1 / 56
第1話 サンドランス教会
しおりを挟む
教会の鐘の音が響き渡り、ミュリエルは時計塔を見上げた。昼の祈りの時間を知らせる鐘の音だ。
教会の隣には、教会が運営している孤児院が併設されていて、子供たちが、じゃれ合いながら、束になってどこかへ向かっている。昼の祈りのために、大聖堂へ移動しているのだろう。
ミュリエルは20代前半くらいの、若いシスターに声をかけた。「ミュリエル・カルヴァンと申します。伺いたいことがあって参りました。時間は取らせません。お話を聞かせてくださいませんか」
「クラリスです。ど、どうぞ、応接室にご案内します」綺麗な服を着た、貴族と思しき令嬢に、クラリスはしどろもどろになりながら、ミュリエルを応接室に通した。
紅茶が入ったカップを、ミュリエルの前にカタカタと震える手で置き、責任者を連れてくると言って、クラリスが慌てて出ていったあと、子供たちは興味津々に、こっそりと窓の外から中を覗き見てきたが、ミュリエルは気がついていないフリをした。
わざわざ昼の祈りの時間に合わせて来たのは、この時間が1番静かだろうと思っていたからだったが、好奇心に負けた数人の子供たちが、昼の祈りを抜け出してきたようだ。
数分後、足早に——50を少し過ぎたくらいのシスターが、先ほど案内をしてくれたクラリスと一緒に、応接室に入ってきた。
2人揃って蒼白な顔をしていることから、ミュリエルが誰なのか気づいたのだろうと、ミュリエルは理解した。
「お待たせしてしまい、申し訳ありません。私はこの孤児院の運営を、教会から任されています。フェリシテと申します。本日はこのようなところにお越しくださいまして、誠にありがとうございます」
「私は、ミュリエル・カルヴァンと申します。伺いたいことがあって参りました」
カルヴァンと言えば、ブリヨン侯爵カルヴァン家。
近年フランクール王国の著しい経済成長は、カルヴァン家が取り仕切っている『東方貿易会社』あってこそだと言われている。
ブリヨン侯ロベール・カルヴァン閣下を知らない人は、この国にいないほどの有名人だ。
そのご令嬢と対面していることに、フェリシテとクラリスは、揃って目を丸くした。
「——ブリヨン侯爵令嬢様は、何をお聞きになりたいのでしょうか、私で答えられることならば、何なりと仰ってください」
「マドゥレーヌ・オートゥイユという子爵令嬢を、ご存知ですか?」
「いいえ、存じ上げません」
「よくここへ出入りしていると伺いました。コーラルピンクの髪で、身長は私より5㎝ほど低く約165㎝、歳は私と同じくらいの10代後半です」
「ここは、平民が通う教会です。そのような高貴な方が、来られたことはありません」フェリシテもクラリスも、首を横に振った。
「そうですか、分かりました。お話をありがとうございました。昼の祈りの時間を、邪魔してしまいましたね」
「お役に立てましたでしょうか?」
「ええ、とても役に立ちました」
「それなら、良かったです」フェリシテはほっと胸を撫で下ろし、ミュリエルを孤児院の玄関まで見送った。
クラリスがドアを開けた瞬間、窓から覗き見ていた子供たちが、一斉に逃げて行った。
「申し訳ありません!お客様が見えられた時は大人しくするように言ってあったのですが、あまり、お客様が来ることもないですから、浮かれてしまったようで、無礼をお許しください」
何とか無事に、貴族を怒らせることなく、突然の訪問を終えられると思っていたのに、子供たちが立ち聞きしていたことを知って、フェリシテは顔面蒼白になり、慌てて頭を下げた。
「聞かれて困る話でもないですから、構いません。それでは失礼いたします」
馬車に乗ってきたわけではないようで、歩き去っていく、ミュリエルの後ろ姿を見送っていたクラリスが言った。
「カルヴァン家のお嬢様は、素敵なレディでしたね。貴族のご令嬢なだけあって、気品に溢れ、礼儀も備えていらっしゃる。私たちに、丁寧に頭を下げて、お礼を仰るなんて、思いもしませんでした」
「そうですね、凛とした美しい女性で、傲慢なんて言葉は、似合わないお方ですね。シスタークラリスも、ミュリエルお嬢様を見習って、お淑やかなレディになれるといいですね」
気立てが良いクラリスだが、少し慌てもののところが玉に瑕で、よくフェリシテから、ため息をつかれていた。
「ああ、はい……気をつけます」クラリスは、フェリシテに気づかれないように、口を尖らせた。
教会の隣には、教会が運営している孤児院が併設されていて、子供たちが、じゃれ合いながら、束になってどこかへ向かっている。昼の祈りのために、大聖堂へ移動しているのだろう。
ミュリエルは20代前半くらいの、若いシスターに声をかけた。「ミュリエル・カルヴァンと申します。伺いたいことがあって参りました。時間は取らせません。お話を聞かせてくださいませんか」
「クラリスです。ど、どうぞ、応接室にご案内します」綺麗な服を着た、貴族と思しき令嬢に、クラリスはしどろもどろになりながら、ミュリエルを応接室に通した。
紅茶が入ったカップを、ミュリエルの前にカタカタと震える手で置き、責任者を連れてくると言って、クラリスが慌てて出ていったあと、子供たちは興味津々に、こっそりと窓の外から中を覗き見てきたが、ミュリエルは気がついていないフリをした。
わざわざ昼の祈りの時間に合わせて来たのは、この時間が1番静かだろうと思っていたからだったが、好奇心に負けた数人の子供たちが、昼の祈りを抜け出してきたようだ。
数分後、足早に——50を少し過ぎたくらいのシスターが、先ほど案内をしてくれたクラリスと一緒に、応接室に入ってきた。
2人揃って蒼白な顔をしていることから、ミュリエルが誰なのか気づいたのだろうと、ミュリエルは理解した。
「お待たせしてしまい、申し訳ありません。私はこの孤児院の運営を、教会から任されています。フェリシテと申します。本日はこのようなところにお越しくださいまして、誠にありがとうございます」
「私は、ミュリエル・カルヴァンと申します。伺いたいことがあって参りました」
カルヴァンと言えば、ブリヨン侯爵カルヴァン家。
近年フランクール王国の著しい経済成長は、カルヴァン家が取り仕切っている『東方貿易会社』あってこそだと言われている。
ブリヨン侯ロベール・カルヴァン閣下を知らない人は、この国にいないほどの有名人だ。
そのご令嬢と対面していることに、フェリシテとクラリスは、揃って目を丸くした。
「——ブリヨン侯爵令嬢様は、何をお聞きになりたいのでしょうか、私で答えられることならば、何なりと仰ってください」
「マドゥレーヌ・オートゥイユという子爵令嬢を、ご存知ですか?」
「いいえ、存じ上げません」
「よくここへ出入りしていると伺いました。コーラルピンクの髪で、身長は私より5㎝ほど低く約165㎝、歳は私と同じくらいの10代後半です」
「ここは、平民が通う教会です。そのような高貴な方が、来られたことはありません」フェリシテもクラリスも、首を横に振った。
「そうですか、分かりました。お話をありがとうございました。昼の祈りの時間を、邪魔してしまいましたね」
「お役に立てましたでしょうか?」
「ええ、とても役に立ちました」
「それなら、良かったです」フェリシテはほっと胸を撫で下ろし、ミュリエルを孤児院の玄関まで見送った。
クラリスがドアを開けた瞬間、窓から覗き見ていた子供たちが、一斉に逃げて行った。
「申し訳ありません!お客様が見えられた時は大人しくするように言ってあったのですが、あまり、お客様が来ることもないですから、浮かれてしまったようで、無礼をお許しください」
何とか無事に、貴族を怒らせることなく、突然の訪問を終えられると思っていたのに、子供たちが立ち聞きしていたことを知って、フェリシテは顔面蒼白になり、慌てて頭を下げた。
「聞かれて困る話でもないですから、構いません。それでは失礼いたします」
馬車に乗ってきたわけではないようで、歩き去っていく、ミュリエルの後ろ姿を見送っていたクラリスが言った。
「カルヴァン家のお嬢様は、素敵なレディでしたね。貴族のご令嬢なだけあって、気品に溢れ、礼儀も備えていらっしゃる。私たちに、丁寧に頭を下げて、お礼を仰るなんて、思いもしませんでした」
「そうですね、凛とした美しい女性で、傲慢なんて言葉は、似合わないお方ですね。シスタークラリスも、ミュリエルお嬢様を見習って、お淑やかなレディになれるといいですね」
気立てが良いクラリスだが、少し慌てもののところが玉に瑕で、よくフェリシテから、ため息をつかれていた。
「ああ、はい……気をつけます」クラリスは、フェリシテに気づかれないように、口を尖らせた。
337
あなたにおすすめの小説
虚弱体質?の脇役令嬢に転生したので、食事療法を始めました
たくわん
恋愛
「跡継ぎを産めない貴女とは結婚できない」婚約者である公爵嫡男アレクシスから、冷酷に告げられた婚約破棄。その場で新しい婚約者まで紹介される屈辱。病弱な侯爵令嬢セラフィーナは、社交界の哀れみと嘲笑の的となった。
巻き込まれて異世界召喚? よくわからないけど頑張ります。 〜JKヒロインにおばさん呼ばわりされたけど、28才はお姉さんです〜
トイダノリコ
ファンタジー
会社帰りにJKと一緒に異世界へ――!?
婚活のために「料理の基本」本を買った帰り道、28歳の篠原亜子は、通りすがりの女子高生・星野美咲とともに突然まぶしい光に包まれる。
気がつけばそこは、海と神殿の国〈アズーリア王国〉。
美咲は「聖乙女」として大歓迎される一方、亜子は「予定外に混ざった人」として放置されてしまう。
けれど世界意識(※神?)からのお詫びとして特殊能力を授かった。
食材や魔物の食用可否、毒の有無、調理法までわかるスキル――〈料理眼〉!
「よし、こうなったら食堂でも開いて生きていくしかない!」
港町の小さな店〈潮風亭〉を拠点に、亜子は料理修行と新生活をスタート。
気のいい夫婦、誠実な騎士、皮肉屋の魔法使い、王子様や留学生、眼帯の怪しい男……そして、彼女を慕う男爵令嬢など個性豊かな仲間たちに囲まれて、"聖乙女イベントの裏側”で、静かに、そしてたくましく人生を切り拓く異世界スローライフ開幕。
――はい。静かに、ひっそり生きていこうと思っていたんです。私も.....(アコ談)
*AIと一緒に書いています*
有能女官の赴任先は辺境伯領
たぬきち25番
恋愛
お気に入り1000ありがとうございます!!
お礼SS追加決定のため終了取下げいたします。
皆様、お気に入り登録ありがとうございました。
現在、お礼SSの準備中です。少々お待ちください。
辺境伯領の当主が他界。代わりに領主になったのは元騎士団の隊長ギルベルト(26)
ずっと騎士団に在籍して領のことなど右も左もわからない。
そのため新しい辺境伯様は帳簿も書類も不備ばかり。しかも辺境伯領は王国の端なので修正も大変。
そこで仕事を終わらせるために、腕っぷしに定評のあるギリギリ貴族の男爵出身の女官ライラ(18)が辺境伯領に出向くことになった。
だがそこでライラを待っていたのは、元騎士とは思えないほどつかみどころのない辺境伯様と、前辺境伯夫妻の忘れ形見の3人のこどもたち(14歳男子、9歳男子、6歳女子)だった。
仕事のわからない辺境伯を助けながら、こどもたちの生活を助けたり、魔物を倒したり!?
そしていつしか、ライラと辺境伯やこどもたちとの関係が変わっていく……
※お待たせしました。
※他サイト様にも掲載中
【完結】魔力がないと見下されていた私は仮面で素顔を隠した伯爵と結婚することになりました〜さらに魔力石まで作り出せなんて、冗談じゃない〜
光城 朱純
ファンタジー
魔力が強いはずの見た目に生まれた王女リーゼロッテ。
それにも拘わらず、魔力の片鱗すらみえないリーゼロッテは家族中から疎まれ、ある日辺境伯との結婚を決められる。
自分のあざを隠す為に仮面をつけて生活する辺境伯は、龍を操ることができると噂の伯爵。
隣に魔獣の出る森を持ち、雪深い辺境地での冷たい辺境伯との新婚生活は、身も心も凍えそう。
それでも国の端でひっそり生きていくから、もう放っておいて下さい。
私のことは私で何とかします。
ですから、国のことは国王が何とかすればいいのです。
魔力が使えない私に、魔力石を作り出せだなんて、そんなの無茶です。
もし作り出すことができたとしても、やすやすと渡したりしませんよ?
これまで虐げられた分、ちゃんと返して下さいね。
表紙はPhoto AC様よりお借りしております。
【完結】平凡な容姿の召喚聖女はそろそろ貴方達を捨てさせてもらいます
ユユ
ファンタジー
“美少女だね”
“可愛いね”
“天使みたい”
知ってる。そう言われ続けてきたから。
だけど…
“なんだコレは。
こんなモノを私は妻にしなければならないのか”
召喚(誘拐)された世界では平凡だった。
私は言われた言葉を忘れたりはしない。
* さらっとファンタジー系程度
* 完結保証付き
* 暇つぶしにどうぞ
【コミカライズ決定】愛されない皇妃~最強の母になります!~
椿蛍
ファンタジー
【コミカライズ決定の情報が解禁されました】
※レーベル名、漫画家様はのちほどお知らせいたします。
※配信後は引き下げとなりますので、ご注意くださいませ。
愛されない皇妃『ユリアナ』
やがて、皇帝に愛される寵妃『クリスティナ』にすべてを奪われる運命にある。
夫も子どもも――そして、皇妃の地位。
最後は嫉妬に狂いクリスティナを殺そうとした罪によって処刑されてしまう。
けれど、そこからが問題だ。
皇帝一家は人々を虐げ、『悪逆皇帝一家』と呼ばれるようになる。
そして、最後は大魔女に悪い皇帝一家が討伐されて終わるのだけど……
皇帝一家を倒した大魔女。
大魔女の私が、皇妃になるなんて、どういうこと!?
※表紙は作成者様からお借りしてます。
※他サイト様に掲載しております。
乙女ゲームの悪役令嬢の兄の婚約者に転生しましたが傷物になったので退場を希望します!
ユウ
恋愛
平凡な伯爵令嬢のリネットは優しい婚約者と妹と穏やかで幸福な日々を送っていた。
相手は公爵家の嫡男であり第一王子殿下の側近で覚えもめでたく社交界の憧れの漆黒の騎士と呼ばれる貴族令息だった。
結婚式前夜、婚約者の妹に会いに学園に向かったが、そこで事件が起きる。
現在学園で騒動を起こしている第二王子とその友人達に勘違いから暴行を受け階段から落ちてしまう…
その時に前世の記憶を取り戻すのだった…
「悪役令嬢の兄の婚約者って…」
なんとも微妙なポジション。
しかも結婚前夜で傷物になる失態を犯してしまったリネットは婚約解消を望むのだが、悪役令嬢の義妹が王子に婚約破棄を突きつける事件に発展してしまう。
【完結】パパ、私は犯人じゃないよ ~処刑予定の私、冷徹公爵(パパ)に溺愛されるまで~
チャビューヘ
ファンタジー
※タイトル変更しました。
「掃除(処分)しろ」と私を捨てた冷徹な父。生き残るために「心を無」にして媚びを売ったら。
「……お前の声だけが、うるさくない」
心の声が聞こえるパパと、それを知らずに生存戦略を練る娘の物語。
-----
感想送っていただいている皆様へ
たくさんの嬉しい言葉や厳しい意見も届いており一つ一つがすごく嬉しいのと頑張ろうと感じています。ご意見を元に修正必要な部分は随時更新していきます。
成長のため感想欄を閉じませんが公開はする予定ありません。ですが必ず全て目を通しています。拙作にお時間を頂きありがとうございます。これからもよろしくお願いします。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる