学園戦記三国志~リュービ、二人の美少女と義兄妹の契りを結び、学園において英雄にならんとす 正史風味~

トベ・イツキ

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第6部 西校舎攻略編

第112話 勇士!疾風のカコウエン!

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 反乱者、チンラン・バイセイの立てもる教室に、チョーリョーはたった一人、突撃して行き、残されたチョーコー・シュガイらは、チョーリョーの無事を祈りつつ、敵が籠城ろうじょうする教室を包囲していた。

「待ってくれー!」

 そんな絶叫が包囲する教室からとどろくと、先ほどまで騒がしかった教室は、シンと静まり返った。

 不気味なほどに静まり返った教室から、しばらくして二人の男を背負った男が悠然ゆうぜんと戻ってきた。

 それはまぎれもなく単騎で突撃したチョーリョーであった。

「待たせたな。

 敵の大将二人を討ち取ったぞ」

 そう言いながらチョーリョーは背負っていた二人の男、反乱の首謀者、チンラン・バイセイを投げ渡した。

 その二人を受け取りながら、チョーコー・シュガイの二人はチョーリョーに駆け寄ってくる。

「大丈夫でしたか、チョーリョー将軍」

「ああ、この二人を討ち取ったら、残された兵士たちは素直に降伏してくれたぞ」

 チョーコーはチンランらの兵士を捕虜にするよう指示を出しながら、帰ってきたチョーリョーをねぎらった。

「さすがだな、チョーリョー。

 天下無双とはあなたのことだ」

「いや、まだまだだ。まだ、カンウ・チョーヒには遠く及ばん。

 ましてや、かつてのリョフ殿にはとても…」

「あなたはそう謙遜けんそんするが、実力はとっくに人知を超えているよ。

 胸を張って良い」

 一方、チンラン・バイセイの反乱が討伐されたのとほぼ同時刻、彼らへの援軍として派遣されたソンケン配下のカントウ軍であったが、ソウソウ軍の守将・ゾウハに行く手をはばまれ、合流すること叶わず撤退した。

 これによりチンラン・バイセイの反乱は一段落を迎え、ゾウハはチョーリョーらに合流し、戦後処理へと移った。

「ゾウハ、久しぶりだな」

「おお、チョーリョー、久々っすね!」

 チョーリョーに対して軽快に返すのは、オールバックの髪型に、アゴヒゲ、右耳にピアス、十字のネックレス、腰からチェーンを垂らした男子生徒・ゾウハ。

 見た目は不良じみてはいるが、長らくソウソウ陣営の東側の防衛を一手に引き受け、防衛指揮官として高い評価を受けている人物である。

 彼は元々は文芸部の防衛のための傭兵ようへいを務めていた。その文芸部の部長に一時期、リョフが就任したことがあった。当時、リョフの配下であったチョーリョーとはその頃から親交があり、共にリョフ敗北後、ソウソウ配下となった仲であった。(※三章参照)



「そういえば、ゾウハ。

 君はこの度、文芸部の部長に就任したそうだな。おめでとう」

 そんなゾウハであったが、何の因果いんがかその文芸部の部長に就任した。その就任は、チョーリョーにしてみれば素直な祝い事であったが、ゾウハにとっては重荷でしかなく、苦い顔で返した。

「勘弁して欲しいっすよ。

 俺は文芸部の部長なんてガラじゃないんすよ。

 順当ならチントウがやるはずなのに、あいつが断りやがるもんだから…」

 ゾウハはヤレヤレといった様子で手をヒラヒラとさせるが、チョーリョーは至って真面目な口調でそれに返す。

 チントウとその兄・チンケイの二人は文芸部を実質運営している有力な部員であった。兄・チンケイは既に卒業しているので、チントウが部長に就任するのが順当と言えた。(※三章・四章参照)

「しかし、それでも君が選ばれたのは、それだけソウソウ会長から信頼されているということであろう」

「そうっすかねぇ」

 文芸部は中央校舎の東部に位置し、かつてはエンショウ、今はソンケンの境界付近にあり、場所の関係上、防衛の重要拠点であった。

 今ではソンケンとの境界には別の防衛拠点が設けられ、最前線でこそなくなったが、それでもソンケンが東部進出を狙っているため、依然としていつ戦場になるかわからない場所である。

 そのために、文芸部の部長は文芸部部員の間だけでは決めることを許されず、ソウソウの独断によって決められていた。

 最有力候補の部員・チントウが部長職を断ったのもあるが、それでもソウソウの信頼無くしては選ばれぬ地位であった。

「でも実は俺の前に部長候補は他にいたんすよ」

「チントウ以外にか、誰だ?」

 他に誰がいるのかとチョーリョーはたずねる。

「バチョウ、って奴っすよ」

 ゾウハの口から出た“バチョウ”という名。

 その名は、かつて文芸部にいたチョーリョーの記憶をさかのぼっても出てこない名であった。

「バチョウ?

 そんな奴文芸部にいたか、一年生か?」

 チョーリョーが文芸部にいたのは去年の一時期のみ。知っている部員はそう多くないが、それでも、ソウソウから部長を任せられるほどの人物が、全くの無名というのもおかしな話だと、彼は首をかしげた。

「一年生は一年生っすけど、文芸部の部員じゃないっす。

 元西涼せいりょう組っすよ、あのバトウの妹っす」

 西涼せいりょう高校は今年の頭に、この学園に吸収合併された学校である。その時に西涼せいりょう高校の生徒会長・バトウはソウソウの生徒会の所属となっていた。

「バトウの妹か。確かにやたら腕の立つ妹がいるという話は聞いたことがあるな。

 しかし、西涼せいりょう組は西北校舎にまとめられているはずだろう。

 東部の文芸部では位置が真反対、学園の東端と西端ではないか」

「それがソウソウ会長の狙いっすよ。

 兄のバトウは生徒会に取り込めたっすけど、その元軍勢は妹のバチョウが引き継いで、まだ西北に留まってんす。

 だから、遠く離れた文芸部の部長にして、その軍勢と切り離そうと考えたみたいっす。

 さらに将来的には生徒会の一員にするという条件まで出したんすけど、結局、バチョウは応じなかったみたいっす。

 で、俺に部長の話が回ってきたっす」

「そうか、応じなかったか。

 西北校舎では不穏な空気が流れていると聞くが、バチョウもその中に含まれているということか。

 噂が確かなら相当強いそうだが、厄介な敵にならなければいいがな」

「しかも、バチョウって娘はハーフで相当な美人だそうで、できれば部長になって欲しかったっすね~」

「のんきな奴だな…」



 中央校舎・南部~

 チョーリョーらがチンラン・バイセイ討伐をひとまず終えた頃、同じ中央校舎の南側では、指揮官・カコウエンが残された反乱者・ライショを追い詰めていた。

「さあ、お前たち、敵は既に本拠地を失ったわ!

 もう一押しよ!」

合点がってんです、カコウエンのあねさん!」

 戦場にカコウエンの闊達かったつな声がひびき、それに兵士たちが呼応する。

 茶色いショートヘアーに、すらりとした長い足、黒いジャケットに、ジーパン姿のその女生徒は、ソウソウ十傑衆の一人・“疾風しっぷうのカコウエン”。



 その快活かいかつさと気風きっぷの良さから、あねさんと呼ばれ、部下からも慕われていた。

 そして、その二つ名の“疾風しっぷう”に恥じぬ早業はやわざで、敵が出撃した間隙かんげきを突き、あっという間に敵拠点を陥落かんらくさせ、ライショをあと一歩まで追い詰めていた。

「チンラン・バイセイも討たれたか…

 もはや、我らに帰るべき場所はない」

 巨漢の男・ライショは観念したかのように虚空こくうを見つめていた。

 同盟者であったチンラン・バイセイも既に討伐され、拠点となる教室も失い、勢力としては風前のともしびといえる状況であった。

「兄ちゃん、まだ諦めるのは早いぞ!」

 そうライショに元気よく声をかけるのは、ライショとは対照的に小柄で褐色肌の女生徒であった。
 
「同盟者のリュービさんから連絡があったぞ。

 援軍を出すのは難しいが、南校舎まで来れば受け入れてくれるってさ!

 兄ちゃん、今はリュービさんのところまで逃げて、再起を計ろうよ」

「妹よ…そうだな」

 褐色肌の妹の言葉に、ライショはしばし黙って考え込んだ。

「よし、決めたぞ!

 お前たち、我らは部隊を二つに分ける。

 二年生、一年生の生徒は妹に従い、リュービの陣営を目指せ!

 三年は我とともにカコウエンと一戦を交えるぞ!

 二年、一年が逃げる時間を稼ぐのだ!」

「兄ちゃん!それじゃ兄ちゃんたちが!」

「何、無駄死にしようと言うわけではない。

 時間を稼いだら我らもすぐに追いかけるさ。

 それに、お前たちの部隊も、ただ逃げるのが仕事ではない。

 我らがリュービ陣営に赴くまでには、南校舎のソウソウ領を通過しなければならない。

 お前たちにはそこへの道を切りひらいてもらう!

 それがお前たちの役目だ!」

「うう…わかったよ、兄ちゃん。

 じゃあ、我らは南校舎を目指すよ!」

「頼むぞ、妹よ」

 ライショは振り返ると、分けた三年生の生徒たちに向かって大声で呼びかけた。

「行くぞ、お前たち!

 敵はカコウエン!」

 ライショの掛け声に合わせ、三年生の部隊は意気盛んに声を上げた。それは振りしぼった空元気からげんきではあったが、傍目はためには戦意高揚せんいこうようした部隊にも見えた。

「カコウエン将軍、ライショの部隊が動き出しました!

 敵の士気は高いようです!」

 その報告に、カコウエンはいささかも狼狽うろたえることなく、黒いジャケットを羽織り直し、そのスラリと伸びた長い手で、報告に来た兵士を静かに制止した。

「落ち着きなさい。

 所詮しょせん、見掛け倒しでしょう」

 カコウエンは機敏きびんで一つの無駄もない動きで颯爽さっそうと飛び出し、うごめくライショの部隊を望見した。

「ふむ、少々兵が少ないようね…

 勝手に逃亡したのか、それとも伏兵か…」

如何いかが致しますか?

 周囲を探しますか?」

「ライショの居場所ははっきりしているの?」

「はい、目の前の部隊にいるのは確実です」

「ならば、周囲に伏兵がいないか警戒しなさい。

 ですが、逃亡兵なら見逃しなさい」

「よろしいのですか?」

「ええ、武士の情けというものよ」

 カコウエンは数人の斥候せっこうを出し、周囲に敵がひそんでいないことを確認すると、ライショ討伐に立ち上がった。

「さあ、お前たち!

 ライショに引導を渡しに行くわよ!」

 カコウエンの掛け声に合わせ、部下からはあねさんを慕う声が方方ほうぼうから上がっている。

 ライショの空元気からげんきとは違い、こちらの部隊は士気旺盛しきおうせいである。

 盛んな士気そのままに、カコウエンのキビキビした動きに合わせて、部隊の兵士たちも即座に行動に移す。

 カコウエンの動きはまさに二つ名の“疾風しっぷう”にたがわぬ速さだが、何もこの二つ名は彼女一人のものではない。カコウエンの率いる部隊もまた“疾風しっぷう”の二つ名にかなった実力を持っていた。

 カコウエンの疾風しっぷう行軍ぎょうぐんに付き従い、電光石火でんこうせっか早業はやわざでライショの迎撃げいげき体制が整う前に包囲を開始した。

「ライショ!

 ここがあなたの年貢の納め時です!」

「ふざけるな!

 者共かかれ!」

 ライショの掛け声に応じ、筋骨隆々きんこつりゅうりゅうな男たちが次々に、か細いカコウエンめがけて群がっていった。

「フッ、その程度で私を倒そうってのかい」

 カコウエンは両手にジャラリと無数のパチンコ玉をつかみ、目にも止まらぬ早業はやわざで、次々と指を使って弾き飛ばした。

 カコウエンの指より放たれた鉄玉は、まるで弾丸のようにうなりを上げて、敵のひたい目掛けて飛び立った。

 そのあまりの早業はやわざは敵からすれば全くの不明。何やらわからぬ風を切る音と共に、彼女を取り囲んだ無数の大男たちは低いうめき声と共に次々とその場に倒されていった。

「何だ!何が起こった!」

「“指弾しだん”という技さ!

 私にかかればただのパチンコ玉も光速の弾丸になるのよ!」

 次々とカコウエンの指から放たれるパチンコ玉に、ライショの部隊はさながら銃撃戦にでもったかのような惨状さんじょうで、その場に倒れ伏していく。

「こ、こんなものに負けるわけにはいかん!」

 巨漢の男・ライショはさすが大将を務めるだけあって、自身の両腕で弾丸を防ぎ、赤くらしながらもカコウエンに向かっていった。

「鉄弾さえなければお前のような細い女に!

 この我が負けるわけがない!」

「このカコウエンをあなどらないでもらいたいわね!」

 カコウエンに飛びかかるライショに対し、カコウエンはさらに高く跳躍ちょうやくし、そのままライショを飛び越して背後に周った。

「何っ!」

 カコウエンはライショが反応するよりも早くその足を払って体勢を崩し、えりを掴んでそのまま地面に叩きつけた。

 ライショは状況を理解するいとまを与えられず、悲鳴とともに意識を失った。

 大将のライショを失った部隊は士気を一気に下げて、為す術もなくカコウエンの部隊に倒されて、こちらの反乱も鎮圧された。



 中央校舎前線・ソウソウ本営~

「カコウエンが反乱を鎮圧したか。

 予想より早かったな」

 赤みがかった黒髪と瞳、胸元を大きく開いた服に、ヘソ出しミニスカートの生徒会長・ソウソウは、カコウエンからの報告を受け取り、ニヤリと笑う。

 ソウソウにはやらねばならぬ仕事があった。

 これまでのソウソウ軍は、ソウソウ自らが大将を務め、複数の武将を率いて対象を討伐するというものであった。これだとリョフやエンショウといった勢力と一対一で戦う分には良いが、ソウソウの体は一つしかないので、敵を一度に複数抱えると対処しきれない問題があった。

 今はリュービ・ソンケンと二勢力の敵を抱え、さらに西部が怪しくなってきた。今までのやり方では限界がある。

「今、我が陣営に求められているのは、私に代わって一方面を完全に任せられるだけの司令官の存在。

 カコウトンは既に中央防衛軍の司令官を務めている。

 さらに赤壁の敗戦後、なし崩し的ではあったが、侵攻するシュウユ軍から南校舎を守らせるためにソウジンを大将とした。彼はさながら南方面司令官といえる。

 カコウトン・ソウジンは既に司令官と同じ役目を担っている…となると、次に司令官の役目を任せるべき人材はやはり…

 カコウエンで決まりだな」

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