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第2章:社会勉強

第10話:育ち盛り

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 アシヤの町で一泊した面々は朝からガツガツと朝食を平らげていく。エーリカは女性にしては朝からガッツリ食べれる胃袋をしている。乙女らしい乙女であるセツラは珍しく、エーリカと同じスピードで箸が進むことになる。

「お米がどんだけでもお腹に入ってきちゃうぅぅぅ。昨日は夕食を食べずに爆睡しちゃったから、どんだけでも食べれちゃう!」

「はしたない女と思われるのは恥ずかしいですが、エーリカさんと同じく、こんなにお米が美味しいと思ったことはありませんわ……。タケルさん、お代わりをお願いします」

「おうおう。ふたりともたーーーんとお食べ。食べた分だけ胸も成長するぶへぇっ!」

 タケルはよくよく口が滑る男だ。エーリカとセツラの気持ちを代弁すべく、タケルの隣に座る大魔導士:クロウリー=ムーンライトが左に真っ直ぐ、左のストレートをタケルの右頬にぶっ放したのである。タケルが吹っ飛ばされたことで、彼に代わって、クロウリーがご飯をよそう係となる。

「慣れない力を使うと、必要以上にエネルギーを消費してしまいます。エーリカ殿やセツラ殿は力を使うためのきっかけはつかめたと思います。あとは自分の意志で力を発動させること。さらにはどれくらいの量があれば足りるかを知る段階となっていくでしょう」

「うんっ。毎度毎度、こんなに消耗してたら、あたしとセツラお姉ちゃんで軍の兵糧をたいらげちゃうことになるもんね」

「わ、わたくしはそこまで大喰らいではありませんわよっ! 今だって、エーリカさんのほうがわたくしよりも2杯も多くおかわりしてましてよっ!」

「しょ、しょうがないじゃないっ! あたしは育ちざかり真っ盛りなんだからっ!」

「そうそう。特にエーリカは胸が栄養をぶべぇぇぇ!」

「しつこいですね。永眠させますよ?」

 なんとか起き上がったタケルに対して、問答無用の2発目の左のストレートを叩きこむクロウリーであった。クロウリーは終始にこやかである。タケルに左のストレートを叩きこむ時もだ。しかしながら、クロウリーはタケルに制裁をくわえながらも、エーリカ殿はもう少し女性らしい身体であれば、軍の先頭に立った時の見栄えが変わってくるだろうと思ってしまう。

 世の中にはボーイッシュな女性を好む男性はある程度は居る。しかしながら、女性らしい肉付きの良い女性を好む男性のほうが圧倒的に多いのが事実だ。クロウリーはふむ……と意味有り気な息を吐き、ここはエーリカ殿とセツラ殿で役割分担をすればよいのでは? と思うようになる。そして、思ったことは即座に実行に移さねばならぬと考える。

「あ、あの?? さらにおかずを注文するのですか??」

「おかずだけではありません。おひつもふたつ、追加注文しておきます。先生の見た所、セツラ殿はエーリカ殿よりも消耗しきっていますので」

 クロウリーがそう言うと同時にセツラ殿が顔全体から火が噴きそうになるほど、その顔を真っ赤に染め上げたのだ。クロウリーは頭の上にクエスチョンマークを3つ浮かべる。しかしながら、すぐに自分が言ったことは乙女にとっての恥じらいに対する侮蔑とも捉えらる表現だと思い、言い直すことになる。

「セツラ殿とエーリカ殿の力は根本的に在り方が違うのです。セツラ殿が自分で思っている以上に消耗しているのは聖力ちからというのは代償を伴う力なので、致し方ないのです」

「その代償とは、か、身体が変に熱くなってしまったりするということですの?」

「うーーーん。先生のは魔力で、セツラ殿は聖力ちからなので、身体への影響がそのまま同じでは無いですね。でも、セツラ殿がそう感じたのならば、それが正しいと思います」

「な、なら、仕方ないことなんですねっ! わたくしがおかしいわけでは無いのですね!?」

 何だか妙にしつこく聞いてきますね……と思うクロウリーである。しかしながら、巫女とは特別な存在だ。魔法使いの自分の体験をそのまま巫女のセツラ殿に当てはめることをしづらい。それでも、力の使い過ぎはどちらにしても身体に変調をもたらすのは事実である。クロウリーは努めて笑顔でセツラを肯定するのであった。ホッと安堵したセツラは再び、おかずとご飯を胃の中に収めていく。

 今朝、産みたての卵はおおいにエーリカたちの食欲を刺激した。この朝食時にエーリカたちが食べた卵の数は10をゆうに超えていたのである。朝食のシメとして、エーリカとセツラは行儀悪く、ご飯に味噌汁ミッソ・スープをぶっかけ、勢いよく胃の中に収める。そして、椅子の背もたれを支点に崩れ落ちていく。

「もう食べれないぃ~。こんなに朝から食べ過ぎたの、生まれて初めてかもぉ~」

「巫女としてあるまじき食欲でしたわ~。でも、幸せいっぱいですの~」

 エーリカとセツラは行儀悪く椅子に座っていた。その恰好からさらにお腹を両手で抑えこんでいる。そんな姿をクロウリーに見せつけているというのに、クロウリーは微笑ましい表情であった。

 山盛りの朝食を終えたエーリカたちはもうひと眠りして良い? とクロウリーに質問する。クロウリーは後はオダーニの村に帰るだけだから、ゆっくりしてていいと言う。その言葉に甘えて、エーリカたちは自分たちの部屋に戻り、幸せたっぷりの二度寝に入ることになる。

 エーリカたちは食後のお休みタイムを2時間ほど取り、その後、オダーニへ帰る準備を整える。まだ少し胃の中に朝食が残っている感じがしたが、エーリカたちは帰りの行程につくのであった。その道すがら、クロウリーはエーリカにとある質問をする。

「エーリカ殿が旗揚げする時は、その団に名前をつけるべきです。エーリカ殿のことですので、すでにいくつか候補を考えていると思いますが」

「うん。麗しのエーリカ団とかそんな感じでいいのよね?」

「はい。でも、麗しの~では、少し威圧感に欠けると言いますか。いや、エーリカ殿の見た目がまだまだ幼いから麗しの~が似合わないという意味ではありませんよ!?」

 エーリカが不満を象徴する表情となったことで、クロウリーはしどろもどろになってしまう。そして、彼としては珍しくもタケルに助けを求めたのである。

「エーリカ。こういうのは勇ましい名称にしておくべきなんだ。泣く子も黙るエーリカ団とかそういうのな。わかるか?」

「ああ。そういうことね。ただでさえ首魁が女性なのに、わざわざ、なよっとした印象を与えるのはダメね。んじゃ、血濡れの女王ブラッディ・エーリカってのはどうかしら?」

「おっ。良いじゃねえかっ! そういうので良いんだよっ。俺はその団名で問題無いと思うぜ」

「ちょっと響きが強すぎる気がいたしますわ。でも、それくらいの威勢が無いと、戦国乱世の時代に名乗りをあげるのには足りませんね。わたくしもその団名に賛同いたしますわ」

 エーリカはタケルお兄ちゃんとセツラお姉ちゃんの同意を得たことで満足気な表情であった。エーリカは夢想する。この『血濡れの女王ブラッディ・エーリカ』という団名がテクロ大陸本土で広まっていくその様を。

 しかしながら、エーリカの想いとは裏腹に、時が経てば経つほど、彼女たちのへの陰口として『濡れ濡れの堕女ビショビショ・オトメ』という蔑称を広められていたことなど、この時点で知る由も無かった……。
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