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第17章:ヨン=ウェンリー

第5話:一点突破

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 セツラはただいま、絶賛、カエルの主に丸のみにされそうであった。下腹部辺りまで口の中に飲み込まれたセツラは泣き顔になってしまっている。エーリカたちに必死に助けを求めていた。しかしながら、その間にもセツラはカエルの主の紫色の舌によって、陵辱されっぱなしであった。

 拳王:キョーコ=モトカードなら、簡単にセツラを救出することが出来た。だが、キョーコも女である。ここは騎士ナイトが姫を助けることのほうが大事だと考えた。だからこそ、わざわざエーリカにどうするのか聞いたのである。エーリカはキョーコの考えに気づき、少しばかり考える。

「コッサンに任せておきましょ。ほら、見てよ。コッサンがその辺で拾ってきた棒切れ1本で立ち向かうみたいだし。って、コッサンはカエルパンチで宙に吹っ飛ばされたわ!?」

「あちゃぁ……。これまたクリーンヒットを喰らってやがる。てか、カエルでも熊くらいのサイズになると、大の大人をぶっ飛ばせちまうのか」

 エーリカとタケルはカエルの主の戦闘力を甘く見ていた。それはセツラを救出しようとしていたコッサンも同様である。コッサンは騎士ナイトの役目を果たすために、騎士ナイトらしく、正々堂々とカエルの主相手に名乗りをあげていた。だが、カエルの主は前口上が終わっていないコッサンにカエルパンチをかましてしまったのだ。

 不意をつかれたコッサンであったが、空中で身をひるがえし、泥の上にしっかりと両足の裏で着地する。その低い姿勢のまま、棒切れを構えたコッサンがカエルの主の真正面から突っ込んでいく。

「ぐぅ!? 固くて柔らかい!?」

 コッサンは棒切れで横薙ぎにカエルの主の腹を打ってみたはいいが、手に伝わってくる感触から、これは不味いことになったと感じざるをえなくなる。自分が今、手に持っているのが棒切れではなく、長剣ロング・ソードであったとしても、このカエルの主の腹を切り裂くことが出来ないというイメージが脳内に流れてくる。

 それほどまでにカエルの主の腹は弾力性を持ちつつ、同時に分厚さを十分に感じさせる固さがあった。このイメージに近しいのがミンミン=ダベサのふくよかなお腹である。ミンミンは一見、ただの肥満体である。だが、彼の身体の表面を覆う脂肪の先には『筋肉の鎧』が隠されている。

 コッサンの悪癖のひとつとして、いくら仲間であろうが、そいつらは同業者ライバルとみなしていたことだ。その同業者ライバルを打ち負かす方法を常日頃から頭の中でシミュレーションしてきていた。いくさの功績だけで勝つのではない。タイマンをおこなった場合でも、どうやって打ち勝つかの方法を模索してきたのである。

 コッサンはミンミン相手にも、その脳内シミュレーションをおこなっていた。そのおかげもあって、コッサンはこのカエルの主相手に有効打を入れ始めるのであった。コッサンが戦い方を変えたことで、拳王:キョーコ=モトカードだけでなく、彼女の近くに寄ってきていたアイス=キノレも感心していた。

「薙ぎ払うでは無く、突く方向にシフトしたのは大正解じゃぁ。しかし、ひとつ残念なことは、それを棒切れでは出来ないってことだぁなぁ。アイスであれば、問題なかったろうにぃ」

「うむ。攻略方法にすぐさま気づき、攻撃方法自体も変えた。そこはコッサンの賢さと器用さがよく出ている。ここまでは素直に感心できるんじゃわい。だが……。剣士が得物の質に頼っているようではまだまだじゃわい。どおれ、お手本を見せてやろう」

 アイスはそう言うと、その辺に転がっていた泥だらけの棒切れを拾い上げる。それを数度、ブンブンと上下に振って、泥を振り落とす。アイスは右手に棒切れを持ったまま、まるでそこらを散歩してくるとでも言いたげな足取りであった。

 アイスが接近してきたことに気づいたコッサンであった。そのコッサンが何かを言う前に、アイスがつきだしてきた左手で身体の動きを止められてしまうことになる。アイスはコッサンを左手のみの動きで静止させると、カエルの主の腹にズドンと棒切れの先端をめり込ませる。カエルの主は目ん玉を丸くせざるをえなかった。

「一撃で仕留める気概を得物に乗せるんじゃわい。筋が良いことは認めてやろう。だが、天性の才能と器用さゆえに、逆に器用貧乏になってしまうぞい?」

「むむっ……。ご忠告、痛み入ります。これからも一層、精進いたします」

 この世の中に存在する才には、いくつかの種類がある。そして、その才を伸ばす方法もまた幾通りも存在する。拳王:キョーコ=モトカードとアイス=キノレは同じ師を仰ぐだけはあり、どちらも一点突破型の才の磨き方であった。それは彼女たちの拳筋または剣筋に嫌でも表現されている。

 アイスは棒切れに乗せた鬼迫をそのまま真っ直ぐカエルの主の腹に突き立てた。カエルの主は主で慢心していたとも言える。ご自慢の弾力性に富んで、それでいて固い腹を無防備にアイスに晒してしまっていたのだ。その腹を今、棒切れが突き刺さっている。カエルの主は半狂乱になりつつも、未だに口の中にはセツラの下半身を含んだままである。

 暴れ回るカエルの主からすんなりと棒切れを抜き出すアイスであった。カエルの主の腹に空いた傷口からは、これまた紫色の体液が溢れ出す。その紫色の体液をまき散らしながら、カエルの主はアイスに突進していく。

「ふんっ。カエルは所詮、カエルじゃわい。熊と同じほどのサイズがありながら、熊のほうがよっぽど賢いんじゃ」

「お見事……としか言いようがありませんな」

「助かりましたわ。でも、もっと早く助けてくれても良かったのでは?」

「コッサンの良い所をセツラに見せてやろうと思ったまでじゃわい。さあて、奪った命を大切に腹の中に収めようぞ」

 カエルの主の頭はアイスの次の一撃で粉砕されていた。砕け散った頭からはカエルの主の脳漿のうしょうがドロドロと流れ出していた。動かぬ身となってしまったカエルの主の口の中から、コッサンはセツラを救い出す。セツラの身体は先ほどのスコールで洗い清められたというのに、カエルの唾液と体液、さらには脳漿のうしょうで汚れきってしまっていた。

 しかしながら、聖女がけがれることで興奮を覚えてしまう愚かな男がそこに存在していた。コッサンは静まれ、我が愚息っ! と強く心に念じるのであった。一部始終を傍観していたエーリカたちは武士の情けねとばかりに、コッサンの愚息の状態をセツラには告げずにおいたのである。

 何はともあれ、大量のカエルの肉をゲットしたエーリカたちであった。エーリカたちが次に確保すべきは、そのカエルの肉を調理する場所であった。ボロボロの荷車にカエルの肉を大量に乗せたエーリカたちは乾いた土地を探そうとする。しかしながら、なかなかにその場所を見つけることは出来なかった。

 だが、乾いた土地を見つける前に、エーリカたちは不審者を先に見つけてしまうことになる。エーリカたちが素っ裸に毛布や御座を巻き付けているというのに、その男が身に着けている衣服は高貴な者と言わしめんものであった。

「遠路はるばるケアンズ王国にようこそやで! わいの恋人であるクロウリーくんからのメッセージは三日前には届いておったんやけど、色々と事情がありましたんや。遅れてすまんかったんやで」
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