貴方に幸福を

真友

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卒業試験

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「毎回思うんだけどさ……」
「ん?どうかした?」

 いつもの様に、橋を目指して夜道を歩きながら俺は口を開いた。

「お前と一緒に歩いてると、通りすがりの人からの視線が痛いんだけど……」
「まあ当然だろうね、全く同じ服装に全く同じ顔の人間が並んで歩いてるんだから。気になるのも仕方が無いよ」

 同じ顔に同じ服装……なるほど、確かにそれは気になるな。逆の立場だったら二度見じゃ済まなそうだ。

「なんか嫌だなぁ……痛々しくないか?」
「仕方ないでしょ、嫌なら服脱ぐしか無いよ?たぶん捕まるけど」

 憎たらしい顔でニヤニヤ笑いながら、クニハルは言った。一日を通して、今日は秋のわりに比較的気温が高く、現在も上はロンT一枚しか着ていないので脱げる訳が無かった。
 それを分かっていながら、出来るものならやってみろとでも言いたげな視線を送ってくる。こういう所、本当に性格が悪くてズル賢い。

「それならそっちが脱げよな。俺は嫌だよ、そんな変態的な理由で捕まりたくない」
「ごめんムリ。僕は皮膚が弱いから…….直接日光浴びたらマジで死ぬと思う」
「ドラキュラかよ。つーか夜に日光なんてねーよ」
「血は吸わないから安心して。僕A型だから、違う型の血とか絶対入れたくない」
「……血を吸えない吸血鬼って吸血鬼として終わってね?」

 いやなんの話だよ。思わず、俺は心の中でツッコミを入れてしまった。
 二十歳にもなって、男同士で双子コーデをするのが嫌だと言う話をしたかったのに。なんでドラキュラの話題になってるんだよ。(最初にドラキュラって言い出したのは俺の方だが……)

「まぁ……構造上どっちか一人が脱いだら自動的にもう片方の服も脱げるんだけどね」
「じゃあ意味ねーじゃん!裸が二人になるだけかよ!逆に状況悪化してない!?」
「うん、翌朝のニュースになるだろうね」
「不名誉だよ!」

 周囲の視線を減らす為の提案が、ただ逮捕者を増やすだけの愚策となってしまった。
 もう仕方が無いので、俺は大人しくペアルックを受け入れる事にした。不服だが、それが一番安全だ。

「あ……っと、そろそろかな」

 しばらく歩き続け、橋の近くまで来たところで、クニハルがおもむろに歩みを止めた。

「何?どうした?」
「いやぁ、こうして蜂谷君と談笑するのも楽しいんだけどねぇ……」
「な、なんだよ」
「残念ながら、おふざけはここまでみたいだ」 

 ニヤッと不気味な笑みを浮かべるクニハル。先程までの様子とは一変して、妙に静かで落ち着いていた。
 その瞳の裏で何を考えているのか。俺には知る術もない。

「なんなんだよ急に、どういう事だ?」
「さて……ここがどこだか、分かるかい?」
「どこって……橋の手前?」
「ああ、そうだね。じゃあ……」

 その手で、クニハルは悠々と橋の上を歩く男女二人を指差して言った。

「あの二人が……誰だか分かるかい?」
「はぁ?そんなの知るわけ……」
「男の方は知らないだろうね。でも、もう一人の女の方は知ってるはずだよ?五年間、付き合った仲なんだろう?」
「……まさか」

 慌てて橋の上に視線を移した。二人は、先程より少し離れた場所を歩いていた。
 その姿を、視界に入れてから思い出すまでに時間はかからなかった。白い服に長い髪。その女性の後ろ姿全てに、俺は見覚えがあった。

「優……衣?」
「正解、まさかも何も無いよ。正真正銘、君の元カノだね」
「……」

 一年ぶりに、その姿を見た。正面からは見えないが、間違い無く優衣だと確信出来る。

「久しぶりに会えて嬉しいのは分かるけどね。別に今日は元カノの顔を拝みに来た訳じゃ無いぜ?」

 クニハルが俺の肩に手をかけて言う。その手には、やけに力が篭っていた。

「さあ、卒業試験と行こうか。僕と……君のね」
 


 
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