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第12章:アデレート王国
第10話:到着
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コッサン=シギョウの策によって、エーリカたちは次の町へとすんなり入ることが出来た。エーリカたちはこの町で1泊した後、次の日の朝食を取ると、すぐさま次の町に向かう。これをあと2回繰り返すことで、目的地の最寄のロリョウの町に到着した。
エーリカはロリョウの町に着くなり、町長との面会を行うために、カキン=シギョウを派遣するのであった。カキンは血濡れの女王の団からの使者となった30分後にはエーリカと町長が面会する約束を取り交わす。
「なるほどね。今から1時間後ね。今すぐにでもご挨拶に伺いたかったのに」
「何やら先客が来られていたようですな。私の掴んだ情報では南ケイ州からのご客人のようです。エーリカ様。ここの町長をとっちめてしまいましょうか?」
「それは魅力的な提案だけど、カイケイの都から西に200キュロミャートルも離れてるから、ここの町長さんも生き延びるためには仕方ないことだわ。とっちめて無理やりに言うことを聞かせるよりも、なるべく友好的な関係を築きたいわね」
「ふむ。エーリカ様は一時の悪名よりも末長い高名を大事にする御方のようですな。まさに王者たらんとする心構え。私は感服するばかりですぞ」
「あたしにはカキンが言っていることが皮肉にも聞こえるわ。この町の近くの砦をアデレート王家から強引に手に入れておきながら、今更、そんな小さなことにこだわるのかと言われてる気分になっちゃう」
エーリカの皮肉返しに、ハーハハッ! と豪快に笑ってみせるのがカキンであった。確かに、自分はエーリカ様が言っているように、そのような意味を込めて、発言してみせた。しかしながら、カキンはエーリカ様に嫌がらせをしたいわけではない。エーリカ様が『王道』を採るのか、それとも『覇道』を好むのかを調べるためであった。
アデレート王国では、この『王道』か『覇道』かを、君主たちを評価するにあたって、絶対的な基準として使う。戦国乱世の時代が200年続いたことで、武のみに頼った『覇道』を好む君主たちの存在は致し方ないと思う国民たちであった。
しかし、それは時代ゆえに仕方無いと言えども、アデレート王国民は天によって選ばれた君主を好む。天は神と置き換えても良い。公明正大で徳が高く、さらには慈愛に満ちた君主を奉りたいという理想があった。だが、その理想を貫くには厳しい世の中である。王道はまさに理想の君主が採るべき道である。
「エーリカ様が望むようなお姿になれるよう、私も尽力致しましょう。しかし、必要であるなら、武威を誇示することも忘れずに……」
「忠言、痛み入るわ。要は愛想を振りまくのは良いけど、舐められるなってことでしょ?」
「その通りです。ですので、町長と面会する折は口達者な私もご同行させてほしいと願い出るわけです」
「うん、ありがと。カキンって、回りくどい言い方だけど、実のところ、あたしを心配してくれるのがわかるわ。クロウリー共々、あたしを政務の面で支えてね」
エーリカの言葉を受けて、カキンは拱手で応える。その後、準備をしてくるのでと言い、一度、エーリカの前から下がるのであった。エーリカは自分の横で立っているクロウリーへと顔を向ける。
「あの腹黒さをどうしても隠し切れないのが、カキンの可愛らしいところね」
「あのカキン殿を可愛いらしいと言えるエーリカ殿の器の大きさには、先生でも驚きですよ。でも、ああいうタイプは組織には必ず必要となってきます。血濡れの女王の幹部たちがあまりカキン殿を嫌がらないように、先生が潤滑油役を担っておきます」
「仕事ばかり増やして、ごめんね? ただでさえ、武官と文官は反目しあっちゃう間柄だから、そこはクロウリーが間に立ってもらうしかないから。タケルお兄ちゃんじゃ、かなり不安になっちゃうし」
「タケル殿も潤滑油として、存在価値がある人物です。でも、さすがにカキン殿相手となると、タケル殿の才能は逆に潰れてしまいますしね」
クロウリーは苦笑いしながら、エーリカにそう言うのであった。カキンの腹黒さは貴人の腹黒さとは別ベクトルに向いていた。カキンのはどんな方法を使ってでも、成り上がってみせるという気概から来ているものだ。貴人のそれとは根本的に違うのである。そして、同じ成り上がり者のエーリカの傘下に入ったのだ、カキンは。似た者同士と言えば、少しだけ違う気もするが、根っこの方で通じるモノがあるふたりである。
エーリカはロリョウの町に着くなり、血濡れの女王の幹部たちに指示を出し、ロリョウの町から砦へ向かうための最終準備を行わせる。幹部たちはそんなに急がなくても良いのではないか? とエーリカに問うが、エーリカは頭を左右に振った後、自分の考えを皆に披露する。
「あたしはこの町の住人たちと友好関係を築くためにカキンを配置するわ。んで、あたしたちはさっさと砦周りを本当の意味で掌握して、自分たちがれっきとした一勢力であることを示したいの。この町にとっての客人ではなく、この町の友人として付き合うためにね」
「ふむ。エーリカの言いたいことはわかったのでござる。拙者たちはアデレート王国の居候ではない。それをきちんと早めに示すということでござるな」
「エーリカは立派すぎる。それがしたちはどんどんエーリカから距離を離されてしまうばかりだ。血濡れの女王の双璧から排斥されぬよう、エーリカに進言できるようにならねばなっ!」
「本当、そこのところ、ちゃんと自覚してね? うかうかしていると、コッサンがあなたたちふたりのどちらかと立場を入れ替えざるをえない時が来ちゃうかもしれないんだからっ!」
エーリカはブルース=イーリンとアベルカーナ=モッチンの両名にはっぱをかける。血濡れの女王の団が大きくなればなるほど、自分に才ありと思う者は、血濡れの女王に入団するために、向こうからやってくるのは間違いない。
アデレート王国において、その最初の人物となったのが、一癖も二癖もあるカキンとコッサンだ。新参者ゆえにまだまだ実績に乏しいが、彼らには彼ら自身の野望がある。そして、その野望を叶えるためには、エーリカにぐいぐいと自分をアピールしてくる。
最近のブルースとアベルには昔ほどの気概をあまり感じなくなっていたのも事実である。慣れの問題もあるのだが、ブルースとアベルには危機感が欠如しているとも言えた。それゆえに先日、エーリカは新参者であるコッサンの進言を受けると同時に、それをブルースたちにも、もう一度、競争心を芽生えさせるためのに、彼らへの教材としたのである。
エーリカのこの企みは上手くいくことになる。ブルースたちはエーリカが冗談を言っているなど、露とも思わなかった。コッサンが本当に出来る男ならば、自分たちは必ず双璧という言葉と職務をはく奪されると考えた。エーリカにはっぱをかけられたこの日、初心に戻ったブルースとアベルはますます研鑽を積み重ねることになる。
エーリカはロリョウの町に着くなり、町長との面会を行うために、カキン=シギョウを派遣するのであった。カキンは血濡れの女王の団からの使者となった30分後にはエーリカと町長が面会する約束を取り交わす。
「なるほどね。今から1時間後ね。今すぐにでもご挨拶に伺いたかったのに」
「何やら先客が来られていたようですな。私の掴んだ情報では南ケイ州からのご客人のようです。エーリカ様。ここの町長をとっちめてしまいましょうか?」
「それは魅力的な提案だけど、カイケイの都から西に200キュロミャートルも離れてるから、ここの町長さんも生き延びるためには仕方ないことだわ。とっちめて無理やりに言うことを聞かせるよりも、なるべく友好的な関係を築きたいわね」
「ふむ。エーリカ様は一時の悪名よりも末長い高名を大事にする御方のようですな。まさに王者たらんとする心構え。私は感服するばかりですぞ」
「あたしにはカキンが言っていることが皮肉にも聞こえるわ。この町の近くの砦をアデレート王家から強引に手に入れておきながら、今更、そんな小さなことにこだわるのかと言われてる気分になっちゃう」
エーリカの皮肉返しに、ハーハハッ! と豪快に笑ってみせるのがカキンであった。確かに、自分はエーリカ様が言っているように、そのような意味を込めて、発言してみせた。しかしながら、カキンはエーリカ様に嫌がらせをしたいわけではない。エーリカ様が『王道』を採るのか、それとも『覇道』を好むのかを調べるためであった。
アデレート王国では、この『王道』か『覇道』かを、君主たちを評価するにあたって、絶対的な基準として使う。戦国乱世の時代が200年続いたことで、武のみに頼った『覇道』を好む君主たちの存在は致し方ないと思う国民たちであった。
しかし、それは時代ゆえに仕方無いと言えども、アデレート王国民は天によって選ばれた君主を好む。天は神と置き換えても良い。公明正大で徳が高く、さらには慈愛に満ちた君主を奉りたいという理想があった。だが、その理想を貫くには厳しい世の中である。王道はまさに理想の君主が採るべき道である。
「エーリカ様が望むようなお姿になれるよう、私も尽力致しましょう。しかし、必要であるなら、武威を誇示することも忘れずに……」
「忠言、痛み入るわ。要は愛想を振りまくのは良いけど、舐められるなってことでしょ?」
「その通りです。ですので、町長と面会する折は口達者な私もご同行させてほしいと願い出るわけです」
「うん、ありがと。カキンって、回りくどい言い方だけど、実のところ、あたしを心配してくれるのがわかるわ。クロウリー共々、あたしを政務の面で支えてね」
エーリカの言葉を受けて、カキンは拱手で応える。その後、準備をしてくるのでと言い、一度、エーリカの前から下がるのであった。エーリカは自分の横で立っているクロウリーへと顔を向ける。
「あの腹黒さをどうしても隠し切れないのが、カキンの可愛らしいところね」
「あのカキン殿を可愛いらしいと言えるエーリカ殿の器の大きさには、先生でも驚きですよ。でも、ああいうタイプは組織には必ず必要となってきます。血濡れの女王の幹部たちがあまりカキン殿を嫌がらないように、先生が潤滑油役を担っておきます」
「仕事ばかり増やして、ごめんね? ただでさえ、武官と文官は反目しあっちゃう間柄だから、そこはクロウリーが間に立ってもらうしかないから。タケルお兄ちゃんじゃ、かなり不安になっちゃうし」
「タケル殿も潤滑油として、存在価値がある人物です。でも、さすがにカキン殿相手となると、タケル殿の才能は逆に潰れてしまいますしね」
クロウリーは苦笑いしながら、エーリカにそう言うのであった。カキンの腹黒さは貴人の腹黒さとは別ベクトルに向いていた。カキンのはどんな方法を使ってでも、成り上がってみせるという気概から来ているものだ。貴人のそれとは根本的に違うのである。そして、同じ成り上がり者のエーリカの傘下に入ったのだ、カキンは。似た者同士と言えば、少しだけ違う気もするが、根っこの方で通じるモノがあるふたりである。
エーリカはロリョウの町に着くなり、血濡れの女王の幹部たちに指示を出し、ロリョウの町から砦へ向かうための最終準備を行わせる。幹部たちはそんなに急がなくても良いのではないか? とエーリカに問うが、エーリカは頭を左右に振った後、自分の考えを皆に披露する。
「あたしはこの町の住人たちと友好関係を築くためにカキンを配置するわ。んで、あたしたちはさっさと砦周りを本当の意味で掌握して、自分たちがれっきとした一勢力であることを示したいの。この町にとっての客人ではなく、この町の友人として付き合うためにね」
「ふむ。エーリカの言いたいことはわかったのでござる。拙者たちはアデレート王国の居候ではない。それをきちんと早めに示すということでござるな」
「エーリカは立派すぎる。それがしたちはどんどんエーリカから距離を離されてしまうばかりだ。血濡れの女王の双璧から排斥されぬよう、エーリカに進言できるようにならねばなっ!」
「本当、そこのところ、ちゃんと自覚してね? うかうかしていると、コッサンがあなたたちふたりのどちらかと立場を入れ替えざるをえない時が来ちゃうかもしれないんだからっ!」
エーリカはブルース=イーリンとアベルカーナ=モッチンの両名にはっぱをかける。血濡れの女王の団が大きくなればなるほど、自分に才ありと思う者は、血濡れの女王に入団するために、向こうからやってくるのは間違いない。
アデレート王国において、その最初の人物となったのが、一癖も二癖もあるカキンとコッサンだ。新参者ゆえにまだまだ実績に乏しいが、彼らには彼ら自身の野望がある。そして、その野望を叶えるためには、エーリカにぐいぐいと自分をアピールしてくる。
最近のブルースとアベルには昔ほどの気概をあまり感じなくなっていたのも事実である。慣れの問題もあるのだが、ブルースとアベルには危機感が欠如しているとも言えた。それゆえに先日、エーリカは新参者であるコッサンの進言を受けると同時に、それをブルースたちにも、もう一度、競争心を芽生えさせるためのに、彼らへの教材としたのである。
エーリカのこの企みは上手くいくことになる。ブルースたちはエーリカが冗談を言っているなど、露とも思わなかった。コッサンが本当に出来る男ならば、自分たちは必ず双璧という言葉と職務をはく奪されると考えた。エーリカにはっぱをかけられたこの日、初心に戻ったブルースとアベルはますます研鑽を積み重ねることになる。
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