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退屈な男
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しおりを挟む「こ、こた……」
俺に運ばれながら不安そうにこちらを見上げ、舌足らずな口調で名前を呼んでくるヒナくんに、加虐心と庇護欲が同時に湧き上がってくる。
それでもやっぱり怖がらせたくないという気持ちの方が強くて、ヒナくんをベッドに座らせてから自分も隣に腰を下ろし、小さくて丸い頭をよしよしと撫でた。
「ルイくん達の見ちゃったあとだと、不安?」
「……ごめん、おれ、あの、ほんとに慣れてなくて……ルイくん達みたいなのをいつか自分も……って思ったら、びびっちゃって……」
辛うじて聞き取れるぐらいの小さな声で、
「年上なのに頼りなくてごめんね」
と謝ってくるヒナくんがなんともいじらしくて、堪らない気持ちになる。
本当はここで漢らしく振舞ってギャップを見せつけたいところだったけど、きっと今は怖がらせてしまって逆効果だろうと思い、やっぱりもう少しだけ、弟キャラを続ける事にした。
「大丈夫だよ、俺も他の人達みたいに慣れてる訳じゃないし。俺達は俺達のペースでやろう?」
そう優しく声を掛けると、ヒナくんは感動してくれたのか、今にもまた泣き出しそうな顔でこちらを見上げてきた。
その表情はすごく可愛いけど、折角の決意が揺らぐから勘弁して欲しい。
俺はなるべくヒナくんの顔を見なくて済むように考えた結果、膝枕をしてもらうことにした。
「ねぇヒナくん、膝枕してくれる?」
「膝枕……うん、それならおれにも出来そう」
俺に膝枕をする為に足を揃えて座り直してくれたヒナくんの太ももに、ゆっくりと頭を乗せて横になる。
男の太ももなんて皆一様に硬いものだと思っていたのに、彼のそこはもちもちとした弾力があってとても寝心地が良い。
しかもあったかくて良い匂いがして、リョウくんやルイくんみたいな積極的な触れ合いが出来なくても俺はこれで十分満足だった。
さっきまでと立場が逆転して、今度はヒナくんのふわふわとした柔らかい手が俺の頭を優しく撫でてくれている。
まさに天国。
「あー……俺、ずっとこのままでいたい」
「うーん、それは流石に足痺れるから無理かなぁ」
「……だよね、残念」
「けど、コタにならまたいつでも膝枕してあげる」
「ほんと?いいの?」
「もちろん。なんか不思議とコタだけは甘やかしたくなるんだよね」
「そうなの?それって俺が特別ってこと?嬉しい!」
『コタだけ』、と言ってもらえたことが嬉しくて思わず目の前の薄い腹に抱きつき頬擦りすると、恐らく驚かせてしまったんだろう。ヒナくんの身体が一瞬硬直したものの、すぐにまた優しく頭を撫でる手の動きが再開された。
「急に抱きついてごめん。びっくりしたよね」
「ううん、大丈夫。おれのほうこそ、みんなみたいにちゃんと出来なくてごめんね」
「なんで謝んの。全然そんなことないよ。むしろ今俺めちゃくちゃ幸せだよ?」
「ふふっ、ありがとう。コタは優しいなぁ。……けど、ほんとにおれも頑張って慣れなきゃいけないんだよね。おれが、頑張るって、約束したから……」
「……え?約束?」
「……あ、ごめん、なんでもない。忘れて」
それまでただただ穏やかで優しい時間が流れていたのが、突然ヒナくんの声に緊張の色が含まれたかと思えば、彼の口から零れた『約束』という言葉がどうにも気になって聞き返す。
だけどそれはどうやら口にするつもりの無かった台詞をうっかり口にしてしまっただけだったようで、本当はあまり聞かれたくなかったのか誤魔化されてしまったので、俺もそれ以上は詮索しないことにした。
と、そこで十五分経過を知らせるアラームが鳴った。
俺の幸せな時間はこれにて終了、天国から現実世界へと帰還しなきゃならない。
ヒナくんに膝枕ありがとうと言って身体を起こし、乱れた髪を手櫛で軽く整えてから、皆と一緒に一階へと戻る。
本来は実技の講習終了後に、講師の二人からのアドバイス等が書かれた紙を各々受け取り、次回の講習の流れを聞いて終了だそうだが、今回は初回でただ慣れるだけのボディタッチだったこともあり特にアドバイス等は無く、次回の流れだけ聞いて終了となった。
次回の実技講習では、キスまで進む。
俺は今回ヒナくんと組んだから次回ヒナくんとキスをすることは出来ないけど、また今度ヒナくんとペアになれる時には今度こそ俺の漢らしい一面も見せたいし、それまでに少しでもテクニックを身に着けてヒナくんのあんな姿やこんな姿を……と、帰り支度を終えてこちらに手を振るヒナくんに笑顔で手を振り返しながら、とても本人には言えないような妄想を脳内で繰り広げた。
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