拳聖の一番弟子がぶっ放すロケットパンチ ~氷の悪役令嬢の心を一撃で砕いてチョロイン化~

ももちく

文字の大きさ
13 / 122
第2章:東の果ての囚人

第2話:裏なりの祝い方

しおりを挟む
 ミーナ=バーナンがそう言うと、次に右手の親指と人差し指を用いて、パチンッ! という音を奏でる。するとだ、何か見えない糸に絡まれて、身体の自由を奪われていたロック=イート、サラ=ローランが動けるようになる。ロック=イートはグゥゥゥ……という声を喉から絞り出し、まるで烈火に焼かれた如くに痛む右腕を左手で抑える。そして、あまりの痛みに彼は意識朦朧となり、さらには片膝をついて倒れこむことになる。

 そんなロック=イートに寄り添うかのように、サラ=ローランが彼の下に駆けつけて、治療魔術を唱え始める。すでに仇であるミーナ=バーナンは空気に溶け込むように存在感を失くし、彼女たちには認識できなくなっていた。

「ぼ、僕は悪くないんだウキーーー!」

 コタロー=サルガミがそう言いながらも、後悔の念に襲われてか、崩れ落ちるかのように両膝を地面に打ち付けて、さらには頭を両手で抱え込む。彼が額を石畳にこすりつけるその様は、まるでロック=イートたちに土下座をするような格好でもあった。コタロー=サルガミの思い描いていた絵は、確かにこうではなかった。

 彼は彼の実力を持ってして、ロック=イートを地べたに這いつくばらせたかったのだ。だが、結果はどうだ? コタロー=サルガミは『裏』の誘惑に一部なりとも心を揺さぶられ、『裏』の思うところを実行させてしまったのだ。もちろん、『裏』がこんな計画をおこなうことなど、一言もコタロー=サルガミには告げていない。『裏』の独断専行であり、コタロー=サルガミは結局のところ、利用されてしまったのだ。

「くっくっく……。キョーコ=モトカード様よお……。『表』は所詮、『表』だなあ? 俺様がちょいと甘い言葉を吐いたら、コタロー=サルガミは俺たちの計画に乗ってくれたぜ?」

「嘘八百を言うんじゃないんだウキーーー! お前たちは僕を拳聖の後継者としてバックアップするとは言っていたが、あくまでもそれは票集めとしての役割であって、ロックを再起不能にすることじゃなかったはずだウキーーー!!」

 コタロー=サルガミは崩れ落ちた姿勢のままに、怨嗟に満ちた顔だけをアルカード=カラミティの背中に向ける。だが、その恨みがましいコタロー=サルガミの表情すら見ずにアルカード=カラミティはペッと唾を吐く。そして、アイギスの盾の裏に仕込まれていた短剣ダガー数本をキョーコ=モトカードに向かって全力で投げつける。キョーコ=モトカードは右腕でガンッ! と音を立てながら、自分の身に向かってくる短剣ダガーの群れを殴り飛ばしてしまう。

 アルカード=カラミティは、ハッ! という掛け声と共に後ろへ飛び下がり、ついでに四つん這いになっているコタロー=サルガミの腹を思いっ切り蹴っ飛ばす。コタロー=サルガミはオゴォ! というまるで豚が鳴くような声をあげるが、次にはブヘェという何とも情けない声をあげてしまう。

 そうなったのも、アルカード=カラミティがコタロー=サルガミを踏み台にすべく、彼の背中に全体重を乗せたからだ。そしてアルカード=カラミティは彼の背中で大ジャンプをおこない、近くにある大木の枝に乗ってしまう。

「くっくっく! 拳聖:キョーコ=モトカード様よ……。お楽しみはこれからなんだぜ……」

 木の枝の上で片膝ついた状態でアルカード=カラミティが不敵な笑みを浮かべる。拳聖:キョーコ=モトカードが彼を追撃しようとするが、その前に彼女の鼻に何か焦げ臭い匂いが漂ってくることとなる。その匂いは決闘場の周りにいた皆も感知していた。

「なんだ、この焦げ臭い匂いは……」

「火だーーー! 森に火をつけられたぞーーー!」

 決闘場に集まっていたタイガー・ホールの付近の村々に住む村民たちが恐慌状態に陥るのは当然と言えば当然であった。森の近くに住む者たちが一番恐れるのは森林火災である。森林火災は膨大な熱を産み出す。そして、森から少しばかりしか離れていない村落に火の手が回るのは当たり前のことなのだ。拳聖は『裏』の者たちが自分に対して、本格的に反旗を翻したことに切歯扼腕となる。

 自分が後継者として指名したロック=イートに対して危害を加えるであろうことは、前々から危惧していた。しかしながら、『裏』は予想外に拳聖:キョーコ=モトカードに対して従順であった。だがそれは擬態にすぎなかった。まずは自分の高弟であるコタロー=サルガミをそそのかし、搦め手を用いることによって、拳聖:キョーコ=モトカードの眼をあざむくこととなる。

 タイガー・ホールを囲む森に火を着けられた以上、アルカード=カラミティを追うよりも、自分の弟子たちを消火活動に当たらすことが先決であった。

「では、拳聖:キョーコ=モトカード様。俺様が用意したロック=イート殿への後継者指名の祝いを存分に楽しんでほしいんだぜ……。ちなみに、この後、キョーコ=モトカード様を捕らえに剣聖:プッチィ=ブッディ様がここにやってくるんだがな? はーははっ!!」

 アルカード=カラミティは言いたいことを全て言ったが如くに高笑いをし、木々の枝を飛び回りながら、その場から去っていく。拳聖:キョーコ=モトカードは彼を追いたい気持ちを必死に抑える。彼女は激しく歯ぎしりし、両腕を胸の前で抱え込む。両手の爪が怒りにより二の腕に食い込み、彼女の腕は血まみれと化していた。

「お師匠様! ロックの血が止まらないんですっ! このままじゃ、ロックがっ!!」

 サラ=ローランはロック=イートに治療魔術をかけ続けていた。止血だけでもと、彼の二の腕部分に両手を当てていた。彼女の手のひらには直径20センチメートルの水の玉が生み出されていて、その水の玉がロック=イートの肩先を包み込んでいた。しかし、止血が上手くいかずに、その水の玉は血の玉へと変貌していたのである。

「用意周到だねえ……。簡単に止血できないようにと手刀に薬を仕込んでいたというわけかい?」

 拳聖:キョーコ=モトカードは事ここに至り、『裏』が何を企んでいるのかの一端を知る。ロック=イートを再起不能にしたり、落命させることが奴らの目的では無いことを。そして、わざわざ止血を難しくしていることから、暗にアレを使えとアルカード=カラミティに言われている気がしてならないのであった。

「チッ!! あいつらの思惑通りに動かされているのは癪に障るが……。今は迷っている暇はないようだわい。サラよ。わしゃが戻ってくるまで、出来る限りロック=イートの止血を続けておくのじゃ。わしゃが特効薬をもってきてやるわい……」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

はじめまして、私の知らない婚約者様

有木珠乃@『ヒロ弟』コミカライズ配信中
ファンタジー
ミルドレッド・カーマイン公爵令嬢は突然、学園の食堂で話しかけられる。 見覚えのない男性。傍らには豊満な体型の女性がいる。 けれどその女性から発せられた男性の名前には、聞き覚えがあった。 ミルドレッドの婚約者であるブルーノ王子であることを。 けれどミルドレッドの反応は薄い。なぜなら彼女は……。 この世界を乙女ゲームだと知った人々による、悪役令嬢とヒロイン、魔女の入れ替え話です。 悪役令嬢を救いたかったはずなのに、どうしてこんなことに? ※他サイトにも掲載しています。

「がっかりです」——その一言で終わる夫婦が、王宮にはある

柴田はつみ
恋愛
妃の席を踏みにじったのは令嬢——けれど妃の心を折ったのは、夫のたった一言だった 王太子妃リディアの唯一の安らぎは、王太子アーヴィンと交わす午後の茶会。だが新しく王宮に出入りする伯爵令嬢ミレーユは、妃の席に先に座り、殿下を私的に呼び、距離感のない振る舞いを重ねる。 リディアは王宮の礼節としてその場で正す——正しいはずだった。けれど夫は「リディア、そこまで言わなくても……」と、妃を止めた。 「わかりました。あなたには、がっかりです」 微笑んで去ったその日から、夫婦の茶会は終わる。沈黙の王宮で、言葉を失った王太子は、初めて“追う”ことを選ぶが——遅すぎた。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

剣ぺろ伝説〜悪役貴族に転生してしまったが別にどうでもいい〜

みっちゃん
ファンタジー
俺こと「天城剣介」は22歳の日に交通事故で死んでしまった。 …しかし目を覚ますと、俺は知らない女性に抱っこされていた! 「元気に育ってねぇクロウ」 (…クロウ…ってまさか!?) そうここは自分がやっていた恋愛RPGゲーム 「ラグナロク•オリジン」と言う学園と世界を舞台にした超大型シナリオゲームだ そんな世界に転生して真っ先に気がついたのは"クロウ"と言う名前、そう彼こそ主人公の攻略対象の女性を付け狙う、ゲーム史上最も嫌われている悪役貴族、それが 「クロウ•チューリア」だ ありとあらゆる人々のヘイトを貯める行動をして最後には全てに裏切られてザマァをされ、辺境に捨てられて惨めな日々を送る羽目になる、そう言う運命なのだが、彼は思う 運命を変えて仕舞えば物語は大きく変わる "バタフライ効果"と言う事を思い出し彼は誓う 「ザマァされた後にのんびりスローライフを送ろう!」と! その為に彼がまず行うのはこのゲーム唯一の「バグ技」…"剣ぺろ"だ 剣ぺろと言う「バグ技」は "剣を舐めるとステータスのどれかが1上がるバグ"だ この物語は 剣ぺろバグを使い優雅なスローライフを目指そうと奮闘する悪役貴族の物語 (自分は学園編のみ登場してそこからは全く登場しない、ならそれ以降はのんびりと暮らせば良いんだ!) しかしこれがフラグになる事を彼はまだ知らない

50代無職、エルフに転生で異世界ざわつく

かわさきはっく
ファンタジー
就職氷河期を生き抜き、数々の職を転々とした末に無職となった50代の俺。 ある日、病で倒れ、気づけば異世界のエルフの賢者に転生していた!? 俺が転生したのは、高位エルフの秘術の失敗によって魂が取り込まれた賢者の肉体。 第二の人生をやり直そうと思ったのも束の間、俺の周囲は大騒ぎだ。 「導き手の復活か!?」「賢者を語る偽物か!?」 信仰派と保守派が入り乱れ、エルフの社会はざわつき始める。 賢者の力を示すため、次々と課される困難な試練。 様々な事件に巻き込まれながらも、俺は異世界で無双する! 異世界ざわつき転生譚、ここに開幕! ※話数は多いですが、一話ごとのボリュームは少なめです。 ※「小説家になろう」「カクヨム」「Caita」にも掲載しています。

悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる

竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。 評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。 身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】追放された子爵令嬢は実力で這い上がる〜家に帰ってこい?いえ、そんなのお断りです〜

Nekoyama
ファンタジー
魔法が優れた強い者が家督を継ぐ。そんな実力主義の子爵家の養女に入って4年、マリーナは魔法もマナーも勉学も頑張り、貴族令嬢にふさわしい教養を身に付けた。来年に魔法学園への入学をひかえ、期待に胸を膨らませていた矢先、家を追放されてしまう。放り出されたマリーナは怒りを胸に立ち上がり、幸せを掴んでいく。

処理中です...