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第3章:王都:キヤマクラ

第2話:知名度

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血濡れの女王ブラッディ・エーリカ? エーリカ=スミス? 知らぬ名だ。しかし、我が王:イソロク=ホバート様のために私兵300を引き連れ、はるばる王都まで馳せ参じてくれたことには感謝しよう」

 ホバート王国の王都:キヤマクラの周辺には総数3万の軍勢が勢ぞろいしていた。ホバート王国の兄王であるイソロク=ホバートが弟王であるタモン=ホバートとの決着をつけるために募兵をおこなったからだ。ホバート王国の南部から、続々と領兵を率いる地方領主や、私財を投げ打って集めた私兵を率いる商人に近しい身分の者、名が売れている傭兵団などが一同に集まった。

 私兵300を率いる血濡れの女王ブラッディ・エーリカの団は、他の私兵を集めて参加した商人たちよりかは遥かに多い兵を抱えていた。しかし、それでも王都の前で彼らのまとめ役となっている武官には、それなりの傭兵団の規模程度としか印象を残せなかった。

「クロウリー様の言っていた通りね。ほんと、ここまであたしたちが無名だとは思わなかった」

「おいら、悔しいんだべさっ! 出稼ぎに行く場所場所でエーリカ姐さんの名前を広めたつもりだったんだべさっ!」

 ミンミン=ダベサはこの1年半以上もの期間、港町:ツールガを拠点として、出稼ぎをし続けていた。工夫こうふが寝泊まりするタコ部屋で、同じ出稼ぎの者たちに、エーリカ=スミスという麗しい美少女が世直しのために、近々、旗揚げをおこなう予定だと触れ回ったのだ。

 確かに、ミンミン=ダベサのおこなったことにより、若干十数名が血濡れの女王ブラッディ・エーリカの団員となった。もちろん、元賊徒であるコタロー=モンキーたちもミンミン=ダベサと同じことをしている。しかし、世の中にエーリカ=スミスの名を広めるには、ミンミン=ダベサやコタロー=モンキーたちだけでは広報力が足りな過ぎた。

「くっ! 魔物モンスターを1年で30体以上も退治したこのブルース=イーリンだと言うのに、お前だれだよ?? という顔をされたでござるっ! 魔物狩人モンスターハンターは女の子にモテモテだという話は嘘だったでござるかっ!?」

「それがしも魔物狩人モンスターハンターの仕事をしていたというのに、おのぼりさん、今晩いかが? と娼婦のお姉さんくらいしか声をかけてくれぬのだっ! パンツが渇く暇もないと言っていたクロウリー様はどこに雲隠れしやがった!」

 血濡れの女王ブラッディ・エーリカの隊長格を担うブルース=イーリン、アベルカーナ=モッチンは、団員たちを率いるための統率力、そして自身の武勇を高めるべく、魔の領域テリトリーを精力的に潰して回った。魔の領域テリトリーは特に古戦場と呼ばれる周辺で発生しやすい。大昔に一大商業都市であったアドンの町、そこからまっすぐ東にあるアシヤの町周辺はまさに古戦場だらけであった。

 しかしながら、いくらその周辺で名をあげようが、王都:キヤマクラからは遠すぎた。物理的距離もさることながら、それ以上に、王都:キヤマクラで盛んになっている話題が違い過ぎたと言えよう。王都民たちの目線は北東に向いていた。だからこそ、遥か西に位置するツールガの港町、今はさびれたアドンの町の周りで活躍しようが、決して、王都民たちの耳には届かなかったのだ。

 注目されていない西の地方の活躍など、誰も見向きもしなかった。それが現実である。切歯扼腕とする血濡れの女王ブラッディ・エーリカの団員たちをしり目に、タケル=ペルシックは受付への手続きが終わったと、血濡れの女王ブラッディ・エーリカの首魁に報告する。

「タケルお兄ちゃん、ありがとう。ああいう事務処理は配下に任せなさい、そうしないとエーリカ殿やセツラ殿の格が落ちてしまいますからっていうから」

「気にすんなって。お兄ちゃんは妹のために働くのが筋ってもんだ。あと、こいつらを受付に向かわせたら、トラブルを起こすのは必定だからなっ!」

 エーリカはさもありなんという表情になる。エーリカたちは王都に所属する武官から宿営用天幕をいくつかあてがわれた。その天幕のひとつに血濡れの女王ブラッディ・エーリカの隊長格を集めていた。そこにタケル=ペルシックが報告にあがったという図式になっている。

 王都に向かう際、エーリカは隊長格として、ブルース=イーリン、アベルカーナ=モッチン、ミンミン=ダベサ、コタロー=モンキーを始めとし、他数名を彼らの補佐として配置した。隊長格にはそれぞれに50人の兵士をあてがい、エーリカ本人は自分の直属として100人の新兵を置いた。そして、事務係を兼ねる紋章官として、傍らにタケル=ペルシックを置いた。

 ブルースとアベルの双璧の騎士たちが率いるのは元々はコタロー=モンキーたちに率いられ、テクロ大陸本土からホバート王国に流れ着いたベテランの元兵士たちである。

 普通はベテランと新兵をごっちゃにすべきなのでは? とコタロー=モンキーが軍師である大魔導士:クロウリー=ムーンライトに意見した。しかし、クロウリーはそんなことをすれば、軍全体としての威容が大きく下がると主張した。エーリカはクロウリーの言を受け入れ、新兵を直接、自分の指揮下に置くのであった。

 軍師:クロウリーの言っていることが正しいことが証明されるのにはそれほど時間はかからなかった。王都に向かう最中の町々で血濡れの女王ブラッディ・エーリカの団は少なからずも民衆の注目を浴びることになる。

 血濡れの女王ブラッディ・エーリカの団内の編成については、この後も色々とひと悶着起きるのだが、今はタケルが王都にあるどこの受付で手続きを終えてきたかの話に戻す。

「ホバート王国全体の軍の士気を上げるために、武術大会をおこなうってのは一見、効率は悪いように見えますが、寄せ集めの軍隊ですので致し方ないのでしょう。でも先生ならこんな回りくどいことはしたくありませんけどねっ!」

 ホバート王国の王都では、連日のように武術大会が開催されていた。その武術大会への出場者はホバート王国北部に君臨する弟王と戦う気がある者であれば、誰でも参加可能であった。王都の前に集まる傭兵団からも隊長格が続々とその武術大会に参加していたのだ。傭兵団は名が売れれば売れるほど、雇用者から高い賃金を払ってもらえるようになる。そして、同業者ライバルたちよりも目立つことも出来ると、一石二鳥の催しモノであった。

 しかし、その傭兵団たちが誤算も誤算だったのが、無名に近しいとある一団が隊長格では無く、首魁を出してきたことである。しかも、花も恥じらう年頃の女侍であった。

「勝者、血濡れの女王ブラッディ・エーリカ所属、いや、そのあるじであるエーリカ=スミス!」

 審判員が執り行われた試合の勝者の名前を大声で観衆たちに告げる。円形闘技場コロッセウムに集まる観衆たちは大きな拍手をエーリカ=スミスに送るのであった。エーリカは観衆たちに愛想良く右手を大きく振るのであった。そんな女侍の存在を不愉快に感じたのか、エーリカの次の相手がベッ! と汚い音を立てつつ、石畳に唾を吐きつけたのだ。

「ちっ! 女子供が神聖なる闘技場に足を踏み入れるのはいただけねえなぁ!?」
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