が生まれる。皇帝は黙り、シュヴァルツとウル、ミントは楽しそうな大公家のご令嬢を湿った目で見ている。私の後ろで馬鹿正直に怒っているウェイはさておき、私は気になったことを尋ねた。
「ウル内宮長、あなたはカタリーナ嬢が『あやしいから捜索せよ』と言えば皇帝の間にも押し入る権利を持っているものなのですか。よほどの根拠がなければ主不在時に私の部屋で物を検めるなど、出てきたから良かったものの、出て来なければ処罰ものでは」
「それにつきましては、実際にその提案と言いますか、予言をしたのはカタリーナ様ではなく、子どもなのです」
「子ども?」
聞き返すとシュヴァルツがその先を引き取る。
「先日、お招きいただいた晩餐の際にお話した王城前で荷馬車に轢かれた子どもです。イルマリーが子どもは失せものを探してくれるというので少し前から話題に上がっておりました。リンゴが子どもを見た所、発露はまだですが、恐らく呪術師の素質を持つ人間だろうと」
ガタッ と、突然レオポルドが立ち上がった。
「陛下?」
「子ども? 何の話だ」
「いえ、お耳に入れる程のことでは」
「良いから話せ! いや、いい、連れてこい。その子どもとリンゴをここに。今、すぐ!他はもう下がれ。沙汰は追って下す」
「レオポルド様、御待ち下さいませ! サーシャは私の大切な友人です。私も立ち合いますわ。この私が責任を持って彼を大きくするつもりなのです。それよりジゼル様はどうされますの? お部屋から出るのはいけませんわ。また大事な国宝が盗まれたら大変ですもの。いっそ離」
レオが私を強い目で見下ろした。
「そうだな……出歩かない方が良い。王女に謹慎を命じる。良いと言うまで部屋から出るな、一歩もだ。衛兵の数を増やせ、誰も入れるな!」
「そんな!」
後ろでウェイが叫んだ。
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