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第8話(ランディス視点)

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 俺は学校で孤立していたが、別に寂しくはなかった。軽口ばかり叩いているくだらない連中と一緒にいるくらいなら、一人の方がずっとマシだからだ。俺は若くして、早くも人付き合いが嫌いになり、このまま自然と、父親と同じく、馬の世話をする仕事に就くんだろうなと思っていた。

 しかし、アドレーラと出会って、俺の他人に対する考えは一変した。

 こんな、清らかな天使のような人間がいるのか――

 純粋にそう思った。

 アドレーラは、優しかった。単純に思いやりがある……というだけでなく、彼女の心には、人間なら誰にでもある、意地の悪い心……つまり、邪心のようなものが、まったくないのだ。

 彼女はまるで、太陽に照らされた、ふわふわの雲のような人だった。

 暖かく、朗らかで、ニッコリと細められたアドレーラの瞳を見ていると、それだけで心が休まる。彼女と接するうちに、刺々しかった俺の心もいくらか丸くなり、学校でも、自然と友達が増えた。それで、悟った。俺が、今まで浮いた存在になっていたのは、自分から他人に反発し、心に壁を作っていたせいもあるのだということを。

 おかげで、勉強にも打ち込むことができるようになり、この先の努力次第では、より高度な学問を学ぶことができる王立大学校への進学も夢ではなくなった。

 父と同じ馬番の仕事に就くのも良いが、それは、もう少し年を取ってからでもいい。今は、もっと勉強をして、色々な人と接し、良い影響を受けたいと思う。……アドレーラと出会う前の、人間嫌いの俺だったら、絶対にこんなふうには思わなかっただろう。彼女との出会いが、俺の人生の選択肢を増やしてくれたのである。

 アドレーラは、言うなれば俺の恩人だ。

 その恩人の幸せを願い、笑って、婚約者の元に送り出してあげるべきだろう。……『大切なお友達』として。俺はアドレーラの肩に両手を置き、精いっぱいの笑顔を作ると、「ルーパートさんに、幸せにしてもらうんだよ」と言った。

 彼女の婚約者であるルーパートがどんな男かは分からないが、あのドルフレッドさんが決めた許嫁なのだ。きっと、良い人に違いない。アドレーラも、俺の言葉を受け、いつも通りにニッコリ微笑んで、言う。

「うん。行ってきます。でも、週に一回は、こうしてまた、遊びましょうね」

 あまりにも無邪気な物言いに、俺は苦笑した。
 少し遅れて、たまらない寂しさが胸に込み上げる。

 駄目なんだよ、アドレーラ。

 一度、婚約者の家で暮らし始めたら、慣習の一年が過ぎ去るまでは、実家に戻ってはいけないし、他の若い男と会ってはいけないしきたりなんだ。そして、一年後には、きみは他人の妻だ。しきたりがあろうとなかろうと、おいそれと会うわけにはいかなくなる。
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