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第12章:アデレート王国

第4話:ゴコウの町

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「では、エーリカ様の許可も出ましたし、さっそく血濡れの女王ブラッディ・エーリカの団に加入してもらいます。所属先に関しては後日になることはご容赦ください」

「はっ! ありがたき幸せ。誠心誠意、エーリカ様に仕えさせていただきます」

「叔父は胡散臭いが有能だから、こき使ってくだされ。では、家に戻り、支度を整えてきます!」

 カキンとコッサンは拱手きょうしゅした後、エーリカの前から退出していく。エーリカはヤレヤレ……と言った感じで息を吐く。そして、再び水を張った桶を用意させ、その桶の中に足を入れるのであった。

 エーリカが一休みしていると、今度はアベルが補佐のミンミンとレイヨンを引き連れて、エーリカたちが居る居室へとやってくる。エーリカは3人揃ってどうしたの? とアベルに問う。問われた側のアベルは言いにくそうにしながら、重い口を動かすのであった。

「ゴコウの町は一見、歓迎ムードだが、その一方、余所者に早く出て行ってもらいたいと思っているようだ。兵には気にしないようにと注意しているが、それもどこまで抑えが効くかは正直わからん」

「おいらたちが食事処に入って、茶を頼んだら、そこの店主にいかにも嫌そうな顔をされたんだべさ。おいらたち、不思議に思って、店主に聞いてみたら、厄介ごとを持ち込むのはやめてくれと言われたんだべさ」

「憤慨しそうになったのです! 友軍に対する態度ではないのです! アベル隊長が止めてくれなかったら、そこの店主を無礼者! と怒鳴りそうになったのです!」

 ブルースたちがゴコウの町で実際に体験した話をエーリカに報告するのであった。エーリカは町のひとがそういう態度を取るのはある程度、致し方無いとさえ思ってしまう。アデレート王国民たちによる、ホバート王国からの援軍に対する感情は、はっきりと二分化されていた。

 友軍に対して、感謝の念を伝えてくる者。そして、今更ながら援軍をよこしやがってという憎悪を込める者。アデレート王家が直接支配するカイケイのみやこでは、好意的に受け取ってくれる住民のほうが割合としては多かった。しかしながら、このゴコウの町では、その割合が逆転してしまっていた。

「報告、ありがと。滞在するのは今晩だけだから、兵の気持ちを抑えることに尽力してちょうだい。アデレート王国としては、複雑な気持ちになるのはしょうがないわ。いくら、自国でどうにもならない状況に陥っているからって、そこに助けの手を今まで差し伸べなかったホバート王国からの援軍だもん」

「エーリカがそう言うのであれば、それがしもそのようにしよう。極力、兵とアデレート王国民との衝突が起きぬようにと」

 伝えるべきことは伝えたと、ブルースたちはエーリカの前から退出していく。エーリカはどっと疲れが身体の内側から湧き出してくる。カイケイのみやこから西に80キュロミャートル行った先の町で、これなのだから、目的地近くにあるロリョウの町では、もっと明確な悪意をぶつけられるであろうことは容易に想像できた。

「意外と早く、さっき登用したばかりのカキンとコッサンに働いてもらうことになりそうね」

「そうですね。アデレート王国出身の者を登用出来たことは、先生たちにとって、大きな助けとなります。もしかすると、こうなることも予想して、カキン殿は売り込みにきたのかと邪推してしまいますね」

「あの腹黒ポンポコなら、そう考えていても間違いなさそう。嫌だわ。あたしまで黒く染まりそう」

「朱に染まれば赤くなると言いますが、血濡れの女王ブラッディ・エーリカあるじはエーリカ殿です。カキン殿に影響される前にカキン殿の方がエーリカ殿の色に染まりますよ」

「そうなることを期待してるわ。さて、今日のお仕事はここまで。タケルお兄ちゃんを誘って、食事処にいきましょ。もう、お腹ぺこぺこ~~~」

 エーリカはそう言うと、桶の中に突っ込んでいた足を引っ込め、乾いたタオルで足を拭く。そうした後、ブーツを履き、クロウリーと共に部屋を後にする。町から提供されている屋敷から外に出る途中でタケルを見つける。タケルはお疲れさん、ふたりともと労いの声をかけて、2人と合流するのであった。

「ブルースたちから報告を受けているのに、食事処に足を運ぶエーリカには脱帽だぜ」

「こういう時だからこそ、代表者が堂々と振る舞わなきゃならないでしょ。タケルお兄ちゃんみたいに、なあなあで済ませておくような気が無いだけでーす」

「はいはい。殴り合いの喧嘩にまで発展しないことを祈っておくわ。そうなったら、俺がエーリカの前に進み出て、両方から殴られなきゃならんからなっ!」

「うん、期待しておく。タケルお兄ちゃんはサンドバックくらいがちょうど良いし、向こうもそれで収まるだろうしね」

 エーリカとタケルがそう言いながら町を歩くのを後ろからついてきたいたクロウリーは苦笑してしまうしか無かった。もっと他にやりようがある気がするが、この2人なら、大事に発展しないように上手くバランスを取ってくれると思ってしまう。クロウリーの予感はこの後、すぐに的中することになる。

「チッ……。今日は兵士さんのお客が後を絶えねえ……」

「あら、そうなの? それは書き入れ時で大変ね。安心してね。援軍にきてやってんだからって、飲んで食べた分を踏み倒そうとはしないから」

 エーリカの挑発とも取れる発言にカチンと来たのか、店主は手の動きを止める。店主はエーリカたちの顔をまともに見ようともせず、カウンター席の奥の作業場で棚に並ぶ茶葉の整理をおこなっていた。だが、エーリカの発言を受けて、身体の向きを変えて、ジロリと脅すかのようにエーリカを睨みつけるのであった。

「ご注文は……」

鹿シッカの丸焼き!」

「ふざけてんのかっ!」

 さっきから挑発を繰り返す小娘と共に食事処に入ってきたのはそろそろ若者と言うには無理が出てきそうな青年と、見るからに書類関係の処理に携わっていると感じられる線の細い男であった。そんな3人であるのに、鹿シッカの丸焼きを注文してくるところが非常に腹立たしい。

 店主は怒鳴り声で小娘にそんな注文、受け付けるわけがねえだろっ! と拒否感を示す。小娘はペロッと舌を可愛らしく出して、やっちゃったぁぁぁと言ってみせる。店主はこのクソガキがっ! とコメカミに青筋を一本浮き立たせるのであった。

「いやあ、すまんすまん。俺の妹は育ちざかりでさ。こう見えても、俺よりも食べるんだわ。まあ、胸は全然育ってないけどなっ!」

「ふんっ。あっしをからかっても、何も出やしませんぜ。あんたの立派な服装を見てる感じ、ホバート王国からの援軍のまとめ役なんだろ? 悪いことは言わん。揉め事を起こさぬことに努めてくれんかね?」

「嫌よ。あたしは売られた喧嘩はなるべく買ってあげることにしてるの。それこそ、うちの軍師がさすがにやめろって止めない限りはねっ。さあ、勝負よっ! 鹿シッカの丸焼きを出しなさいっ!」
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