【完結】大魔術師は庶民の味方です

枇杷水月

文字の大きさ
49 / 56

第41話 玉無し……

しおりを挟む
 翌朝目を覚ましたミュリエルの視界に、フィンの眠っている顔が目に入り驚いた。そういえば、昨晩一緒に寝たのだったと思い出し、普段じっくりと見ることのないフィンの顔を、観察することにした。

 まつ毛は長く、頬が高くて、顎が角張っている。整った顔立ちに、ダークブロンドヘア。

 どうしてこんなに素敵な人が、自分なんかを好きだと言ってくれるのだろうか、ミュリエルには、理解ができず不思議だった。

 彼ならきっと、選り取り見取りだろう。体で迫られることも多いのではないだろうか、だから、女性の扱いに慣れているのかもしれない。仮に私がこんな男だったなら、もっと艶やかで、陽気な女性を選ぶだろうとミュリエルは思った。

 フィンの瞼が上がり、スカイブルーの眠たげな瞳が現れた。

「おはよう。そんなに見つめてどうしたの?」

「瞳の色が綺麗だなと思っていました」

「ミュリエルの瞳はアースアイだね。グレーにオレンジ、それと、ブルーも少し混ざってるのかな。とっても綺麗だ」

「濁っています」

「それは虹色って言うんだよ。まるで美しい絵画を見ているようだ」

「フィンさんがいいなら、それでいいです」ミュリエルは恥ずかしそうに視線を伏せた。

「うん、朝食を食べに行こうか。もう少しゆっくりしていたいけど、今日帰るんだろう?」フィンは起き上がって、バスルームへと歩いて行った。

「明日は診療日ですから、帰ってポーションを作ります」

「手伝うよ」フィンはミュリエルの手を取り、バスルームへ連れて行き、服を脱がせてバスタブに一緒に浸かった。

「今日は本来休診日ですから、休んでいいですよ」

「俺がミュリエルと一緒にいたいんだ」フィンは、ミュリエルの髪の毛を湯ですすいで、体に石鹸をつけた。

 嬉しそうにしているミュリエルに、胸を撫で下ろした。未だに好きという言葉を、ミュリエルから聞いていない。

 好きでもない男と、ベッドを共にするわけがないし、今もこうして裸で風呂に浸かっている。好かれていると分かっていても、好きという言葉がないと、不安になってしまうものなのだなとフィンは思った。

 2人は身支度を整えて、昨日と同じカフェに行き、朝食を食べてからホテルを出た。

 人目につかないところまで馬車で移動し、ミュリエル薬店の工房へ、テレポートして戻ってきた。

「おかえり、ミュリエル、そろそろ帰ってくる頃じゃないかと思って、待ってたんだ」

 モーリスは金曜の夕方に、彼らが出て行ってから、ずっと気が気でなく、そわそわしていた。鬱陶しくなったジゼルは、ミュリエルが帰ってくるのを、工房で待っていればいいじゃないと言い、モーリスを家から追い出した。

「ただいま帰りました。ギャスパー・オートゥイユ卿の協力が得られました」ミュリエルは、昨日までの事を、モーリスに話して聞かせた。

「海賊か、どえらいもんに手を出しちまったな。貿易会社をしてたら、海賊に出くわすこともあるのか」

「ミュリエルは既に、カルヴァン家を出ているし、出て行った経緯は、アンドレ王子が知っているんだろう?それに、ミュリエルは最近勲章を受賞したばかりだし、ブリヨン侯爵の罪を暴いたのもミュリエルだ。連座ってことにはならないよな」フィンが最も懸念していることを言った。

「当然だ!フランクールの国王は、救国の乙女を処刑するような馬鹿じゃないさ」モーリスはそう言い切ったが、声には不安が滲んだ。確かなことは分からない。万が一の可能性もある。

「罪に問われないよう、根回しをするつもりですが、万が一、何かしらの罪に問われることになったら、逃げますから大丈夫です」ミュリエルはクリスタルリングを掲げて見せた。

「テレポートか、それなら、どこへでも行けるな」モーリスが言った。

 フィンはミュリエルの手を取って、こちらを向かせた。

「そうなったら、そのリングは俺が預かる。没収されるといけないからね、必ず、どんなことをしてでも、届けると約束する。一緒に遠い国で暮らそう」

「なんか、お前たちの距離が近くないか?そもそも何で、お前とミュリエルが一緒に暮らすんだ!一緒に暮らすのは、俺とジゼルだ」モーリスはミュリエルとフィンの間に割って入った。

「俺とミュリエル、互いの気持ちを確認しまして、お付き合いすることになりました」フィンは満面の笑みで言った。

「——フィン、お前ミュリエルに手を出しやがったな!許さん!」逃げ出したフィンを、モーリスがすりこぎ棒を手に持って追った。

「待って、待って、最後まではしてませんって!」
 フィンとモーリスは、テーブルをぐるぐると回り、向かい合わせに対峙した。

「最後までだと!最初はしたんじゃないか!逃げるなフィン!叩きのめしてやる」モーリスが手を伸ばして、フィンを捕まえようとするが、あと少し手が届かない。

「おかえりミュリエル」ジゼルが店に入ってきて言った。

「ジゼルさん、ただいま帰りました」

「これは一体何の騒ぎ?通りまで聞こえてたわよ」ジゼルが、睨み合うフィンとモーリスに呆れて言った。

「ジゼル、いいところに来た。挟み撃ちにしてフィンを捕まえよう。こいつ、ミュリエルに手を出しやがったんだ」

「あら、そう。ミュリエル、おめでとう」

「ありがとうございます。何だか照れくさいです」

「ジゼル、俺たちのミュリエルが穢されたんだぞ」モーリスはジゼルに裏切られて、戦意を喪失した。

 ジゼルはモーリスの腕を、ぽんぽんと叩いた。まるで子供をあやすように。「モー、いいことじゃない、ミュリエルに恋人ができたんだから、祝福するべきよ」ジゼルはフィンに指を突きつけた。「でもねフィン、もしもミュリエルを泣かせることがあったら、その時は覚悟することね、生きていることを後悔させてあげるから」

「肝に銘じます」フィンはジゼルが怒ったところを見たことがない、日頃、優しい人ほど怒ると怖い。ミュリエルの平穏を、命懸けで守ろうとフィンは誓った。

「それじゃあ、ゆっくり座ってお茶でも飲みましょう。マルセルがどんな所だったか、聞きたいわ」

「お土産を買ってきました」

「まあ、嬉しい。あなたたちも、追いかけっこしてないで、一緒にお茶を飲むわよ」

「くそっ!逃げ足の速い奴め」モーリスはフィンの後頭部をパシンと叩いた。

「いてっ!お褒めにあずかり光栄です」フィンは叩かれた頭をさすった。この程度で済んでラッキーだった。仲裁をしてくれたジゼルに感謝した。

「結婚までは絶対に、ミュリエルの純潔を守れよ。やらかしたら、玉無しにしてやるからな」

「了解です」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

虚弱体質?の脇役令嬢に転生したので、食事療法を始めました

たくわん
恋愛
「跡継ぎを産めない貴女とは結婚できない」婚約者である公爵嫡男アレクシスから、冷酷に告げられた婚約破棄。その場で新しい婚約者まで紹介される屈辱。病弱な侯爵令嬢セラフィーナは、社交界の哀れみと嘲笑の的となった。

巻き込まれて異世界召喚? よくわからないけど頑張ります。  〜JKヒロインにおばさん呼ばわりされたけど、28才はお姉さんです〜

トイダノリコ
ファンタジー
会社帰りにJKと一緒に異世界へ――!? 婚活のために「料理の基本」本を買った帰り道、28歳の篠原亜子は、通りすがりの女子高生・星野美咲とともに突然まぶしい光に包まれる。 気がつけばそこは、海と神殿の国〈アズーリア王国〉。 美咲は「聖乙女」として大歓迎される一方、亜子は「予定外に混ざった人」として放置されてしまう。 けれど世界意識(※神?)からのお詫びとして特殊能力を授かった。 食材や魔物の食用可否、毒の有無、調理法までわかるスキル――〈料理眼〉! 「よし、こうなったら食堂でも開いて生きていくしかない!」 港町の小さな店〈潮風亭〉を拠点に、亜子は料理修行と新生活をスタート。 気のいい夫婦、誠実な騎士、皮肉屋の魔法使い、王子様や留学生、眼帯の怪しい男……そして、彼女を慕う男爵令嬢など個性豊かな仲間たちに囲まれて、"聖乙女イベントの裏側”で、静かに、そしてたくましく人生を切り拓く異世界スローライフ開幕。 ――はい。静かに、ひっそり生きていこうと思っていたんです。私も.....(アコ談) *AIと一緒に書いています*

有能女官の赴任先は辺境伯領

たぬきち25番
恋愛
お気に入り1000ありがとうございます!! お礼SS追加決定のため終了取下げいたします。 皆様、お気に入り登録ありがとうございました。 現在、お礼SSの準備中です。少々お待ちください。 辺境伯領の当主が他界。代わりに領主になったのは元騎士団の隊長ギルベルト(26) ずっと騎士団に在籍して領のことなど右も左もわからない。 そのため新しい辺境伯様は帳簿も書類も不備ばかり。しかも辺境伯領は王国の端なので修正も大変。 そこで仕事を終わらせるために、腕っぷしに定評のあるギリギリ貴族の男爵出身の女官ライラ(18)が辺境伯領に出向くことになった。   だがそこでライラを待っていたのは、元騎士とは思えないほどつかみどころのない辺境伯様と、前辺境伯夫妻の忘れ形見の3人のこどもたち(14歳男子、9歳男子、6歳女子)だった。 仕事のわからない辺境伯を助けながら、こどもたちの生活を助けたり、魔物を倒したり!? そしていつしか、ライラと辺境伯やこどもたちとの関係が変わっていく…… ※お待たせしました。 ※他サイト様にも掲載中

【完結】魔力がないと見下されていた私は仮面で素顔を隠した伯爵と結婚することになりました〜さらに魔力石まで作り出せなんて、冗談じゃない〜

光城 朱純
ファンタジー
魔力が強いはずの見た目に生まれた王女リーゼロッテ。 それにも拘わらず、魔力の片鱗すらみえないリーゼロッテは家族中から疎まれ、ある日辺境伯との結婚を決められる。 自分のあざを隠す為に仮面をつけて生活する辺境伯は、龍を操ることができると噂の伯爵。 隣に魔獣の出る森を持ち、雪深い辺境地での冷たい辺境伯との新婚生活は、身も心も凍えそう。 それでも国の端でひっそり生きていくから、もう放っておいて下さい。 私のことは私で何とかします。 ですから、国のことは国王が何とかすればいいのです。 魔力が使えない私に、魔力石を作り出せだなんて、そんなの無茶です。 もし作り出すことができたとしても、やすやすと渡したりしませんよ? これまで虐げられた分、ちゃんと返して下さいね。 表紙はPhoto AC様よりお借りしております。

【完結】平凡な容姿の召喚聖女はそろそろ貴方達を捨てさせてもらいます

ユユ
ファンタジー
“美少女だね” “可愛いね” “天使みたい” 知ってる。そう言われ続けてきたから。 だけど… “なんだコレは。 こんなモノを私は妻にしなければならないのか” 召喚(誘拐)された世界では平凡だった。 私は言われた言葉を忘れたりはしない。 * さらっとファンタジー系程度 * 完結保証付き * 暇つぶしにどうぞ

【コミカライズ決定】愛されない皇妃~最強の母になります!~

椿蛍
ファンタジー
【コミカライズ決定の情報が解禁されました】 ※レーベル名、漫画家様はのちほどお知らせいたします。 ※配信後は引き下げとなりますので、ご注意くださいませ。 愛されない皇妃『ユリアナ』 やがて、皇帝に愛される寵妃『クリスティナ』にすべてを奪われる運命にある。 夫も子どもも――そして、皇妃の地位。 最後は嫉妬に狂いクリスティナを殺そうとした罪によって処刑されてしまう。 けれど、そこからが問題だ。 皇帝一家は人々を虐げ、『悪逆皇帝一家』と呼ばれるようになる。 そして、最後は大魔女に悪い皇帝一家が討伐されて終わるのだけど…… 皇帝一家を倒した大魔女。 大魔女の私が、皇妃になるなんて、どういうこと!? ※表紙は作成者様からお借りしてます。 ※他サイト様に掲載しております。

乙女ゲームの悪役令嬢の兄の婚約者に転生しましたが傷物になったので退場を希望します!

ユウ
恋愛
平凡な伯爵令嬢のリネットは優しい婚約者と妹と穏やかで幸福な日々を送っていた。 相手は公爵家の嫡男であり第一王子殿下の側近で覚えもめでたく社交界の憧れの漆黒の騎士と呼ばれる貴族令息だった。 結婚式前夜、婚約者の妹に会いに学園に向かったが、そこで事件が起きる。 現在学園で騒動を起こしている第二王子とその友人達に勘違いから暴行を受け階段から落ちてしまう… その時に前世の記憶を取り戻すのだった… 「悪役令嬢の兄の婚約者って…」 なんとも微妙なポジション。 しかも結婚前夜で傷物になる失態を犯してしまったリネットは婚約解消を望むのだが、悪役令嬢の義妹が王子に婚約破棄を突きつける事件に発展してしまう。

【完結】パパ、私は犯人じゃないよ ~処刑予定の私、冷徹公爵(パパ)に溺愛されるまで~

チャビューヘ
ファンタジー
※タイトル変更しました。 「掃除(処分)しろ」と私を捨てた冷徹な父。生き残るために「心を無」にして媚びを売ったら。 「……お前の声だけが、うるさくない」 心の声が聞こえるパパと、それを知らずに生存戦略を練る娘の物語。 ----- 感想送っていただいている皆様へ たくさんの嬉しい言葉や厳しい意見も届いており一つ一つがすごく嬉しいのと頑張ろうと感じています。ご意見を元に修正必要な部分は随時更新していきます。 成長のため感想欄を閉じませんが公開はする予定ありません。ですが必ず全て目を通しています。拙作にお時間を頂きありがとうございます。これからもよろしくお願いします。

処理中です...