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第1章:罪には罰を
第7話:エデンの園からの使者
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「おいっ。何を騒いでいるっ! 敵軍がいなくなったからと言って、警戒を解いていいと誰が言ったっ!」
第十七部隊・隊長であるモーリス=アンガーは部隊後方が騒がしくなったので、後ろを振り向き通る声で怒鳴ってみせる。その途端、ざわついていた部隊後方が静かになったので、モーリス=アンガーは再び、自分の前方へと視線を移動させて、この濃い霧の奥を睨めつける。彼は現在、非常に気が立っていた。そのイラつきが声に乗ったことに少しの後悔を抱くこととなる。
ここまで霧が深ければ、多少の声量で怒鳴ったところで、敵軍がどうこうしてくるわけでもないことは重々承知であった。しかしそれでも、偵察部隊の隊長がやって良いことでは無いので、自分自身に強めの反省を促すのであった。自分は1000の兵士の命を預かっているという自負がある。それゆえに責任感はヒト一倍であった。今、部隊が身を潜めている林がある地点でこの12月も終わりを迎えようとしてる時期に、ここまで濃い霧が張ることは非常に珍しいことであろうと。そのことを第十七部隊・隊長であるモーリス=アンガーは予感していた。
そもそもとして、帝国軍が2万5000もの大軍をこの地に停留させていた以上、こういった自然現象が起きにくい場所であることなど、誰しもが簡単に想像がつく。だからこそ、この霧は自然発生では無く、恣意的なシロモノであるとモーリス=アンガーは断じる。そんな警戒心たっぷりのモーリス=アンガーは、ふと何かがこちらに近づいてくるのを察知する。
(何だ? いや、誰だ? 音から察するにヒトの足音?)
モーリス=アンガーの耳は数人の足音が自分たちが潜んでいる林に近づいてきていることをモーリス=アンガー自身に教えてくれる。彼はどうしたものかと逡巡することになるが、何か行動を移す前に、向こう側から声をかけられることとなる。
「どなたかいらっしゃいませんか? ワタクシどもを呼び寄せた誰かがいるはずなのですが?」
濃い霧のためにその声を発している人物をはっきりと視認できないモーリス=アンガーであったが、声の主は女性であることは間違いないだろと思うのであった。そして相手からは敵意を感じない。さらには向こうのほうが困っているといった感じの声調である。おどおどとした口調で、困っていますよというのがありありと伝わってくる。モーリス=アンガーはふう……と長いため息をつき、右手を軽く動かし、自分の後ろに控える部隊全体に警戒心を解けと命じるのであった。
「自分たちは偵察任務についているため、身を潜めている。出来るならば、向こうに行ってくれまいか?」
モーリス=アンガーは林からゆっくりと一人だけ出ていき、女性らしき人物と会話を試みる。自分が相手に話しかけたことで、霧の向こうにあるシルエットがビクッと軽く身体を震わせる。しかし、次の瞬間にはホッと安堵したという所作をしだし、続けて言葉を繋げる。
「ワタクシどもは主の命に従い、貴方たちを桃源郷へと招き入れにきましたの」
「桃源郷? もしや、『エデンの園』のことを指すのか!?」
「お客様によってはそう呼ばれる方もいらっしゃいますわね。色々な呼び名がありますけれど、呼び名についてはそちらにお任せするスタイルを取らせていただていますわ」
モーリス=アンガーは、つい、フフッフハハ……と口から自嘲気味の笑みを零してしまう。確かに偵察任務を放棄して、出来ることなら、娼館にあるふかふかのベッドで眠りながら、豊満な身体つきの娼婦に自分の子宝袋を細い指で揉まれながら、イチモツをいやらしく口いっぱいに頬張ってほしいと思っていた。しかし、そんなことが叶わぬのが戦地である。だからこそ、戦が終わったら、1週間程、繁華街の一角にある娼館が並ぶ区画で遊びたおしてやろうと考えていた。
しかし、自分から出向く前に、娼婦たちが向こうからやってきたのだ。このことに対して、自分を嘲笑うこと以外、出来るはずもなかった。モーリス=アンガーはふぅ……と長いため息をつくと同時に肩から力を出来る限り抜くことにする。
「事情は呑み込んだ。これは神からのご褒美と受け取らせてもらおう」
「ホッとしましたわ……。これでワタクシは主から御叱りを受けなくてすみますもの……」
第十七部隊・隊長のモーリス=アンガーは、二人の副長を林の中から呼び出し、どういう事情になっているのかを手短に説明する。隊長から話を聞かされた二人の副長は互いの顔を交互に見やり、鼻下と口元をだらしなく崩してしまう。酒場の噂でしか聞いたことのないような話であったのに、その甘楽を自分たちが享受できることに喜びを隠せないのでいたのだ。
隊長からの言葉を受けた副長二人は林の中に戻り、物騒なモノをしまえ、だが、股間のぶっそうなモノは解放しろという下品なジョークを言い出すのであった。第十七部隊の兵士たちのほとんどは、副長たちは狂ってしまったのか? と思ってしまったが、『エデンの園』という言葉を聞いて、ヒャッホーーー! と歓声をあげてしまう。
だが、喜ぶ兵士たちの中で、ひとり取り残されたのがレオナルト=ヴィッダーであった。彼は未だに素戔嗚を通して、隠形の術を展開しつづけており、それが災いして、意識がはっきりとしていなかったのだ。そんな彼に対して、コッシロー=ネヅは警戒を解いて良いでッチュウと告げる。レオナルト=ヴィッダーは皆と違う意味で安堵の息を吐くこととなる。
そして、レオナルト=ヴィッダーが自分の左腕に装着している手甲から意識を集中させるのを中断すると同時に、周りに立ち込めていた濃い霧が段々と晴れ渡っていくこととなる。そうするとだ。霧が晴れていくと同時に、林の向こう側に色とりどりの天幕が設置されており、その様はとても大きな酒保のようにも見えたのであった。
第十七部隊に属する面々にとって、その酒保こそ、男たちが夢見つつも、辿り着けない場所であることを認知していた。選ばれた者たちだけが足を踏み入れることが出来るとも言われている『エデンの園』。そこには美麗な天使たちが集い、この世の春を謳歌していると言われていた。提供される料理はどれもがほっぺたが落ちそうなほど美味く、飲める酒はどこの酒造がこしらえた酒よりも気分良く酔いしれることが出来ると伝えられている。
「第十七部隊の皆に告げる。決して、天使たちを失望させるようなことはするな。紳士として振る舞うが良い。それがベッドの上だと言ってもだっ!」
第十七部隊・隊長であるモーリス=アンガーは現実世界における三日間の休息を与えることを兵士たちに告げる。『エデンの園』は現実世界と遮断されている場所だと言われている。それゆえに、それぞれに時間の進み方が違うと伝えられている。それがどれほどの差異を生み出すかはわからないが、彼は疲れ果てた精神を休めるために、とりあえずの三日間の休息を隊全体で取ることに決めるのであった。
第十七部隊・隊長であるモーリス=アンガーは部隊後方が騒がしくなったので、後ろを振り向き通る声で怒鳴ってみせる。その途端、ざわついていた部隊後方が静かになったので、モーリス=アンガーは再び、自分の前方へと視線を移動させて、この濃い霧の奥を睨めつける。彼は現在、非常に気が立っていた。そのイラつきが声に乗ったことに少しの後悔を抱くこととなる。
ここまで霧が深ければ、多少の声量で怒鳴ったところで、敵軍がどうこうしてくるわけでもないことは重々承知であった。しかしそれでも、偵察部隊の隊長がやって良いことでは無いので、自分自身に強めの反省を促すのであった。自分は1000の兵士の命を預かっているという自負がある。それゆえに責任感はヒト一倍であった。今、部隊が身を潜めている林がある地点でこの12月も終わりを迎えようとしてる時期に、ここまで濃い霧が張ることは非常に珍しいことであろうと。そのことを第十七部隊・隊長であるモーリス=アンガーは予感していた。
そもそもとして、帝国軍が2万5000もの大軍をこの地に停留させていた以上、こういった自然現象が起きにくい場所であることなど、誰しもが簡単に想像がつく。だからこそ、この霧は自然発生では無く、恣意的なシロモノであるとモーリス=アンガーは断じる。そんな警戒心たっぷりのモーリス=アンガーは、ふと何かがこちらに近づいてくるのを察知する。
(何だ? いや、誰だ? 音から察するにヒトの足音?)
モーリス=アンガーの耳は数人の足音が自分たちが潜んでいる林に近づいてきていることをモーリス=アンガー自身に教えてくれる。彼はどうしたものかと逡巡することになるが、何か行動を移す前に、向こう側から声をかけられることとなる。
「どなたかいらっしゃいませんか? ワタクシどもを呼び寄せた誰かがいるはずなのですが?」
濃い霧のためにその声を発している人物をはっきりと視認できないモーリス=アンガーであったが、声の主は女性であることは間違いないだろと思うのであった。そして相手からは敵意を感じない。さらには向こうのほうが困っているといった感じの声調である。おどおどとした口調で、困っていますよというのがありありと伝わってくる。モーリス=アンガーはふう……と長いため息をつき、右手を軽く動かし、自分の後ろに控える部隊全体に警戒心を解けと命じるのであった。
「自分たちは偵察任務についているため、身を潜めている。出来るならば、向こうに行ってくれまいか?」
モーリス=アンガーは林からゆっくりと一人だけ出ていき、女性らしき人物と会話を試みる。自分が相手に話しかけたことで、霧の向こうにあるシルエットがビクッと軽く身体を震わせる。しかし、次の瞬間にはホッと安堵したという所作をしだし、続けて言葉を繋げる。
「ワタクシどもは主の命に従い、貴方たちを桃源郷へと招き入れにきましたの」
「桃源郷? もしや、『エデンの園』のことを指すのか!?」
「お客様によってはそう呼ばれる方もいらっしゃいますわね。色々な呼び名がありますけれど、呼び名についてはそちらにお任せするスタイルを取らせていただていますわ」
モーリス=アンガーは、つい、フフッフハハ……と口から自嘲気味の笑みを零してしまう。確かに偵察任務を放棄して、出来ることなら、娼館にあるふかふかのベッドで眠りながら、豊満な身体つきの娼婦に自分の子宝袋を細い指で揉まれながら、イチモツをいやらしく口いっぱいに頬張ってほしいと思っていた。しかし、そんなことが叶わぬのが戦地である。だからこそ、戦が終わったら、1週間程、繁華街の一角にある娼館が並ぶ区画で遊びたおしてやろうと考えていた。
しかし、自分から出向く前に、娼婦たちが向こうからやってきたのだ。このことに対して、自分を嘲笑うこと以外、出来るはずもなかった。モーリス=アンガーはふぅ……と長いため息をつくと同時に肩から力を出来る限り抜くことにする。
「事情は呑み込んだ。これは神からのご褒美と受け取らせてもらおう」
「ホッとしましたわ……。これでワタクシは主から御叱りを受けなくてすみますもの……」
第十七部隊・隊長のモーリス=アンガーは、二人の副長を林の中から呼び出し、どういう事情になっているのかを手短に説明する。隊長から話を聞かされた二人の副長は互いの顔を交互に見やり、鼻下と口元をだらしなく崩してしまう。酒場の噂でしか聞いたことのないような話であったのに、その甘楽を自分たちが享受できることに喜びを隠せないのでいたのだ。
隊長からの言葉を受けた副長二人は林の中に戻り、物騒なモノをしまえ、だが、股間のぶっそうなモノは解放しろという下品なジョークを言い出すのであった。第十七部隊の兵士たちのほとんどは、副長たちは狂ってしまったのか? と思ってしまったが、『エデンの園』という言葉を聞いて、ヒャッホーーー! と歓声をあげてしまう。
だが、喜ぶ兵士たちの中で、ひとり取り残されたのがレオナルト=ヴィッダーであった。彼は未だに素戔嗚を通して、隠形の術を展開しつづけており、それが災いして、意識がはっきりとしていなかったのだ。そんな彼に対して、コッシロー=ネヅは警戒を解いて良いでッチュウと告げる。レオナルト=ヴィッダーは皆と違う意味で安堵の息を吐くこととなる。
そして、レオナルト=ヴィッダーが自分の左腕に装着している手甲から意識を集中させるのを中断すると同時に、周りに立ち込めていた濃い霧が段々と晴れ渡っていくこととなる。そうするとだ。霧が晴れていくと同時に、林の向こう側に色とりどりの天幕が設置されており、その様はとても大きな酒保のようにも見えたのであった。
第十七部隊に属する面々にとって、その酒保こそ、男たちが夢見つつも、辿り着けない場所であることを認知していた。選ばれた者たちだけが足を踏み入れることが出来るとも言われている『エデンの園』。そこには美麗な天使たちが集い、この世の春を謳歌していると言われていた。提供される料理はどれもがほっぺたが落ちそうなほど美味く、飲める酒はどこの酒造がこしらえた酒よりも気分良く酔いしれることが出来ると伝えられている。
「第十七部隊の皆に告げる。決して、天使たちを失望させるようなことはするな。紳士として振る舞うが良い。それがベッドの上だと言ってもだっ!」
第十七部隊・隊長であるモーリス=アンガーは現実世界における三日間の休息を与えることを兵士たちに告げる。『エデンの園』は現実世界と遮断されている場所だと言われている。それゆえに、それぞれに時間の進み方が違うと伝えられている。それがどれほどの差異を生み出すかはわからないが、彼は疲れ果てた精神を休めるために、とりあえずの三日間の休息を隊全体で取ることに決めるのであった。
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