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第8章:在りし日の感傷
第10話:お菓子作り
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紅き竜のメスたちは巣に入り込んだ人物を威嚇しようと鎌首をもたげる。フシューフシューと上顎と下顎の隙間から高温の焔を漏れ出させていた。そんな彼女たちに対して、クロウリーはまるで敵意はありませんよとばかりにニッコリと微笑みかける。しかしながら、紅き竜のメスたちはゾクッ! と身体全体が震えあがってしまった。
この世の中に喰う側と喰われる側があれば、竜は喰う側の立場に回ることが圧倒的に多い。だが、今、自分たちに向かって友好的な笑みを浮かべている人物は、笑顔という薄っぺらい仮面をつけているだけの悪しき存在にしか思えなかった。その薄っぺらい仮面の向こう側に見えるモノ。それはシンプルに『死』であった。
紅き竜たちはまるで負け犬のように服従する姿をクロウリーに晒す。そうすることで、自分だけは見逃してもらおうという生命の最も汚らしい部分をクロウリーに見せたのだ。だが、そんなことで怒るクローリーではない。彼は絶対強者なのだ。絶対強者は絶対強者としての誇りがある。負け犬とは訳が違うのだ。
「争いを回避出来たことを嬉しく思います。では、戦利品として、タマゴを6個ほど、もらっていきますね」
クロウリーは礼儀正しく、紅き竜のメスたちに頭を下げる。決着はついたとばかりにタケルが縮みこまっている紅き竜の足元をまさぐる。目的であった紅き竜のタマゴをクロウリーの領域内に運び込んでいく。
「んじゃ、また来るわ。お前らも先にこっちに来ている俺らの同胞に喰われて災難だろうが、俺らはお前らを絶滅させようとしてるわけじゃない。ただ、お互いに共存する道を模索してる段階なだけだ」
「言っている意味がよくわかりませんよ、タケル殿」
「んーーー? なんとなくわかってもらえりゃいいかなって。竜って、そんじょそこらのニンゲンより、よっぽど頭が良いだろ? じゃあ、こんな風にインテリ風に表現してみようかなって」
「エーリカ殿がこの場に居たら、キョトンとした顔つきで、タケルお兄ちゃん、バカがバカを突き抜けて、ついに狂っちゃった? って割りと真顔で心配されそうですね」
「あーーー。俺もそれがありありと想像できた……。やっぱ、バカはバカなりにシンプルな方がいいな」
それでこそタケル殿ですと言いたげな表情になるクロウリーであった。タケルはバカはバカでも反省できる好感度が高いバカに分類できる。こういうところが、タケルの可愛いところなのだ。心底からのバカはただの愚者である。可愛げのあるバカは愛でるべきバカなのだ。
だからこそ、タケルは血濡れの女王の団において、皆からの良い意味でのいじられキャラになっていられる。そういうところも含めて、タケル殿の才能なのだろうとクローリーはそう感じている。
そんなタケル殿にひとつだけ、忠告しておくべきことは、無自覚に女を堕とすなということだ。今のところ、天然タラシのタケルの被害者は、自分に自制が効きまくっているセツラ殿だけで済んでいるのは奇跡と言っても良い。それもこれも、エーリカとセツラがセットで、タケルを人前でも構わずに、その場で正座! をさせているからだろう。
世の中、何が功を奏すかわからない。タケルに関するこれら一連の流れを『瓢箪から駒』とでもいうべきなのだろうかと思い悩むクロウリーであった。だが、考えたところで仕方ない。もしかすると、創造主:Y.O.N.N様レベルが操作していることなのかもしれないのだ。かの存在の介入を疑わせるくらいに、タケル殿の取る行動が神がかっている時がある。
「さて、考えても仕方無いですね。さっさと調理場に戻って、焼きプリンを作りましょう。作った側から、血濡れの女王の幹部たちが試食会を始めるかもしれませんが」
「まあ、味見してくれるんなら、いいんじゃないの? 味見で済んでねえだろ、ミンミーーーン! ってやつもいるけどさ」
タケルの言にプフッ! と噴き出すクロウリーであった。何はともあれ、クロウリーは何もない空間から再び魔法の杖を取り出し、それで何も無い空間の表面をコンコンと軽く2度ノックする。出来上がったゲートをくぐり、元の世界に戻っていく。
2人の姿が消えてから、ようやく紅き竜のメスたちは安堵の息を漏らすことになる。出来るならば、二度と来てほしくない連中だ。だが、そんなことは絶対にないだろうと思ってしまう紅き竜のメスたちであった。
クロウリーはコッシローにただいまと告げる。しかし、お帰りなさいと答えた人数がおかしかった。
「えっと……。鼻の利くミンミン殿なら、予想済みなんですけど、さすがに皆さんが勢ぞろいしているとは思っていませんでした」
屋敷の調理室には血濡れの女王の幹部たちが勢ぞろいしていた。しかも、今の今まで同じ竜の住処の中に居たはずであろうアイスやキョーコまでもが揃っていたのだ。
「皆、そろそろ、クロウリーのほっぺたが蕩けるお菓子を食べたいなぁって、思ってたのよね。でも、まさか、皆が集まるなんて笑っちゃう!」
「ミンミンさんは当然、この場にいるのはもはや確定事項なんですけど、私も皆さんが勢ぞろいするとは思いませんでしたわ」
エーリカとセツラは午前の練兵中において、クロウリーにお菓子を作ってもらいましょっ、ふたりでっ! で意気投合していた。そして、いつもこの時間帯辺りにクロウリーがお菓子作りを始めるはずなので、それに合わせて、調理場に向かおうとした。
その道すがら、ブルースがケージとランを伴っていた。彼らはエーリカたちに遭遇するなり、あんたたちもなの? とエーリカに言われ、さらには大笑いされてしまう。ブルースは何がそんなにおかしいのでござるか……と嘆息してしまう。
しかし、そこに畳み込むように、アベル、アベルの未来の嫁確定のレイヨン、そして、このイベントに欠かせないミンミンが現れる。エーリカは床で苦しそうにお腹を抱えて笑ってしまう。その笑い姿に耐えきれなくなったセツラも両膝を床について笑いだす。
「むむ……。廊下で大渋滞が起きている。激しい運動の後には甘いデザートと思い、クロウリー殿に何かないかと尋ねにきたのだが……」
「アヤメちゃんは栗の花の匂いで鼻がおかしくなってしまったので、それを治療するためにクロウリー様の御菓子をいただきにきただけですニャン! 決して、ロビンの旦那とひとつのお菓子を半分こにして、ダーリン、食べさせて? あ~~~んを楽しみにきたわけではありませんニャン!!」
この世の中に喰う側と喰われる側があれば、竜は喰う側の立場に回ることが圧倒的に多い。だが、今、自分たちに向かって友好的な笑みを浮かべている人物は、笑顔という薄っぺらい仮面をつけているだけの悪しき存在にしか思えなかった。その薄っぺらい仮面の向こう側に見えるモノ。それはシンプルに『死』であった。
紅き竜たちはまるで負け犬のように服従する姿をクロウリーに晒す。そうすることで、自分だけは見逃してもらおうという生命の最も汚らしい部分をクロウリーに見せたのだ。だが、そんなことで怒るクローリーではない。彼は絶対強者なのだ。絶対強者は絶対強者としての誇りがある。負け犬とは訳が違うのだ。
「争いを回避出来たことを嬉しく思います。では、戦利品として、タマゴを6個ほど、もらっていきますね」
クロウリーは礼儀正しく、紅き竜のメスたちに頭を下げる。決着はついたとばかりにタケルが縮みこまっている紅き竜の足元をまさぐる。目的であった紅き竜のタマゴをクロウリーの領域内に運び込んでいく。
「んじゃ、また来るわ。お前らも先にこっちに来ている俺らの同胞に喰われて災難だろうが、俺らはお前らを絶滅させようとしてるわけじゃない。ただ、お互いに共存する道を模索してる段階なだけだ」
「言っている意味がよくわかりませんよ、タケル殿」
「んーーー? なんとなくわかってもらえりゃいいかなって。竜って、そんじょそこらのニンゲンより、よっぽど頭が良いだろ? じゃあ、こんな風にインテリ風に表現してみようかなって」
「エーリカ殿がこの場に居たら、キョトンとした顔つきで、タケルお兄ちゃん、バカがバカを突き抜けて、ついに狂っちゃった? って割りと真顔で心配されそうですね」
「あーーー。俺もそれがありありと想像できた……。やっぱ、バカはバカなりにシンプルな方がいいな」
それでこそタケル殿ですと言いたげな表情になるクロウリーであった。タケルはバカはバカでも反省できる好感度が高いバカに分類できる。こういうところが、タケルの可愛いところなのだ。心底からのバカはただの愚者である。可愛げのあるバカは愛でるべきバカなのだ。
だからこそ、タケルは血濡れの女王の団において、皆からの良い意味でのいじられキャラになっていられる。そういうところも含めて、タケル殿の才能なのだろうとクローリーはそう感じている。
そんなタケル殿にひとつだけ、忠告しておくべきことは、無自覚に女を堕とすなということだ。今のところ、天然タラシのタケルの被害者は、自分に自制が効きまくっているセツラ殿だけで済んでいるのは奇跡と言っても良い。それもこれも、エーリカとセツラがセットで、タケルを人前でも構わずに、その場で正座! をさせているからだろう。
世の中、何が功を奏すかわからない。タケルに関するこれら一連の流れを『瓢箪から駒』とでもいうべきなのだろうかと思い悩むクロウリーであった。だが、考えたところで仕方ない。もしかすると、創造主:Y.O.N.N様レベルが操作していることなのかもしれないのだ。かの存在の介入を疑わせるくらいに、タケル殿の取る行動が神がかっている時がある。
「さて、考えても仕方無いですね。さっさと調理場に戻って、焼きプリンを作りましょう。作った側から、血濡れの女王の幹部たちが試食会を始めるかもしれませんが」
「まあ、味見してくれるんなら、いいんじゃないの? 味見で済んでねえだろ、ミンミーーーン! ってやつもいるけどさ」
タケルの言にプフッ! と噴き出すクロウリーであった。何はともあれ、クロウリーは何もない空間から再び魔法の杖を取り出し、それで何も無い空間の表面をコンコンと軽く2度ノックする。出来上がったゲートをくぐり、元の世界に戻っていく。
2人の姿が消えてから、ようやく紅き竜のメスたちは安堵の息を漏らすことになる。出来るならば、二度と来てほしくない連中だ。だが、そんなことは絶対にないだろうと思ってしまう紅き竜のメスたちであった。
クロウリーはコッシローにただいまと告げる。しかし、お帰りなさいと答えた人数がおかしかった。
「えっと……。鼻の利くミンミン殿なら、予想済みなんですけど、さすがに皆さんが勢ぞろいしているとは思っていませんでした」
屋敷の調理室には血濡れの女王の幹部たちが勢ぞろいしていた。しかも、今の今まで同じ竜の住処の中に居たはずであろうアイスやキョーコまでもが揃っていたのだ。
「皆、そろそろ、クロウリーのほっぺたが蕩けるお菓子を食べたいなぁって、思ってたのよね。でも、まさか、皆が集まるなんて笑っちゃう!」
「ミンミンさんは当然、この場にいるのはもはや確定事項なんですけど、私も皆さんが勢ぞろいするとは思いませんでしたわ」
エーリカとセツラは午前の練兵中において、クロウリーにお菓子を作ってもらいましょっ、ふたりでっ! で意気投合していた。そして、いつもこの時間帯辺りにクロウリーがお菓子作りを始めるはずなので、それに合わせて、調理場に向かおうとした。
その道すがら、ブルースがケージとランを伴っていた。彼らはエーリカたちに遭遇するなり、あんたたちもなの? とエーリカに言われ、さらには大笑いされてしまう。ブルースは何がそんなにおかしいのでござるか……と嘆息してしまう。
しかし、そこに畳み込むように、アベル、アベルの未来の嫁確定のレイヨン、そして、このイベントに欠かせないミンミンが現れる。エーリカは床で苦しそうにお腹を抱えて笑ってしまう。その笑い姿に耐えきれなくなったセツラも両膝を床について笑いだす。
「むむ……。廊下で大渋滞が起きている。激しい運動の後には甘いデザートと思い、クロウリー殿に何かないかと尋ねにきたのだが……」
「アヤメちゃんは栗の花の匂いで鼻がおかしくなってしまったので、それを治療するためにクロウリー様の御菓子をいただきにきただけですニャン! 決して、ロビンの旦那とひとつのお菓子を半分こにして、ダーリン、食べさせて? あ~~~んを楽しみにきたわけではありませんニャン!!」
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