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第8話(ジョセフ視点)
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パメラは口をとがらせて抗議する。
「嘘よ。そんなの、とても信じられないわ。だってあなたの家族、いつも、華やかな暮らしをしてるじゃない。没落寸前だったら、あんな贅沢な生活、できるはずないでしょ」
「そうさ、普通ならね。……すべては、上級貴族である、裕福なフェリシティアの家のおかげさ。フェリシティアのお父上は、娘の愛した貧しい婚約者を憐れんで、色々と援助をしてくれていたんだ。だから僕の家は、上級貴族並みの、素晴らしい生活ができていたんだよ」
そこで僕は、一度言葉を切り、天を仰ぎながら、話を続ける。
「だが、それももう終わりだ。僕とフェリシティアは、赤の他人になったのだから、当然援助は打ち切られる。いや、それどころか、法的には、今まで援助された金銭の返却義務が発生するはずだ。もちろん、全額返せるはずもないが、まあ、屋敷や、数少ない私財は、没収されてしまうだろうな……」
パメラは、叫んだ。
「あ、あんた、ばっかじゃないの!? そんな大切な相手なら、なんでフェリシティアのこと、もっと大事にしなかったのよ!?」
僕も、叫んだ。
「お前が、いつもいつも仮病を使って、僕がフェリシティアと会うのを邪魔したからだろうが!」
「人のせいにしてんじゃないわよ! 私は別に、こっちを優先するように、強制なんてしてないんだからね! 何もかも、あんたの無神経さと、馬鹿さ加減のせいじゃない! この馬鹿、馬鹿、馬鹿っ!」
「なんだと! こいつっ!」
僕とパメラは、見苦しくも、道のど真ん中で取っ組み合いを始めた。
パメラは、男の僕がビックリするほど強かった。
「変なところ掴むんじゃないわよっ! このっ!」
「ぐわっ!?」
硬く握られたパメラの拳が僕の顎を直撃し、口の中に血の味が広がるのと同時に、目の前がチカチカと点滅する。なんてパンチだ。ずっと昔、同い年の男の子と喧嘩した時だって、こんな強烈な力で殴られたことはなかったぞ。
ふふ。
ふふふ。
なんだか、笑えてきた。
この、とんでもない腕力の女が『病弱』とは、さっきも思ったが、本当に出来の悪い冗談だ。僕たちは、たっぷり三十分以上は取っ組み合いを続け、やがて疲れ切り、そのまま地面に寝そべった。
ぽつり。
ぽつり。
雨が、降ってくる。
空には、いつの間にか重たい暗雲が立ち込めている。
まだ明るい時間のはずなのに、なんて暗いのだろう。
光の差し込む隙間が、ほんの少しもない。
それはまるで、僕の今後の人生を暗示しているかのようだった。
――――――――――――――――――――――――――――――――
次回は再び、フェリシティアの視点に戻ります。
婚約破棄から数年の時が流れ、ジョセフとの『悪縁』を断ち切ったことで、フェリシティアは『良縁』を手に入れ、幸せな生活をしているのでした。
「嘘よ。そんなの、とても信じられないわ。だってあなたの家族、いつも、華やかな暮らしをしてるじゃない。没落寸前だったら、あんな贅沢な生活、できるはずないでしょ」
「そうさ、普通ならね。……すべては、上級貴族である、裕福なフェリシティアの家のおかげさ。フェリシティアのお父上は、娘の愛した貧しい婚約者を憐れんで、色々と援助をしてくれていたんだ。だから僕の家は、上級貴族並みの、素晴らしい生活ができていたんだよ」
そこで僕は、一度言葉を切り、天を仰ぎながら、話を続ける。
「だが、それももう終わりだ。僕とフェリシティアは、赤の他人になったのだから、当然援助は打ち切られる。いや、それどころか、法的には、今まで援助された金銭の返却義務が発生するはずだ。もちろん、全額返せるはずもないが、まあ、屋敷や、数少ない私財は、没収されてしまうだろうな……」
パメラは、叫んだ。
「あ、あんた、ばっかじゃないの!? そんな大切な相手なら、なんでフェリシティアのこと、もっと大事にしなかったのよ!?」
僕も、叫んだ。
「お前が、いつもいつも仮病を使って、僕がフェリシティアと会うのを邪魔したからだろうが!」
「人のせいにしてんじゃないわよ! 私は別に、こっちを優先するように、強制なんてしてないんだからね! 何もかも、あんたの無神経さと、馬鹿さ加減のせいじゃない! この馬鹿、馬鹿、馬鹿っ!」
「なんだと! こいつっ!」
僕とパメラは、見苦しくも、道のど真ん中で取っ組み合いを始めた。
パメラは、男の僕がビックリするほど強かった。
「変なところ掴むんじゃないわよっ! このっ!」
「ぐわっ!?」
硬く握られたパメラの拳が僕の顎を直撃し、口の中に血の味が広がるのと同時に、目の前がチカチカと点滅する。なんてパンチだ。ずっと昔、同い年の男の子と喧嘩した時だって、こんな強烈な力で殴られたことはなかったぞ。
ふふ。
ふふふ。
なんだか、笑えてきた。
この、とんでもない腕力の女が『病弱』とは、さっきも思ったが、本当に出来の悪い冗談だ。僕たちは、たっぷり三十分以上は取っ組み合いを続け、やがて疲れ切り、そのまま地面に寝そべった。
ぽつり。
ぽつり。
雨が、降ってくる。
空には、いつの間にか重たい暗雲が立ち込めている。
まだ明るい時間のはずなのに、なんて暗いのだろう。
光の差し込む隙間が、ほんの少しもない。
それはまるで、僕の今後の人生を暗示しているかのようだった。
――――――――――――――――――――――――――――――――
次回は再び、フェリシティアの視点に戻ります。
婚約破棄から数年の時が流れ、ジョセフとの『悪縁』を断ち切ったことで、フェリシティアは『良縁』を手に入れ、幸せな生活をしているのでした。
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