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STS第八期開講
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しおりを挟む先程まで雛汰達がいた『room A』の並びには、同じ大きさの部屋、『room B』がある。
この二部屋は主に講習用で、今後、タチネコで分かれて講習を受ける際には別々の部屋を使用することもあるかもしれない、とのことだった。
一階にはその他にもいくつか部屋があったが、そこは雛汰達生徒が使用することは無いそうで、省略された。
この建物は五階建てで、二階と三階はメーカーの人達が使用するフロアの為、ここも雛汰達生徒が足を踏み入れることは無い。
エレベーターで四階へと上がると、トイレとシャワールームが六室ずつに、少し広めの浴室まで備えられたロッカールームに案内された。
「実技の講習がある時には、ここでバスローブに着替えたり、事前の準備をしてもらったりします。浴室とロッカールームは撮影で使うこともあるよ」
──事前準備って、アレの事だよね……。
なんとなくの予備知識しか無いけれど、レイの言う事前準備が何をさしているのかは雛汰にも分かった。
この場所でそういったことが行われていると思うと、なんだか急に生々しく感じられ、ぼんやりと脳内に浮かんできたその光景をかき消すように雛汰がブンブンと首を横に振ると、隣にいたルイにクスッと笑われてしまい、雛汰は恥ずかしくてどこかに埋まってしまいたくなった。
ロッカールームの隣にはメイクルームがあり、その隣に、実技の講習で使用する部屋がある。
普段はAVの撮影に使われているらしいそこは、真っ白な空間に観葉植物、赤いソファとガラス張りのローテーブルが映え、白い大理石調の床に敷かれたシックなラグの上には大きなビーズクッションや小さめなクッションも置かれていて、実際には室外に面していないフェイクの磨りガラス窓の外から人工的な太陽光が燦々と差し込む、まるでオシャレなデザイナーズマンションの一室のような場所だった。
そしてその部屋の中央部には大人三人は余裕で寝られそうな大きな白いベッドが設置されていて、主にこのベッドを使って実技の講習を行うらしい。
ちなみにこのフロアには他にも、男子高校生の寝室、女子高校生の寝室をイメージした少しごちゃっとした部屋やポップで可愛らしい部屋があったり、一つ上の五階には保健室や教室、オフィス、電車内をイメージした部屋、SMプレイをする部屋なんかもあるそうだ。
なんだか色々ととんでもないことを聞かされている気がするけれど、雛汰は最早それどころでは無かった。
──このベッドで、あんなことやそんなことを……。
想像力豊かな雛汰の脳内にはまたしてもいかがわしい光景が浮かんできたけれど、また首を振ってルイに笑われてしまったら恥ずかしいからとどうにか堪え、頬を赤らめるのみに留めておいた。
この部屋で見学はお終いということで、雛汰達はまたエレベーターに乗り込み一階のroom Aに戻り、リュウの案内で施設を見学していたグループと合流すると、次は親睦を深める為の三十分間の談笑タイムへと移った。
シュンは雛汰とルイ、リョウ以外の全員のことも呼び捨てしつつ、またしても自分のことはくん付けで呼ばせようとしている。
「そういや、お前らって年いくつ?」
「先に年聞かずに多分俺の方が年上だからって言ってグイグイ来れるの尊敬するよ。そういうシュンくんはいくつなの?」
「俺?俺は来年の一月で二十六」
「なんだよ、タメだしなんなら俺の方が先に生まれてるし!敬語使って損した!もうくん付けるのもやめるわ」
「え、何ルイお前タメ?」
先程の施設見学で随分と打ち解けたのか、正反対なタイプに見えるルイとシュンが率先して会話を交わしている。
「来年の一月で二十六?じゃあ俺シュンくんと生まれ年同じだわ。学年は俺が一個下だけど」
「おお、マジか!ケイだったっけ?仲良くしよーぜ」
そんな二人の会話に自然と溶け込むように入っていったのは、パーソナルトレーナーのケイだった。
彼もシュンほどではないがコミュニケーション力に長けているようだ。
「……俺よりコミュ力高い人始めて会った。おもろ。一番下はヒナちゃんかな?けどリンちゃんとユウちゃんも幼く見えるなぁ」
「……俺は今年二十四なんで多分違うっすね。ていうかちゃん付けやめてください」
「なんだよリンちゃんつれないなぁ。てか今二十三歳?俺の一個下かい」
「ボクは今二十二っす」
「マジで?俺もやねんけど」
「……オレも」
「お、おれも……!」
雛汰はこういう大人数での話の輪に自ら入っていくのが大の苦手で、それまで黙ってシュン、ルイ、ケイ、リンのやり取りを聞いていた。
しかしまさかのユウ、リョウ、マサが自分と同い年だということが判明し、勇気を出して自分も同い年だと名乗り出れば、
「ほんまか。そんならここ四人は呼び捨てでタメ口にしようや」
とリョウに笑いかけられ、
「同い年のネコの友達いなかったから嬉しい~」
とユウに両手を握られて、ああ、頑張って話に入ってみて良かった……と心の底からそう思った。
「え、てことは俺ハタチなんで俺が最年少?」
「マジか!コタ最年少か!めっちゃ大人っぽく見えんな!ていうかみんなさん付けだと堅苦しいし呼び捨てかくん付けにしねぇ?敬語もいらねぇよな?」
「マジですんごい仕切るね」
「ルイお前分かってないな。こういう場には仕切る奴が必要なんだよ」
コミュ力お化けすぎるシュンの仕切りで生徒全員の年齢が判明し、呼び方まで決まり、その後もシュンとケイが中心になって、全員が初対面とは思えないほど話が盛り上がった。
出身地の話や趣味や好きな食べ物なんていう当たり障りない話から、ここに入学した理由を改めて話したりと思い思いに会話を楽しみ、和やかな空気のまま時間が進んでいく。
今までこんな風に話せる友達がいなかった雛汰にとってはすごく新鮮で、セクシュアリティのことも気にせず話せることが嬉しくてずっとニコニコしていると、
「ヒナすごい楽しそうだねぇ?」
と、ユウが微笑みかけてきた。
「うん、こんな風に友達と話したこと無かったから今すっごく楽しい」
「そういえばヒナくん、いじめられてたって言ってたもんね……」
へにょんと眉を下げながらそう声を掛けてきたのはコタだ。
雛汰から見て唯一年下のコタは、普通にしていれば雛汰よりもずっと大人びて見えるのに、先程の自己紹介の時の人懐っこい笑顔だったり、今の眉を下げた表情だったり、色々な表情を見せてくれるのが本当に大型犬のようでなんとも愛らしくて、雛汰は思わず彼の頭をわしゃわしゃと撫で回したい衝動に駆られたのをぐっと我慢した。
「中学の時にね。おれ、チビだし中性寄りな見た目だし、言動も男らしくなかったみたいで、毎日、男のくせに、とかホモ、とか言われてたな」
「そんなん言う奴の気が知れんわ」
「リョウくんありがとう。でも、間違ってないし傷付いたりはしなかったんだ。あまりに毎日同じこと言われるのが段々面倒になって、学校には行かなくなったけど」
雛汰の話を聞いて、俺だったら同じ学校にこんな可愛い子いたらほっとけない、とか、同じ学校に通って守ってあげたかった、だとか皆が口々に言ってくれて、雛汰は、もしこの人達と同じ学校に通っていたら楽しい学生生活を送れたんだろうな……と心がポカポカすると同時に、なんだか少し切ない気持ちになった。
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