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第4部 カント決戦編

第56話 援軍!南に集うならず者!

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 中庭・ソウソウ陣営~

「ソンサクが臨時生徒会室を直接襲撃するだと?」

 ソンサクによる宣戦布告は早速、ソウソウの知るところとなった。

 傍らに侍る男装の女軍師・カクカが更にソウソウに述べる。

「ソウソウ様、ソンサクはエンショウに素直に従うような奴ではありませんし、東校舎から生徒会室を直接狙うには距離があります。

 おそらくこれは陽動、その真の狙いは…」

「東校舎の真北、文芸部か」

「はい、ソウソウ様。

 おそらくソンサクの目的は選挙戦に決着がつく前に、少しでも勢力を広げ、来年の選挙戦を少しでも有利にしようという気では?」

 ソウソウの本拠地である臨時生徒会室より優先度は劣るとはいえ、リュービより取り戻した文芸部を再び失うわけにはいかない。

 更に言えば中央校舎の東端にある文芸部が陥落すれば、エンショウが寝返り工作を仕掛けている東南部も連鎖的に陥落しかねない。

 判断を誤ればソウソウ領の東半分を失う危険もある状況である。

「文芸部か。ゾウハやトウショウ達は第一渡り廊下でエンショウに備えているし、今、防衛にいるのはチントウのみか。

 東方面担当のカコウエンたちは東南部の反乱にかかりきりで動かせん。

 西方面担当のカコウトンを派遣するか。いや、西側を手薄にはできんか。ダメだ、援軍が捻出できない」

「ソウソウ様、軍は送れなくても、一人なら送れます。

 ソンサクは短期間で東校舎を平定しましたが、その分、敵も多く作りました。

 このカクカが赴き、彼らをけしかけてソンサクの戦力を削ぎましょう」

「カクカ…今君に抜けられると辛いところだが…」

「ソウソウ様、いくら困窮した状況であろうとも、手助けできないのを、仕方がないの一言で納得できるのはあなた様お一人です。

 無視すれば必ず後の災いになります」

「そうだな、ここは頼む」

「交渉が済めばすぐ戻りますよ」

「それともう一人、派遣しよう。

 ソンサクが次の選挙を考えているなら私も考えるべきだろう。

 文芸部と東校舎の間に新たな防衛拠点をこれより築かせよう。そして、その仕事は生徒会執行部よりリュウフクを向かわせよう」

 ソウソウは早速、生徒会を任せているジュンイクに連絡を送り、リュウフクの派遣を手配させた。

「カクカ・リュウフク、私が今対ソンサクに送れる援軍はお前たち二人のみだ。すまないが頼むぞ」

「お任せください」



 中庭・エンショウ陣営~

「ソンサクがようやく動きましたわ。

 エンジュツ残党に寝返り組、これで中央校舎の東南部は壊滅状態ね」

 本陣中央に座す薄紫のウェーブのかかった長い髪のこの陣営の女当主・エンショウが、傍らにいる黒髪の女生徒・ソジュの方に向き直った。

「百点とは言えませんが、なかなかよい策でした、ソジュ。

 あなたを指揮官に復帰させます。前軍に加わりなさい」

「ありがとうございます」

 ソジュが一礼して下がると、エンショウは再び真正面に向き直る。

「次、リュービ」

 エンショウに呼ばれた俺は、前に進み出る。後方に回された俺だったが、前線に呼び出され、ここにいる。一体、何を言われるのか。エンショウがその口を開く。

「あなた結婚してましたの?」

「へ?そ、そんなわけないじゃないですか!

 俺まだ高校生ですよ!」

「それもそうよね…

 あなたの妻を名乗るリューヘキって娘から、あなたを援軍に寄越すなら、私についてソウソウを背後から襲撃すると連絡がきましたの」

 リューヘキ?急いで思い返してみるが、その名に覚えはない。

「すみませんが、リューヘキという名に心当たりはないです」

「ふーん、まあいいわ。

 あなたに再び部隊を一つ与えます。この申し出が真実なら協力してソウソウを攻めなさい。もし罠ならそれを潰しなさい。それがあなたを指揮官に復帰させる条件よ」

「わかりました」

 難しい仕事を任された。知らない相手が俺の妻を名乗り、協力するという。罠としか思えないが、ソウソウにしてはまどろっこしい作戦だ。相手も意図も全く検討もつかない。

 とにかく行ってみるしか確かめる術はないようだ。



 中央校舎・南部~

 俺は謎の援軍を求めて、中央校舎の南部までやって来た。ソウソウ領を横断する形となったが、東南部が思った以上にエンショウに寝返っており、移動は割りと楽であった。

 確かにこの形勢なら素直にエンショウへの寝返り組である可能性が高い。

 だが、それなら何故俺を指名したのだろうか?

 「止まれ!何者だ!」

「俺はリュービ、リューヘキに招かれてここに来た。リューヘキに会わせて欲しい」

 「リュービさんでしたか、お通りください。

 おっと、通すのはリュービさん一人だ。部下はここで待機してもらおう」

「わかった。では、案内してくれ」

 門番の男は荒っぽい雰囲気だが、俺には丁寧な対応をしてくれる。本当に何者なんだ、リューヘキって?

「おお、婿殿、よく来られた。ささ、姉御がお待ちですぜ。どうぞどうぞ」

 続いて無精髭を生やした大柄な男が俺を案内してくれた。婿殿?姉御?なんだか猛烈に嫌な予感がしてきた…

 屈強そうな男たちの間を通り、奥の間にたどり着くと、そこには金髪ロングに、ピンクの特攻服、胸にサラシを巻いた女生徒が立っていた。
  
「よく来たリュービ!我が夫よ!

 アタイの名前は流尾璧子ながれお・たまこ、通称、リューヘキ!あんたの妻よ!」


 その顔を見て俺は頭を抱えた。

「な…

 何やってんだ、チョウホウ!」

「おや、バレちゃったか。愛の力だねぇ」

「見ればわかるよ。ということはここの連中も…」

「へい、リュービの旦那。お察しの通りです」

 周りにいた男たちは一斉に黄色いバンダナを頭に巻いていった。

 間違いない。かつてこの後漢学園を暴れ回った黄巾党と、そのボスであったチョウカクの妹・チョウホウだ…

「チョウホウ、なんでこんなややこしいことしてんだよ」

「いやね、姉さんは今、ソウソウのところにいるし、黄巾党も何人も世話になってるからな。その妹が堂々とリュービの味方するわけにいかなかったのさ。

 まあ、将来的には同じ苗字になるんだから問題ないだろ。これからはリューヘキって呼んでくれ」

 協力してくれるのはありがたいが、なんか無茶苦茶なこと言ってるぞ…

「いや、チョウホウ…」

「リューヘキ!」

 チョウホウ…いや、リューヘキは俺を睨み付けながら怒鳴った。

「わかったよ、リューヘキ」

 案内してくれた無精髭の大柄な男が俺のもとにやってくる。

「俺の名はキョウト。ここの副将をやっとります。姉御の旦那となれば、我らの兄貴も同然。リュービの旦那と呼ばしていただきやす」

 そう言って彼は右手を差し出した。

 呼ばしていただきやすと言われても困るのだが、仕方がないので俺は彼と握手をした。

「よし、みんな!リュービの旦那を盛り上げて行くぞ!」

「おー!」

 周囲の黄巾党の男たちが一斉に声をあげる。団結力はあるようだ。

「旦那と呼ばれても困るんだが…そういえば、ここにいる黄巾党はみんな、ソウソウのところから来たのか?」

 俺の疑問にリューヘキが答える。

「何人かソウソウのところからのもいるけど、大多数は違うな。

 黄巾党は続けるけど、ソウソウにはつきたくないって連中を集めてきた。おかげで時間かかっちゃって悪いね」

 そう言うとリューヘキは舌を出しながら微笑んだ。

「ソウソウは規則厳しいしな。一芸でもありゃ出世もできるが、暴れることしか能のない奴には堅っ苦しいだけさ」

 周囲の黄巾党の男たちが口々に不満を述べた。

「そうか、居心地は悪いか…」

 そうだ、ここにいる者たちはソウソウに馴染めなかった者たちなんだ。ソウソウと戦おうという俺がここの皆を受け入れられなくてどうする。

「さぁ、お前たち!エンショウからの援軍も来たし、ソウソウを倒すよ!」

「おー!」

 リューヘキの声に呼応して、黄巾党の面々のときの声が辺りに轟いた。



 中庭・ソウソウ陣営~

「リュービがリューヘキと南部で挙兵だと?

 リューヘキ…なんか似たような名前の奴を昔倒したような…別人か?」

 リュービ・リューヘキの挙兵の報はすぐさまソウソウの耳に届いた。

 そしてその一報は麾下きかの武将にも届けられた。武将・ソウジンはこの報告を聞くやいなやソウソウの本陣を訪れた。

「ソウソウ、俺に一軍を預けてくれ。俺がリュービを討つ」

「ソウジン、リュービは一筋縄ではいかん相手だぞ」

「だからこそ、今のうちに討たねばならん。

 奴の兵はエンショウの借り物、黄巾の残党とも合流したばかりで連携が取れない。今しか好機はない。それに…」

「カンウが偵察に出てるうちに決着をつけるということか…」

「カンウが知れば、必ず自身が討伐に赴くことを望む。カンウが行けばリュービ討伐を躊躇ためらうかもしれない。

 討つなら今しかない」

「あまりカンウに対して誠意のある対応とは言えんがな…」

「ソウソウ、もし、カンウに任せてリュービについたらどうする?

 エンショウとリュービに挟まれることになるぞ。お前が遠慮しているような余裕はないだろ」

 リュービの挙兵を放置することはソウソウには出来なかった。北部にエンショウ、東部にソンサク、東南部に寝返り組を抱えた今、南部にリュービ勢力が出来れば、ソウソウは包囲されてしまう。更に南校舎のリュウヒョウとの連携も想定しなければならない。潰せるなら早いに越したことはない。

「そうだな…我らが潰されては元も子もない。

 ソウジン、お前に任せる。速やかにリュービを討伐せよ」

「任せておけ!」
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