29 / 37
29話 干し草OL、証拠提出でフロアが静止。送ったメールが修羅場を招きました。
しおりを挟む
──
件名:池園絵梨花さんの異動に関するご報告
池園専務取締役 御中
はじめまして。購買部外注課の綾坂花と申します。
突然のご連絡、失礼いたします。ご多忙のところ恐縮ではございますが、本件についてご一読いただけますと幸いです。
現在、私は池園絵梨花さんより日常的にモラルハラスメントを受けております。詳細につきましては、下記フォルダーに記録をまとめておりますので、ご確認をお願い申し上げます。
【証拠資料フォルダ】(※リンクをここに記載)
本件につきましては、現時点で人事労政課および労働組合への正式な申し立ては行っておりませんが、当該社員には一定の責任を取っていただく必要があると判断し、配置転換の措置が取られる運びとなりましたことをご報告申し上げます。
何卒、適切なご対応を賜りますようお願い申し上げます。
敬具
購買部 外注課
綾坂 花
──
……はい、送信っと。膨大なギガバイト、丸ごとお届けです。
『花、勝負に出たわねぇ』
『もし専務が火消しに走るなら……徹底的に戦うまでです』
『ふふっ、ずいぶん頼もしくなったじゃない』
──自分でもそう思う。
ほんの少し前まで、こんな日が来るなんて想像すらできなかった。でも、今の私にはララ様がいる。そう、すべては彼女のおかげだ。
課の業務だって、押しつけられたおかげで全部把握してるし、正直、誰よりも仕事できるって自信ある。
見た目も──きっと今は、ララ様の面影を受け継いだ美しさがある(……はず)。
まあ、まだ人見知りなところは残ってるけど、それでも、最近は周りがちゃんと優しく接してくれるようになった。
つまり──
私は、自信を手に入れたのだ。
「先輩、お昼一緒にどうですか?」
「……あ、そうね。えーと……」
「綾坂さーん、みんなで食堂行きましょー!」
「なるほど、食堂ね」
──うん、これが普通なんだよね。
いつも屋上でひとり寂しくサンドウィッチを頬張ってた私が異常だったんだ。今日からは、ちゃんと〝仲間〟と一緒にランチ。たったそれだけのことなのに、じわっと感動してしまう。
にぎやかなテーブルで笑い声に混じりながら、昼食を終え、満たされた気持ちでデスクに戻る。さっそくメールチェック……。
──専務からの返信、なし。
ふむ。メールの開封状況は見られないけど、予定表を見る限り、手が空いてる時間もあるっぽいし……内容には目を通してる、と思いたい。いや、きっと読んだはず。悩んでるのかもしれない。……うん、そういうことにしておこう。
──と、そんな時だった。
「うああああっ!!」
突然、フロアに響き渡る大きな叫び声!
な、なに!?火事!?事故!?
……いや違う。慌てて課長が廊下側の扉へ走っていった。
「こ、これはっ……い、いかがなさいましたか!?専務!?」
……え?
えええええっっ!?
そこには、血相を変えて仁王立ちしている──
まさかの、池園専務ご本人!!直々の神降臨!!!
えっ……乗り込んできた!?マジで!?メールの返信どころじゃなかった!?
「うむ……綾坂さんって、誰だ?」
や、やばい……完全に〝ピンポイント爆撃〟じゃないですか……!
どうしよう、どうすればいいの!?今なら逃げられ……いや、だめ。逃げちゃだめだ……!
全力で勇気を振り絞りながら、おそるおそる手を挙げた。
「は、はい……綾坂花は私です」
フロアが、時間ごとフリーズする。
そこへ、場違いなくらいハイテンションな声が割って入った。
「御父様ーんっ!」
「絵梨花!こっちへ来なさい」
「はーい!うふふっ」
専務にべったり甘える絵梨花。その横顔は〝可愛い娘〟モード全開なのに、私に向ける視線だけ、完全に鬼。地獄の業火レベルでギラッギラ。
……ま、負ける気はしないけどね。
この顔、録画して共有フォルダに保存したいレベルだわ。
「御父様~~!この娘が、わたくしを脅すのですぅ~~!」
「……うむ。綾坂さんとやら」
「はい」
「メール、確認したぞ」
ふふん。と、絵梨花は勝ち誇った顔で鼻が天に刺さりそう。ちなみにお局さまは神妙な面持ちでガチ固まり。いやもう、課内全員が息を呑んで静止画化してた。完全に公開処刑モード突入。
万事休す。絶体絶命。孤立無援。八方塞がり。刀折れ、矢尽き、BGMに*「涙のダウンロード」が流れそうなレベル。
──と思った、その時だった。
「……愚女がやったことは、間違いない」
「えっ……お、御父様?」
「申し訳なかった!!」
……え?
謝罪!?逆転!?ドラマの最終回!?
なんと専務、自ら娘の非を認め、深々と頭を下げたのだ。
「おい、お前もしっかり謝らんかっ!この大馬鹿者がぁぁ!!」
バッチィィィン!!!
「ひぃぃっっ!!」
……まさかのビンタ炸裂!しかも人前で!いや今の時代それやったらコンプラ案件ですよ!?でも実の娘にだからって、容赦なさすぎませんか専務!?
「ほら!綾坂さんに謝れ、絵梨花っ!」
「あぁぁ、ご、ごめんな……うっう、うえぇぇ~ん!」
「泣くな!ちゃんと謝れ!」
「だってぇぇぇぇ、ひっく……」
「お前が悪いんだろうがっ!許してほしかったら謝れっ!」
「ご、ごめんなしゃいぃぃ~~……あやさかさぁぁん……わたくしが……わるうございましたぁぁ……ひっく……ゆるしてくださぁぁいぃぃ~~!!」
鼻水ズルズル、涙でファンデ溶解、アイライン流れてホラー仕様──
まさかの床に突っ伏しての大号泣土下座モード。ていうか、子供か!
「綾坂さん。本当に申し訳なかった。娘は私が責任を持って引き取る。もう二度とこの部署には近づけさせん。それで……許してもらえないか?」
「は、はい。元よりそのつもりでございました。専務、しっかりケジメをつけてくださり……ありがとうございました」
ふと横を見ると──
後輩男子、手持ちのビデオカメラをばっちり構えて録画中。
……え、いつの間に!?
まさか泣き顔狙い!?
ナイスです、IT担当。
その映像、絶対一生モノの宝になる。
*
『涙のダウンロード』
作詞・作曲:綾坂花
サーバーの奥に 忍ばせた
恋と恨みの ZIPファイル
「証拠を添えて」 そっと送信
返事も来ぬまま 昼休み
ひとり食べたの 塩むすび
……涙の味よ LANケーブルにしみてゆく
(サビ)
嗚呼(ああ) 涙のダウンロード
容量超えても 止まらない
嗚呼(ああ) 涙のダウンロード
電波(でんぱ)の彼方へ 流れてく
既読がついても 返信(へんじ)なし
クラウド越しの 無言(しじま)がつらい
件名:池園絵梨花さんの異動に関するご報告
池園専務取締役 御中
はじめまして。購買部外注課の綾坂花と申します。
突然のご連絡、失礼いたします。ご多忙のところ恐縮ではございますが、本件についてご一読いただけますと幸いです。
現在、私は池園絵梨花さんより日常的にモラルハラスメントを受けております。詳細につきましては、下記フォルダーに記録をまとめておりますので、ご確認をお願い申し上げます。
【証拠資料フォルダ】(※リンクをここに記載)
本件につきましては、現時点で人事労政課および労働組合への正式な申し立ては行っておりませんが、当該社員には一定の責任を取っていただく必要があると判断し、配置転換の措置が取られる運びとなりましたことをご報告申し上げます。
何卒、適切なご対応を賜りますようお願い申し上げます。
敬具
購買部 外注課
綾坂 花
──
……はい、送信っと。膨大なギガバイト、丸ごとお届けです。
『花、勝負に出たわねぇ』
『もし専務が火消しに走るなら……徹底的に戦うまでです』
『ふふっ、ずいぶん頼もしくなったじゃない』
──自分でもそう思う。
ほんの少し前まで、こんな日が来るなんて想像すらできなかった。でも、今の私にはララ様がいる。そう、すべては彼女のおかげだ。
課の業務だって、押しつけられたおかげで全部把握してるし、正直、誰よりも仕事できるって自信ある。
見た目も──きっと今は、ララ様の面影を受け継いだ美しさがある(……はず)。
まあ、まだ人見知りなところは残ってるけど、それでも、最近は周りがちゃんと優しく接してくれるようになった。
つまり──
私は、自信を手に入れたのだ。
「先輩、お昼一緒にどうですか?」
「……あ、そうね。えーと……」
「綾坂さーん、みんなで食堂行きましょー!」
「なるほど、食堂ね」
──うん、これが普通なんだよね。
いつも屋上でひとり寂しくサンドウィッチを頬張ってた私が異常だったんだ。今日からは、ちゃんと〝仲間〟と一緒にランチ。たったそれだけのことなのに、じわっと感動してしまう。
にぎやかなテーブルで笑い声に混じりながら、昼食を終え、満たされた気持ちでデスクに戻る。さっそくメールチェック……。
──専務からの返信、なし。
ふむ。メールの開封状況は見られないけど、予定表を見る限り、手が空いてる時間もあるっぽいし……内容には目を通してる、と思いたい。いや、きっと読んだはず。悩んでるのかもしれない。……うん、そういうことにしておこう。
──と、そんな時だった。
「うああああっ!!」
突然、フロアに響き渡る大きな叫び声!
な、なに!?火事!?事故!?
……いや違う。慌てて課長が廊下側の扉へ走っていった。
「こ、これはっ……い、いかがなさいましたか!?専務!?」
……え?
えええええっっ!?
そこには、血相を変えて仁王立ちしている──
まさかの、池園専務ご本人!!直々の神降臨!!!
えっ……乗り込んできた!?マジで!?メールの返信どころじゃなかった!?
「うむ……綾坂さんって、誰だ?」
や、やばい……完全に〝ピンポイント爆撃〟じゃないですか……!
どうしよう、どうすればいいの!?今なら逃げられ……いや、だめ。逃げちゃだめだ……!
全力で勇気を振り絞りながら、おそるおそる手を挙げた。
「は、はい……綾坂花は私です」
フロアが、時間ごとフリーズする。
そこへ、場違いなくらいハイテンションな声が割って入った。
「御父様ーんっ!」
「絵梨花!こっちへ来なさい」
「はーい!うふふっ」
専務にべったり甘える絵梨花。その横顔は〝可愛い娘〟モード全開なのに、私に向ける視線だけ、完全に鬼。地獄の業火レベルでギラッギラ。
……ま、負ける気はしないけどね。
この顔、録画して共有フォルダに保存したいレベルだわ。
「御父様~~!この娘が、わたくしを脅すのですぅ~~!」
「……うむ。綾坂さんとやら」
「はい」
「メール、確認したぞ」
ふふん。と、絵梨花は勝ち誇った顔で鼻が天に刺さりそう。ちなみにお局さまは神妙な面持ちでガチ固まり。いやもう、課内全員が息を呑んで静止画化してた。完全に公開処刑モード突入。
万事休す。絶体絶命。孤立無援。八方塞がり。刀折れ、矢尽き、BGMに*「涙のダウンロード」が流れそうなレベル。
──と思った、その時だった。
「……愚女がやったことは、間違いない」
「えっ……お、御父様?」
「申し訳なかった!!」
……え?
謝罪!?逆転!?ドラマの最終回!?
なんと専務、自ら娘の非を認め、深々と頭を下げたのだ。
「おい、お前もしっかり謝らんかっ!この大馬鹿者がぁぁ!!」
バッチィィィン!!!
「ひぃぃっっ!!」
……まさかのビンタ炸裂!しかも人前で!いや今の時代それやったらコンプラ案件ですよ!?でも実の娘にだからって、容赦なさすぎませんか専務!?
「ほら!綾坂さんに謝れ、絵梨花っ!」
「あぁぁ、ご、ごめんな……うっう、うえぇぇ~ん!」
「泣くな!ちゃんと謝れ!」
「だってぇぇぇぇ、ひっく……」
「お前が悪いんだろうがっ!許してほしかったら謝れっ!」
「ご、ごめんなしゃいぃぃ~~……あやさかさぁぁん……わたくしが……わるうございましたぁぁ……ひっく……ゆるしてくださぁぁいぃぃ~~!!」
鼻水ズルズル、涙でファンデ溶解、アイライン流れてホラー仕様──
まさかの床に突っ伏しての大号泣土下座モード。ていうか、子供か!
「綾坂さん。本当に申し訳なかった。娘は私が責任を持って引き取る。もう二度とこの部署には近づけさせん。それで……許してもらえないか?」
「は、はい。元よりそのつもりでございました。専務、しっかりケジメをつけてくださり……ありがとうございました」
ふと横を見ると──
後輩男子、手持ちのビデオカメラをばっちり構えて録画中。
……え、いつの間に!?
まさか泣き顔狙い!?
ナイスです、IT担当。
その映像、絶対一生モノの宝になる。
*
『涙のダウンロード』
作詞・作曲:綾坂花
サーバーの奥に 忍ばせた
恋と恨みの ZIPファイル
「証拠を添えて」 そっと送信
返事も来ぬまま 昼休み
ひとり食べたの 塩むすび
……涙の味よ LANケーブルにしみてゆく
(サビ)
嗚呼(ああ) 涙のダウンロード
容量超えても 止まらない
嗚呼(ああ) 涙のダウンロード
電波(でんぱ)の彼方へ 流れてく
既読がついても 返信(へんじ)なし
クラウド越しの 無言(しじま)がつらい
0
あなたにおすすめの小説
サレ妻の娘なので、母の敵にざまぁします
二階堂まりい
大衆娯楽
大衆娯楽部門最高記録1位!
※この物語はフィクションです
流行のサレ妻ものを眺めていて、私ならどうする? と思ったので、短編でしたためてみました。
当方未婚なので、妻目線ではなく娘目線で失礼します。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
【完結】使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます
腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった!
私が死ぬまでには完結させます。
追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。
追記2:ひとまず完結しました!
ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話
桜井正宗
青春
――結婚しています!
それは二人だけの秘密。
高校二年の遙と遥は結婚した。
近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。
キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。
ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。
*結婚要素あり
*ヤンデレ要素あり
夫から『お前を愛することはない』と言われたので、お返しついでに彼のお友達をお招きした結果。
古森真朝
ファンタジー
「クラリッサ・ベル・グレイヴィア伯爵令嬢、あらかじめ言っておく。
俺がお前を愛することは、この先決してない。期待など一切するな!」
新婚初日、花嫁に真っ向から言い放った新郎アドルフ。それに対して、クラリッサが返したのは――
※ぬるいですがホラー要素があります。苦手な方はご注意ください。
お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます
菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。
嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。
「居なくていいなら、出ていこう」
この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる