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第19章:譲れない明日
第9話:防衛線初勝利
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グミオン=ゴーダ将軍はアヤメによって両手を後ろにした状態で縄につくことになる。アヤメはグミオン将軍の尻に前蹴りを入れながら、とっと歩けと指示を出す。グミオン将軍はアヤメに誘導されるまま、スミス村に足を踏み入れる。グミオン将軍が捕縛されたことなど知らぬ西ケアンズ軍は懸命に戦い続けていた。
「皆の者! 戦闘をやめるのだっ!」
戦っている真っ最中の背中から怒号が飛んでくる。西ケアンズ軍はいったい、どうしたことだと、一斉に後ろを振り向く。そこには兜を剥ぎ取られ、さらには薄い髪の毛を掴まれ、その剥き出しの喉元に真っ赤な鋭利な刃物を押し付けられたグミオン将軍の姿を見ることになる。
「早く武器を捨てろっ! このワシの命とお前たち雑兵の命、どっちが大事かわからぬかっ!?」
ただでさえ士気が落ちまくっていた西ケアンズの兵士たちは、こんなクソ野郎のために命を賭して戦っていたのかと思うと、身体から力が抜け落ちていってしまう。武器を投げ捨てるどころか、自然と手から武器が滑り落ちていく。さらには膝から崩れ落ち、その場で戦闘を行う意思すらも、身体から抜け落ちさせた。
勝負は決まったとばかりに、エーリカは全軍戦闘停止するようにと命じる。その命令にあっけにとられたのが元アデレート王国からの流民たちであった。彼は血濡れの女王の団員たちとは生まれ育った文化が違うために、何故に敵を許すのかと疑問を示す顔になる。
そんな元流民たちに対して、エーリカは力強く、もう一度、戦闘停止をするようにと命令を下す。
「あたしは言ったはずよっ! 戦う相手を間違えないでって! あたしたちが戦うべき相手はこの世にはびこる理不尽な死よっ! あたしたちはそれに対して抗うのっ! キレイごとだけでそれが成し遂げられるわけじゃないっ! でも、自分たちから進んで獣に落ちちゃダメなのっ!」
エーリカは唇を震わせて、思いの丈を皆に言い放つ。その時、彼女の眼からは美しい涙がこぼれた。エーリカの顔を見ていた元アデレート王国の流民たちもまた、何故だかわからないが、自分たちの眼から涙がこぼれだしたのだ。元流民たちは血に濡れた手を使い、その涙を拭いとる。だが、そうしたとしても涙が続けて溢れ出す。
その涙と共に、自分の身体に沁みついていた汚れが流れ出すことになる。元流民たちは涙を流しながらも笑顔になっていく。お互いに顔を見つめ合った後、エーリカの方に生まれ変わった自分たちを見てほしいとばかりにその顔に浮かぶ晴れやかな表情を見せるのであった。
「エーリカ、よく頑張ったでござる。ほら、皆もエーリカの言っていることを心から理解してくれているでござる」
「ブルース……」
「さあ、皆の者。矛を収めるんだっ! 戦いは終わりぞっ!
「アベル……」
エーリカは自分の代わりに前に出てくれるブルースとアベルに感謝したくなる。エーリカは零れ落ちた涙を服の裾で拭う。そうした後、次の指令を団員たちに告げるのであった。
「戦意喪失した敵兵から武器と防具を剥ぎ取りなさい。でも、乱暴は絶対にしないこと。故郷に帰りたい者は帰らせて。あと、へとへとになっているクロウリーを呼んできてちょうだい」
エーリカの指示の下、団員たちは素早く行動に移す。しかしながら、変に抵抗を示す敵兵はひとりも居なかった。それほどまでに敵兵の士気はガタガタに落ちていた。敵兵たちが身ぐるみを剥がされている中、エーリカの下に軍師:クロウリー=ムーンライトがタケルの肩を借りて現れる。
「エーリカ殿。見事な勝利です。先生が剣王軍から拝借した武器や防具は役に立ちました?」
「おかげさまで。もうっ! クロウリーが間に合わなかったら、村人の服をちょっとだけ強化した防具で白兵戦を戦わなきゃならかったわ。ほんと紙一重ってところ」
スミス村に敵がなだれこんでも、血濡れの女王の団が持ちこたえたのは、剣王軍の質の良い武技防具のおかげであった。クロウリーがこのスミス村に到着したのが昨日。そして、すぐさまとある空間に押し込んでいた剣王軍の1千人分の武器防具を取り出し、皆に配ったのである。
西アデレート軍はそんなことも知らずに上質すぎる装備が整いつつあったスミス村に乗り込んだのだ。話が違うとはまさにこのことだ。村人の服に申し訳ない程度の強化が施されているものしか着ていないとばかり思いこんでいた。突きつけられた現実に下がっていた士気はどん底まで堕ちきった。
いやいやながら戦うことで、スミス村内の戦闘はますます泥沼化していく。そこにトドメを刺した張本人がグミオン=ゴーダ将軍であった。まさに前線に出てくるのが遅すぎるし、無能と呼ばれても仕方がないグミオン将軍の下にいる補佐たちだ。だれも正確な戦の推移を見ていなかったのだ。
その程度の将軍だからこそ、西アデレートの王族も彼に3千しか兵を預けていなかったとも言えよう。結局のところ、この戦はエーリカたちを罠に嵌めることしか考えられていなかったのだ。
「というところですね。先生の分析としては。それでも、こちらにはまともな武器や防具がありませんでした。この戦はエーリカ殿たちが頑張ったからこそです」
「ありがと。クロウリーにそう評価されるなら、あたしたちはあたしたちなりに出来ることをやりきった。この戦で命を落とした仲間たちは迷いなくヴァルハラに辿りつけると思う」
エーリカは村のあちこちで血を流し、身体から魂が抜け落ちて、もの言わぬ亡骸になってしまった者のまぶたをその手でそっと閉じてまわっていた。エーリカはその時、クロウリーの方に背中を向けていた。クロウリーはそんなエーリカにもっと気の利いた言葉をかけれればと思い悩んでしまう。
「クロウリー。あたしはこれから先も皆に地獄を味わせることになる。あたしのキレイごとに付き合わされる皆に返せるものは、あたしがこの大陸に理想郷を作ることだけ。あたしはもっと、即物的なもので答えるべきなのかしら?」
「それはいったい、どういうものを指していっているつもりですか?」
「それこそ、あたしの処女とかはどう? 貧相な身体のあたしであったとしても、気の強いあたしが泣いて痛がってる姿を見たいっていう男は大勢いると思うの」
クロウリーはエーリカの提案を受けて、ブフッと噴き出してしまう。エーリカがむっ! とした顔つきで、こちらに振り向いてくる。クロウリーは失礼しましたと断りを入れる。
「エーリカ殿は今や女神様ですからね。セツラ殿と同じく、神聖で触れてはいけない存在になっています。エーリカ殿の処女を奪う権利がある男は、それこそエーリカ殿と並び立つほどの器の持ち主ではないといけません」
「あたしってそんなに価値がある女かしら?」
「ええ。エーリカ殿は魅力的な女性です。もし、許されるならば、先生がエーリカ殿の旦那様になりたいくらいですよ」
今度はエーリカがブフッ! と噴き出す番であった。しかしながら、クロウリーは笑われて当然の冗談だと思っていたため、心に何のダメージも負うことは無かった。クロウリーはこの時になって、ようやく膝を折り、エーリカと視線を同じにする。そして、エーリカの左手を両手で優しく包み込む。
「皆の者! 戦闘をやめるのだっ!」
戦っている真っ最中の背中から怒号が飛んでくる。西ケアンズ軍はいったい、どうしたことだと、一斉に後ろを振り向く。そこには兜を剥ぎ取られ、さらには薄い髪の毛を掴まれ、その剥き出しの喉元に真っ赤な鋭利な刃物を押し付けられたグミオン将軍の姿を見ることになる。
「早く武器を捨てろっ! このワシの命とお前たち雑兵の命、どっちが大事かわからぬかっ!?」
ただでさえ士気が落ちまくっていた西ケアンズの兵士たちは、こんなクソ野郎のために命を賭して戦っていたのかと思うと、身体から力が抜け落ちていってしまう。武器を投げ捨てるどころか、自然と手から武器が滑り落ちていく。さらには膝から崩れ落ち、その場で戦闘を行う意思すらも、身体から抜け落ちさせた。
勝負は決まったとばかりに、エーリカは全軍戦闘停止するようにと命じる。その命令にあっけにとられたのが元アデレート王国からの流民たちであった。彼は血濡れの女王の団員たちとは生まれ育った文化が違うために、何故に敵を許すのかと疑問を示す顔になる。
そんな元流民たちに対して、エーリカは力強く、もう一度、戦闘停止をするようにと命令を下す。
「あたしは言ったはずよっ! 戦う相手を間違えないでって! あたしたちが戦うべき相手はこの世にはびこる理不尽な死よっ! あたしたちはそれに対して抗うのっ! キレイごとだけでそれが成し遂げられるわけじゃないっ! でも、自分たちから進んで獣に落ちちゃダメなのっ!」
エーリカは唇を震わせて、思いの丈を皆に言い放つ。その時、彼女の眼からは美しい涙がこぼれた。エーリカの顔を見ていた元アデレート王国の流民たちもまた、何故だかわからないが、自分たちの眼から涙がこぼれだしたのだ。元流民たちは血に濡れた手を使い、その涙を拭いとる。だが、そうしたとしても涙が続けて溢れ出す。
その涙と共に、自分の身体に沁みついていた汚れが流れ出すことになる。元流民たちは涙を流しながらも笑顔になっていく。お互いに顔を見つめ合った後、エーリカの方に生まれ変わった自分たちを見てほしいとばかりにその顔に浮かぶ晴れやかな表情を見せるのであった。
「エーリカ、よく頑張ったでござる。ほら、皆もエーリカの言っていることを心から理解してくれているでござる」
「ブルース……」
「さあ、皆の者。矛を収めるんだっ! 戦いは終わりぞっ!
「アベル……」
エーリカは自分の代わりに前に出てくれるブルースとアベルに感謝したくなる。エーリカは零れ落ちた涙を服の裾で拭う。そうした後、次の指令を団員たちに告げるのであった。
「戦意喪失した敵兵から武器と防具を剥ぎ取りなさい。でも、乱暴は絶対にしないこと。故郷に帰りたい者は帰らせて。あと、へとへとになっているクロウリーを呼んできてちょうだい」
エーリカの指示の下、団員たちは素早く行動に移す。しかしながら、変に抵抗を示す敵兵はひとりも居なかった。それほどまでに敵兵の士気はガタガタに落ちていた。敵兵たちが身ぐるみを剥がされている中、エーリカの下に軍師:クロウリー=ムーンライトがタケルの肩を借りて現れる。
「エーリカ殿。見事な勝利です。先生が剣王軍から拝借した武器や防具は役に立ちました?」
「おかげさまで。もうっ! クロウリーが間に合わなかったら、村人の服をちょっとだけ強化した防具で白兵戦を戦わなきゃならかったわ。ほんと紙一重ってところ」
スミス村に敵がなだれこんでも、血濡れの女王の団が持ちこたえたのは、剣王軍の質の良い武技防具のおかげであった。クロウリーがこのスミス村に到着したのが昨日。そして、すぐさまとある空間に押し込んでいた剣王軍の1千人分の武器防具を取り出し、皆に配ったのである。
西アデレート軍はそんなことも知らずに上質すぎる装備が整いつつあったスミス村に乗り込んだのだ。話が違うとはまさにこのことだ。村人の服に申し訳ない程度の強化が施されているものしか着ていないとばかり思いこんでいた。突きつけられた現実に下がっていた士気はどん底まで堕ちきった。
いやいやながら戦うことで、スミス村内の戦闘はますます泥沼化していく。そこにトドメを刺した張本人がグミオン=ゴーダ将軍であった。まさに前線に出てくるのが遅すぎるし、無能と呼ばれても仕方がないグミオン将軍の下にいる補佐たちだ。だれも正確な戦の推移を見ていなかったのだ。
その程度の将軍だからこそ、西アデレートの王族も彼に3千しか兵を預けていなかったとも言えよう。結局のところ、この戦はエーリカたちを罠に嵌めることしか考えられていなかったのだ。
「というところですね。先生の分析としては。それでも、こちらにはまともな武器や防具がありませんでした。この戦はエーリカ殿たちが頑張ったからこそです」
「ありがと。クロウリーにそう評価されるなら、あたしたちはあたしたちなりに出来ることをやりきった。この戦で命を落とした仲間たちは迷いなくヴァルハラに辿りつけると思う」
エーリカは村のあちこちで血を流し、身体から魂が抜け落ちて、もの言わぬ亡骸になってしまった者のまぶたをその手でそっと閉じてまわっていた。エーリカはその時、クロウリーの方に背中を向けていた。クロウリーはそんなエーリカにもっと気の利いた言葉をかけれればと思い悩んでしまう。
「クロウリー。あたしはこれから先も皆に地獄を味わせることになる。あたしのキレイごとに付き合わされる皆に返せるものは、あたしがこの大陸に理想郷を作ることだけ。あたしはもっと、即物的なもので答えるべきなのかしら?」
「それはいったい、どういうものを指していっているつもりですか?」
「それこそ、あたしの処女とかはどう? 貧相な身体のあたしであったとしても、気の強いあたしが泣いて痛がってる姿を見たいっていう男は大勢いると思うの」
クロウリーはエーリカの提案を受けて、ブフッと噴き出してしまう。エーリカがむっ! とした顔つきで、こちらに振り向いてくる。クロウリーは失礼しましたと断りを入れる。
「エーリカ殿は今や女神様ですからね。セツラ殿と同じく、神聖で触れてはいけない存在になっています。エーリカ殿の処女を奪う権利がある男は、それこそエーリカ殿と並び立つほどの器の持ち主ではないといけません」
「あたしってそんなに価値がある女かしら?」
「ええ。エーリカ殿は魅力的な女性です。もし、許されるならば、先生がエーリカ殿の旦那様になりたいくらいですよ」
今度はエーリカがブフッ! と噴き出す番であった。しかしながら、クロウリーは笑われて当然の冗談だと思っていたため、心に何のダメージも負うことは無かった。クロウリーはこの時になって、ようやく膝を折り、エーリカと視線を同じにする。そして、エーリカの左手を両手で優しく包み込む。
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