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第8章:在りし日の感傷
第8話:コッシローの気遣い
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「おい、起きろ。起きろでッチュウ! 今、お前が見ているのは過去の縁に由来して起きた『感傷』なのでッチュウ! 今のお前がそれに囚われては決していけないことなんでッチュウ!」
寝室になかなか現れないクロウリーを心配して、コッシローは執務室に戻ってきていた。そこでクロウリーを見つけたコッシローは慌てて、執務室の机に飛び乗り、さらにはそこを伝って、クロウリーの顔に張り付いていた。そして、小さなネズミの前足で何度もクロウリーの顔に張り手を喰らわせる。
クロウリーの唇は真っ青となり、さらにはクロウリーに巻き付いている紫色の蔦がクロウリーの身体を締め付けていた。コッシローはチッ! と盛大に舌打ちし、一度、クロウリーの顔から位置を変える。執務室の机の上に戻ったコッシローは後ろ足で立ち上がり、前足で魔法陣を描き出す。
そこから発動される魔術によって、クロウリーの身体を締め付ける紫色の蔦が明滅を繰り返す。コッシローは効果有りと見て、己の小さい身体からは想像できないほどの魔力を噴き上げる。それと同時にコッシローの背中には光り輝く痣が浮き出ていた。
「ハァハァハァ……。コッシローくん、助かりました。危うく10年分ほどの眠りに誘われるところでした」
「気をつけておけと散々、注意しておいたのにこのザマとはどういうことでッチュウか! ボクが先に寝ていたら、クロウリーは戻ってこれなくなっていたでッチュウよ!?」
「如何せん、ここ最近、働き詰めでしたから、身体だけでなく、精神の方も弱っていたのでしょう。そこにつけこんだ存在が、いつの間にか、先生の近くに忍び寄っていたということですね」
「そこまではわからないのでッチュウ。とりあえず、気付けに水でも飲んでおけでッチュウ」
コッシローは執務室の机の上から片付けられてない水差しを前足で指し示す。クロウリーはコッシローに促されるままに、コップを左手で持ち、右手で水差しを傾ける。コップの中に溜まった水をゴクゴクと一気に飲み干すクロウリーであった。そうすることで、ようやく、冷めきった身体に熱が湧いてくる。
「また眠るのが怖いのなら、ボクがクロウリーの抱き枕になってやるでッチュウ」
「出来るなら、可愛い女の子を抱き枕にしたいのですが」
「そんな冗談が言えるようなら、大丈夫そうでッチュウね。でも、クロウリーが抱き枕にしたいほどの女の子が血濡れの女王の団にいたでッチュウか?」
「それは女性陣にしばき倒され、さらには簀巻きにされ、川に放り込まれてしまうので、ノーコメントです」
クロウリーは女性らしい女性の体つきをした淑女が大好物だという自負がある。若さ溢れすぎな血濡れの女王の団において、自分の好みに合う女性など、全然、思い付きもしなかった。そいうことをわかって言ってるんでしょ? とばかりの表情をするクロウリーに対して、ヤレヤレ……と嘆息してしまうコッシローであった。
「まあ、性格はアレでっちゅうけど、出ているところは出てて、ひっこむところはひっこんでいるババアなら、クロウリーの知り合いにいるじゃないでッチュウか」
「大賢者:ヨーコ=タマモ殿のことを指して言ってます?? 彼女とは遥か昔に別れたと言ったじゃないですか。如何せん。彼女と先生では価値観がそもそも違いすぎました」
「でも、身体の相性が良いから別れづらかったという話も聞かされているのでッチュウ。クロウリーにも若い時期があったんでッチュウねえ??」
クロウリーはずけずけと痛い所を突いてくるコッシローに苦笑いする他無かった。クロウリーはそんなコッシローを躱すべく、わざわざ、もう1杯、水を飲み干す。そして、冷や汗だらけの身体が気持ち悪いと感じ、寝る前に身体を軽く洗おうかと考えた。
「気持ちはわからないでもないでッチュウけど、この1月の夜空の中、この時間帯に空いている蒸し風呂を探しにいくのでッチュウ?」
「血濡れの女王の団もかなり名が売れてきているおかげもあって、その団の代表者のひとりである自分が娼館のお風呂にでも入りに行ったら、エーリカ殿にどぎつい説教を喰らってしまいます」
「心と身体の洗濯は男に必要だっ! とコタロー=モンキーみたいに言い訳すれば良いんじゃないでッチュウ?」
「あんな常時、先祖返りを発動、さらには維持しているコタロー殿と一緒に見られるのが恥そのものですよ」
「それもそうでッチュウね。コタローたち曰く、これは来たる日に向けての精神修行だー! とか、ほざいてるでッチュウ。あいつら、いつも月末には給料の前借りを申し出てきているのでッチュウ。そろそろ、去勢した方が良いんじゃないでッチュウ?」
コッシローの冗談にブフッと噴き出してしまうクロウリーであった。コタローはコタローとしての考えがあって、娼館に通っているのだ。特定の誰かを嫁にするのは控えているという感じだ。コタローたちは血濡れの女王の団における年長組である。そういうことにまったくもって無関心かつ年齢も行ってしまっているアイス=キノレやキョーコ=モトカードに比べれば、まだまだ彼らは働き盛りのお年頃だ。
そんなコタローたちが、未だに娼館に勤める女性にしか手を出していないということは、立派でありながらも後ろめたい考えがあってのことだと考える、クロウリーであった。軍隊に所属する以上、どこかで自分の死をイメージしておかなければならない。実際に自分が死んだ時に、残された者たちのことも同時に考えておかなければならないのだ。
「エーリカ殿はいくら強欲の聖痕持ちと言えども、16歳の若さでよくやっていますよ」
「本当、そこに関しては感心するばかりでッチュウ。普通なら、責任感の重さで潰れてしまっても、誰からも文句を言えないのにでッチュウ」
「だからこそ、先生たちがエーリカ殿を支えなければなりません」
「だからと言って、寝食を忘れて、仕事に没頭しすぎてもダメでッチュウ。明日は朝から久しぶりに趣味のお菓子作りに励むでッチュウ」
「それは良いですね。久しく忘れていましたよ。作り置きをポンポン、狭間の地に放り込んでいましたけど、そろそろ、新しく作り置きしておかなければならないでしょうし」
クロウリーは寝室のベッドでコッシローくんを抱き枕にして眠った後に、屋敷に居るメンバーでお菓子作りに精を出そうとするのであった。クロウリーが目覚めたのは、クロウリー自身も驚くほどであった。
「おっす、おはようさん」
「おはようじゃありませんよ……。おそよーさんですよ。ああ、タケル殿みたいに昼過ぎまで寝てました」
「エーリカが時折、寝室に様子を見にいったらしいけど、コッシローにあっちいけしっしっし! って追い出されたみたいだぞ。あんまり、根詰めてんじゃねえぞ。本番はテクロ大陸本土に到着してからなんだからよ」
寝室になかなか現れないクロウリーを心配して、コッシローは執務室に戻ってきていた。そこでクロウリーを見つけたコッシローは慌てて、執務室の机に飛び乗り、さらにはそこを伝って、クロウリーの顔に張り付いていた。そして、小さなネズミの前足で何度もクロウリーの顔に張り手を喰らわせる。
クロウリーの唇は真っ青となり、さらにはクロウリーに巻き付いている紫色の蔦がクロウリーの身体を締め付けていた。コッシローはチッ! と盛大に舌打ちし、一度、クロウリーの顔から位置を変える。執務室の机の上に戻ったコッシローは後ろ足で立ち上がり、前足で魔法陣を描き出す。
そこから発動される魔術によって、クロウリーの身体を締め付ける紫色の蔦が明滅を繰り返す。コッシローは効果有りと見て、己の小さい身体からは想像できないほどの魔力を噴き上げる。それと同時にコッシローの背中には光り輝く痣が浮き出ていた。
「ハァハァハァ……。コッシローくん、助かりました。危うく10年分ほどの眠りに誘われるところでした」
「気をつけておけと散々、注意しておいたのにこのザマとはどういうことでッチュウか! ボクが先に寝ていたら、クロウリーは戻ってこれなくなっていたでッチュウよ!?」
「如何せん、ここ最近、働き詰めでしたから、身体だけでなく、精神の方も弱っていたのでしょう。そこにつけこんだ存在が、いつの間にか、先生の近くに忍び寄っていたということですね」
「そこまではわからないのでッチュウ。とりあえず、気付けに水でも飲んでおけでッチュウ」
コッシローは執務室の机の上から片付けられてない水差しを前足で指し示す。クロウリーはコッシローに促されるままに、コップを左手で持ち、右手で水差しを傾ける。コップの中に溜まった水をゴクゴクと一気に飲み干すクロウリーであった。そうすることで、ようやく、冷めきった身体に熱が湧いてくる。
「また眠るのが怖いのなら、ボクがクロウリーの抱き枕になってやるでッチュウ」
「出来るなら、可愛い女の子を抱き枕にしたいのですが」
「そんな冗談が言えるようなら、大丈夫そうでッチュウね。でも、クロウリーが抱き枕にしたいほどの女の子が血濡れの女王の団にいたでッチュウか?」
「それは女性陣にしばき倒され、さらには簀巻きにされ、川に放り込まれてしまうので、ノーコメントです」
クロウリーは女性らしい女性の体つきをした淑女が大好物だという自負がある。若さ溢れすぎな血濡れの女王の団において、自分の好みに合う女性など、全然、思い付きもしなかった。そいうことをわかって言ってるんでしょ? とばかりの表情をするクロウリーに対して、ヤレヤレ……と嘆息してしまうコッシローであった。
「まあ、性格はアレでっちゅうけど、出ているところは出てて、ひっこむところはひっこんでいるババアなら、クロウリーの知り合いにいるじゃないでッチュウか」
「大賢者:ヨーコ=タマモ殿のことを指して言ってます?? 彼女とは遥か昔に別れたと言ったじゃないですか。如何せん。彼女と先生では価値観がそもそも違いすぎました」
「でも、身体の相性が良いから別れづらかったという話も聞かされているのでッチュウ。クロウリーにも若い時期があったんでッチュウねえ??」
クロウリーはずけずけと痛い所を突いてくるコッシローに苦笑いする他無かった。クロウリーはそんなコッシローを躱すべく、わざわざ、もう1杯、水を飲み干す。そして、冷や汗だらけの身体が気持ち悪いと感じ、寝る前に身体を軽く洗おうかと考えた。
「気持ちはわからないでもないでッチュウけど、この1月の夜空の中、この時間帯に空いている蒸し風呂を探しにいくのでッチュウ?」
「血濡れの女王の団もかなり名が売れてきているおかげもあって、その団の代表者のひとりである自分が娼館のお風呂にでも入りに行ったら、エーリカ殿にどぎつい説教を喰らってしまいます」
「心と身体の洗濯は男に必要だっ! とコタロー=モンキーみたいに言い訳すれば良いんじゃないでッチュウ?」
「あんな常時、先祖返りを発動、さらには維持しているコタロー殿と一緒に見られるのが恥そのものですよ」
「それもそうでッチュウね。コタローたち曰く、これは来たる日に向けての精神修行だー! とか、ほざいてるでッチュウ。あいつら、いつも月末には給料の前借りを申し出てきているのでッチュウ。そろそろ、去勢した方が良いんじゃないでッチュウ?」
コッシローの冗談にブフッと噴き出してしまうクロウリーであった。コタローはコタローとしての考えがあって、娼館に通っているのだ。特定の誰かを嫁にするのは控えているという感じだ。コタローたちは血濡れの女王の団における年長組である。そういうことにまったくもって無関心かつ年齢も行ってしまっているアイス=キノレやキョーコ=モトカードに比べれば、まだまだ彼らは働き盛りのお年頃だ。
そんなコタローたちが、未だに娼館に勤める女性にしか手を出していないということは、立派でありながらも後ろめたい考えがあってのことだと考える、クロウリーであった。軍隊に所属する以上、どこかで自分の死をイメージしておかなければならない。実際に自分が死んだ時に、残された者たちのことも同時に考えておかなければならないのだ。
「エーリカ殿はいくら強欲の聖痕持ちと言えども、16歳の若さでよくやっていますよ」
「本当、そこに関しては感心するばかりでッチュウ。普通なら、責任感の重さで潰れてしまっても、誰からも文句を言えないのにでッチュウ」
「だからこそ、先生たちがエーリカ殿を支えなければなりません」
「だからと言って、寝食を忘れて、仕事に没頭しすぎてもダメでッチュウ。明日は朝から久しぶりに趣味のお菓子作りに励むでッチュウ」
「それは良いですね。久しく忘れていましたよ。作り置きをポンポン、狭間の地に放り込んでいましたけど、そろそろ、新しく作り置きしておかなければならないでしょうし」
クロウリーは寝室のベッドでコッシローくんを抱き枕にして眠った後に、屋敷に居るメンバーでお菓子作りに精を出そうとするのであった。クロウリーが目覚めたのは、クロウリー自身も驚くほどであった。
「おっす、おはようさん」
「おはようじゃありませんよ……。おそよーさんですよ。ああ、タケル殿みたいに昼過ぎまで寝てました」
「エーリカが時折、寝室に様子を見にいったらしいけど、コッシローにあっちいけしっしっし! って追い出されたみたいだぞ。あんまり、根詰めてんじゃねえぞ。本番はテクロ大陸本土に到着してからなんだからよ」
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