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第32話
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まあ、気持ちはわかる。お財布を盗まれたのに、ニコニコ笑顔で優しく対応しろってのも、無理な話よね。うん、わかるわかる。
しかし、こちらとしても死にたくはないので、私は自分とリーゼルの周囲に、超高熱の防護壁を作った。鋭い氷の矢は、防護壁にぶつかると一瞬で蒸発し、消えてしまった。
女は驚いたようだが、気圧された様子はなく、地面に降り立つと、私を見て大きく舌打ちをした。それから、ねっとりとした動きでこっちを指さして、憎々しげに言葉を紡いでいく。
「そっか……あんたが、そのスリのガキを使って、あたしのプラチナカードを奪おうとしたのね……! あはっ! でも、おあいにく様! あたしの財布にはねぇ、現在地を発信する魔法がかかってるのよ! 財布をスられたのに気づくのが遅れて、ちょっと焦ったけど、見つけたからには、あんたたちにはもう未来はないわよ! あはっ、あはっ、あはははは!」
実によく喋る女だ。
しかし、なるほど。『現在地を発信する魔法』か。
それで、私たちがこの裏路地にいるってことが、わかったのね。
ふむ。
なかなかやるじゃないの。
『現在地を発信する魔法』って、もの凄く単純に聞こえるけど、実はけっこう難しいのよね。自分の意思などあるわけがない『物』である財布に、現在地を発信させ続けるには、財布に対して疑似的な人格を与え、絶え間なく『私はここよ』と言わせ続けるような形にするわけだが、これがなかなか大変なのである。
それをやってのけるのだから、この女、優秀な魔法使いのようだ。
だが、私がリーゼルを使って、彼女のプラチナカードとやらを奪おうとしたとは、とんでもない誤解である。私は優秀な魔法使いである彼女に敬意を表し、一礼してから、朗らかに微笑んで言う。
「少し誤解があるようだから、説明させてね。確かに、私とこの子は知り合いだけど、私たちは別に、コンビを組んでスリをやってるってわけじゃないわ。私はただ、あなたが属してる集団が、魔法を悪用……」
説明を最後まで聞くのが面倒になったのか、はたまた、頭に血が上り過ぎて、これ以上黙っていられないのか、女は「ガタガタうるさい!」と怒鳴り、私の話を強引に止めさせた。
まあ怖い。
こりゃ、なだめるのは無理そうね。
肩をすくめる私を、女はビシィッと指さし、言う。
「しらばっくれるんじゃないわよ。その黒帽子、あんたも『至高なる魔女の会』の会員でしょ。さっきの魔法を見る限り、なかなかやるみたいだけど、相手が悪かったわね。『至高なる魔女の会』――ナンバー9の実力者であるこのあたし、シャーリー・シャールが本気になったら、あんたなんて、三秒でひき肉同然にしてやることもできるのよ」
私を睨みつけ、ニタリと笑う女――いえ、シャーリー・シャール。
私もまた、ニッコリと笑い、言葉を返した。
「ナンバー9とは、また微妙な地位ね、シャーリー・シャールさん。他人に地位を誇るなら、せめてトップ5に入ってからにした方が、格好がつくんじゃない?」
嫌味ではなく、素直に思ったことを言っただけだったが、その発言でシャーリーがキレた。彼女は赤い髪を逆立たせ、今度は私だけを狙い、巨大な氷柱をミサイルのように発射した。
しかし、こちらとしても死にたくはないので、私は自分とリーゼルの周囲に、超高熱の防護壁を作った。鋭い氷の矢は、防護壁にぶつかると一瞬で蒸発し、消えてしまった。
女は驚いたようだが、気圧された様子はなく、地面に降り立つと、私を見て大きく舌打ちをした。それから、ねっとりとした動きでこっちを指さして、憎々しげに言葉を紡いでいく。
「そっか……あんたが、そのスリのガキを使って、あたしのプラチナカードを奪おうとしたのね……! あはっ! でも、おあいにく様! あたしの財布にはねぇ、現在地を発信する魔法がかかってるのよ! 財布をスられたのに気づくのが遅れて、ちょっと焦ったけど、見つけたからには、あんたたちにはもう未来はないわよ! あはっ、あはっ、あはははは!」
実によく喋る女だ。
しかし、なるほど。『現在地を発信する魔法』か。
それで、私たちがこの裏路地にいるってことが、わかったのね。
ふむ。
なかなかやるじゃないの。
『現在地を発信する魔法』って、もの凄く単純に聞こえるけど、実はけっこう難しいのよね。自分の意思などあるわけがない『物』である財布に、現在地を発信させ続けるには、財布に対して疑似的な人格を与え、絶え間なく『私はここよ』と言わせ続けるような形にするわけだが、これがなかなか大変なのである。
それをやってのけるのだから、この女、優秀な魔法使いのようだ。
だが、私がリーゼルを使って、彼女のプラチナカードとやらを奪おうとしたとは、とんでもない誤解である。私は優秀な魔法使いである彼女に敬意を表し、一礼してから、朗らかに微笑んで言う。
「少し誤解があるようだから、説明させてね。確かに、私とこの子は知り合いだけど、私たちは別に、コンビを組んでスリをやってるってわけじゃないわ。私はただ、あなたが属してる集団が、魔法を悪用……」
説明を最後まで聞くのが面倒になったのか、はたまた、頭に血が上り過ぎて、これ以上黙っていられないのか、女は「ガタガタうるさい!」と怒鳴り、私の話を強引に止めさせた。
まあ怖い。
こりゃ、なだめるのは無理そうね。
肩をすくめる私を、女はビシィッと指さし、言う。
「しらばっくれるんじゃないわよ。その黒帽子、あんたも『至高なる魔女の会』の会員でしょ。さっきの魔法を見る限り、なかなかやるみたいだけど、相手が悪かったわね。『至高なる魔女の会』――ナンバー9の実力者であるこのあたし、シャーリー・シャールが本気になったら、あんたなんて、三秒でひき肉同然にしてやることもできるのよ」
私を睨みつけ、ニタリと笑う女――いえ、シャーリー・シャール。
私もまた、ニッコリと笑い、言葉を返した。
「ナンバー9とは、また微妙な地位ね、シャーリー・シャールさん。他人に地位を誇るなら、せめてトップ5に入ってからにした方が、格好がつくんじゃない?」
嫌味ではなく、素直に思ったことを言っただけだったが、その発言でシャーリーがキレた。彼女は赤い髪を逆立たせ、今度は私だけを狙い、巨大な氷柱をミサイルのように発射した。
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