学園戦記三国志~リュービ、二人の美少女と義兄妹の契りを結び、学園において英雄にならんとす 正史風味~

トベ・イツキ

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第6部 西校舎攻略編

第113話 漂泊!さまよう鳳!

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「いやはや、さてさて、かつては学園中で最も戦火少なく、戦いを望まぬ生徒のいこいの場であった南校舎が、今や三勢力がほこを交える激戦地になろうとは…

 諸行無常しょぎょうむじょうきわまれり…でござんすな」

 そうぼやきながら、少女はかぶっている三度笠をかたむけて、南校舎へと入っていった。

 かつてリュウヒョウが治めていた南校舎は、今では北部をソウソウ、中央部をソンケン、南部をリュービと、三勢力が分割して治める状況へと変貌へんぼうしていた。

 ソンケンとリュービは表向きは手を組み、ともにソウソウに対抗していた。しかし、リュービが南部を占領して独立の機運を見せると、これにソンケンは不快感を示した。



 南校舎・シュウユ本陣~

 そして、この南校舎のソンケン領を一任されている総司令官・シュウユの元に一人の少女が訪ねてきていた。

「よく我がソンケン陣営に来てくださいました。

 あなたの噂はかねがね聞いております。

 ホウトウさん」

 金髪の長い髪に、西洋人形のような整った目鼻立ちの、ゴスロリ風の衣裳いしょうを着た美女、ソンケン軍総司令官・シュウユはそう言いながら、うやうやしく目の前の少女に頭を下げた。



 目の前の小さな少女は頭の三度笠をとり、シュウユと同じように頭を下げた。

「これはこれは、総司令官自らあっしのような女に挨拶あいさつしていただき、痛み入ります」

 ホウトウと呼ばれたその少女は、伸びた前髪で左目が隠れ、口に楊枝をくわえ、着物を着た、風来坊のような身なりの小柄な少女であった。



「いえいえ、あなたのことは聞いております。

 ちまたでは鳳雛ほうすうと呼ばれ、今、リュービの軍師を務める臥龍がりゅう・コウメイと並び称されていた賢者だと」

「ヒャッハッハッ!

 あっしにはコウメイほどの才はありやせんでさ。

 それにあっしなんかに頭を下げるのは、何も才を見込んでのことではないでござんしょ。

 貴重な南校舎の生徒ということが大きいのではないんじゃありやせんか?」

 ホウトウは口の楊枝を手に持ち替え、それでシュウユを指差して、見透かしたようにニヤリと笑う。

「さすがのご慧眼けいがんですね。

 あなたの才を見込んだのはいつわりではありませんが、確かにホウトウさんのご明察めいさつの通り、我が陣営には南校舎の生徒がほとんど加わっておりません。

 多くはソウソウかリュービについてしまいました。

 我らも南校舎の生徒には礼儀を尽くしているつもりなのですが、何故なのでしょうか」

 シュウユの言う通り、南校舎は領土こそ三分割されたが、そこに所属する生徒はほとんどソウソウかリュービの元に行ってしまい、ソンケンの元にはほぼ残らなかった。

「それは仕方ございあせんな。

 リュウヒョウが倒れ、後継を巡りリュウキ・リュウソウが決裂し、リュウキはリュービと手を組み、リュウソウはソウソウに降りやした。

 確かにソウソウは侵略者ではありやすが、リュウソウと首脳陣が降伏しやしたために、南校舎を治める大義を得やした。

 一方、南校舎に長らくいたリュービは、リュウキを初めとする反ソウソウ派の受け皿となるだけの信用を得てございやす。

 対してソンケンだけが何もありやせん。

 ただ純粋な侵略者なのでございやす。

 これでは南校舎の生徒が離れていくのは、仕方のないことでございましょう」

 ホウトウはやらやれといった様子で、一息つく。

 対してシュウユは、ホウトウの意見にうなずいて聞き返す。

「確かにあなたのおっしゃる通りです。

 それに加えて、我らは長らくリュウヒョウと戦ってきた歴史があります。

 それで南校舎を占領したから我らに従えといっても難しいでしょう。

 他に受け皿があるのならなおさら…

 しかし、私たちは南校舎を手放すことはできません。

 どのようにすれば良いか、何か策はないでしょうか?」

 シュウユは頭を下げて、ホウトウの意見を求める。その様子にホウトウも感心したのか、策を進言する。

「そこまで言われるのなら一計を授けやしょう。

 仮に北のソウソウを完全に追い払ったとしても南にリュービがいるんでござんすから、人材はそちらに流れるのが道理でございましょう。

 ならば、先にリュービをなんとかせねば、事態は解決しないでしょうな」

「なるほど」

 ホウトウは不敵な笑みを浮かべて答えた。

「しかし、リュービを倒したとしても、必ずしも南校舎の人材がこちらに流れてくるとは限りやせん。

 なので、リュービを取り込みなさい。

 倒すのではなく、吸収するのでござんす…」




 東校舎・ソンケン陣営~

 赤壁の戦いの舞台となった赤レンガの壁が見える渡り廊下を抜け、俺は東校舎・ソンケン陣営へとやってきた。



「ようこそ、いらっしゃいました、リュービさん!

 ここからはこの私・ロシュクが案内を務めさせていただきますぞ!」

 俺を真っ先に出迎えてくれたのは、灰色の長い髪に黒いローブを羽織り、手に扇子を持った女生徒、ソンケン軍参謀・ロシュク。



「よろしく頼むよ、ロシュク」

「じゃあ、リュービさん、ボクらはこちらで待ってるね。

 帰る時にはまた連絡してね」

「ああ、チョーウン、ありがとう」

 そう言って、野球帽をかぶった、長い眉に、大きな瞳、ジャージの上着にスパッツ姿の女生徒・チョーウンは東校舎の地を踏むことなく、部隊を率いて渡り廊下を引き返した。



「おや、チョーウンさんは帰られるのですな。

 見たところカンウさんやチョーヒさんもご同行されておりませんし、護衛の方はおられないのですかな」

 ロシュクは残されたリュービ一行を見回すが、カンウやチョーヒといった有名な顔ぶれは見当たらず、文官と思わしき見知らぬ男女が五名ほどいるだけであった。

「ええ、彼女たちには別に仕事がありますから。

 なにより、同盟相手の陣営を訪ねるのに軍隊は不要でしょう」

「それもそうですな!

 では、この不肖ふしょうロシュク、リュービさんを案内させていただきますぞ!」

 ロシュクは振り返り、意気揚々と出発したが、その心中は穏やかではなかった。

(なるほどなるほど、リュービの身に何かあれば我が陣営の威信に傷がつくということですかな。

 なかなか強烈な脅しでございます)

 ロシュクはチラリと後ろを振り返る。

 リュービとその背後にいる五人の男女がついて歩いている。

 四人の男女はいずれも細身でパッと見強そうには見えない。

(いずれも文官に見えますが、実は手練てだれなのでしょうか?

 しかし、仮に手練てだれまぎれていても、ここは我らの陣営。その気になれば全てが敵に回りかねない状況ですぞ…

 カンウやチョーヒならともかく、多少腕に覚えがある程度で太刀打ちできるものではないでしょう。

 リュービ…この状況で乗り込んでくるとは、よほどの胆力たんりょく…)

 ロシュクは側を歩く兵士を呼び寄せ、後ろの俺たちに聞こえない音量で何やら伝え出した。

 その言伝ことづてに連動するように、俺たちの周囲を守るロシュクの部隊の動きは機敏になる。

 周囲の一層の警戒をするよう伝えたのだろうが、その言伝ことづてを聞いた兵士本人は隊を離れて何処かへと消えていったから、それだけではないのだろう。

 大方、俺に同行する五人の素性を調べるよう伝えたのだろう。

 だが、今回は残念ながらカンウ、チョーヒ、チョーウンはもちろん、コーチューやリョフら武闘派組は連れてきていない。

 今回、俺が東校舎を訪問したのは、まず第一にソンケンとの友好関係をより密にするためだ。現状、両者の友好関係に問題があるために、前回のライショの反乱では連携が取れず、見捨てる形となってしまった。この状況をまず、改善しなければならない。

 そして、第二に俺の南校舎での立場を認めさせるためだ。いくら友好関係を築きたいからといって、ソンケンの言いなりになって従属しては意味がない。南校舎での俺たちの権利は認めさせなければならない。

 だが、この状況でカンウやチョーヒらや軍隊を引き連れて威圧したのでは、反感を買い、深めれる友好も深めることができない。

 それに、カンウやチョーヒをこちらに連れて来てしまうと、もし、シュウユが独断で俺たちの陣地へ侵攻されてしまうと防ぐすべがない。

 今はカンウ・チョーヒを前線で防衛し、さらに俺の護衛という名目でチョーウンをシュウユ軍の側面に配置している。もし、シュウユが攻めてきてもそう簡単に攻略することはできないはずだ。

 問題は俺の身の安全だ。今回の東校舎訪問は、カンウやチョーヒは言うまでもないが、コウメイでさえ難色を示した。

 確かに危険はあるが、俺になにかあれば、ソンケンは俺の陣営とソウソウ、二つの陣営を敵に回すことになる。そんな判断はしないだろう…多分、おそらく、きっと…

 多少、けな面はいなめないが、とにかく、今回の訪問は俺が完全に独立するためには避けては通れないことだ。必ず成功させねばならない。

「さて、到着しましたぞ、リュービさん。

 ここが我らの新たな本拠地・音楽室です」

 ロシュクの案内で俺たちは音楽室へと通された。

 音楽室というだけあって片隅にピアノが置かれてはいるが、他の楽器は片付けられ、机椅子つくえいすは会議ができるように向かい合わせて並べられている。

 赤壁の戦いの前、ソンケンは南校舎に接する剣道場を拠点にしていたという。対して新たな拠点となったこの音楽室は北に面した場所にあり、ソンケンの目が今は北に向けられていることを察することができる。

 もっとも、シュウユに南校舎を任せているからこその配置ではあるだろうが。

「我らの主もまもなく来られると思いますので、席に座ってお待ちくださいな」

 ロシュクにうながされ、俺たち六人が着席すると、ほぼ同時に音楽室のとびらは開かれた。

「久しぶりじゃね、リュービ!」

 懐かしい声とともに一人の女生徒が早歩きで俺の元へやってきた。

「久しぶりだね、ソンサク!

 元気そうでなによりだよ」

 俺は立ち上がってその女生徒・ソンサクを出迎えた。

 ツインテールの結び目に大きめのリボンを2つつけ、三日月の髪飾りに、ミニスカートにスパッツ、ブーツの細身の女生徒・ソンサクは、かつてこの東校舎の盟主であった。



 彼女は赤壁の戦いの直前、暴漢におそわれて重症を負い、今まで入院していた。

 そのため、ソンサクの弟・ソンケン(チュー坊)が彼女の代理となり、これまで東校舎の盟主を務めていた。

 その彼女がこの度、退院して学園に復帰した。

 彼女の退院祝いも、今回の俺の東校舎訪問の目的の一つであった。
 
「うん、だいぶ、良くなったんじゃけど、まだ安静にしとらんといけんから、今回の対談は欠席させてもらうね」

「ああ、元々そういう話だったからね。

 ソンサクは今はゆっくり休んでいてくれ」

 ソンサクは振り返り、弟・ソンケンの方を俺の前へと引き連れて、まるで宣誓せんせいするように話し出した。

「うち…じゃなかった、私・ソンサクは弟・チュー坊…じゃなくて、ソンケンをこの東校舎盟主の代理人として認めます」

 そう宣言すると、彼女は一息ついて、俺の方へと向き直った。

「じゃあ、リュービ、うちは別室で休ませてもらうね」

「ああ、後で挨拶に行くよ」

「後は頼むね、チュー…ソンケン。

 リュービとは仲良くね」

「はい、姉さん」

 姉・ソンサクの言葉を受けて、小柄で細身、赤紫の髪に太陽の髪飾りをつけ、顔に少年のようなあどけなさを残す男の子・ソンケンは、うなずいて俺たちの前に現れる。



 ソンサクは退出し、ソンケン以下、陣営の文官一同が俺たちの前に立ちはだかる。

 先ほどはソンサクの言葉に、はいと返したソンケンだが、その顔には明らかに俺たちへの不満をのぞかせていた。

「リュービさん、直接お会いするのは四月以来ですね。

 今回、我らの元にお越しいただけたことに感謝するとともに、我ら双方のより一層の親交を望みます。

 そのためにも、南校舎の領有についてはきっちりと取り決めいたしましょう」

 ソンケンは表情一つ変えずにそう言うと、部下たちとともに着席した。

「さて、リュービ殿。

 さっそく、南校舎の領土配分について話し合いましょう。

 リュービ殿はどこまでを希望ですかな?」

 ソンケン文官を代表するように、重臣・チョウショウがおごそかに話し始める。

 こちらの希望を聞いているが、突っぱねる気満々といった様子だ。しかし、こちらもそういう態度は織り込み済みだ。まずはこちらが話の主導権を握らなければならない。

「南校舎の取り扱いについて話し合う前に、まず紹介したい人物がいます」

 俺が隣に着席するせた男子生徒に合図すると、彼は立ち上がり堂々とした調子で自己紹介を始めた。

「ソンケンさん、お初にお目にかかります。

 僕は元南校舎盟主兼弁論部部長・リュウヒョウの弟にして“現南校舎盟主兼弁論部部長”のリュウキと申します」

 そう、彼こそ今回の対談での俺の切り札、リュウキだ。

 突如、現れたリュウキと現南校舎盟主兼弁論部部長の発言に、ソンケン一同に激震が走り、ざわめきが生じる。

「この度、姉・リュウヒョウの入院に伴い南校舎盟主及び弁論部部長の地位を譲られましたが、それを維持するのは難しいと思い、引退することとしました。

 つきましてはリュービさんに、この南校舎盟主及び弁論部部長の地位を譲ります!」

 リュウキの発言に続けて、すぐさま俺が口を開く。

「ソンケン君、これが俺たちの第一の要求だ。

 俺・リュービの南校舎盟主及び弁論部部長の就任を認めてほしい」

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