24 / 38
第24話
しおりを挟む
小型と言っても、体長は1メートル以上あり、噛みつかれればただでは済まない。
今現在、私は武器を持っていないので、飛びかかって来たモンスターを魔法で撃退しようとしたが、それよりも早く、兄さんが剣を抜き、馬上からの一撃で難なく倒してしまった。
兄さんは剣に付着した青紫色の魔物の血を拭いながら、私に問う。
「大丈夫か、ローレッタ? 怪我はないか?」
不意に、過去の記憶がフラッシュバックする。
あれは、私が13歳と数ヶ月の頃。
太陽がまぶしい、夏の日だった。
暑さのせいか、馬の機嫌がどうにも悪く、乗馬していた私は、振り落とされてしまったのである。当時の兄さんは、私をすっかり避けるようになっていたけど、その時ばかりは、本当に、血相を変えて飛んできて、今みたいに『大丈夫か!? 怪我はないか!?』って、必死になって呼びかけてくれたっけ。
あの頃からずっと、兄さんは私のこと、変わらずに想い続けてくれているのかな……
ちょっ、私、何を考えているの、こんなときに。
ついさっき『私事は心のうちに沈めておく』って決めたばっかりじゃない。
私は頭を振って意識を切り替えると、なるべく平静を装って微笑んだ。
「大丈夫よ。兄さんが一瞬でやっつけてくれたから」
「そうか、良かった。ふふ、どうだ? 俺の素人剣術も、案外捨てたもんじゃないだろう?」
ちょっと誇らしげに剣を構える兄さんが可愛くて、私は頷きながら、口元を隠すようにして笑った。
今、兄さんがやっつけたモンスターは、小型だがそれなりに強力な個体だ。それを一撃で切り伏せたのだから、『案外捨てたもんじゃない』どころか、兄さんの腕前は、聖騎士団の剣術にも決して引けを取らないだろう。なんとも頼もしいナイト様である。
その時だった。
道の向こうから、馬のひづめの音が聞こえてくる。
忘れるはずもない、これは、聖騎士団の戦馬が駆ける音だ。
音はどんどんこちらに近づいてきて、巨大な黒い馬が、ぬぅっと姿を見せた。黒馬の上には、対照的に小柄な青年が跨っている。女性的な顔立ちだが、甲冑からのぞく首元は逞しく、精悍な騎士であることがよくわかる。
青年は、私の姿を視認すると、軽やかに黒馬から降り、地面に片膝をついた。
「ローレッタ様! 戻ってきてくださったのですね! お待ちしておりました!」
小さな体躯に見合わない、溌溂とした大きな声だった。
聖騎士団員であることは間違いないだろうが、私は彼に見覚えがない。……私が一方的に忘れているだけだとしたら、とても失礼だとは思うが、今はそんなことを言っている場合ではないので、私は素直に名前を聞くことにした。
今現在、私は武器を持っていないので、飛びかかって来たモンスターを魔法で撃退しようとしたが、それよりも早く、兄さんが剣を抜き、馬上からの一撃で難なく倒してしまった。
兄さんは剣に付着した青紫色の魔物の血を拭いながら、私に問う。
「大丈夫か、ローレッタ? 怪我はないか?」
不意に、過去の記憶がフラッシュバックする。
あれは、私が13歳と数ヶ月の頃。
太陽がまぶしい、夏の日だった。
暑さのせいか、馬の機嫌がどうにも悪く、乗馬していた私は、振り落とされてしまったのである。当時の兄さんは、私をすっかり避けるようになっていたけど、その時ばかりは、本当に、血相を変えて飛んできて、今みたいに『大丈夫か!? 怪我はないか!?』って、必死になって呼びかけてくれたっけ。
あの頃からずっと、兄さんは私のこと、変わらずに想い続けてくれているのかな……
ちょっ、私、何を考えているの、こんなときに。
ついさっき『私事は心のうちに沈めておく』って決めたばっかりじゃない。
私は頭を振って意識を切り替えると、なるべく平静を装って微笑んだ。
「大丈夫よ。兄さんが一瞬でやっつけてくれたから」
「そうか、良かった。ふふ、どうだ? 俺の素人剣術も、案外捨てたもんじゃないだろう?」
ちょっと誇らしげに剣を構える兄さんが可愛くて、私は頷きながら、口元を隠すようにして笑った。
今、兄さんがやっつけたモンスターは、小型だがそれなりに強力な個体だ。それを一撃で切り伏せたのだから、『案外捨てたもんじゃない』どころか、兄さんの腕前は、聖騎士団の剣術にも決して引けを取らないだろう。なんとも頼もしいナイト様である。
その時だった。
道の向こうから、馬のひづめの音が聞こえてくる。
忘れるはずもない、これは、聖騎士団の戦馬が駆ける音だ。
音はどんどんこちらに近づいてきて、巨大な黒い馬が、ぬぅっと姿を見せた。黒馬の上には、対照的に小柄な青年が跨っている。女性的な顔立ちだが、甲冑からのぞく首元は逞しく、精悍な騎士であることがよくわかる。
青年は、私の姿を視認すると、軽やかに黒馬から降り、地面に片膝をついた。
「ローレッタ様! 戻ってきてくださったのですね! お待ちしておりました!」
小さな体躯に見合わない、溌溂とした大きな声だった。
聖騎士団員であることは間違いないだろうが、私は彼に見覚えがない。……私が一方的に忘れているだけだとしたら、とても失礼だとは思うが、今はそんなことを言っている場合ではないので、私は素直に名前を聞くことにした。
39
あなたにおすすめの小説
婚約破棄され森に捨てられました。探さないで下さい。
拓海のり
ファンタジー
属性魔法が使えず、役に立たない『自然魔法』だとバカにされていたステラは、婚約者の王太子から婚約破棄された。そして身に覚えのない罪で断罪され、修道院に行く途中で襲われる。他サイトにも投稿しています。
善人ぶった姉に奪われ続けてきましたが、逃げた先で溺愛されて私のスキルで領地は豊作です
しろこねこ
ファンタジー
「あなたのためを思って」という一見優しい伯爵家の姉ジュリナに虐げられている妹セリナ。醜いセリナの言うことを家族は誰も聞いてくれない。そんな中、唯一差別しない家庭教師に貴族子女にははしたないとされる魔法を教わるが、親切ぶってセリナを孤立させる姉。植物魔法に目覚めたセリナはペット?のヴィリオをともに家を出て南の辺境を目指す。
【完結】経費削減でリストラされた社畜聖女は、隣国でスローライフを送る〜隣国で祈ったら国王に溺愛され幸せを掴んだ上に国自体が明るくなりました〜
よどら文鳥
恋愛
「聖女イデアよ、もう祈らなくとも良くなった」
ブラークメリル王国の新米国王ロブリーは、節約と経費削減に力を入れる国王である。
どこの国でも、聖女が作る結界の加護によって危険なモンスターから国を守ってきた。
国として大事な機能も経費削減のために不要だと決断したのである。
そのとばっちりを受けたのが聖女イデア。
国のために、毎日限界まで聖なる力を放出してきた。
本来は何人もの聖女がひとつの国の結界を作るのに、たった一人で国全体を守っていたほどだ。
しかも、食事だけで生きていくのが精一杯なくらい少ない給料で。
だがその生活もロブリーの政策のためにリストラされ、社畜生活は解放される。
と、思っていたら、今度はイデア自身が他国から高値で取引されていたことを知り、渋々その国へ御者アメリと共に移動する。
目的のホワイトラブリー王国へ到着し、クラフト国王に聖女だと話すが、意図が通じず戸惑いを隠せないイデアとアメリ。
しかし、実はそもそもの取引が……。
幸いにも、ホワイトラブリー王国での生活が認められ、イデアはこの国で聖なる力を発揮していく。
今までの過労が嘘だったかのように、楽しく無理なく力を発揮できていて仕事に誇りを持ち始めるイデア。
しかも、周りにも聖なる力の影響は凄まじかったようで、ホワイトラブリー王国は激的な変化が起こる。
一方、聖女のいなくなったブラークメリル王国では、結界もなくなった上、無茶苦茶な経費削減政策が次々と起こって……?
※政策などに関してはご都合主義な部分があります。
聖女の妹、『灰色女』の私
ルーシャオ
恋愛
オールヴァン公爵家令嬢かつ聖女アリシアを妹に持つ『私』は、魔力を持たない『灰色女(グレイッシュ)』として蔑まれていた。醜聞を避けるため仕方なく出席した妹の就任式から早々に帰宅しようとしたところ、道に座り込む老婆を見つける。その老婆は同じ『灰色女』であり、『私』の運命を変える呪文をつぶやいた。
『私』は次第にマナの流れが見えるようになり、知らなかったことをどんどんと知っていく。そして、聖女へ、オールヴァン公爵家へ、この国へ、差別する人々へ——復讐を決意した。
一方で、なぜか縁談の来なかった『私』と結婚したいという王城騎士団副団長アイメルが現れる。拒否できない結婚だと思っていたが、妙にアイメルは親身になってくれる。一体なぜ?
似非聖女呼ばわりされたのでスローライフ満喫しながら引き篭もります
秋月乃衣
恋愛
侯爵令嬢オリヴィアは聖女として今まで16年間生きてきたのにも関わらず、婚約者である王子から「お前は聖女ではない」と言われた挙句、婚約破棄をされてしまった。
そして、その瞬間オリヴィアの背中には何故か純白の羽が出現し、オリヴィアは泣き叫んだ。
「私、仰向け派なのに!これからどうやって寝たらいいの!?」
聖女じゃないみたいだし、婚約破棄されたし、何より羽が邪魔なので王都の外れでスローライフ始めます。
「聖女は2人もいらない」と追放された聖女、王国最強のイケメン騎士と偽装結婚して溺愛される
沙寺絃
恋愛
女子高生のエリカは異世界に召喚された。聖女と呼ばれるエリカだが、王子の本命は一緒に召喚されたもう一人の女の子だった。「 聖女は二人もいらない」と城を追放され、魔族に命を狙われたエリカを助けたのは、銀髪のイケメン騎士フレイ。 圧倒的な強さで魔王の手下を倒したフレイは言う。
「あなたこそが聖女です」
「あなたは俺の領地で保護します」
「身柄を預かるにあたり、俺の婚約者ということにしましょう」
こうしてエリカの偽装結婚異世界ライフが始まった。
やがてエリカはイケメン騎士に溺愛されながら、秘められていた聖女の力を開花させていく。
※この作品は「小説家になろう」でも掲載しています。
【完結】小国の王太子に捨てられたけど、大国の王太子に溺愛されています。え?私って聖女なの?
如月ぐるぐる
恋愛
王太子との婚約を一方的に破棄され、王太子は伯爵令嬢マーテリーと婚約してしまう。
留学から帰ってきたマーテリーはすっかりあか抜けており、王太子はマーテリーに夢中。
政略結婚と割り切っていたが納得いかず、必死に説得するも、ありもしない罪をかぶせられ国外追放になる。
家族にも見捨てられ、頼れる人が居ない。
「こんな国、もう知らない!」
そんなある日、とある街で子供が怪我をしたため、術を使って治療を施す。
アトリアは弱いながらも治癒の力がある。
子供の怪我の治癒をした時、ある男性に目撃されて旅に付いて来てしまう。
それ以降も街で見かけた体調の悪い人を治癒の力で回復したが、気が付くとさっきの男性がずっとそばに付いて来る。
「ぜひ我が国へ来てほしい」
男性から誘いを受け、行く当てもないため付いて行く。が、着いた先は祖国ヴァルプールとは比較にならない大国メジェンヌ……の王城。
「……ん!?」
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる