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第8章:在りし日の感傷
第9話:紅き竜のタマゴ
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クロウリーは午後からの予定が特に無いタケルを伴って、屋敷の調理室へと移動する。調理器具をテーブルの上へと次々と並べ、何も無い空間から、大量の牛乳と砂糖が入った大袋を取り出す。ここで、クロウリーは何もない空間の向こう側の場所で、両手を泳がすことになった。
「う~~~ん。困りましたね。肝心の紅き竜のタマゴが在庫切れを起こしています。焼きプリンやカスタードにするなら、紅き竜のタマゴが最適解なのですが」
「そりゃ、困ったな。紅き竜のタマゴだけ、在庫切れなのか?」
「その通りです。碧玉の竜、蒼き竜、雷鳴の竜と他は一通り残っているのですが、こういう時に限って、1番欲しいのが無いんですよね。この現象に何か名前をつけるべきなのでしょうか?」
「まあ、現象の名前を考える前に、さっさと竜の住処に行ってきて、5~6個、拾ってこようぜ」
クロウリーはそれもそうですねと思ってしまう。あそこで修行中のアイス殿やキョーコ殿に野太い声援をついに送りにいくのも悪くない。クロウリーは何もない空間の向こう側から魔法の杖を取り出す。それを右手で持ち、魔法の杖の先端で、コンコンと軽快に2度、空間の表面をノックする。
その途端、空間の表面が水滴でも落ちたかのように、キレイな波紋が産まれるのであった。そして、その波紋は長方形の形で収束していく。クロウリーは上手くいきましたねと呟き、長方形に固まった空間を左手で向こう側へと押しやるのであった。
(チュッチュッチュ。キョーコが見たら、目ん玉を剥き出しにしながら唖然としそうでッチュウ。キョーコは腕力で無理やりダンジョンの入り口をこじ開けていたけど、クロウリーはさすがに空間魔術の使い手なだけあって、ゲートの美しさがダントツで違うのでッチュウ)
コッシローは自分と魂を分け合った存在であるクロウリーの魔術の腕前を、我がごとのように誇らしく感じた。そんなご満悦なコッシローに対して、クロウリーはさも、今から自分の屋敷の庭にでも散策してくるといった口調で、少し寄り道しますけど、そほれど時間をかけずに戻ってきますねと告げる。
クロウリーはタケルと共に、今作ったばかりのゲートをくぐり抜けていく。そんな彼らを待ち構えていたのは骨だけとなってしまった竜の死骸群であった。
「うぉ。こりゃけっこうな数だな。ひぃふぅみぃ。全部で10体くらい、竜を喰っちまってんじゃねえのか? あの2人」
「筋肉隆々で女の子にモテモテになりたいんだけど、何を食べたらいいですか? そりゃ肉に決まってんだろ! ってのを地で行っていますね。しっかし、これまたキレイに食べてしますね、まったく喰い残しをしていませんよ。キョーコ殿たちに食べられた竜も、満足しているに違いませんよ」
「本来なら、食う側は竜の方なんだけどな。しっかし、竜の住処に住む竜の成長が早いからっていっても、さすがにハイペースすぎる気がするなぁ」
下手をすれば、キョーコとアイスの2人で竜の住処内に居る全ての竜を平らげてしまのではなかろうかという一抹の不安に襲われるタケルであった。
だが、そんなことを気にして、相手を打倒することに躊躇すれば、今度は自分が竜の腹の中に収められてしまうよな弱肉強食すぎる世界であった、この場所は。タケルは骨だけになった竜たちにナンマンダブナンマンダブと念仏を唱えることだけで済ませる。
「それだけ修行に没頭できている証でもあります。さて、彼女たちはどのあたりまで進んでいるのでしょうか。第3関門の雷鳴の竜を突破出来るか出来ないかあたりでしょうか?」
「コッシローの観測からの予想では、今のキョーコの力だと、そこ辺りが限界だろうってことだったっけ? 俺は詳しい理屈がさっぱりわからんが、お前らの評価はおおむね正しいと思ってる」
「信用してくださって光栄です。ちなみに今のタケル殿では、入口付近でたむろしている竜と相打ちになる程度です。もうちょっと、しっかりエーリカ殿の役に立とうしてくれませんかね??」
「う、うるせー! 俺は俺のペースで修行してんだよっ! 拳王と比較されるだけ間違ってんだろうがよっ!」
クロウリーはヤレヤレ……と嘆息してしまう。自分の曖昧になっている記憶部分を掘り返す限り、自分がタケル殿の家庭教師を務めていた時から比べて、今のタケル殿はかなりの力を失くしてしまっている。タケル殿が失踪してから、クロウリーが彼と出会うまでの期間、タケル殿の身に何が起きたのだろう? と不思議でならないのであった。
(まあ、どうせ、女の尻の肉付きでもニヤニヤと観察しながら、惰眠を貪っていたのでしょう。なるべくしてなったとしか言い様がありません、今のタケル殿を見ていると。たまに寝言で先生の知らない女性の名前を出していますし……)
タケルはごくたまにではあるが、寝言でとある女性の名前を出してしまう。それを本当にたまたま聞いたセツラがムカッ! とした表情になり、エーリカにタケルさんがまた私たちの知らない女性の名前を寝言で呟いていると報告してしまったりする。
その度に、気持ちよく寝ていたタケルは、エーリカに蹴っ飛ばされてベッドから転げ落ち、さらにはその脚で腹を踏んづけられて叩き起こされる。さらにはエーリカとセツラの前で、意味もわからないままに土下座からの弁明をさせられるという地獄のセットを朝からかましている時がある。
(セツラ殿も、こんなぼんくらのどこが良いんでしょうね。タケル殿がセツラ殿の気持ちにまったく気づいていないおかげで、血濡れの女王の団全体がてんやわんやの大騒ぎになっていない。ただただ、タケル殿は良い意味でも悪い意味でも天然のタラシですよ)
ここ、1~2週間、クロウリーが把握しているだけでも、血濡れの女王の団内で、カップルが20組ほど成立している。軍隊というのは同じ釜の飯を食べている組織なだけはあり、気づけば、いつの間にかくっついていたというカップルが多い。
まだまだ寒い時期だというのに、お熱いことでとタケルは呑気なことを言っている。カップル成立が21組になっていないのは、良い意味でも悪い意味でもタケル殿のせいですよとツッコンでやりたい気持ちを抑えているクロウリーであった。
そんなタケルとセツラの事情は置いておいて、目的の紅き竜のタマゴを収穫するべく、クロウリーたちは紅き竜の巣へと足を踏み入れる。
「う~~~ん。困りましたね。肝心の紅き竜のタマゴが在庫切れを起こしています。焼きプリンやカスタードにするなら、紅き竜のタマゴが最適解なのですが」
「そりゃ、困ったな。紅き竜のタマゴだけ、在庫切れなのか?」
「その通りです。碧玉の竜、蒼き竜、雷鳴の竜と他は一通り残っているのですが、こういう時に限って、1番欲しいのが無いんですよね。この現象に何か名前をつけるべきなのでしょうか?」
「まあ、現象の名前を考える前に、さっさと竜の住処に行ってきて、5~6個、拾ってこようぜ」
クロウリーはそれもそうですねと思ってしまう。あそこで修行中のアイス殿やキョーコ殿に野太い声援をついに送りにいくのも悪くない。クロウリーは何もない空間の向こう側から魔法の杖を取り出す。それを右手で持ち、魔法の杖の先端で、コンコンと軽快に2度、空間の表面をノックする。
その途端、空間の表面が水滴でも落ちたかのように、キレイな波紋が産まれるのであった。そして、その波紋は長方形の形で収束していく。クロウリーは上手くいきましたねと呟き、長方形に固まった空間を左手で向こう側へと押しやるのであった。
(チュッチュッチュ。キョーコが見たら、目ん玉を剥き出しにしながら唖然としそうでッチュウ。キョーコは腕力で無理やりダンジョンの入り口をこじ開けていたけど、クロウリーはさすがに空間魔術の使い手なだけあって、ゲートの美しさがダントツで違うのでッチュウ)
コッシローは自分と魂を分け合った存在であるクロウリーの魔術の腕前を、我がごとのように誇らしく感じた。そんなご満悦なコッシローに対して、クロウリーはさも、今から自分の屋敷の庭にでも散策してくるといった口調で、少し寄り道しますけど、そほれど時間をかけずに戻ってきますねと告げる。
クロウリーはタケルと共に、今作ったばかりのゲートをくぐり抜けていく。そんな彼らを待ち構えていたのは骨だけとなってしまった竜の死骸群であった。
「うぉ。こりゃけっこうな数だな。ひぃふぅみぃ。全部で10体くらい、竜を喰っちまってんじゃねえのか? あの2人」
「筋肉隆々で女の子にモテモテになりたいんだけど、何を食べたらいいですか? そりゃ肉に決まってんだろ! ってのを地で行っていますね。しっかし、これまたキレイに食べてしますね、まったく喰い残しをしていませんよ。キョーコ殿たちに食べられた竜も、満足しているに違いませんよ」
「本来なら、食う側は竜の方なんだけどな。しっかし、竜の住処に住む竜の成長が早いからっていっても、さすがにハイペースすぎる気がするなぁ」
下手をすれば、キョーコとアイスの2人で竜の住処内に居る全ての竜を平らげてしまのではなかろうかという一抹の不安に襲われるタケルであった。
だが、そんなことを気にして、相手を打倒することに躊躇すれば、今度は自分が竜の腹の中に収められてしまうよな弱肉強食すぎる世界であった、この場所は。タケルは骨だけになった竜たちにナンマンダブナンマンダブと念仏を唱えることだけで済ませる。
「それだけ修行に没頭できている証でもあります。さて、彼女たちはどのあたりまで進んでいるのでしょうか。第3関門の雷鳴の竜を突破出来るか出来ないかあたりでしょうか?」
「コッシローの観測からの予想では、今のキョーコの力だと、そこ辺りが限界だろうってことだったっけ? 俺は詳しい理屈がさっぱりわからんが、お前らの評価はおおむね正しいと思ってる」
「信用してくださって光栄です。ちなみに今のタケル殿では、入口付近でたむろしている竜と相打ちになる程度です。もうちょっと、しっかりエーリカ殿の役に立とうしてくれませんかね??」
「う、うるせー! 俺は俺のペースで修行してんだよっ! 拳王と比較されるだけ間違ってんだろうがよっ!」
クロウリーはヤレヤレ……と嘆息してしまう。自分の曖昧になっている記憶部分を掘り返す限り、自分がタケル殿の家庭教師を務めていた時から比べて、今のタケル殿はかなりの力を失くしてしまっている。タケル殿が失踪してから、クロウリーが彼と出会うまでの期間、タケル殿の身に何が起きたのだろう? と不思議でならないのであった。
(まあ、どうせ、女の尻の肉付きでもニヤニヤと観察しながら、惰眠を貪っていたのでしょう。なるべくしてなったとしか言い様がありません、今のタケル殿を見ていると。たまに寝言で先生の知らない女性の名前を出していますし……)
タケルはごくたまにではあるが、寝言でとある女性の名前を出してしまう。それを本当にたまたま聞いたセツラがムカッ! とした表情になり、エーリカにタケルさんがまた私たちの知らない女性の名前を寝言で呟いていると報告してしまったりする。
その度に、気持ちよく寝ていたタケルは、エーリカに蹴っ飛ばされてベッドから転げ落ち、さらにはその脚で腹を踏んづけられて叩き起こされる。さらにはエーリカとセツラの前で、意味もわからないままに土下座からの弁明をさせられるという地獄のセットを朝からかましている時がある。
(セツラ殿も、こんなぼんくらのどこが良いんでしょうね。タケル殿がセツラ殿の気持ちにまったく気づいていないおかげで、血濡れの女王の団全体がてんやわんやの大騒ぎになっていない。ただただ、タケル殿は良い意味でも悪い意味でも天然のタラシですよ)
ここ、1~2週間、クロウリーが把握しているだけでも、血濡れの女王の団内で、カップルが20組ほど成立している。軍隊というのは同じ釜の飯を食べている組織なだけはあり、気づけば、いつの間にかくっついていたというカップルが多い。
まだまだ寒い時期だというのに、お熱いことでとタケルは呑気なことを言っている。カップル成立が21組になっていないのは、良い意味でも悪い意味でもタケル殿のせいですよとツッコンでやりたい気持ちを抑えているクロウリーであった。
そんなタケルとセツラの事情は置いておいて、目的の紅き竜のタマゴを収穫するべく、クロウリーたちは紅き竜の巣へと足を踏み入れる。
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