拳聖の一番弟子がぶっ放すロケットパンチ ~氷の悪役令嬢の心を一撃で砕いてチョロイン化~

ももちく

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第2章:東の果ての囚人

第3話:天叢雲剣

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 拳聖:キョーコ=モトカードがサラ=ローランにそう告げた後、石畳の上で不格好に倒れ込んでいるコタロー=サルガミの下に近づく。そして彼の道着の襟首を右手でむんずと掴み、彼を強引に立たせ、こちらに振り向かせる。そして、気付け薬代わりにコタロー=サルガミのみぞおちに左のこぶしをめり込ませるのであった。

「ごほごほっ! 何をするんですかっ!」

 いきなりみぞおちを殴られたコタロー=サルガミは前かがみになりながら、殴った本人を非難する。だが、拳聖:キョーコ=モトカードは既にコタロー=サルガミに背中を向けており、ケッ! と吐き捨てた後に

「コタロー、あんたも『裏』に利用されっぱなしじゃ、腹立たしいだろうに。汚名返上、名誉挽回のためにも、わしゃに付き合ってもらうよ」

 こう言われてはコタロー=サルガミに返す言葉も無い。拳聖:キョーコ=モトカードはスタスタと早足で歩き始め、コタロー=サルガミは渋々ながら、彼女に従うことになる。火が回りつつあるタイガー・ホールにて、いったいぜんたい、2人はどこに向かおうというのか? 彼女らの背中を見守っていたサラ=ローランがそう思うが、どこへ行くのかを尋ねる前に、キョーコ=モトカードたちは木々の枝に乗り移りながら、どこかへと消えていくことになる。

 それから10分も経った後であろうか? それまでの間、拳聖の弟子たちは桶に水を汲み、それを焼けていく木々にその中身をぶちまけるといった消火作業に当たりつづけていた。サラ=ローランは自分の道着の腕部分を破り、それをロック=イートの右肩部分に縛り付け、さらにその上から回復魔術を用いて止血を試みる。だが、明らかに不自然にもロック=イートの出血は止まらない。出血の量自体は収まってきたモノの、完全に止血は出来ないでいたのだ。

(このままじゃ、ロックが出血多量で死んでしまうわ……。お師匠様、早く戻ってきてくださいっ!)

 サラ=ローランは額から汗を滲ませながら、必死に治療魔術をかけ続けていた。彼女の身体の中に宿る魔力は枯渇に向かって一直線であった。いよいよもってして、サラ=ローランは自分の生命力をすら魔力に代えて、治療魔術をおこなわなければいけないだろうと考え始めていた。そうしたからといって、ロック=イートの命を現世に留めることが精いっぱいなのもわかっている。だが、それでもだ。黙って彼を死なせるわけにはいけないサラ=ローランであった。

「しっかりしなさい、ロック=イート! あなたは『世界最強の生物』になるんでしょっ!」

 血を大量に失い、眼が虚ろになってきていたロック=イートに対して、サラ=ローランがあらん限りの声量でロック=イートに声をかける。彼は既に焦点が定かではなかった。しかし、彼女の声が届いたのか、ロック=イートは左腕を動かし、涙を零し頬を濡らすサラ=ローランの右頬に左手を優しく添える。その左手はゾッとするほどに冷たく、さらには細かく痙攣しており、それが一層にサラ=ローランの涙の量を増やさせる。

「ウキーーーッ! ロック、サラ、待たせて悪かったっ! これをロックの右腕に装着させるんだっ!」

 いきなり森の奥のほうから、コタロー=サルガミの声がサラ=ローランの耳に届き、彼女の顔はパッと明るいモノに変わる。しかし、その申し訳ない程度の明るい表情はコタロー=サルガミの姿を見て、一気に驚愕の色に変わる。それもそうだ。コタロー=サルガミは全身血まみれであり、身体のそこら中に鋭利な刃物で切り刻まれたような傷が出来上がっていた。コタロー=サルガミは肩でぜえぜえはあはあと荒いを呼吸をしつつ、さらに右足を引きずって、森の奥から闘技場がある場所まで戻ってきたのである。

「コタロー! 一体、何があったのよっ!」

「説明は後だウキーーー! お師匠様が命を賭して手に入れた、この天叢雲剣アメノムラクモノツルギをロックの右腕に装着させるんだウキーーー! そうすれば、ロックの命だけは助かるとお師匠様はおっしゃっていたんだウキーーー!」

「命だけは助かるって、どういうことよっ!」

 サラ=ローランがコタロー=サルガミに反論するが、彼から返事を受け取ることは出来なかった。コタロー=サルガミは右手に持っていた義腕を下手したてに放り投げる。それを彼女が両手で抱えるように受け止めると同時、コタロー=サルガミはその場に倒れ込み、気絶してしまったからだ。『命だけは助かる』。その言葉を受けて、サラ=ローランはどうして良いかわからないでいた。コタロー=サルガミが受け取った義腕は都合よく二の腕の中央部分から爪の先までの一物であった。さらにはあつらえたかのように右腕の義腕なのである。

(明らかに出来過ぎた話よ……。あの黒毛の半兎半人ハーフ・ダ・ラビットが、ロックの右腕を切断したのは、これをロックに装着させるためだって、丸わかりじゃないのよっ!)

 サラ=ローランは逡巡していた。『裏』と呼ばれている謎の二人組が暴れまわったのは、ロック=イートにこの天叢雲剣アメノムラクモノツルギを装着させることが主目的であることのように感じたからだ。このままあの二人組の思惑に乗って良いのかどうか、サラ=ローランには決断できない。

 しかしながら、そんな彼女の迷いを吹き飛ばす行為がロック=イートによっておこなわれる。ロック=イートは意識が混濁しているというのに、優しく彼女の左手に自分の左手を添える。そして、困惑する彼女に向かって、紫色と化した唇を動かし

「サラ、それを俺の右腕に装着してくれ……」

「ロック!!」

 サラ=ローランはロック=イートの声を聞き、堰が崩壊したかのように大粒の涙を両目からボロボロと流し落としてしまう。そんな彼女の泣いている姿をさも愛おしそうな表情でロック=イートは見つめる。サラ=ローランはそんな彼の表情を見て、意を決する。右腕の腕先で強引に流れ落ちる涙を拭き取り、ロック=イートの右肩部分に巻き付けていた道着の切れ端を剥ぎ取る。

「ロック。痛かったら、痛いって言ってね!」

 サラ=ローランは義腕を両手で持ち、恐る恐るロック=イートが切断された右の二の腕部分へと近づけていく。義腕と切断部分が合わさったと同時に、義腕からいくつもの細いコードが触手のようにうねりながら、ロック=イートの二の腕中央から右肩部分を喰らうかの如くに内側から侵食していくのであった……
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