幼馴染が熱を出した? どうせいつもの仮病でしょう?【完結】

小平ニコ

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第10話

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 わからない。

 しかし、今のように、リカルドと結婚することは、なかったと思う。

 何故なら、三年前の時点で、地方領主の息子であるリカルドには、あちこちから縁談がきていたからだ。あのタイミングでジョセフとの婚約を破棄していなければ、リカルドは、他の誰かと婚約を結び、今頃、私ではない誰かが、この椅子に座って、大きなおなかを撫でていたかもしれない。

 そう思うと、恐ろしさに背筋が震え、今の幸福が、信じられないような奇跡の産物に思えてくる。……返す返すも、あの時、ジョセフとの婚約破棄を決断してよかった。

 ジョセフに対し、中途半端な情けをかけ、『あと一ヶ月経てば、ジョセフは変わるかもしれない』『いやいや、さらにもう二ヶ月待てば、ジョセフは変わるかもしれない』と悩んでいたら、その間に、リカルドは他の女性を選び、私とリカルドの運命は、生涯交錯することはなかった可能性が高い。……人と人との縁は、いつだって紙一重だから。

 あっ。

 聞こえる。

 遠くから、馬車の音が。

 これは、リカルドの乗った馬車だ。
 彼が、帰って来たのね。

 私は、立ち上がった。
 玄関で、彼を迎えてあげたいからだ。

 誰よりも私を気遣ってくれる彼のことだ。『身重の体で、無理をしなくていいんだよ』と言ってくれることは、分かりきっている。それでも、彼の妻として、帰宅と同時に、『おかえりなさい、リカルド。今日も一日、お疲れ様』と言ってあげたい。

 だって、リカルドが私を何よりも優先してくれるように、私もまた、彼を誰よりも愛しているのだから。お互いに、お互いを想い合う――これが、愛し合うということなのだろう。それは、ジョセフとの間には、一度もなかったことだった。

 玄関を目指して、廊下を歩きながら、私は一人、思う。

 人と人との縁には、二種類ある。

 幸福を招く『良縁』と、ひたすらに思い悩むだけの『悪縁』だ。

 恐らく、悪縁に縛られている限り、良縁を手にすることはできない。だから、人生の中で、時には冷徹な決断をして、悪縁は捨て去らなければならないのだ。

 三年前、ジョセフとの悪縁を断ち切る決断ができたのは、ある意味では、彼の幼馴染――パメラのおかげだと言ってもいいかもしれない。彼女がいたことで、ジョセフの不誠実さが良く分かったから、私は彼とはもうやっていけないと判断したんだものね。

 あの二人、随分と仲良しだったけど、今でも楽しくやってるのかしら?

 昔は、ジョセフとパメラのことなんて、考えたくもなかったけど、今現在、最高の幸せに包まれているせいもあり、心に余裕のある私は、なんとなく、二人のことを思い出す。

 私との婚約関係がなくなったことで、それまでお父様が援助していたお金も返還しなければならなくなり、最下級貴族であったジョセフの家は、国庫に貴族として最低限納めなければならない税金を納められなくなってしまい、現在は、平民になっているはずだ。
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