身勝手な理由で婚約者を殺そうとした男は、地獄に落ちました【完結】

小平ニコ

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第11話(ランディス視点)

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 ドルフレッドさんも、俺と同じくルーパートの話に不信を抱いたようで、いつも穏やかな瞳を、少し厳しく光らせて、言う。

「私にはとても信じがたい。確かに、幼い頃のアドレーラは、好奇心からか、よくあちこちを歩いて回ることがあったが、年頃になってからは落ち着いたし、何より、アドレーラはとても怖がりだ。自分から、あんな不気味な森に行くとは考えにくいのだが……」

「女心は複雑ですからね。時には、誰もいない場所で、一人になりたいこともあるでしょう。不気味な森と言っても、日の差している時間は、それなりに明るいですし」

「う、うむ……それはまあ、そうなのだが……」

「ところでドルフレッドさん。連絡では、今のアドレーラは、大怪我の影響で上手く喋れないとのことでしたが、少し、話をさせてもらってもよろしいですか? 婚約者である僕なら、彼女とうまく意思の疎通ができるかもしれません」

「あ、ああ、そうだな。やってみてくれ」

 ルーパートは頷くと、のしのし歩いて来て、ベッドのそばにいた俺を無言で押しのけた。そして、アドレーラの顔を上から覗き込む。その表情はまるで、実験の結果を確認する科学者のように淡々としており、何の情動も感じない。

 ……この男、何かおかしいぞ。愛しい婚約者の悲痛な姿を見て、どうしてこれほど、冷静にしていられるんだ? いや、別に、泣きわめいて、取り乱せばいいというものでもないが、それにしたって、冷静すぎる。

 訝しむ俺の視線など気にも留めずに、ルーパートはアドレーラに語り掛けた。

「アドレーラ、僕だよ」

「あー」

「いやいや、大変なことになってしまったね」

「あー」

「どこか痛むかい?」

「あー」

「井戸に落ちた時のこと、覚えているかい?」

「あー」

「『あー』以外は、話せないのかな?」

「あー」

 そこで、会話は終わった。
 ルーパートが突然自分の顔を押さえ、咽び泣きを始めたからだ。

 彼は、手で鼻と目元を隠しながら、掠れた声で言う。

「うっ、うぅっ……申し訳ありません、ドルフレッドさん。これ以上はつらくて……」

 その声に、ドルフレッドさんももらい泣きし、鼻をすすりながら言葉を返す。

「いや、いいんだ。今日は、よく来てくれた。きみも、父上が亡くなったばかりで大変だろうに。……今後のこともあるから、少し、場所を変えて話そうか」

 ルーパートは、もう言葉を紡ぐこともできず、肩を震わせながら何度も頷く。ドルフレッドさんは俺に向き直り、静かに言った。

「ランディス、そういうことだから、後は、任せてもいいかな?」

「え、ええ。わかりました。アドレーラに何かあったら、すぐにお知らせします」

「ああ、よろしく頼むよ」

 そして、ドルフレッドさんとルーパートは部屋を出て行った。随分前に、医師のズワルマー先生も帰って行ったので、広い部屋の中は、俺とアドレーラの二人きりとなる。

 ……俺の頭の中に、たった今見た『不可解な光景』が、何度もフラッシュバックした。

 ルーパート。
 あの男。

 笑っていた。

 奴の小さな手では、目元と鼻は隠せても、口元は隠しきれていない。
 だから、俺は見た。

 奴が、必死に笑いをこらえているのを。
 そして、こらえきれず、唇を吊り上げたのを。

 咽び泣きのように聞こえたのは、奴の笑い声だったのだ。
 肩を震わせていたのは、ただ、笑っていただけだったのだ。

 わからない。
 意味が分からない。

 愛しい婚約者が、これほど惨い目に遭ったのを見て、何故笑う?

 何がおかしいんだ?

 俺は一人、呟いた。

「いったい、何がおかしいって言うんだよ……!」

 アドレーラも、呟いた。

「あー」
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