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第6章:心に傷を負う者たち

第10話:癒える傷心

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 エーリカは顔を紅潮させながら、涙が右眼から一筋流れ落ちる。なんだか胸のつかえが取れた気がした。自分はこの大戦おおいくさにおいて、周りのニンゲンを巻き込み、血濡れの女王ブラッディ・エーリカの団員のみならず、数多くのニンゲンたちを死地へと放り込んだ。

 考え過ぎと言われれば、それまでかもしれないが、エーリカは知らず知らずに心に大きな傷を負っていたのだ。それゆえに、自分は幸せになってはいけないニンゲンだと言い聞かせていた部分がある。だからこそ、セツラお姉ちゃんにタケルお兄ちゃんをあてがったり、周りが幸せになれるのなら、自分は不幸に陥っても良いと自分で自分を追い込んでいたのだ。

「あたしをもし好きだ好きだ愛してるって言ってくれる男が現れたら、あたしはそのひとを受け入れても良いの?」

「ああ、当然だろ。俺はそん時は、お前がエーリカを幸せに出来るわけがないだろっ! って、その男の顔面に一発良いのを入れる予定だけどなっ!」

「それって、あたしのパパの役目でしょっ! タケルお兄ちゃんのバカッ!」

 エーリカは零れ落ちる涙を右手で払いながら、タケルお兄ちゃんをバカだ、ナメクジだと虚仮にする。タケルはタケルでエーリカがいつもの妹に戻ってくれたことに安心感を得るのであった。

 エーリカは本当の意味で張り詰めていた気持ちが柔らかくなるのを感じる。ふぃぃぃと身体の奥底から凝り固まっていた空気を口から吐く。そして、温泉の湯で熱くなってしまった身体を冷ますべく、上半身のみを湯舟から出し、湯舟の縁にその上半身を預ける恰好となる。

 そして、タケルお兄ちゃんのほうにお尻を向けている恰好だというのに、気分上々といった感じで、身体の熱を冷ます。温泉愛好家ならわかってもらえるかもしれないが、湯舟の中に下半身を突っ込んだまま、縁の石畳部分に上半身を乗せるこの恰好はとてつもなく、温泉というちょうど良い感覚を満喫できるのだ。エーリカは十分に温泉を堪能し、先に上がるねとタケルお兄ちゃんに告げ、その場から去っていく。

 ひとり、貸切風呂に残されたタケルお兄ちゃんは、若さでプリップリッのお尻を揺らしまくっていたエーリカに激しく劣情してしまっていた。タケルのおちんこさんはフル勃起しており、あと30秒、エーリカがあの挑発的な恰好のままであったなら、間違いなく間違いが起きていたに違いなかった。

(あっぶねぇ……。俺は勝った……。エーリカに勝ったぞっ!!)

 タケルはグッ! と右腕全体に力を入れ、自分は妹に物理的に手を出さなかった偉いお兄ちゃんだという誇りに満ち溢れていた。タケルはわけのわからない自信をもってして、湯舟の中から身体全体を出すのであった。そして、猛ったおちんこさんを手で支えることもせずに、おちんこさんの先端は天に向かって突き抜けようとしていた。

「あっ、お兄ちゃん。昼食を食べた後は、皆で温泉街を回ってぇ~~~って、何してんの??」

「おぅ、ノゥゥゥ……」

「うん、あたしが悪かった。全部、あたしのせいにしていいから……。これをあたしだと思ってね? 返さなくていいから」

 エーリカはそう言うと、貸切風呂に入る前に脱いだ丸まったショーツをタケルお兄ちゃんの足元にポイッと投げ捨てるのであった。自分でもとんでもないことをしている自覚はあるエーリカである。エーリカとしては半ば面白半分にタケルお兄ちゃんをいじってみただけだ。野生に戻った獣から逃れるためにはニエが必要だとばかりに、履き替える前のショーツをニエに選んだのだ。

 武士の情けという言葉がある。タケルは風呂場に落ちているショーツと、エーリカを交互に見ている。エーリカはこれ以上の辱めをタケルお兄ちゃんに与えてはいけないとばかりに、脱衣所に戻り、さらには自室へと足を進めるのであった。そして、背中に狼がウォォォン! と雄叫びをあげる声を聞くのであった。

(さすがにからかいすぎちゃった。タケルお兄ちゃんが先祖返りジュウジンモードになりかけてたし。危ない危ない)

 エーリカは自室に戻ると浴衣姿のまま足を崩し、お茶請けに手を付けつつ、熱いお茶をすするのであった。中庭がよく見えるようにと横に開くタイプの扉が大きく開かれている。エーリカは部屋の中から外を見て、秋もすっかり深まっていってるわねと思うのであった。

「ふぅ……。良い汗をかいた。おっ。美味しそうな菓子じゃねえか。俺にももらえるか?」

「うん、どうぞ」

 エーリカはタケルお兄ちゃんのほうをまともに見ずに、左手でお茶請けが入った入れ物をタケルお兄ちゃんの方へと押し出すのであった。タケルはタケルで先ほどまでのことが無かったかのように振る舞っている。2人で静かにお茶請けをバリボリと音を立てながら、さらにはズズズ……と熱いお茶をすする。

「こうやって、ゆっくり出来るのはこれで最後かもしれんな」

「うん。そうかも。カズマさんにちゃんとお礼を言っておかないと」

「だな。テクロ大陸本土に飛び込んだら、温泉でゆったり命の洗濯なんざ、出来るとは到底思えないからな」

血濡れの女王ブラッディ・エーリカの皆には、これでもかってくらい辛い思いをさせるかもしれない。皆、あたしを信じてついてきてくれるかな?」

「そこは心配しなくても大丈夫だろ。それよりも、辛くなったらお兄ちゃんに甘えるんだぞ? エーリカはとことんまで自分を追い詰めるタイプだからなっ!」

「う~~~ん。どうしようかなあ。その見返りにまた、あたしのショーツをねだられても困るし。替えのショーツを手に入れれるかどうかで悩んじゃいそう」

 テクロ大陸本土はホバート王国とは違い、200年に渡り、戦国乱世の時代となっていた。ホバート王国で大戦おおいくさは起こったことは起こったが、全体で見れば、半年くらいしか直接対決をおこなっていないのだ。

 そういった事情しか体験していないエーリカたちにとって、テクロ大陸本土では、着る物の心配ならまだマシかもしれない。それどころか日々の食事すら満足にありつけることが出来ない状況に陥ってしまいかねないのではなかろうかという心配があった。

「色々と今からテクロ大陸本土のことを考えると、気が滅入っちゃう。いつも通り、出たとこ勝負になるかもだけど、それでも出来る限り、準備は整えておきたい」

「そこはうちの軍師のクロウリーと、その補佐のボンス=カレーの出番だろ。まあ、エーリカの着替えに関しては、さすがにタケル殿が世話をしてくださいって言われそうだけどなっ!」

「タケルお兄ちゃんは雑用係が妙に合うのよねぇ。でも、タケルお兄ちゃんにあたしの着替えの管理をさせることが間違いな気がするぅ~~~」

「おいおい。まーだ、さっきのことを引っ張ってるのか? 安心しろ。きっちり出すもの出して、先祖返りジュウジンモードは解いてき……うっ!?」

 タケルは油断していた。エーリカが体勢を崩し、さらには浴衣の裾をめくったのだ。そして、新しいショーツに履き替えたばかりのエーリカのプリップリッのお尻を見せつけられることになる。

「グッ! 俺の中の獣が再び眼を覚まそうとしているっ! エーリカ、俺から離れろっ!!」

「タケルお兄ちゃんのバーカッ! ケダモノォォォッッッ! いやあ、誰か助けてぇぇぇ! ナメクジに襲われちゃうぅぅぅ!!」
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