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第64話

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「ああ……そういうことね」

「リリエンヌを捕まえれば、『至高なる魔女の会』の本拠地的な場所に案内させて、悪い魔法使いたちを一網打尽にできたかもしれない。……なのに私ってば、彼女がどんな攻撃をしてくるのか、ちょっとワクワクして、待ち構えちゃったのよ。失敗だったわ。まさか、あんなやる気満々の態度を見せておいて、逃げるとは思わなかったから」

 ちょっとだけションボリする私に対し、リーゼルは特に残念そうでもなく、朗らかに言う。

「リリエンヌは賢いからな。長話をしながらも、あんたの潜在能力を注意深く探っていたんだろう。そして、とても自分のかなう相手じゃないと悟り、どうやったら攻撃や追跡を受けずに逃げられるか考え、わざとらしいくらいに怒った姿を見せて、あんたの裏をかいたんだと思うよ」

「う~ん、なかなかの策士ねぇ……ほんと、一杯食わされたわ」

「もっとも、リリエンヌの本心としては、フェルヴァを馬鹿にしたあんたに、かなわないまでも一矢報いたいと思ってただろうけどね。あいつのフェルヴァに対する心酔っぷりは凄いからな。……まあ、フェルヴァに心酔してるのは、リリエンヌだけじゃなくて、『至高なる魔女の会』のほぼ全員だろうけど」

 私はテーブルに頬杖を突き、「へえ……」と前置きしてから、言葉を続ける。

「あなたの妹――フェルヴァさんって、随分と尊敬されてるのね」

「尊敬されてるってのとは、ちょっと違うかな。あいつは人の心を掴むのが上手いからな。あの常人離れした美貌とカリスマで、何にも分かってない無垢な少女たちを魅了してるのさ」

 確かに、立体映像で見たフェルヴァの顔は、魔性とでも言うべき美しさだった。……人は皆、美しい存在に惹かれるもの。繊細な十代の少女たちなら、なおさらだろう。

 その時、私の脳裏に、フェルヴァの映像をうっとりと眺めていたシャーリー・シャールの顔が、不意に思い出された。

「無垢な少女たちねぇ。あのシャーリー・シャールは、どう見ても二十歳過ぎてたじゃない。もう少女って歳じゃないと思うけど」

 私の無遠慮な物言いに、リーゼルは苦笑しながら言う。

「おいおい、そういう言い方してると、敵を作るぜ。少なくとも、シャーリーがここにいたら、『あたしはまだまだ少女よ!』って、相当やかましく吠えるだろうな」

「ふふっ、そうかもね」

 そこで私たちは、お互いの顔を見合わせて、くすくすと微笑んだ。

「それに、二十歳過ぎなんて、全然子供さ。俺が昔働いてたところじゃ、三十代、四十代でも、まだまだ若手だって言われてたからな。それに比べりゃ、二十代の女は、完全に『少女』だよ」

「ふうん」

 三十代、四十代でも若手って言われるようなところかぁ……
 パッと思いつくのは、伝統的な工芸品とかを作る、職人の世界かしら。
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