15 / 54
退屈な男
6
しおりを挟む「五分経ったので、今から始めます。タイマーが鳴ったらどれだけ盛り上がってても必ず手を止めて下さい。その後三分間のインターバルを挟んで、次のペアに交代です。では、始めて下さい」
「……ユウ、ここ座って」
未だ縮こまっているヒナくんをよそに、レイさんの合図で一組目の実技講習が始まった。
一組目は、ユウくんとマサくんペア。
ベッドに腰掛けていたリンくん達三人がパイプ椅子に移動したのと入れ替わりでベッドに腰掛けたマサくんが、ユウくんの手を引き自分の足の間に座らせた。
マサくんに背を向ける形でその足の間に座ったユウくんを、マサくんが逞しい腕で後ろから抱き締めると、何故かそうされたユウくん本人ではなく、ヒナくんの肩がまたしてもびくりと跳ね上がった。
「マサ、筋肉すごいねぇ」
「……そう……?でも、筋トレは頑張ってる」
いたって普通な感じで会話を交わしつつ、マサくんのゴツい掌はユウくんの髪を撫でたりラグランスリーブのロンTの上から身体を撫で回しているし、ユウくんは自分の身体に回されたマサくんの腕を触ってその筋肉の質感を楽しんでいるようだ。
「いいなぁ。ボク食べるの大好きで最近ちょっと太っちゃったからボクも筋トレしようかなぁ」
「……ユウはそのままでいいと思う」
……そそられる。
ユウくんの耳元で、低く囁くマサくん。
もしこれが慣れていないヒナくんだったら、そんなふうにされたらきっと顔から火が出るんじゃないかっていうぐらい真っ赤になっていただろう。
だけど相手はAV男優だ。
もう慣れてしまっているのかユウくんは少しも動じることなく、
「そっかぁ。じゃあもしマサのパートナーになれたらご飯我慢しなくていいねぇ」
と、無邪気に笑ってそう言った。
すると、ユウくんのその台詞を聞いたマサくんの目が驚いたように見開かれた後、切なそうに伏せられた。
どうしたんだろう?と気にする間も無いぐらい一瞬の表情の変化だったから、気が付いていない人も多いだろうしもしかしたら俺の見間違いかしれないけど。
でも、確かに俺にはそう見えた。
それから暫く、お互いの胸元や二の腕、首筋を撫でていたユウくんとマサくん。
最後に手を繋がせて欲しいと言うマサくんの申し出で、お互いに両手の指を絡め合い、キュッと握った瞬間、「あれ?」とユウくんが首を傾げた。
「どした?」
「なんか……前にもこんなことあった?」
「……え?オレと?」
「うん、そう、マサと」
「……いや、無いだろ。先週ここで初めて会ったのに」
「そう……かぁ、そうだよね、気の所為か」
今度はユウくんが、この状況から何かを感じたらしい。どうやら、以前にも似たような状況を経験したことがある様子だ。
だけどマサくんの言うとおり、俺達は先週ここで知り合ったばかりで会うのは二度目。
二人が昔からの知り合いだと言うのなら兎も角、今までそんな素振りは微塵も無かったし、きっとデジャヴ?と言うやつなのだろう。
「でもなぁ、う~ん……」
と、ユウくんはまだ納得いっていないようだったが、そこで丁度終了を知らせるアラームが鳴り、二人はベッドから立ち上がった。
「……ボディタッチだけって難しいな。しかもこいつ場馴れし過ぎてて全く動じない」
「え~そう?ボク結構ドキドキしてたよ?」
自分の思うように出来なかったのか、落ち着いた口調ながらも悔しそうに眉を顰めるマサくんとは対照的にユウくんは、
「急に耳元で囁くから危うくエッチな声出そうになっちゃった」
なんて言って笑っている。
見た目だけで言えば三人のネコの中で一番大人しそうなのに、やはりAV男優というだけあってなんだか少し発言が際どい。
ただ、そんな際どいことを言いながらもまださっき感じた既視感の正体が気になっているのか、彼は時折首を傾げながら、何も無い空中を見つめていた。
そうこうしているうちにあっという間に次のペアの出番がやってきた。
次のペアは、リンくん、ケイくんペアだ。
スっとパイプ椅子から立ち上がり、そのままベッドに向かって歩き出そうとするリンくんの腕をガシッと掴んだケイくん。
突然腕を掴まれて不機嫌そうに眉を顰めるリンくんを意に介することなく、彼は小柄だけど意外とガッシリした体格のリンくんの身体をひょいと抱き上げた。
「ちょ、ちょっと!」
これには流石に動揺したのか、初回からずっとボソボソ喋っていたリンくんがここに来て初めて大きな声を出した。
一方で、リンくんを動揺させることが出来たのが嬉しかったようでニヤリと口角を上げたケイくんは、リンくんの身体をそっとベッドに下ろすと、彼の頭をポンポンと優しく撫でた。
ベッドの端に腰掛けてモジモジしているリンくんが、なんだかちょっと可愛らしく見える。
この人こんな感情丸出しな表情出来るのか……と思っていたら、ケイくんも同じことを思ったのかリンくんの隣に腰を下ろすと、
「リンちゃんってそんな顔もできるんだ。一生仏頂面なのかと思った」
そう言った。
その言葉を聞いて、プイッと顔を背けてしまったリンくん。
だけどその耳は赤く染まっているから、彼はもしかしたらツンデレなのかもしれない。
「……別に、普段と大して変わんないし」
「そうかなぁ?ていうかなんでずっとぶすっとしとんの?」
「……そういうケイくんはずっと手が早そうな顔してる」
「ちょお待って?なんそれ、ヒド!」
うーわ傷ついたわーなんて、大袈裟に嘆きながらリンくんを抱き締め、そのままベッドにゴロンと横になったケイくん。
リンくんに腕枕をしている状態で肘をついて上半身だけ起こし、更に空いた方の手でリンくんのほっぺたをすりすりと撫でている。
「……こういうのとか、なんか、手慣れてる感じするし」
「んーまあ否定はせん」
「……色んな人から愛されてきたんだろ」
「……さぁ~どうかな?」
ケイくんもリンくんも顔が物凄く整っているから、美形カップルといった感じでかなり絵になっている。
だけど、なんだろう。
手慣れていると言った割にケイくんは、リンくんに触れるのをちょっと躊躇っているというか、さっきから首から上や手にしか触れていないし、その手つきも心なしかぎこちない。
「ケイくん、さぁ。俺から言うのも嫌なんだけど……その……もっと身体、触んなくていいの?」
リンくんも、ケイくんはもっとガツガツ来ると思っていたのか、怪訝そうな顔をして訊ねた。
「え?あ、あぁーまぁ、最初だしねぇ。あんまがっついてひかれんのも嫌だし。それにリンちゃんのほっぺ、めっちゃすべすべで気持ちいいからずっと触ってられるわー。嫌?」
「ふーん……?まぁ、ケイくんがいいなら、別に……」
結局その後も、リンくんがペタペタと確かめるようにケイくんの身体に触れ、『筋肉凄いっすね』という見てわかる通りの月並みな感想を述べ、ケイくんがリンくんのほっぺたや髪を撫でたり手を握ったりするだけという、あまりに拙い触れ合いだけで彼らの持ち時間は終了した。
151
あなたにおすすめの小説
番を拒み続けるΩと、執着を隠しきれないαが同じ学園で再会したら逃げ場がなくなった話 ――優等生αの過保護な束縛は恋か支配か
雪兎
BL
第二性が存在する世界。
Ωであることを隠し、平穏な学園生活を送ろうと決めていた転校生・湊。
しかし入学初日、彼の前に現れたのは――
幼い頃に「番になろう」と言ってきた幼馴染のα・蓮だった。
成績優秀、容姿端麗、生徒から絶大な信頼を集める完璧なα。
だが湊だけが知っている。
彼が異常なほど執着深いことを。
「大丈夫、全部管理してあげる」
「君が困らないようにしてるだけだよ」
座席、時間割、交友関係、体調管理。
いつの間にか整えられていく環境。
逃げ場のない距離。
番を拒みたいΩと、手放す気のないα。
これは保護か、それとも束縛か。
閉じた学園の中で、二人の関係は静かに歪み始める――。
お兄ちゃんができた!!
くものらくえん
BL
ある日お兄ちゃんができた悠は、そのかっこよさに胸を撃ち抜かれた。
お兄ちゃんは律といい、悠を過剰にかわいがる。
「悠くんはえらい子だね。」
「よしよ〜し。悠くん、いい子いい子♡」
「ふふ、かわいいね。」
律のお兄ちゃんな甘さに逃げたり、逃げられなかったりするあまあま義兄弟ラブコメ♡
「お兄ちゃん以外、見ないでね…♡」
ヤンデレ一途兄 律×人見知り純粋弟 悠の純愛ヤンデレラブ。
従僕に溺愛されて逃げられない
大の字だい
BL
〈従僕攻め×強気受け〉のラブコメ主従BL!
俺様気質で傲慢、まるで王様のような大学生・煌。
その傍らには、当然のようにリンがいる。
荷物を持ち、帰り道を誘導し、誰より自然に世話を焼く姿は、周囲から「犬みたい」と呼ばれるほど。
高校卒業間近に受けた突然の告白を、煌は「犬として立派になれば考える」とはぐらかした。
けれど大学に進学しても、リンは変わらず隣にいる。
当たり前の存在だったはずなのに、最近どうも心臓がおかしい。
居なくなると落ち着かない自分が、どうしても許せない。
さらに現れた上級生の熱烈なアプローチに、リンの嫉妬は抑えきれず――。
主従なのか、恋人なのか。
境界を越えたその先で、煌は思い知らされる。
従僕の溺愛からは、絶対に逃げられない。
借金のカタに同居したら、毎日甘く溺愛されてます
なの
BL
父親の残した借金を背負い、掛け持ちバイトで食いつなぐ毎日。
そんな俺の前に現れたのは──御曹司の男。
「借金は俺が肩代わりする。その代わり、今日からお前は俺のものだ」
脅すように言ってきたくせに、実際はやたらと優しいし、甘すぎる……!
高級スイーツを買ってきたり、風邪をひけば看病してくれたり、これって本当に借金返済のはずだったよな!?
借金から始まる強制同居は、いつしか恋へと変わっていく──。
冷酷な御曹司 × 借金持ち庶民の同居生活は、溺愛だらけで逃げ場なし!?
短編小説です。サクッと読んでいただけると嬉しいです。
冤罪で堕とされた最強騎士、狂信的な男たちに包囲される
マンスーン
BL
王国最強の聖騎士団長から一転、冤罪で生存率0%の懲罰部隊へと叩き落とされたレオン。
泥にまみれてもなお気高く、圧倒的な強さを振るう彼に、狂った執着を抱く男たちが集結する。
身代わりにされた少年は、冷徹騎士に溺愛される
秋津むぎ
BL
第13回BL大賞奨励賞頂きました!
最終17位でした!応援ありがとうございます!
あらすじ
魔力がなく、義母達に疎まれながらも必死に生きる少年アシェ。
ある日、義兄が騎士団長ヴァルドの徽章を盗んだ罪をアシェに押し付け、身代わりにされてしまう。
死を覚悟した彼の姿を見て、冷徹な騎士ヴァルドは――?
傷ついた少年と騎士の、温かい溺愛物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる