10 / 30
第10話
しおりを挟む
わからない。
しかし、今のように、リカルドと結婚することは、なかったと思う。
何故なら、三年前の時点で、地方領主の息子であるリカルドには、あちこちから縁談がきていたからだ。あのタイミングでジョセフとの婚約を破棄していなければ、リカルドは、他の誰かと婚約を結び、今頃、私ではない誰かが、この椅子に座って、大きなおなかを撫でていたかもしれない。
そう思うと、恐ろしさに背筋が震え、今の幸福が、信じられないような奇跡の産物に思えてくる。……返す返すも、あの時、ジョセフとの婚約破棄を決断してよかった。
ジョセフに対し、中途半端な情けをかけ、『あと一ヶ月経てば、ジョセフは変わるかもしれない』『いやいや、さらにもう二ヶ月待てば、ジョセフは変わるかもしれない』と悩んでいたら、その間に、リカルドは他の女性を選び、私とリカルドの運命は、生涯交錯することはなかった可能性が高い。……人と人との縁は、いつだって紙一重だから。
あっ。
聞こえる。
遠くから、馬車の音が。
これは、リカルドの乗った馬車だ。
彼が、帰って来たのね。
私は、立ち上がった。
玄関で、彼を迎えてあげたいからだ。
誰よりも私を気遣ってくれる彼のことだ。『身重の体で、無理をしなくていいんだよ』と言ってくれることは、分かりきっている。それでも、彼の妻として、帰宅と同時に、『おかえりなさい、リカルド。今日も一日、お疲れ様』と言ってあげたい。
だって、リカルドが私を何よりも優先してくれるように、私もまた、彼を誰よりも愛しているのだから。お互いに、お互いを想い合う――これが、愛し合うということなのだろう。それは、ジョセフとの間には、一度もなかったことだった。
玄関を目指して、廊下を歩きながら、私は一人、思う。
人と人との縁には、二種類ある。
幸福を招く『良縁』と、ひたすらに思い悩むだけの『悪縁』だ。
恐らく、悪縁に縛られている限り、良縁を手にすることはできない。だから、人生の中で、時には冷徹な決断をして、悪縁は捨て去らなければならないのだ。
三年前、ジョセフとの悪縁を断ち切る決断ができたのは、ある意味では、彼の幼馴染――パメラのおかげだと言ってもいいかもしれない。彼女がいたことで、ジョセフの不誠実さが良く分かったから、私は彼とはもうやっていけないと判断したんだものね。
あの二人、随分と仲良しだったけど、今でも楽しくやってるのかしら?
昔は、ジョセフとパメラのことなんて、考えたくもなかったけど、今現在、最高の幸せに包まれているせいもあり、心に余裕のある私は、なんとなく、二人のことを思い出す。
私との婚約関係がなくなったことで、それまでお父様が援助していたお金も返還しなければならなくなり、最下級貴族であったジョセフの家は、国庫に貴族として最低限納めなければならない税金を納められなくなってしまい、現在は、平民になっているはずだ。
しかし、今のように、リカルドと結婚することは、なかったと思う。
何故なら、三年前の時点で、地方領主の息子であるリカルドには、あちこちから縁談がきていたからだ。あのタイミングでジョセフとの婚約を破棄していなければ、リカルドは、他の誰かと婚約を結び、今頃、私ではない誰かが、この椅子に座って、大きなおなかを撫でていたかもしれない。
そう思うと、恐ろしさに背筋が震え、今の幸福が、信じられないような奇跡の産物に思えてくる。……返す返すも、あの時、ジョセフとの婚約破棄を決断してよかった。
ジョセフに対し、中途半端な情けをかけ、『あと一ヶ月経てば、ジョセフは変わるかもしれない』『いやいや、さらにもう二ヶ月待てば、ジョセフは変わるかもしれない』と悩んでいたら、その間に、リカルドは他の女性を選び、私とリカルドの運命は、生涯交錯することはなかった可能性が高い。……人と人との縁は、いつだって紙一重だから。
あっ。
聞こえる。
遠くから、馬車の音が。
これは、リカルドの乗った馬車だ。
彼が、帰って来たのね。
私は、立ち上がった。
玄関で、彼を迎えてあげたいからだ。
誰よりも私を気遣ってくれる彼のことだ。『身重の体で、無理をしなくていいんだよ』と言ってくれることは、分かりきっている。それでも、彼の妻として、帰宅と同時に、『おかえりなさい、リカルド。今日も一日、お疲れ様』と言ってあげたい。
だって、リカルドが私を何よりも優先してくれるように、私もまた、彼を誰よりも愛しているのだから。お互いに、お互いを想い合う――これが、愛し合うということなのだろう。それは、ジョセフとの間には、一度もなかったことだった。
玄関を目指して、廊下を歩きながら、私は一人、思う。
人と人との縁には、二種類ある。
幸福を招く『良縁』と、ひたすらに思い悩むだけの『悪縁』だ。
恐らく、悪縁に縛られている限り、良縁を手にすることはできない。だから、人生の中で、時には冷徹な決断をして、悪縁は捨て去らなければならないのだ。
三年前、ジョセフとの悪縁を断ち切る決断ができたのは、ある意味では、彼の幼馴染――パメラのおかげだと言ってもいいかもしれない。彼女がいたことで、ジョセフの不誠実さが良く分かったから、私は彼とはもうやっていけないと判断したんだものね。
あの二人、随分と仲良しだったけど、今でも楽しくやってるのかしら?
昔は、ジョセフとパメラのことなんて、考えたくもなかったけど、今現在、最高の幸せに包まれているせいもあり、心に余裕のある私は、なんとなく、二人のことを思い出す。
私との婚約関係がなくなったことで、それまでお父様が援助していたお金も返還しなければならなくなり、最下級貴族であったジョセフの家は、国庫に貴族として最低限納めなければならない税金を納められなくなってしまい、現在は、平民になっているはずだ。
1,260
あなたにおすすめの小説
「お幸せに」と微笑んだ悪役令嬢は、二度と戻らなかった。
パリパリかぷちーの
恋愛
王太子から婚約破棄を告げられたその日、
クラリーチェ=ヴァレンティナは微笑んでこう言った。
「どうか、お幸せに」──そして姿を消した。
完璧すぎる令嬢。誰にも本心を明かさなかった彼女が、
“何も持たずに”去ったその先にあったものとは。
これは誰かのために生きることをやめ、
「私自身の幸せ」を選びなおした、
ひとりの元・悪役令嬢の再生と静かな愛の物語。
旦那様、そんなに彼女が大切なら私は邸を出ていきます
おてんば松尾
恋愛
彼女は二十歳という若さで、領主の妻として領地と領民を守ってきた。二年後戦地から夫が戻ると、そこには見知らぬ女性の姿があった。連れ帰った親友の恋人とその子供の面倒を見続ける旦那様に、妻のソフィアはとうとう離婚届を突き付ける。
if 主人公の性格が変わります(元サヤ編になります)
※こちらの作品カクヨムにも掲載します
三回目の人生も「君を愛することはない」と言われたので、今度は私も拒否します
冬野月子
恋愛
「君を愛することは、決してない」
結婚式を挙げたその夜、夫は私にそう告げた。
私には過去二回、別の人生を生きた記憶がある。
そうして毎回同じように言われてきた。
逃げた一回目、我慢した二回目。いずれも上手くいかなかった。
だから今回は。
お認めください、あなたは彼に選ばれなかったのです
・めぐめぐ・
恋愛
騎士である夫アルバートは、幼馴染みであり上官であるレナータにいつも呼び出され、妻であるナディアはあまり夫婦の時間がとれていなかった。
さらにレナータは、王命で結婚したナディアとアルバートを可哀想だと言い、自分と夫がどれだけ一緒にいたか、ナディアの知らない小さい頃の彼を知っているかなどを自慢げに話してくる。
しかしナディアは全く気にしていなかった。
何故なら、どれだけアルバートがレナータに呼び出されても、必ず彼はナディアの元に戻ってくるのだから――
偽物サバサバ女が、ちょっと天然な本物のサバサバ女にやられる話。
※頭からっぽで
※思いつきで書き始めたので、つたない設定等はご容赦ください。
※夫婦仲は良いです
※私がイメージするサバ女子です(笑)
※第18回恋愛小説大賞で奨励賞頂きました! 応援いただいた皆さま、お読みいただいた皆さま、ありがとうございました♪
婚約破棄されないまま正妃になってしまった令嬢
alunam
恋愛
婚約破棄はされなかった……そんな必要は無かったから。
既に愛情の無くなった結婚をしても相手は王太子。困る事は無かったから……
愛されない正妃なぞ珍しくもない、愛される側妃がいるから……
そして寵愛を受けた側妃が世継ぎを産み、正妃の座に成り代わろうとするのも珍しい事ではない……それが今、この時に訪れただけ……
これは婚約破棄される事のなかった愛されない正妃。元・辺境伯爵シェリオン家令嬢『フィアル・シェリオン』の知らない所で、周りの奴等が勝手に王家の連中に「ざまぁ!」する話。
※あらすじですらシリアスが保たない程度の内容、プロット消失からの練り直し試作品、荒唐無稽でもハッピーエンドならいいんじゃい!的なガバガバ設定
それでもよろしければご一読お願い致します。更によろしければ感想・アドバイスなんかも是非是非。全十三話+オマケ一話、一日二回更新でっす!
恋人に夢中な婚約者に一泡吹かせてやりたかっただけ
棗
恋愛
伯爵令嬢ラフレーズ=ベリーシュは、王国の王太子ヒンメルの婚約者。
王家の忠臣と名高い父を持ち、更に隣国の姫を母に持つが故に結ばれた完全なる政略結婚。
長年の片思い相手であり、婚約者であるヒンメルの隣には常に恋人の公爵令嬢がいる。
婚約者には愛を示さず、恋人に夢中な彼にいつか捨てられるくらいなら、こちらも恋人を作って一泡吹かせてやろうと友達の羊の精霊メリー君の妙案を受けて実行することに。
ラフレーズが恋人役を頼んだのは、人外の魔術師・魔王公爵と名高い王国最強の男――クイーン=ホーエンハイム。
濡れた色香を放つクイーンからの、本気か嘘かも分からない行動に涙目になっていると恋人に夢中だった王太子が……。
※小説家になろう・カクヨム様にも公開しています
「本当に僕の子供なのか検査して調べたい」子供と顔が似てないと責められ離婚と多額の慰謝料を請求された。
佐藤 美奈
恋愛
ソフィア伯爵令嬢は、公爵位を継いだ恋人で幼馴染のジャックと結婚して公爵夫人になった。何一つ不自由のない環境で誰もが羨むような生活をして、二人の子供に恵まれて幸福の絶頂期でもあった。
「長男は僕に似てるけど、次男の顔は全く似てないから病院で検査したい」
ある日、ジャックからそう言われてソフィアは、時間が止まったような気持ちで精神的な打撃を受けた。すぐに返す言葉が出てこなかった。この出来事がきっかけで仲睦まじい夫婦にひびが入り崩れ出していく。
旦那様、政略結婚ですので離婚しましょう
おてんば松尾
恋愛
王命により政略結婚したアイリス。
本来ならば皆に祝福され幸せの絶頂を味わっているはずなのにそうはならなかった。
初夜の場で夫の公爵であるスノウに「今日は疲れただろう。もう少し互いの事を知って、納得した上で夫婦として閨を共にするべきだ」と言われ寝室に一人残されてしまった。
翌日から夫は仕事で屋敷には帰ってこなくなり使用人たちには冷たく扱われてしまうアイリス……
(※この物語はフィクションです。実在の人物や事件とは関係ありません。)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる