拳聖の一番弟子がぶっ放すロケットパンチ ~氷の悪役令嬢の心を一撃で砕いてチョロイン化~

ももちく

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第9章:この手で掴むモノ

第1話:第3回戦に向けて

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――大王歴1200年10月21日 アンゴリア大王国 首都:アウクスブルグにて――

 主アンゴルモア大王が主催する上覧武闘会は第2回戦で予定されていた試合が10月20日付けで全て終了し、明けて21日、いよいよ第3回戦へと突入する。32人集まった戦士たちはすでに8人までその数を減らしており、いよいよ大会も中盤を過ぎようとしていた。あと3回勝てば、この上覧武闘会で優勝と相成る。それぞれの戦士たちはその身にあまたの傷を負いながらも、さらなる名誉を求めて、闘い続けようと心に誓うのであった。

 その戦士たちのひとりであるロック=イートはトーナメントのAの山における最終戦に臨むこととなる。この1戦に勝てば、3位以上は確定となる。慣例では、このようなトーナメント形式での公式大会では3位決定戦はおこなわれていない。準決勝で敗れれば、その時点で3位が二人存在することとなる。やはり敗者同士の戦いとなる3位決定戦は客入りが悪くなりがちになることと、これ以上、その身を痛める必要性などないだろうということで執りおこなわれていないといったところが実情である。

 それはさておき、ロック=イートは控室でいつも通りにセイ=レ・カンコーと共に最終調整に入っていた。リリー=フルールとヨーコ=タマモも一緒に居るが、彼女らがロック=イートの邪魔をすることはなかったのである。それよりも彼女たちはロック=イートが次に当たる半熊半人ハーフ・ダ・ベアのヨン=ジューロという戦士について、それぞれの意見を交わし合ったのであった。

「わたくし、思うのですわ。あのような長物をロックに相手させる以上、ハンディキャップを設けるべきだと思いますのよ」

「何を言っておるのじゃ。武器の使用を認められている大会において、得物の長短は出てきて当たり前なのじゃ。それをどう克服していくかが醍醐味であるぞ。まあでも、ロックはわらわとの対戦経験があるのじゃ。ある程度は対処しやすい相手じゃろうて」

 ヨーコ=タマモは諭すような口調でリリー=フルールの言いを否定する。否定された側のリリー=フルールは面白くないといった表情になり、さらには唇をアヒルのクチバシのように尖らせてしまう。そして、自分に助け舟を出してほしいとばかりにロック=イートの顔を見る。だが、ロック=イートは最終調整に集中しており、彼女の視線を無視してしまう形となる。

 リリー=フルールはますます面白くないっといった感じを身体全体から醸し出す。しばらく後におこなわれる試合が大事なのはわかるが、それでも自分のことを構ってほしいと思うのは乙女心ゆえにとも言える。それに感づいたのはロック=イートではなく、調整相手であったセイ=レ・カンコーであった。

「たんま、たんまですぜ。あんまり飛ばしすぎちゃ、試合前に体力が尽きちまうでやんす。ちょっとだけ休憩を挟みましょうぜ。リリーお嬢様、悪いんですがロックさんにタオルとバナナジュースを渡してくれませんかい?」

 セイ=レ・カンコーがロック=イートにストップをかける。ロック=イートはふうふうと呼吸を整え、リリー=フルールから渡されたタオルで顔と肩から胸元あたりの汗を拭う。そして、タオルをリリー=フルールに返し、次いで彼女からジョッキに並々と注がれたバナナジュースを受け取り、それに口をつけながら傾けて、ゴクゴクと一気に飲み干してしまうのであった。

「ぷはあ……。リリー様、ありがとう」

「どういたしまして。気になっていましたのですが、今日のロックは何だか、いつも以上に最終調整に熱が入っているように思うのですわ? 何かありまして?」

 リリー=フルールがロック=イートから空になった木製のジョッキを受け取りながら、そうロック=イートに質問をする。先ほどまで不満気であった彼女はやや笑顔になっており、ロック=イートに絡めたことに喜びを感じていたのである。だからこそ、彼女なりにちょっとばかし気になっていたことをロック=イートに聞いたわけであった。

「ああ。これに勝てば準決勝出場が決定すると思うと、自然と身体に力が入ってるみたいで。神槍:ブリトニー=ノーガゥは確実に駒を進めてくるだろうから、ついにその時が迫ってきているっていうかな?」

 リリー=フルールがふ~んといった感じでロック=イートの言葉を受け取る。確かに神槍:ブリトニー=ノーガゥと闘えるだけでも名誉なことは間違いないだろうが、それは逆に委縮してしまうのでないのだろうか? という疑念が浮かんでくる。格上を相手にしなければならない状況に置かれた時、ニンゲンは二通りの気持ちになる。一方は相手を恐れ、心が縮み込む。逆にもう一方は奮い立つ。ロック=イートは相手が強ければ強いほど、心が躍ってしまう部類なんですわねと思ってしまうリリー=フルールであった。

「なるほどなのですわ。でも、準決勝の相手がどうとかの前にロック=イートはまずは眼の前の相手に集中すべきですわ。そうでなければ足元をすくわれかねませんことよ?」

 リリー=フルールの忠告に思わず苦笑してしまうロック=イートであった。そんなことはわかりきっているが、いざ言葉にされると、自分は慢心していることに気づいてしまうロック=イートである。彼はうんうんと頷き、調整用グローブがハマったままの右手で優しくリリー=フルールの金色に染まる頭をポンポンと叩く。

「そうだなっ! リリー様の言う通りだっ。俺としたことが相手を見くびる発言をしちまった」

「わかれば良いのですわ。準決勝のためにも、この一戦を大事にしてくださいまし?」

 リリー=フルールがロック=イートの肯定的な返事につい鼻を高くしてしまう。自分はロック=イートに有益な助言を出来たという自負があったからである。しかしながら、ロック=イートは次戦を疎かにしているつもりはまったくもってなかった。それは最終調整に付き合っているセイ=レ・カンコーが一番わかっている。

(ロックさんも成長したもんですなあ。リリーお嬢様に花をもたせようと思って、あんな風に受け答えしたんでしょうぜ。あとはいつも通りにリリーお嬢様がロックさんのほっぺたに口づけするだけでやんすね)

 セイ=レ・カンコーがそう思っていると、リリー=フルールはまるで庭園に植えられた華が咲き誇るような満面の笑顔になっていく。そして、頭を左右に振り、辺りをキョロキョロと確認するや否や、ロック=イートに向かって唇を突き出して、ロック=イートの唇に軽く当てるのであった。しかしながら、リリー=フルールは軽すぎたと思い、もう一度、押し付けるようにロック=イートの唇を奪う行為にでてしまう……。
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