50 / 50
第50話(ルーパート視点)【完結】
しおりを挟む
……いつだったかな。
その日、たまたま機嫌が良かった僕は、アドレーラと一緒に、高原に散策に行った。アドレーラの奴、わざわざ手作りの弁当を作ってきていて、僕は『自分で弁当を作る令嬢なんて聞いたことがないぞ』と言い、笑ったっけ。
アドレーラも、笑ってた。
天気がとても良くて。
弁当も、美味かった。
なんて、楽しい思い出。
思えば、僕の人生で、本当に僕のことを愛そうとしてくれていたのは、アドレーラだけだった。兄上は、家を守るために、容赦なく僕を見捨てた。貴族という身分と金がなければ僕と付き合う女はいないし、友人なんて、一人もいない。
アドレーラが。
アドレーラだけが。
僕に無垢な愛情を向けてくれたのだ。
それなのに僕は。
僕は……
僕は……
「ん? なんだこいつ? 泣いてんのか?」
「おほほー、そんなことあるわけないネー、目玉がなくなってるんだヨー?」
「うーん、でもほら、空っぽの穴から、なんか出てますよ」
「あらほんとだネ。なんだろこれ、めずらしい現象だネ。記録映像とっとくヨ」
二人の声が、どんどんと遠ざかっていく。
きっと、たくさんの臓器を抜き出されたことで、生命反応が弱まっているからだろう。
ありがたいことだ。
これで、アドレーラとの思い出を反芻するのに集中できる。
やがて、意識が朦朧としてきて、過去を懐かしむことすら、できなくなった。
消えていく。
何もかも、消えていく。
アドレーラ……
アドレーラ……
すまなかった……
アドレーラ……
天使のような……いや、天使そのものと言ってもいい……心優しい人……
その天使をいたぶった僕は、これから地獄に落ちるのだろう……
身体の感覚がなくなり、無くなったはずの目に、何かが映り込んでくる……
針でできた山……燃え盛る炎……そして、やせ細った亡者たち……
ああ……ここが地獄か……
僕は、とうとう死んだんだな……
鬼か悪魔か……角の生えた巨漢たちが、僕を見て嗤っている……
巨漢の一人が、牙をむき出しにして、もの凄い笑みを作りながら、言う。
「無間地獄にようこそ、ゴミ野郎。串刺し、火あぶり、のこぎり挽き。これから毎日、ありとあらゆる楽しい刑罰が、お前を待ってるぜ。さあ、名を名乗りな」
僕は、答えた。
「名前なんてありません。僕は、ただのゴミです」
そして僕は、燃えるゴミのように、地獄の業火で炙られた。
凄まじい苦痛。
もう死んでいるので、死ぬことによって、救われることもない。
終わりのない苦痛。
そして、あまりにも長い苦痛。
ただれる皮膚と共に、時間の感覚さえも、溶けて、消えていく。
地獄に落ちてから、どれだけの時間が経ったのだろう?
一ヶ月?
一年?
十年?
それとも実際は、まだ十分も経っていないのだろうか?
考えるだけ、無意味なことだった。
ここは終わりのない、無間地獄。
何年たとうが、僕が許される日はこない。
さあ、今日も、長い長い、地獄の一日の始まりだ。
終わり。
――――――――――――――――――――――――――――――――
最後まで読んでいただき、ありがとうございました!
本日から新作『「聖女はもう用済み」と言って私を追放した国は、今や崩壊寸前です。私が戻れば危機を救えるようですが、私はもう、二度と国には戻りません』を投稿しております。
最近は長めのお話ばかり書いていたので、久しぶりの短編です!
よろしければ、見てもらえると嬉しいです!
その日、たまたま機嫌が良かった僕は、アドレーラと一緒に、高原に散策に行った。アドレーラの奴、わざわざ手作りの弁当を作ってきていて、僕は『自分で弁当を作る令嬢なんて聞いたことがないぞ』と言い、笑ったっけ。
アドレーラも、笑ってた。
天気がとても良くて。
弁当も、美味かった。
なんて、楽しい思い出。
思えば、僕の人生で、本当に僕のことを愛そうとしてくれていたのは、アドレーラだけだった。兄上は、家を守るために、容赦なく僕を見捨てた。貴族という身分と金がなければ僕と付き合う女はいないし、友人なんて、一人もいない。
アドレーラが。
アドレーラだけが。
僕に無垢な愛情を向けてくれたのだ。
それなのに僕は。
僕は……
僕は……
「ん? なんだこいつ? 泣いてんのか?」
「おほほー、そんなことあるわけないネー、目玉がなくなってるんだヨー?」
「うーん、でもほら、空っぽの穴から、なんか出てますよ」
「あらほんとだネ。なんだろこれ、めずらしい現象だネ。記録映像とっとくヨ」
二人の声が、どんどんと遠ざかっていく。
きっと、たくさんの臓器を抜き出されたことで、生命反応が弱まっているからだろう。
ありがたいことだ。
これで、アドレーラとの思い出を反芻するのに集中できる。
やがて、意識が朦朧としてきて、過去を懐かしむことすら、できなくなった。
消えていく。
何もかも、消えていく。
アドレーラ……
アドレーラ……
すまなかった……
アドレーラ……
天使のような……いや、天使そのものと言ってもいい……心優しい人……
その天使をいたぶった僕は、これから地獄に落ちるのだろう……
身体の感覚がなくなり、無くなったはずの目に、何かが映り込んでくる……
針でできた山……燃え盛る炎……そして、やせ細った亡者たち……
ああ……ここが地獄か……
僕は、とうとう死んだんだな……
鬼か悪魔か……角の生えた巨漢たちが、僕を見て嗤っている……
巨漢の一人が、牙をむき出しにして、もの凄い笑みを作りながら、言う。
「無間地獄にようこそ、ゴミ野郎。串刺し、火あぶり、のこぎり挽き。これから毎日、ありとあらゆる楽しい刑罰が、お前を待ってるぜ。さあ、名を名乗りな」
僕は、答えた。
「名前なんてありません。僕は、ただのゴミです」
そして僕は、燃えるゴミのように、地獄の業火で炙られた。
凄まじい苦痛。
もう死んでいるので、死ぬことによって、救われることもない。
終わりのない苦痛。
そして、あまりにも長い苦痛。
ただれる皮膚と共に、時間の感覚さえも、溶けて、消えていく。
地獄に落ちてから、どれだけの時間が経ったのだろう?
一ヶ月?
一年?
十年?
それとも実際は、まだ十分も経っていないのだろうか?
考えるだけ、無意味なことだった。
ここは終わりのない、無間地獄。
何年たとうが、僕が許される日はこない。
さあ、今日も、長い長い、地獄の一日の始まりだ。
終わり。
――――――――――――――――――――――――――――――――
最後まで読んでいただき、ありがとうございました!
本日から新作『「聖女はもう用済み」と言って私を追放した国は、今や崩壊寸前です。私が戻れば危機を救えるようですが、私はもう、二度と国には戻りません』を投稿しております。
最近は長めのお話ばかり書いていたので、久しぶりの短編です!
よろしければ、見てもらえると嬉しいです!
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
1,309
この作品の感想を投稿する
みんなの感想(97件)
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。
ざまぁについてやり過ぎと思う方は、多分、幸いにもパートナーからあの様な扱いを受けた事が無いのでしょう。
私は、ざまぁは『因果応報』でちょうどいい塩梅だと思いました。
反省したからといって、やった事が無くなる訳ではないのでね…。
そう考えると、ざまぁ結果は正に『因果応報』。
①自分が悪い事をした事実に気が付いて後悔
②それはそれとしてキッチリバッチリめちゃくちゃ酷い目に遭う
という部分がなかなか新鮮かつ凄くよかったです!
ざまぁの凄惨さがよき!
アドレーラが浮浪者化した元婚約者を抱きしめるシーンはジワッときました...。アドレーラ、ええ子や。。。
完結おめでとうございます
無事地獄逝きとなったわけですが
欲を言えば猛省や後悔をしてる人には地獄の責め苦はむしろご褒美や救いになってしまうんじゃないかと思ってしまいそうです