64 / 114
イレギュラー過ぎる実技。
しおりを挟む
「では、実技に入るぞ。敵役のこいつらに本気で挑んでみた……」
まえ、と続く筈だろうフェーイックの言葉が途切れる。
「動くな。動けば、依頼を遂行する前にお前達の首が飛ぶよ」
あまりの早業に固まる生徒達を横目にレイピアを抜き、フェーイックを横に蹴り飛ばしたシルヴィーが、冷ややかに黒づくめの男達を見る。
よく見れば、黒づくめの男の1人が腕を押さえ蹲っている。あまりの素早い行動に、男達は対処出来ないで棒立ちになった。
彼女が手にするイーリスの、氷の様な冷たい輝き。
少女が持つ剣気では無い。
息が出来ないほど、尋常じゃない圧迫感に男達の方が狼狽えた。
「こいつの始末は、こっちの取調べが終わったら好きにさせてやる」
ゼオン達も自分のイーリスを抜き、音も無くシルヴィーの横に立った。
どうやら黒づくめの男達はゼオン達によって意図的に学園内に入れられた様だ。
「あんたもイーリス持ってるなら、こいつらの殺気くらい気が付けよ」
リリーがシルヴィーに蹴り飛ばされ、腰を抜かしているフェーイックを見る。
「本当の所持者であれば、イーリスは所持者の危機を教えてくれるものだけど、誰のを盗んだ?」
「こ、これは我輩の……」
「ならば抜いて見せろ」
ゼオンの、けして大きな声では無いが、低く冷たい響きと無表情さが怒りの深さを感じさせる。
「貴方は、まだイーリスを玩具にする癖が治らない様ですね」
ゆっくりとフェーイックに顔を向けた、シルヴィーの赤紫の瞳にフェーイックは、ひっ、と悲鳴を上げる。
フェーイックにとっては、見覚えがありすぎる美しい赤紫の瞳。
「もう一度だけ聞く。誰のを盗んだ」
「我輩の……」
「アーロン・ベリル先生のものでしょう」
すぐに視線を目の前の男達に戻し、シルヴィーが淡々と告げる。
「アーロン・ベリル?」
ゼオンは初めて聞く名前に首を傾げる。
「以前、ジルコン公爵家で筆頭護衛騎士をしていたが、イーリスを盗まれた事を恥、学園に来たそうです」
剣を帯刀していない騎士、アーロン・ベリル。
兄、ハロルドやダドリーからの情報で、シルヴィーはベリルの背景を知っていた。
だからナタリアと共に、出来るだけ自然に盗まれた物が戻る、と言う魔法陣を彼に発動させたのだ。
こんな形でアーロンのイーリスが戻る、とは思っていなかったが。
「ベリル先生、そいつが持っているイーリスを抜いてみてください」
フェーイックが抱え込もうとしたイーリスをリリーが取り上げ、人混みから出て来たベリルに渡した。
ベリルは一瞬、驚いた顔でリリーを見たが、渡されたイーリスを静かに抜いてみせた。
一点の曇りも無い、銀色の光を纏う刀身にため息が溢れる。
当然、その刀身にはベリルの名前が浮かび上がっている。
「一旦、引いてくれますね」
シルヴィーの問い掛けに、黒づくめの男達のリーダーらしき1人が頷く。
流石に正規の騎士で、イーリスの使い手が4人も居れば、自分達に勝ち目が無い事は彼らも理解している。
「どのくらいで引き渡してもらえるのでしょうか?」
「3日後で、如何だ?」
ゼオンの言葉に頷くと、男達は蹲っている男を抱え、その場から姿を消した。
「3日とは、随分長いね」
ウィリアムが、スタスタとゼオンの前に歩いてくる。
「叩けば山の様に埃が出ると思いますので、余裕を含めました」
「愚かな野心を持たず、素直に北の鉱山に行っていれば、罪を重ねず長生き出来たものを」
ウィリアムの冷酷な呟きに、悲鳴すら上げられなくなったフェーイックは、学園の警備兵に引き摺られるように連れて行かれた。
「学園の人事も一掃する必要が出来たな」
呆れた様にウィリアムがチラリ、と学園長の執務室あたりを見ると、慌ててカーテンが閉められた。
「本当に残念です。下級貴族や平民の生徒の為に尽力してくださる、しっかりした教育者だと尊敬してましたのに」
学園長はカスでも下の方達が素晴らしかった、と頭を切り替え、シルヴィーはレイピアを鞘に収めた。
まえ、と続く筈だろうフェーイックの言葉が途切れる。
「動くな。動けば、依頼を遂行する前にお前達の首が飛ぶよ」
あまりの早業に固まる生徒達を横目にレイピアを抜き、フェーイックを横に蹴り飛ばしたシルヴィーが、冷ややかに黒づくめの男達を見る。
よく見れば、黒づくめの男の1人が腕を押さえ蹲っている。あまりの素早い行動に、男達は対処出来ないで棒立ちになった。
彼女が手にするイーリスの、氷の様な冷たい輝き。
少女が持つ剣気では無い。
息が出来ないほど、尋常じゃない圧迫感に男達の方が狼狽えた。
「こいつの始末は、こっちの取調べが終わったら好きにさせてやる」
ゼオン達も自分のイーリスを抜き、音も無くシルヴィーの横に立った。
どうやら黒づくめの男達はゼオン達によって意図的に学園内に入れられた様だ。
「あんたもイーリス持ってるなら、こいつらの殺気くらい気が付けよ」
リリーがシルヴィーに蹴り飛ばされ、腰を抜かしているフェーイックを見る。
「本当の所持者であれば、イーリスは所持者の危機を教えてくれるものだけど、誰のを盗んだ?」
「こ、これは我輩の……」
「ならば抜いて見せろ」
ゼオンの、けして大きな声では無いが、低く冷たい響きと無表情さが怒りの深さを感じさせる。
「貴方は、まだイーリスを玩具にする癖が治らない様ですね」
ゆっくりとフェーイックに顔を向けた、シルヴィーの赤紫の瞳にフェーイックは、ひっ、と悲鳴を上げる。
フェーイックにとっては、見覚えがありすぎる美しい赤紫の瞳。
「もう一度だけ聞く。誰のを盗んだ」
「我輩の……」
「アーロン・ベリル先生のものでしょう」
すぐに視線を目の前の男達に戻し、シルヴィーが淡々と告げる。
「アーロン・ベリル?」
ゼオンは初めて聞く名前に首を傾げる。
「以前、ジルコン公爵家で筆頭護衛騎士をしていたが、イーリスを盗まれた事を恥、学園に来たそうです」
剣を帯刀していない騎士、アーロン・ベリル。
兄、ハロルドやダドリーからの情報で、シルヴィーはベリルの背景を知っていた。
だからナタリアと共に、出来るだけ自然に盗まれた物が戻る、と言う魔法陣を彼に発動させたのだ。
こんな形でアーロンのイーリスが戻る、とは思っていなかったが。
「ベリル先生、そいつが持っているイーリスを抜いてみてください」
フェーイックが抱え込もうとしたイーリスをリリーが取り上げ、人混みから出て来たベリルに渡した。
ベリルは一瞬、驚いた顔でリリーを見たが、渡されたイーリスを静かに抜いてみせた。
一点の曇りも無い、銀色の光を纏う刀身にため息が溢れる。
当然、その刀身にはベリルの名前が浮かび上がっている。
「一旦、引いてくれますね」
シルヴィーの問い掛けに、黒づくめの男達のリーダーらしき1人が頷く。
流石に正規の騎士で、イーリスの使い手が4人も居れば、自分達に勝ち目が無い事は彼らも理解している。
「どのくらいで引き渡してもらえるのでしょうか?」
「3日後で、如何だ?」
ゼオンの言葉に頷くと、男達は蹲っている男を抱え、その場から姿を消した。
「3日とは、随分長いね」
ウィリアムが、スタスタとゼオンの前に歩いてくる。
「叩けば山の様に埃が出ると思いますので、余裕を含めました」
「愚かな野心を持たず、素直に北の鉱山に行っていれば、罪を重ねず長生き出来たものを」
ウィリアムの冷酷な呟きに、悲鳴すら上げられなくなったフェーイックは、学園の警備兵に引き摺られるように連れて行かれた。
「学園の人事も一掃する必要が出来たな」
呆れた様にウィリアムがチラリ、と学園長の執務室あたりを見ると、慌ててカーテンが閉められた。
「本当に残念です。下級貴族や平民の生徒の為に尽力してくださる、しっかりした教育者だと尊敬してましたのに」
学園長はカスでも下の方達が素晴らしかった、と頭を切り替え、シルヴィーはレイピアを鞘に収めた。
108
あなたにおすすめの小説
異世界から来た娘が、たまらなく可愛いのだが(同感)〜こっちにきてから何故かイケメンに囲まれています〜
京
恋愛
普通の女子高生、朱璃はいつのまにか異世界に迷い込んでいた。
右も左もわからない状態で偶然出会った青年にしがみついた結果、なんとかお世話になることになる。一宿一飯の恩義を返そうと懸命に生きているうちに、国の一大事に巻き込まれたり巻き込んだり。気付くと個性豊かなイケメンたちに大切に大切にされていた。
そんな乙女ゲームのようなお話。
一級魔法使いになれなかったので特級厨師になりました
しおしお
恋愛
魔法学院次席卒業のシャーリー・ドットは、
「一級魔法使いになれなかった」という理由だけで婚約破棄された。
――だが本当の理由は、ただの“うっかり”。
試験会場を間違え、隣の建物で行われていた
特級厨師試験に合格してしまったのだ。
気づけばシャーリーは、王宮からスカウトされるほどの
“超一流料理人”となり、国王の胃袋をがっちり掴む存在に。
一方、学院首席で一級魔法使いとなった
ナターシャ・キンスキーは、大活躍しているはずなのに――
「なんで料理で一番になってるのよ!?
あの女、魔法より料理の方が強くない!?」
すれ違い、逃げ回り、勘違いし続けるナターシャと、
天然すぎて誤解が絶えないシャーリー。
そんな二人が、魔王軍の襲撃、国家危機、王宮騒動を通じて、
少しずつ距離を縮めていく。
魔法で国を守る最強魔術師。
料理で国を救う特級厨師。
――これは、“敵でもライバルでもない二人”が、
ようやく互いを認め、本当の友情を築いていく物語。
すれ違いコメディ×料理魔法×ダブルヒロイン友情譚!
笑って、癒されて、最後は心が温かくなる王宮ラノベ、開幕です。
転生したら悪役令嬢だった婚約者様の溺愛に気づいたようですが、実は私も無関心でした
ハリネズミの肉球
恋愛
気づけば私は、“悪役令嬢”として断罪寸前――しかも、乙女ゲームのクライマックス目前!?
容赦ないヒロインと取り巻きたちに追いつめられ、開き直った私はこう言い放った。
「……まぁ、別に婚約者様にも未練ないし?」
ところが。
ずっと私に冷たかった“婚約者様”こと第一王子アレクシスが、まさかの豹変。
無関心だったはずの彼が、なぜか私にだけやたらと優しい。甘い。距離が近い……って、え、なにこれ、溺愛モード突入!?今さらどういうつもり!?
でも、よく考えたら――
私だって最初からアレクシスに興味なんてなかったんですけど?(ほんとに)
お互いに「どうでもいい」と思っていたはずの関係が、“転生”という非常識な出来事をきっかけに、静かに、でも確実に動き始める。
これは、すれ違いと誤解の果てに生まれる、ちょっとズレたふたりの再恋(?)物語。
じれじれで不器用な“無自覚すれ違いラブ”、ここに開幕――!
本作は、アルファポリス様、小説家になろう様、カクヨム様にて掲載させていただいております。
アイデア提供者:ゆう(YuFidi)
URL:https://note.com/yufidi88/n/n8caa44812464
《完》義弟と継母をいじめ倒したら溺愛ルートに入りました。何故に?
桐生桜月姫
恋愛
公爵令嬢たるクラウディア・ローズバードは自分の前に現れた天敵たる天才な義弟と継母を追い出すために、たくさんのクラウディアの思う最高のいじめを仕掛ける。
だが、義弟は地味にずれているクラウディアの意地悪を糧にしてどんどん賢くなり、継母は陰ながら?クラウディアをものすっごく微笑ましく眺めて溺愛してしまう。
「もう!どうしてなのよ!!」
クラウディアが気がつく頃には外堀が全て埋め尽くされ、大変なことに!?
天然混じりの大人びている?少女と、冷たい天才義弟、そして変わり者な継母の家族の行方はいかに!?
転生してモブだったから安心してたら最恐王太子に溺愛されました。
琥珀
恋愛
ある日突然小説の世界に転生した事に気づいた主人公、スレイ。
ただのモブだと安心しきって人生を満喫しようとしたら…最恐の王太子が離してくれません!!
スレイの兄は重度のシスコンで、スレイに執着するルルドは兄の友人でもあり、王太子でもある。
ヒロインを取り合う筈の物語が何故かモブの私がヒロインポジに!?
氷の様に無表情で周囲に怖がられている王太子ルルドと親しくなってきた時、小説の物語の中である事件が起こる事を思い出す。ルルドの為に必死にフラグを折りに行く主人公スレイ。
このお話は目立ちたくないモブがヒロインになるまでの物語ーーーー。
『身長185cmの私が異世界転移したら、「ちっちゃくて可愛い」って言われました!? 〜女神ルミエール様の気まぐれ〜』
透子(とおるこ)
恋愛
身長185cmの女子大生・三浦ヨウコ。
「ちっちゃくて可愛い女の子に、私もなってみたい……」
そんな密かな願望を抱えながら、今日もバイト帰りにクタクタになっていた――はずが!
突然現れたテンションMAXの女神ルミエールに「今度はこの子に決〜めた☆」と宣言され、理由もなく異世界に強制転移!?
気づけば、森の中で虫に囲まれ、何もわからずパニック状態!
けれど、そこは“3メートル超えの巨人たち”が暮らす世界で――
「なんて可憐な子なんだ……!」
……え、私が“ちっちゃくて可愛い”枠!?
これは、背が高すぎて自信が持てなかった女子大生が、異世界でまさかのモテ無双(?)!?
ちょっと変わった視点で描く、逆転系・異世界ラブコメ、ここに開幕☆
悪役令嬢が美形すぎるせいで話が進まない
陽炎氷柱
恋愛
「傾国の美女になってしまったんだが」
デブス系悪役令嬢に生まれた私は、とにかく美しい悪の華になろうとがんばった。賢くて美しい令嬢なら、だとえ断罪されてもまだ未来がある。
そう思って、前世の知識を活用してダイエットに励んだのだが。
いつの間にかパトロンが大量発生していた。
ところでヒロインさん、そんなにハンカチを強く嚙んだら歯並びが悪くなりますよ?
【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました
佐倉穂波
恋愛
転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。
確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。
(そんな……死にたくないっ!)
乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。
2023.9.3 投稿分の改稿終了。
2023.9.4 表紙を作ってみました。
2023.9.15 完結。
2023.9.23 後日談を投稿しました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる