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第115話

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 ジェロームは瞳を閉じ、黙った。
 その姿はまるで、静かなる夜の闇に溶け込んでしまったようだった。

 どれだけ黙っていただろう。
 ジェロームは、闇から溢れだした光のように、言葉を紡いでいく。

「エリウッド様が私を信じてくれているのは、わかっていました。疑っているなら、容易く軍部を掌握できる参謀総長の地位を与えはしないでしょうから。しかし私は、表面上は忠誠をつくしながら、純粋なる信頼をエリウッド様に返すことを、拒んだ。……すべては『私は所詮妾の子』という、私自身の劣等感が原因です」

「…………」

「私は、エリウッド様を信頼していないのではなく、信頼しているという事実を認めることを、拒否したのです。エリウッド様が嫌いだったわけでもありません。生まれついての太陽のようなあの方のことが、大好きだった。その感情をも、私は否定した。認めてしまったら、自分がますます惨めな存在になるような気がして……」

「ジェローム……」

「愚かで卑屈な私も、ここにきてようやく、自分の心に整理をつけることができました。マリヤ様、明朝すぐに反王政派を取りまとめ、私は彼らに対して頭を下げます。そして、即刻クーデターの中止を……」

 ジェロームはそこで、突然喋るのをやめた。
 私は首を傾げ、彼の名を呼ぶ。

「ジェローム?」

 ジェロームは唇を開いた。
 そこからつぅっと流れ出たのは、彼の赤髪よりも深い赤。

 鮮血だった。

 そのまま、崩れ落ちるジェローム。慌てて支えようとしても、私の細腕では彼の長身を抱き留めることはできない。それでも何とか、地面に直接激突しないように、ゆっくりと寝かせる。

 ジェロームの背中。
 ちょうど、心臓の後ろあたりに、深々と矢が突き刺さっていた。

 ……これは、致命傷だ。いつの間にか私の手はジェロームの血で赤く染まっており、悲しみと困惑で、全身がわなわなと震えた。

 そんな私の耳に、聞きなれた声が響いて来る。

「うふふ、見事命中ね。さすがは、兵器開発部門特製の自動追尾ボウガンだわ。弓術の心得のないわたくしでも、引き金を引くだけで目標の急所に向かっていく優れものよ」

 太后リザベルトの声だった。

 何とリザベルトは、見張り台の外側。つまり、空中に浮かんでいた。
 真っ黒なフード付きローブを身にまとった姿は、まるで夜の化身である。

 リザベルトはフードを下ろし、自身の輝くような金髪を外気にさらすと、ふわふわと浮かんでこちらまでやって来る。そして、見張り台に足を下ろし、いつもと変わらぬ微笑を浮かべた。
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