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第5部 赤壁大戦編
第64話 新顔!ソウソウの群臣!
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季節は巡って春…
選挙戦は終わり、ソウソウが生徒会長に就任し、俺たちは学園生活を送り、無事に二年生に進級した。
「アニキ、どうしたんだぜ?浮かない顔して」
朝の登校、お団子ヘアーの小柄な女生徒、義妹・チョーヒが、俺の元気の無さそうな様子を見て話しかけてきた。
「いやぁ、去年の選挙戦では結局、領土も失って、リュウヒョウさんのお世話になっちゃったからな。
こんなんで今年度は大丈夫かなと」
「何言ってんだぜアニキ!
領土は失ってもオレたちがいるだろ!」
チョーヒは笑いながら俺の背中をバンッと叩いた。
痛がる俺の後ろから、長く美しい黒髪の女生徒、もう一人の義妹・カンウが俺に優しく話しかけてくる。
「そうです兄さん。去年の選挙戦開始時は私たちだけだったのに今では多くの人が兄さんについてきています。
去年の活動は無駄ではありませんでしたよ。
…何人か不純な気持ちで兄さんについてきているのが気になりますが」
「はは…そうだな、今多くの人が俺についてきてくれている、その気持ちに応えないとな。
今度の選挙戦でソウソウを倒す!」
「ははは、威勢がいいな、リュービ」
「ソウソウ!」
俺の前に突然現れたのは、赤みがかった長い黒髪、それと同じ色の眼に白い肌、相変わらずの胸元を大きく開いた服に、ヘソ出し、ミニスカート、現生徒会長にして俺の宿敵・ソウソウだ。
「リュービ、そう身構えるな。
今は選挙期間じゃない。お互い休戦といこうじゃないか」
「それはそうだが…」
宿敵と言ってもそれは選挙戦での話。元々は仲が悪いわけではない。むしろ…
「ふふ、私もお前に邪険にされるのは寂しい。
もう対立は止め、お前も生徒会に入らないか?しかるべきポストを用意するぞ」
ソウソウは俺の肩に手を置き、そう耳もとで囁いた。
「ソウソウ!アニキに近づき過ぎだぞ!」
チョーヒが凄い剣幕で俺とソウソウを引き離す。
「私とリュービの仲だ、固いこと言うなよ」
どういう仲だよとツッコミそうになるが、確かにむしろ仲は良かった。
選挙戦がなければ親しく友人として付き合えていたかもしれない。もしかしたらそれ以上の進展だって…
だが、それとソウソウ陣営に加わるかどうかは別の問題だ。
「ソウソウ、悪いけど俺は君の生徒会には入らない。
俺についてきてくれた仲間を裏切るような真似はできない」
「そうか…」
ソウソウは寂しそうにそう返した。
しかし、その表情はすぐに変わった。
「だが、リュービよ、本気で私を倒したいのなら、ゆっくりと構えていては間に合わんぞ!」
ソウソウはすぐに元気を取り戻すと、彼女の周りに数人の見覚えのない顔が集まり出した。
「紹介しよう!
我がソウソウ陣営の新鋭たちを!
まずは新入生のリューヨー!」
長い黒髪を一結びにし、メガネをかけた、長身の、着物に袴姿の女生徒が一礼をした。
「竜宝曄子、リューヨーと申します」
「あれ、竜宝?
確か学園長の苗字も竜宝だったな」
「リューキョー学園長の遠縁にあたりますが、縁故採用というわけではないので、あまり色眼鏡で見ないでいただけると助かります」
「リューヨーは、人物鑑定に定評のあるキョショウ先輩より、世を佐ける才能があると評された人物だ。
次はショーセイ!」
薄茶色の長い髪に、制服の上から白衣を羽織った女生徒が少しぶっきらぼうな様子で返す。
「私は蒋済通子だ。よろしく」
「ショーセイは知略に優れた硬骨漢だ。
そしてカキ!」
次に出てきたのは男子生徒だ。頭にバンダナを巻いているが、青いから黄巾党ではなさそうだ。色黒で背の高い人だ。
「夏逵良道、カキだ」
「カキは幼い頃から兵法を初め、多くの知識を学んできた男だ」
なんか紹介された三人とも、俺が敵ということもあるだろうが、愛想が全くないな。
まあ、愛想とかで評価しないところもソウソウっぽいと言える。
「そして最後はシバイだ!」
・・・・・・
しかし、名前を呼ばれても誰も前に出る気配がない。
「ソウソウ、誰もいないようなんだが」
「コホン、今日は非番だったようだ」
ソウソウは後ろにいる背が高く、がっしりとした体格だが、体格に似合わず色白の、メガネをかけた男子生徒に小声で話しかけた。
「シバロウ…お前の妹に声をかけるように言ってたはずだが?」
「すみません、ソウソウ会長。
妹は気難しい性格で、なかなかすんなりとは従ってはくれませんで…」
「まあ、いい。
来ないなら今度私が直接迎えにいこう。
ジュンイク、サイエン、ヨウシュンら、人物鑑定に長けた者たちが口をそろえて聡明で決断力があると讃える娘だ。
必ず我が陣営に加えるぞ」
うーん、なんかハプニングがあったようだが、そのシバイという娘もおそらく優秀な生徒なんだろう。
「久しぶりだな、リュービ君」
考え事をしていると、ソウソウの取り巻きの一人が俺に話しかけてきた。
その声をかけてきた恰幅の良い、広い額と長い眉の男子生徒には見覚えがある。
「あなたはコウユウ先輩!」
「誰だぜ?」
「失礼ですよ、チョーヒ。
環境委員長のコウユウ先輩です。以前、黄巾党に包囲されていたのを、私たちとタイシジさんで助けたことがあったでしょう」
「あー、タイシジと初めて会った時か。
あったんだぜ、そんなことも」
「コウユウ先輩、お久しぶりです。
先輩は今、ソウソウのところにいるのですか?」
「ああ、ソウソウ君が臨時生徒会を運営している頃に招かれてな。
今では生徒会を運営する長官に任じられているよ」
この学園の生徒会には、生徒会三役(書記・会計・広報)の下に、九つの長官職があり、これらの職は生徒会の幹部として扱われていた。
今のコウユウはその長官に任命された一人であった。
「まあ、彼女にも私を用いる見識ぐらいはあったということだが…」
コウユウ先輩はなぜか途中で言い淀んだ。
「リュービ君、それでも私は君のことを無二の友人だと思っている。
だから、教えておくが、もう少しで…」
「コウユウ!」
コウユウ先輩が言葉を続けるより先に、ソウソウの声が辺りに響いた。
「余計なことはしないでもらおう。
それは私の役目だ」
ソウソウに叱責され、コウユウはすごすごと戻っていった。
改めてソウソウは俺に向き直って、再び話し始めた。
「リュービよ、もう次の選挙戦は始まっているんだぞ。
私は既に見所のある新入生には声をかけ、生徒会に招いている。
うかうかしてたら新入生は全員私が頂いてしまうぞ」
「そうか、なるほど。
支援者集めなら今からでもすることができるのか」
「リュービ、私に勝ちたいのなら支持者を早く集めておけ。
案外、その時は早く訪れるかも知れんぞ」
「え?
その時ってまさか…」
「ははは、じゃあな、リュービ。また会おう」
ソウソウは仲間を引き連れてその場を颯爽と去っていった。
「ソウソウ会長、なぜ、敵であるリュービに塩を送るような真似を?」
リュービ三兄妹のもとを去ったソウソウに、着物姿の新入生・リューヨーが尋ねる。
「リュービは、このソウソウのライバルになり得る男だ。
ライバルというのは負けても悔しいが、あっさり勝っても寂しいものなのだよ」
「そういうものなのですか?」
「心の隅にでも留めておけ。
お前か、ショーセイか、カキか、あるいはシバイか、いつかライバルが出来るかもしれんからな」
「うーん、新入生を探すと言っても難しいな。部活の勧誘じゃないし。
他の人はどうしてるんだろうか」
ソウソウは言うだけ言って去ってしまったが、今から新入生を入れるなんて難しい。
部活や委員会じゃあるまいし、ましてや俺たちは弱小勢力だからな。
他に誰か参考になる人いないだろうか…
「リュービ、久しぶりじゃね!」
「ソンサク!」
次に俺たちに声をかけてきたのは、ツインテールの結び目に大きめのリボンを2つつけ、三日月の髪飾りに、ミニスカート、ブーツの細身の女の子、今や東校舎最大の勢力となった小覇王・ソンサクだ。
「久しぶりだね、ソンサク。
ん、君の隣にいる子は誰?」
ソンサクの隣には、小柄で細身、赤紫の髪に太陽の髪飾りをつけ、顔に少年のようなあどけなさを残す男の子が立っていた。
「はじめましてリュービさん!
僕はコーレン。ソンサク姉さんの弟です!」
「ああ、この子は私の弟で呉孫権仲、通称、チュー坊じゃね」
姉・ソンサクが弟君の名前を訂正する。
「ちょっと姉さん!
やめてよ、チュー坊なんてダサい名前!」
「でもソンケンじゃと兄者とかぶるし。
ソンチューとかにする?」
「チュー坊もソンチューもダサい名前嫌だよ。
だから僕の事はコーレンって呼んでよ!」
「そっちの方が嫌じゃ、
だいたいコーレンって変な名前なんね?」
「コーレンは僕のハンドルネームさ。
やっぱり今時の呼び名はカッコ可愛いものじゃないとね」
「わかったんよ、チュー坊」
「姉さん!コーレンだって!」
うーん、話はまとまったんだろうか?
とりあえず、このソンサクの弟君のことはチュー坊と呼べばいいのだろうか?
一段落ついたところで、姉・ソンサクが俺の方に向き直る。
「ところでリュービ、どうせ頼るんなら、うちのところに来れば良かったのに。
なんでよりによってリュウヒョウのとこなんかに行くんよ」
ソンサクが寂しそうな、怨めしそうな顔でこちらに詰めよってくる。
東校舎のソンサクと今俺がお世話になっている南校舎のリュウヒョウとはお隣同士。
武勇で名を上げてきたソンサクは軍事活動による勢力拡大を選挙活動の中心に据えており、多くの近隣勢力を戦いで打ち破ってきた。
ソンサクは勢力拡大のため、隣にあるリュウヒョウ領にたびたび侵攻しており、二人の仲は険悪であった。
「カントでの戦いに決着がついた時には俺たちも切羽詰まってて、そこからソンサクの陣営まで遠くて、行く余裕がなかったんだよ」
ソウソウがカントでエンショウを破った時、俺たちは中央校舎の南側で戦っていた。
そこから南校舎はすぐ近くであったが、ソンサクのいる東校舎まではソウソウ領を横断するか、リュウヒョウ領を飛び越えないとたどり着けない。
「じゃったら今からでもうちに来なよ。
歓迎するんよ」
ソンサクはなおも強引に俺を勧誘してくる。
「ちょっと、ソンサクさん!
兄さんに近づきすぎですよ!」
「ありがとうソンサク、でもリュウヒョウさんにはお世話になってるから、流石にそんな不義理は出来ないよ」
「そっか…じゃあ、うちに遊びに来ない?
そのくらいだったらいいじゃろ?」
ソンサクが俺を誘うと、そこにもう一人、女生徒が近付いてくる。
「あらあら、ソンサクさん。
“うちの”リュービさんを勧誘するのは止めていただけないかしら」
薄い水色の三つ編みのおさげ、アンダーリムの眼鏡、長めのスカート、少しおっとりした雰囲気の女生徒、南校舎の主・リュウヒョウと、側近のスーツ姿の男子生徒・サイボウが俺とソンサクの元にやってきた。
「リュウヒョウ先輩、うちは友人としてリュービに遊びに来いと言ってるだけじゃ。
別に勧誘とかじゃないし」
「まあまあ、二人とも落ち着いて…」
「リュービ、君はどちらの味方なんだ」
サイボウが俺を睨みつける。
「リュービさん、友人はもっと選んだ方がよろしいですわよ」
「それはどういう意味じゃ!」
「まあまあ、ソンサク抑えて…」
「この二人本当に仲悪いんだぜ」
「対立はあくまで選挙戦での話かと思いましたが、普通に相性が悪そうですね」
カンウ、チョーヒが後ろでひそひそと話し合っている。
うーん、あまり二人の対立を煽りたくはないが、今のソンサク陣営にどんな人がいるのかは気になる。
「リュウヒョウさん、すみませんが、少しソンサクのところに遊びに行きます」
「リュービ!そうこなくっちゃ!」
「あらあら、仕方ありませんね。
リュービさん、後でうちの部室にも顔を出すのですよ」
リュウヒョウは少し不快そうな表情を示したが、すぐに普段の穏やかな表情に戻ると、不服そうなサイボウを伴って南校舎の方へ歩いていった。
選挙戦は終わり、ソウソウが生徒会長に就任し、俺たちは学園生活を送り、無事に二年生に進級した。
「アニキ、どうしたんだぜ?浮かない顔して」
朝の登校、お団子ヘアーの小柄な女生徒、義妹・チョーヒが、俺の元気の無さそうな様子を見て話しかけてきた。
「いやぁ、去年の選挙戦では結局、領土も失って、リュウヒョウさんのお世話になっちゃったからな。
こんなんで今年度は大丈夫かなと」
「何言ってんだぜアニキ!
領土は失ってもオレたちがいるだろ!」
チョーヒは笑いながら俺の背中をバンッと叩いた。
痛がる俺の後ろから、長く美しい黒髪の女生徒、もう一人の義妹・カンウが俺に優しく話しかけてくる。
「そうです兄さん。去年の選挙戦開始時は私たちだけだったのに今では多くの人が兄さんについてきています。
去年の活動は無駄ではありませんでしたよ。
…何人か不純な気持ちで兄さんについてきているのが気になりますが」
「はは…そうだな、今多くの人が俺についてきてくれている、その気持ちに応えないとな。
今度の選挙戦でソウソウを倒す!」
「ははは、威勢がいいな、リュービ」
「ソウソウ!」
俺の前に突然現れたのは、赤みがかった長い黒髪、それと同じ色の眼に白い肌、相変わらずの胸元を大きく開いた服に、ヘソ出し、ミニスカート、現生徒会長にして俺の宿敵・ソウソウだ。
「リュービ、そう身構えるな。
今は選挙期間じゃない。お互い休戦といこうじゃないか」
「それはそうだが…」
宿敵と言ってもそれは選挙戦での話。元々は仲が悪いわけではない。むしろ…
「ふふ、私もお前に邪険にされるのは寂しい。
もう対立は止め、お前も生徒会に入らないか?しかるべきポストを用意するぞ」
ソウソウは俺の肩に手を置き、そう耳もとで囁いた。
「ソウソウ!アニキに近づき過ぎだぞ!」
チョーヒが凄い剣幕で俺とソウソウを引き離す。
「私とリュービの仲だ、固いこと言うなよ」
どういう仲だよとツッコミそうになるが、確かにむしろ仲は良かった。
選挙戦がなければ親しく友人として付き合えていたかもしれない。もしかしたらそれ以上の進展だって…
だが、それとソウソウ陣営に加わるかどうかは別の問題だ。
「ソウソウ、悪いけど俺は君の生徒会には入らない。
俺についてきてくれた仲間を裏切るような真似はできない」
「そうか…」
ソウソウは寂しそうにそう返した。
しかし、その表情はすぐに変わった。
「だが、リュービよ、本気で私を倒したいのなら、ゆっくりと構えていては間に合わんぞ!」
ソウソウはすぐに元気を取り戻すと、彼女の周りに数人の見覚えのない顔が集まり出した。
「紹介しよう!
我がソウソウ陣営の新鋭たちを!
まずは新入生のリューヨー!」
長い黒髪を一結びにし、メガネをかけた、長身の、着物に袴姿の女生徒が一礼をした。
「竜宝曄子、リューヨーと申します」
「あれ、竜宝?
確か学園長の苗字も竜宝だったな」
「リューキョー学園長の遠縁にあたりますが、縁故採用というわけではないので、あまり色眼鏡で見ないでいただけると助かります」
「リューヨーは、人物鑑定に定評のあるキョショウ先輩より、世を佐ける才能があると評された人物だ。
次はショーセイ!」
薄茶色の長い髪に、制服の上から白衣を羽織った女生徒が少しぶっきらぼうな様子で返す。
「私は蒋済通子だ。よろしく」
「ショーセイは知略に優れた硬骨漢だ。
そしてカキ!」
次に出てきたのは男子生徒だ。頭にバンダナを巻いているが、青いから黄巾党ではなさそうだ。色黒で背の高い人だ。
「夏逵良道、カキだ」
「カキは幼い頃から兵法を初め、多くの知識を学んできた男だ」
なんか紹介された三人とも、俺が敵ということもあるだろうが、愛想が全くないな。
まあ、愛想とかで評価しないところもソウソウっぽいと言える。
「そして最後はシバイだ!」
・・・・・・
しかし、名前を呼ばれても誰も前に出る気配がない。
「ソウソウ、誰もいないようなんだが」
「コホン、今日は非番だったようだ」
ソウソウは後ろにいる背が高く、がっしりとした体格だが、体格に似合わず色白の、メガネをかけた男子生徒に小声で話しかけた。
「シバロウ…お前の妹に声をかけるように言ってたはずだが?」
「すみません、ソウソウ会長。
妹は気難しい性格で、なかなかすんなりとは従ってはくれませんで…」
「まあ、いい。
来ないなら今度私が直接迎えにいこう。
ジュンイク、サイエン、ヨウシュンら、人物鑑定に長けた者たちが口をそろえて聡明で決断力があると讃える娘だ。
必ず我が陣営に加えるぞ」
うーん、なんかハプニングがあったようだが、そのシバイという娘もおそらく優秀な生徒なんだろう。
「久しぶりだな、リュービ君」
考え事をしていると、ソウソウの取り巻きの一人が俺に話しかけてきた。
その声をかけてきた恰幅の良い、広い額と長い眉の男子生徒には見覚えがある。
「あなたはコウユウ先輩!」
「誰だぜ?」
「失礼ですよ、チョーヒ。
環境委員長のコウユウ先輩です。以前、黄巾党に包囲されていたのを、私たちとタイシジさんで助けたことがあったでしょう」
「あー、タイシジと初めて会った時か。
あったんだぜ、そんなことも」
「コウユウ先輩、お久しぶりです。
先輩は今、ソウソウのところにいるのですか?」
「ああ、ソウソウ君が臨時生徒会を運営している頃に招かれてな。
今では生徒会を運営する長官に任じられているよ」
この学園の生徒会には、生徒会三役(書記・会計・広報)の下に、九つの長官職があり、これらの職は生徒会の幹部として扱われていた。
今のコウユウはその長官に任命された一人であった。
「まあ、彼女にも私を用いる見識ぐらいはあったということだが…」
コウユウ先輩はなぜか途中で言い淀んだ。
「リュービ君、それでも私は君のことを無二の友人だと思っている。
だから、教えておくが、もう少しで…」
「コウユウ!」
コウユウ先輩が言葉を続けるより先に、ソウソウの声が辺りに響いた。
「余計なことはしないでもらおう。
それは私の役目だ」
ソウソウに叱責され、コウユウはすごすごと戻っていった。
改めてソウソウは俺に向き直って、再び話し始めた。
「リュービよ、もう次の選挙戦は始まっているんだぞ。
私は既に見所のある新入生には声をかけ、生徒会に招いている。
うかうかしてたら新入生は全員私が頂いてしまうぞ」
「そうか、なるほど。
支援者集めなら今からでもすることができるのか」
「リュービ、私に勝ちたいのなら支持者を早く集めておけ。
案外、その時は早く訪れるかも知れんぞ」
「え?
その時ってまさか…」
「ははは、じゃあな、リュービ。また会おう」
ソウソウは仲間を引き連れてその場を颯爽と去っていった。
「ソウソウ会長、なぜ、敵であるリュービに塩を送るような真似を?」
リュービ三兄妹のもとを去ったソウソウに、着物姿の新入生・リューヨーが尋ねる。
「リュービは、このソウソウのライバルになり得る男だ。
ライバルというのは負けても悔しいが、あっさり勝っても寂しいものなのだよ」
「そういうものなのですか?」
「心の隅にでも留めておけ。
お前か、ショーセイか、カキか、あるいはシバイか、いつかライバルが出来るかもしれんからな」
「うーん、新入生を探すと言っても難しいな。部活の勧誘じゃないし。
他の人はどうしてるんだろうか」
ソウソウは言うだけ言って去ってしまったが、今から新入生を入れるなんて難しい。
部活や委員会じゃあるまいし、ましてや俺たちは弱小勢力だからな。
他に誰か参考になる人いないだろうか…
「リュービ、久しぶりじゃね!」
「ソンサク!」
次に俺たちに声をかけてきたのは、ツインテールの結び目に大きめのリボンを2つつけ、三日月の髪飾りに、ミニスカート、ブーツの細身の女の子、今や東校舎最大の勢力となった小覇王・ソンサクだ。
「久しぶりだね、ソンサク。
ん、君の隣にいる子は誰?」
ソンサクの隣には、小柄で細身、赤紫の髪に太陽の髪飾りをつけ、顔に少年のようなあどけなさを残す男の子が立っていた。
「はじめましてリュービさん!
僕はコーレン。ソンサク姉さんの弟です!」
「ああ、この子は私の弟で呉孫権仲、通称、チュー坊じゃね」
姉・ソンサクが弟君の名前を訂正する。
「ちょっと姉さん!
やめてよ、チュー坊なんてダサい名前!」
「でもソンケンじゃと兄者とかぶるし。
ソンチューとかにする?」
「チュー坊もソンチューもダサい名前嫌だよ。
だから僕の事はコーレンって呼んでよ!」
「そっちの方が嫌じゃ、
だいたいコーレンって変な名前なんね?」
「コーレンは僕のハンドルネームさ。
やっぱり今時の呼び名はカッコ可愛いものじゃないとね」
「わかったんよ、チュー坊」
「姉さん!コーレンだって!」
うーん、話はまとまったんだろうか?
とりあえず、このソンサクの弟君のことはチュー坊と呼べばいいのだろうか?
一段落ついたところで、姉・ソンサクが俺の方に向き直る。
「ところでリュービ、どうせ頼るんなら、うちのところに来れば良かったのに。
なんでよりによってリュウヒョウのとこなんかに行くんよ」
ソンサクが寂しそうな、怨めしそうな顔でこちらに詰めよってくる。
東校舎のソンサクと今俺がお世話になっている南校舎のリュウヒョウとはお隣同士。
武勇で名を上げてきたソンサクは軍事活動による勢力拡大を選挙活動の中心に据えており、多くの近隣勢力を戦いで打ち破ってきた。
ソンサクは勢力拡大のため、隣にあるリュウヒョウ領にたびたび侵攻しており、二人の仲は険悪であった。
「カントでの戦いに決着がついた時には俺たちも切羽詰まってて、そこからソンサクの陣営まで遠くて、行く余裕がなかったんだよ」
ソウソウがカントでエンショウを破った時、俺たちは中央校舎の南側で戦っていた。
そこから南校舎はすぐ近くであったが、ソンサクのいる東校舎まではソウソウ領を横断するか、リュウヒョウ領を飛び越えないとたどり着けない。
「じゃったら今からでもうちに来なよ。
歓迎するんよ」
ソンサクはなおも強引に俺を勧誘してくる。
「ちょっと、ソンサクさん!
兄さんに近づきすぎですよ!」
「ありがとうソンサク、でもリュウヒョウさんにはお世話になってるから、流石にそんな不義理は出来ないよ」
「そっか…じゃあ、うちに遊びに来ない?
そのくらいだったらいいじゃろ?」
ソンサクが俺を誘うと、そこにもう一人、女生徒が近付いてくる。
「あらあら、ソンサクさん。
“うちの”リュービさんを勧誘するのは止めていただけないかしら」
薄い水色の三つ編みのおさげ、アンダーリムの眼鏡、長めのスカート、少しおっとりした雰囲気の女生徒、南校舎の主・リュウヒョウと、側近のスーツ姿の男子生徒・サイボウが俺とソンサクの元にやってきた。
「リュウヒョウ先輩、うちは友人としてリュービに遊びに来いと言ってるだけじゃ。
別に勧誘とかじゃないし」
「まあまあ、二人とも落ち着いて…」
「リュービ、君はどちらの味方なんだ」
サイボウが俺を睨みつける。
「リュービさん、友人はもっと選んだ方がよろしいですわよ」
「それはどういう意味じゃ!」
「まあまあ、ソンサク抑えて…」
「この二人本当に仲悪いんだぜ」
「対立はあくまで選挙戦での話かと思いましたが、普通に相性が悪そうですね」
カンウ、チョーヒが後ろでひそひそと話し合っている。
うーん、あまり二人の対立を煽りたくはないが、今のソンサク陣営にどんな人がいるのかは気になる。
「リュウヒョウさん、すみませんが、少しソンサクのところに遊びに行きます」
「リュービ!そうこなくっちゃ!」
「あらあら、仕方ありませんね。
リュービさん、後でうちの部室にも顔を出すのですよ」
リュウヒョウは少し不快そうな表情を示したが、すぐに普段の穏やかな表情に戻ると、不服そうなサイボウを伴って南校舎の方へ歩いていった。
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