【R18】俺は悪くねえ! ~愛しのお姫様が女騎士に変化しているのを知らずに後ろの穴を穿ってしまいました~

ももちく

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第4章:ヴァルハラへの道

第1話:ささくれ心のリリベル

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 リリベル=ユーリィは兄であるフィルフェン=クレープスによって自己紹介を促される。リリベル=ユーリィはフードだけを頭から外し、車椅子に座るレオに向かって軽く会釈をする。

「ご紹介に預かりましたリリベル=ユーリィです。ここより南に遠く離れた土地から流れてきたダークエルフです。理由あって、フィルフェン王子にウィーゼ王国へと招かれました」

 リリベル=ユーリィは自分のリリベル=ユーリィとしての記憶を掘り起こしながら、ゆっくりと自己紹介をする。自分は名前は明かせぬがとある国の騎士であり、剣だけでなく、攻撃魔法もある程度は使いこなせることを言ってのける。その言葉でパッと顔が明るくなるのは、レオではなく、彼の身の回りの世話をしているのであろう蒼髪オカッパの背の低い女の子であることにリリベル=ユーリィは眉根をひそめることとなる。

(喜んでほしい相手はあんたじゃないっ。なんなの? この子。わたしのレオとどんな関係なの!?)

 蒼髪オカッパの女の子は馴れ馴れしく、さらにはべったりとレオにまとわりついている。いくらレオを介護してくれているといっても、レオとの距離感がおかしすぎるのだ。口から発する言葉に棘が生えてこないように細心の注意を払いつつ、リリベル=ユーリィは、つかぬことをお聞きしますがと一言添えた後、ふたりはどんな関係なのか? と念のために聞いてみる。

「ぼくとレオン様との間柄ですかァ? う~~~ん、改めて聞かれると、どうなんでしょゥ……。恋人とも夫婦とも違いますしィ?」

「チュッチュッチュ。そこは家族とでも言っておけば良いのでッチュウ。お嬢さん……。余計な心配はしなくても良いでッチュウ。クルスのアホにまともな回答を求めることのほうが間違っているのでッチュウ」

 リリベル=ユーリィは自然と左手が腰に佩いた細剣レイピアの鍔近くに移動していた。恋人という言葉に身体が過剰反応し、レオにまとわりつく害虫を排除しようという動きが起きてしまったのだ。それを見透かすかのように車椅子に座るレオのふとももの上で、もぞもぞと動いていた蝙蝠羽付きの白いネズミが間に割って入って、弁明に似たことを言い出すのであった。

「僕たちは運命共同体であり、わかりやすく言えば家族だということでッチュウ。それをクルスのアホが紛らわしい言い方をしただけでッチュウ。お嬢さんが嫉妬の炎を燃え上がらせる必要などないのでッチュウ」

 この一言でリリベル=ユーリィは、この蝙蝠羽付きの白いネズミが兄:フィルフェン=クレープスの関係者であることを察する。どうやら、コッシロー=ネヅという名のこの白ネズミは自分の正体と事情をある程度知っているのだろうと予測する。それならば話は早いとばかりにコッシロー=ネヅに、そちら側が今、どのような状況なのかと逆に話をしてもらうように促す。

 コッシロー=ネヅはチュッチュッチュと不敵な笑みを零した後、レオのひざ元から移動を開始する。レオが車椅子のひじ掛けに乗せている右腕を伝い、どんどんレオの身体をよじ登っていき、ついにはレオの頭の上にちょこんと座ってみせる。だが、レオはそうされながらも、コッシロー=ネヅを自分の頭からはたき落とすことはせずに、彼のされるがままとなっている。そのレオの姿を見て、ますます眉根のシワが増えるリリベル=ユーリィであった。

「今はクルスのアホがその身体を使って、懸命にレオンを治療中といったところでッチュウ。レオンのアホがちょいとばかし、素戔嗚スサノオから呪力ちからを引き出ししすぎて、再起不能に陥りかけたでッチュウ」

「ほう……。そこまでしないといけない事情があったというわけですね? 出来れば詳しく事情を聞かせてほしいのですが……」

「そんなに急かすなでッチュウ。話がとてつもなく長くなりそうだから、まずは茶でもクルスに淹れさせるでッチュウ」

 蝙蝠羽付きの白いネズミはそう言うと、お客様に茶も出さぬとはどういうことだとクルス=サンティーモを叱ってみせる。お前は従者としての心構えが出来ていないとまで罵倒したのだ。まるで小姑が出来の悪い嫁を叱り飛ばしているのに似ていた。そして、リリベル=ユーリィはざまあみろと思ってしまう。自分はこんなに意地が悪いエルフだとは思っておらず、自分の心情にやきもきしてしまう彼女であった。

(うぅ……。自分で自分が嫌になるわ……。いくらリリベル=ユーリィの姿だからといって、あからさまにクルスを邪険に扱わないように注意しないと……)

 リリベル=ユーリィはコッシロー=ネヅの言うところである運命共同体の一員となるのだ。クルス=サンティーモもそのひとりであることは確定済みである。だからこそ、徒党パーティの中で不和が生じないように努めるべきなのはリリベル=ユーリィ自身もわかっていた。しかしながら、それでも距離感のおかしい女の子の存在が気に喰わない彼女である。いっそ、自分の預かり知らぬどこかでクルス=サンティーモに大怪我をしてもらって、運命共同体から離脱してほしいとさえ考えてしまうリリベル=ユーリィは、強めに頭を左右に振り、その邪念も一緒にどこかに吹き飛ばそうとする。

 そんな彼女にキョトンとした顔つきのままで、クルス=サンティーモは薄汚れたテーブルの上に紅茶入りのティーカップを置いていく。そして、リリベル=ユーリィの心情を察せぬままに、彼女へ紅茶を勧めるのであった。

「安い茶葉を使用しているので、味の保証は全くできませんけど、よければこのホットティーで身体を温めてもらえると嬉しいのですゥ」

 フィルフェン王子一行はクルス=サンティーモが人数分用意した紅茶に口をつけて、ああ、心まで温まるようです、ありがとうクルスくんと労いの言葉をかけてみせる。しかしながら、リリベル=ユーリィは紅茶に口をつけるや否や、渋面となってしまう。とにかく、紅茶は香りが大切だ。ティーカップに口が近づいていくというのに、ほとんど紅茶らしい香りを鼻が拾うこともなかった。この時点で嫌な予感が頭をよぎったのだが、兄のフィルフェン=クレープスや白衣の者たちが美味しい美味しいと飲んでいるので、仕方なくティーカップの中身を口の中に流し込んで見せる。

 リリベル=ユーリィの想像通り、香りも満足に発していない紅茶なぞ、口に含んでみれば、ただのお湯に近い味であった。ただひとつ言えることは、ちょうど良い温度の色付きのお湯である。暖房もまともに利いてないない部屋の中であるからこそ、色付きお湯のありがたみがわかる程度といったところである。しかし、それが精いっぱいのおもてなしであることをリリベル=ユーリィは勘づき

「美味しい紅茶をありがとうございます。冷えていた心まで温まる気持ちになってしまいます。でも、出来るなら紅茶はしっかりその度に交換することをお勧めしますわ」

「あうあうあゥ。やっぱり騎士様には一発で見抜かれてしまったのですゥ。せめて3回まで使った茶葉で紅茶をお出しすべきだったのですゥ……」
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