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30話 むむむむりですよ!人殺しなんて!

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あれから絵梨花は姿を現さなくなった。やはり御父様の出向先である子会社に異動したようだ。そしてお局も数日後、付属病院に行くことが決まった。希望部署は全て不採用だったけど、病院から事務の緊急募集があり、直ぐに採用されたらしい。

そんなお局が最後の出社で私に挨拶してきた。

「あ、綾坂さん、今から異動するね。これまで本当にすいませんでした」
「は……はい。お元気で」
「あの、翔くんのこと、よろしくお願いします」

ん?えっと、よろしくって言われてもね。つか保護者ですか、あなた?

確かに私は毎週彼のマンションに出入りして一見恋人っぽいけど実はまだまだなのです。何とか進展させたいのは山々ですが……

そう言おうとした。でも彼女はダンボール抱えて早々フロアから去って行こうとする。そんなお局を後ろから見送るしかなかった。

『花、これでモラハラは解決したわねー』
『はい。今後はコミュ症を克服しながら頑張っていきます。ララ様、ご指導ありがとうございました』

心の底からそう思う。

よくぞ私に宿ってくれた。この偶然に感謝しなければね!

『まぁ確かに凄い偶然よねぇ。だって見つけちゃったもん』

えっ……?

『最初の出会い、覚えてる?わたくし、お店で太客に殺されたって言ったわよね?』

そ、そうだった。思い出した。ララ様はその犯人を見つけ出し、復讐するために私に宿ったのだ。

『本当ですか?因みにどなたでしょうか?』
『驚かないでね。“門前真照”、ここの部長さんよ』
『は、はぁ?じ、冗談はよしてください!』

何言ってるんです?あの御方が風俗狂いで殺人犯だなんて人違いもいいところだ。

『間違いない。でも時間がないわ。彼は逃亡するつもりで海外出向を志願したの。花、復讐よ!』

い、いやいや、そんな奇想天外な話って。

『落ち着いてください。証拠はありますか?』
『彼はわたくしの名刺を持ってるはず。あと、もしかしたら携帯もね』
『それだけでは……ん、確かにララ様の携帯持ってたら怪しいな』

だけど聞いて素直に認めるとは思えないし、名刺や携帯などの証拠品は処分してるに違いない。

『彼を問い詰めるわよ』
『ララ様、仮に部長が犯人だとしたらどうしますか?わ、私、殺人とか出来ませんよ!むむむむりですよ!人殺しなんて!』
『うふふ。最初はそのつもりで憑依したけど、途中から気が変わったわ。大好きな綾坂花を犯罪者にしたくないからねー』

では?

『とにかく、彼と面談するしかない。自白させて自首してくれればそれでいいの』

う、うーむ。部長にお時間頂くのは何とかするとして、問題は証拠も薄い中でどうお話を詰めればいいのかな?

『あの、そもそも何で殺されたのです?』

ララ様のことは深く知らない。ご実家が茶道の家元で何故か風俗嬢を生業にしていたくらいだ。面談する上であらましを知っておかないとお話にならない。それに、尊敬する部長が殺人犯とはどうしても思えないのだ。

『そうね。詳しく話しする時が来たわねぇ』

ララ様には助けて頂いた恩がある。今度は私が力になりたい。どういう結果であろうと必ず解決してみせましょうとも!




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