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第22話

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「あ、それはなんとなく覚えてる」

「そして、13歳になる頃には、すっかり女らしく髪が伸びて、俺は驚いたよ。俺はそれまで、お前のことを、妹であり、弟のようにも思っていた。だから、チャンバラ遊びのように剣術を教えたりしていたんだ。でも……」

「でも?」

「13歳になり、髪を伸ばし、しとやかな服を着るようになったお前は、目を見張るほど美しかった。……それ以来、なんだかお前を意識してしまってな。昔みたいに接することができなくなったんだ」

「…………」

「お前が『聖女』になってから、親父が勝手に婚約を決めてしまったときは、一瞬、今まで感じたことのないような複雑な感情で、体がカッと熱くなった。あれは、親父の身勝手さに対する怒りだったのか、お前に対する同情だったのか、それとも、お前が別の誰かと結婚するのを想像したことで初めて、俺自身の気持ちに気がついたからなのか……あるいは、その全てが混ざり合ったものなのかもしれない」

 まるで、溜まっていた想いを絞りだすように一気にそう言うと、兄さんは深く深く息を吐いた。

「すまない。もうやめよう、こんな話。少し喋り過ぎた。ブラッシングも終わったし、少し夜風に当たって来るよ」

 どこか寂しそうな微笑を浮かべ、馬小屋を出て行く兄さん。

 一人残された私は、たった今兄さんから聞いた話を、どう受け止めればいいか分からず、やけにざわつく自分の心を落ち着かせようと、白馬の頭を撫でた。

 兄さん以外の人間に、丁寧なブラッシングで整ったばかりのたてがみを触られるのが不愉快だったのか、白馬は頭を振り、小さく嘶く。

 私は慌てて手をはなし、「ごめんなさい」と謝った。白馬はそれ以上怒ったりはしなかったが、そのつぶらな黒い瞳は、今の今まで、兄さんの想いに気づきもしなかった私の鈍感さを責めているようにも見えた。





 翌朝。
 私と兄さんは日の出と共に宿場町を出発し、岩だらけの荒涼とした谷間を馬で駆け抜けている。二頭の駿馬は、たっぷりの食事と充分な睡眠ですっかり元気を取り戻し、まさしく飛ぶような速さだ。

 どんなに早くても、都に到着できるのは今日の日暮れ頃だと思っていたが、この調子なら、午後の四時頃には到達できるかもしれない。私は改めて気合を入れなおし、力強く馬の手綱を握っている……つもりだったのだが……

「おい、ローレッタ、どうしたんだ? なんだか眠そうだな。こういう荒れ地では、しっかり手綱を握っていないと危ないぞ」

 兄さんがわざわざすぐ近くを並走して、私に活を入れる。馬上の私の姿が、傍から見て、よっぽどぼおっとして見えたのだろう。
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