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第16章:逃避行

第4話:チョウハン橋

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 アデレート王家軍の総大将であるシュウザン将軍が直接指揮を執ることで、アデレート王家軍の勢いは3倍に膨れ上がる。ブルース隊とアベル隊は殿しんがりとして、この三日間、なんとか持ちこたえていたが、いよいよもってして抗うことは難しくなる。ブルースとアベルは蜘蛛の子のように散り散りになるようにと、配下たちだけでなく流民たちにも命じるのであった。

「生きて、ケアンズ王国で会おうでござる! 全ての水と食料を捨てて、一目散に逃げるのでござる!」

「しっかし、抗えるだけ抗ったもんだぜっ! 暴れ足りねえ気もするが、俺っちも逃げさせてもらうぜっ! ブルース隊長、生きてくだせえやっ!」

「あぅあぅ~~~。ボクのポークビッツがびっきびきなのですぅ。ブルース隊長のお尻でも良いから、最後に掘らせてほしいのですぅ!」

「ケアンズ王国で、いくらも掘らせてやるでござる! 今は逃げることを大事にするでござるっ!」

 ブルースは配下の者と流民たちにそう告げると、皆を置いて、一目散に逃げる。その速さはケージたちでも追いつけるものではなかった。ケージはブルースの逃げっぷりに感心し、自分の得物である皆朱槍を投げ捨て、さらには鎧を脱ぎ捨て、裸一貫となる。

 ラン=マールも負けてなるものかと素っ裸になり、ケージと共に駆ける。それに釣られて、兵士たちだけでなく、流民たちも鎧や服、さらにはパンツすらも投げ捨てる。まさに裸一貫の大逃亡が始まったのだ。

「ふむっ。馬に揺られて、さらにはおちんこさんが風に晒されている。これは存外に気持ちいいなぁ!?」

「アベルがぶっ壊れたんだべさ。誰だべか? 逃げるなら武器や防具もショーツすらも全て、投げ捨てるべきなのです! と、アベルに進言した奴はぁ!?」

「逃げる時はとことん逃げるのです! それくらいの覚悟を持つべきなのです!」

 アベル隊もまた出来る限り、身軽になっていた。しかしながら、アベル隊長が率いるのは真面目軍団のために、鎧下の服まで脱ぐのにかなり躊躇してしまっていた。そんな隊に怒りを覚えたレイヨンが、あろうことか皆の前で1番最初にスッポンポンになってみせたのだ。

 真面目な者ほど、キレた時の勢いはすさまじいと言える一幕である。レイヨンは素っ裸になって、さらには何も身に着けていないことを証明するためにも、プリンとしたお尻を皆に見せつけ、さらにはその尻を両手で広げて、尻の谷間に隠れていた尻の穴を皆に見せつけるという破廉恥極まりないことをしでかした。

 止めに入ったアベルをぶん殴ったレイヨンはアベルを裸にひん剥き、ミンミンに命じて、馬に乗せた。そして、さらにはアベルが乗っている馬の尻を松明の火であぶるという、まさに大暴走をかましたのだ。

 さすがにそこまでされれば、真面目軍団でも、各々の尻に火が着くことになる。アベル隊の皆は武器や防具、さらにはパンツやショーツすらも脱ぎ捨て、素っ裸になって、ヨク州を北へと駆け抜ける。アベル隊についてきていた流民たちも同様であった。

「何だあのバカ者たちは……。そこまでして逃げることに恥じらいは無いのか!?」

 アデレート王家軍は異様なる素っ裸軍団に躊躇せざるを得なかった。ただでさえ、身軽になったことで血濡れの女王ブラッディ・エーリカの団は進軍速度をあげていたというのに、アデレート王家軍は戸惑うという愚かな行為をしでかしてしまう。

 アデレート王家軍がわれに返り、ブルース隊やアベル隊を追いかけることになるが、その時には既に取り返しのつかない距離を開けられてしまっていた。シュウザン将軍はそんな間抜けすぎる将軍たちを叱り飛ばす。シュウザン将軍はケンキ将軍が置いていった4千の兵を自分の隊と合流させる。都合、8千の兵で素っ裸軍団を追い回す。

「おうおう。お前ら、良い感じに温まってるじゃなないかぃ。やっぱ、大逃げするなら素っ裸が一番さぁ!!」」

 そんな素っ裸血濡れの女王ブラッディ・エーリカの団を迎えたのは、これまた素っ裸の拳王:キョーコ=モトカードであった。キョーコはチョウハン河に架けられている橋の前で腕組みをしながら仁王立ちしていた。その脇をこれまた素っ裸の軍団が通り抜けていく。彼らはキョーコのみを残して、どんどんと橋を使って、チョウハン河を渡っていく。

 それをさせてなるものかと、シュウザン将軍率いる8千のアデレート王家軍が迫っていた。キョーコは敵兵に向かって、右手をつき伸ばせるだけ、つき伸ばす。キョーコがめいいっぱい開いた右手からは鬼迫が発せられ、アデレート王家軍はその場で足踏みしてしまう。

「おぅ、はよぉ、橋を渡らんかぃ。セツラ、コッサン。幹部の中じゃ、おめえさんたちが最後だぞぃ。うちはエーリカにここで敵兵を釘付けにしておけと言われているんじゃぁ!」

「キョーコ様。ご無事でっ!」

 セツラは馬に引かせた戦車に乗ったまま、キョーコに言葉をかける。キョーコはへんっ! と鼻を鳴らし、それを返事とする。セツラは御者ぎょしゃに行ってくださいと頼む。だが、どこからか飛んできた流れ矢がセツラが乗っている戦車を引く馬の首元に刺さる。馬は暴れるだけ暴れ、さらには橋の欄干へとぶち当たる。セツラはその衝撃でチョウハン河に投げ出されることになる。

「コッサン! セツラを助けてこいっ! うちはここから動けんっ!」

 キョーコは後ろを振り向きもせず、セツラが乗っていた戦車の横を馬で並走していたコッサン=シギョウに命じるのであった。コッサンは馬に乗ったままキョーコに拱手きょうしゅする。キョーコは土産とばかりに迫りくる敵兵へと突っこみ、敵兵から槍と刀を奪い、それをコッサンに向かってぶん投げる。コッサンはキョーコからの贈り物を受け取ると、馬を走らせ、河に流されているセツラを追いかける。

「どこを見てるんだぃ? あんたらの相手は拳王:キョーコ=モトカードだねぇ! この橋渡るべからずっていう言葉をあんたたちにプレゼントするさぁぁぁ!!」

 拳王にとって、武器や防具など身に纏う必要はなかった。拳王にとっての武器は筋肉である。拳王にとっての防具は筋肉である。彼女の身が纏う筋肉に勝る武器防具など、この世には存在しないと言わしめん限りの暴力を拳王は放ってみせた。

 拳王がこぶしを振り回し、蹴りを放つ。彼女が一挙一動を敵兵に見せるたびに、身体が内側から爆ぜる敵兵が宙を舞うことになる。その汚い花火を散々に打ち上げながら、キョーコはさらに狂暴な獣となる。キョーコの身体には敵兵の肉片、血液、骨の欠片、脳漿のうしょうが空から降り注がれる。それらを全身に浴びながらもキョーコは吼えに吼えたのだ。

「すさまじいの一言だ。だが、拳王は前に出過ぎたっ! 脇を通り、橋を渡るのだっ! 橋を渡りたければ、端を通れを実行せよっ!!」

 シュウザン将軍は軍を二つに分け、キョーコの注意を分散させる。キョーコは、ちぃぃぃ! とおおいに舌打ちをする。キョーコが急いで橋のたもとに戻ろうとする。それを邪魔する敵兵を殴り飛ばし、蹴り爆ぜさせる。だが、敵兵たちは自らが肉壁になることで、キョーコの邪魔をしてみせる。キョーコはもみくちゃにされながらも、出来る限りのことをするのであった。
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