上 下
3 / 50

第3話

しおりを挟む
 はい……
 私は馬鹿です……
 ごめんなさい……

「間抜けなお前が、『どうしてこんな酷いことをするんですか』って聞いてきた時は、思わずキレて色々拷問してしまったよ。『どうして』じゃねぇよ。お前の頭が悪いから苦労してるのに、くだらないこと聞いてんじゃねぇよ」

 はい……
 私の頭が悪いせいです……
 ごめんなさい……

「まっ、もともとの知能が低いから、調教の成果にも限界があり、結局、人並みの頭にはならなかったがな。だが、こんな馬鹿女の相手も、今日までだ。……喜べ、アドレーラ。もう、痛い思いをしなくて済むぞ」

 それはどういうことでしょう?

「アドレーラ、今日限りで、お前との婚約を破棄する」

 こんやく……はき……?

「くくっ、くくくっ、少し前に父上が死んでな、兄上が跡を継いだんだ。許嫁だのなんだの、古臭い慣習にこだわる父上とは違い、兄上はそういうことにまったく無頓着でな。お前との婚約を、嫌なら破棄してもいいって言ってくれたんだ。いや、ほんとに、弟想いの兄を持って、僕は幸せ者だよ」

 お父様が死んだら悲しいはずなのに、どうしてルーパート様は幸せそうに笑っているのでしょう。私には、どうしてもわかりませんでした。

「さて、そう言うわけで、今日でお前と会うのも最後だ。わかったな、アドレーラ」

 何度も暴力を振るわれ、委縮し、憔悴しきった私の頭では、状況を正確に理解することはできませんでしたが、私は「はい」と頷きました。『わかりません』と言って、また蹴られるのは嫌だったのです。

「よしよし。だが、『さあ、婚約を破棄するぞ』と思い至った段階で、二つ、大きな問題があることに気がついたんだ。……まず一つ。調教の為とはいえ、僕はお前に、かなり苛烈な仕打ちをした。実家に戻ったお前が、そのことを家族に喋ったら、僕の立場は非常に悪くなる」

 そうなのでしょうか。

 でも、ルーパート様に喋るなと言われれば、私は約束を守ります。
『約束したことは、必ず守りなさい』と、お父様に言われているからです。

「そして二つ目の問題は、お前がうちに来る際に持ってきた多額の持参金だ。こちらからの一方的な婚約破棄となったら、さすがに持参金は返却しなきゃいけなくなるだろう?」

 ルーパート様は、そこで一度言葉を切り、ため息を漏らしてから、話を続けます。

「最近、何かと出費がかさんでな、うちも懐具合が苦しいんだ。そんな状況で、持参金をみすみす手放すのは、実に惜しい。だから僕は、『普通とは違った方法』で婚約を破棄しようと思っている。わかるな? アドレーラ」
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

攻略対象5の俺が攻略対象1の婚約者になってました

BL / 完結 24h.ポイント:1,221pt お気に入り:2,625

片思いの相手に偽装彼女を頼まれまして

恋愛 / 完結 24h.ポイント:1,057pt お気に入り:13

俺を裏切り大切な人を奪った勇者達に復讐するため、俺は魔王の力を取り戻す

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:5,212pt お気に入り:92

婚約破棄されたけど前世が伝説の魔法使いだったので楽勝です

sai
ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:1,810pt お気に入り:4,186

家康の祖母、華(け)陽院(よういん)―お富の方―(1502?-1560)

歴史・時代 / 完結 24h.ポイント:0pt お気に入り:1

追放したんでしょ?楽しく暮らしてるのでほっといて

ファンタジー / 完結 24h.ポイント:127pt お気に入り:1,534

処理中です...