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冒険の準備

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その後、順調に航海が始まって、船長の機嫌は最高に良かった。
鼻歌まで歌って舵取ってるの見た時は思わず二度見したくらいだ。


いい声ってのは鼻歌でも腰にくるって初めて知った。
知らなくても良かったけど。


今向かってるのは目的地近くの交易のある港だ。
目的の島は小さすぎて食糧なんかは現地調達が難しいらしい。


現地の人たちとはあまり接触を持たないつもりみたいだから、余計に自前で準備しておく必要があるだろう。
そんなこんなで、俺は今厨房の在庫整理を手伝っている。


「ルッコの実がもうないっすねえ。」
「ルッコもか。香辛料が軒並み無くなっちまってるな。」
「おやっさん。胡椒です。」


「おう。サイ。胡椒はそれだけか?」
「はい。袋の中は全部見ましたけど、胡椒はこれだけですね。」
「俺も確認しました。」


「キリも一緒か。ご苦労さん。ん~。仕方ねえ。次で少しだけ買い足しとくかあ。」
「何かだめなんですか?」
「質がな。いつもはレッドキャッスルで買ってんだ。野菜や果物はともかく、香辛料は他所じゃあ鮮度や香りがイマイチだったりするからなあ。」


成る程なあ。レッドキャッスルは大きな港町だった。
店もたくさんあったし、海賊都市っつうだけあって、ありとあらゆる物があふれていた。


料理も美味かったし、そういうとこなら香辛料もいいものが出回ってるんだろう。
おやっさんが渋るってことは、次の港はそんな大きな港じゃねえんだな。


「まあ、しょうがないっすよ。一匹増えましたしねえ。」
「船長も機嫌が良くなるとつまみの量が増えるからなあ。」


皆俺を見ながらにやにやしている。
一匹って俺か?まあ、人ひとり増えたら消費量も増えるもんな。


そのせいで香辛料が足りないのだとしたら申し訳ない。
だけど、船長のつまみは俺のせいじゃねえぞ?


おやっさんに「役にたつ一匹だ。」と笑って頭を叩かれたから言わなかったけどな。
そんな感じで俺は皆にいじられながら在庫整理を終え、港についても買い出しには加えてもらえなかった。


まあ、俺の場合はこないだ船を下りて誘拐されたからな。
船長も降りなかったし、普通の港では買い出し組と居残り組で別れるみたいだ。


おやっさんに不在の間、酒は飲まないように言い含められてたのは笑ったけどな。
船長もおやっさんには弱いようだ。


船長はぶつぶつ言ってたが、そのうちまた海図を広げ始めた。
この辺りの海図だな。へえ。結構水深が深いんだな。サンゴの絵があるのに『問題なし』って書いてある。座礁の心配はないってことだ。


どういうわけか、俺はこっちの文字や数字が読める。
意味が分かるっつうのかな。ああ。これ地名だなとかこれ数字だなとかわかるんだよ。


だから、海図も大体読める。
今向かってるのは南東の方向だ。


その方向には小さな島がたくさん描かれている。
最近知ったんだけど、この世界って大陸がねえんだよな。


大小の島ばっかりで、島単位で自治があって農業やら手工業やら作っている。
物も人も移動は船しかないから、今回寄港している中くらいの港だと、海の均衡を崩さずにいるなら、海賊だろうと大きな島の自衛海軍だろうとかまわず交易しているようだ。


さすがに略奪がすぎると入れてもらえないみたいだけどな。
ヴァルヴァンク号は引っかからないらしい。海賊相手の略奪が多いからかもしれない。


そんなことを考えながら船長と海図を眺めてたら、船長とばっちり目があった。
何だろう?やっぱ酒取りにいけとかかな?


「サイ。おめえ、これが読めるな?」


え。あ、しまった。
こっちで海図読めるのって普通じゃねえんだっけ。


うわあ。暇だからって、ガン見しちまってた。
俺のバカ。 
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