みのる的童話集

みのる

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人魚王子

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昔むかし、あるところに人魚だけの王国がございました。
人魚達は仲間だけで海で生息しており、自分達の住んでいる『海』以外の世界に憧れを抱いておりました。


『今日は一体、この青い海の上で何が見られるのだろう?』

人魚王子もそんな仲間達と同じで、毎日毎日ひとり沖に泳いで出てみては「海の上の世界」に思いを馳せるのです。


すると………

『あれは………何?』

海の上のはるか向こうからなにか得体の知れぬ物体が、波に揺られてこちらに近づいて来るではありませんか。

すると空模様がだんだんと怪しくなり、いつの間にか無数の水滴が海面を叩きつけてくるまでになったのです。


"大変だ!!「なにか」が海に沈んでゆく!"

海上を航海していたのが『人間』のあやつる"大型船"であり、それが荒れ狂う雨風により転覆してしまったことには……
人魚王子は気づくハズもなく。

ただ、「非常事態」である事は人魚の世界でも同じであり、人魚王子は海に投げ出された自分達と同じような姿をしたモノの救出に無我夢中になりました。


海岸へと「それ」の漂着に成功した人魚王子は、改めてその姿をその目に焼き付けるのです。

"なんて……"


『………ん……………』

『人間』が微かに呻いて目を開いたその瞬間、人魚王子の瞳と『人間』の視線が合わさったのです。


「……………キミが………僕を助けてくれたの………?」

人魚王子には『人間』が何と言葉を発したのか理解出来なかったのでした。

『人間』と同じ言葉を話す事が出来たならば………


"そうだ、あの方ならば……きっとどうにかしてくれるに違いない"

ふとそう脳裏を掠めた姿の主を求めて、人魚王子は無言で海の中へと消えていきました。


"ただ、あなたを助けたのは私です"
その事実を伝えたくて………

人魚王子はその時、海に投げ出された人間に「恋」をしてしまったのです。



『人魚王子、オレに用とは一体何だ?』

『………お願いがございます………兄上。私は人間の言葉を話せるようになりたいのです。』

兄であり魔法使いでもあるその人魚は自分の深い海の色のような髪をかきあげながら言いました。

『………ほう、お前がオレに頼みとは……
ならばそれ相応の「報酬」も無論用意してきたのだろうな?』 

兄は意味ありげにニヤリと微笑わらうと、人魚王子を見下ろしました。

『……報酬…………?』

若干の不気味さを感じ取りながら、人魚王子は固唾を飲むのです。



『あっ!!………あ…にうえ………ッッッ!?なにを…………っ』

剥き出しの王子の濃桃の突先を、兄が指先で撫で回して捏ねくります。
血の繋がったモノからのまさかの行為に面食らいながらも、王子の口から零れる吐息。

『その身をオレに差し出すのが報酬内容だ。………別に嫌では無いのだろう?』

王子に返答の与える隙も無く、今度はその唇が王子のそれの動きを封じます。兄のざらついた舌が王子の意識を徐々に翻弄してゆくのです。

『…………っ………はァ………ッ!……』



ーこうしてー
人魚王子はせっかく手に入れた人の言葉をあの時の人間に伝える事も出来ずに、兄に弄ばれながら生涯を終えることとなったのでした。

                            (おしまい)

※なんか煮え切らない末路………

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