【R18】俺は悪くねえ! ~愛しのお姫様が女騎士に変化しているのを知らずに後ろの穴を穿ってしまいました~

ももちく

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第4章:ヴァルハラへの道

第5話:ヨン=ジューロが残した情報

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「ヨン=ジューロさんはどこですゥ! 金だけもらってほなさいなら! なんて絶対に許せないんですゥ!」

「ちょっと落ち着いてください! こちらの方もヨン=ジューロが情報屋規定第3条第2項目を破ったのでないかと調査中なのです!」

 クルス=サンティーモとデーブ=オクボーンは情報屋仲介所に出向くや否や、受付嬢に喰いかかり、さらには責任者を出せと喚き散らす。クルス=サンティーモたちは所持金の半分をヨン=ジューロに預けたのだ。これで何も情報を得られずに金だけ持ち逃げされてはたまったものではなかった。そんないきり立つふたりに対して、七・三分けのこれまた小役人の中間管理職といった感じの情報屋仲介所の課長がクルス=サンティーモたちの相手をすることとなる。

 課長は店の中で暴れられてはたまったものではないと、ふたりを個室へと案内し、ふかふかのソファーに座ってもらうことにする。そして値が張りそうな木製の長机を挟んで、対面に座った課長がまずは自己紹介だとばかりに名刺を差し出す。

「わたくし、カゲツ=シュレインと申します。情報仲介所:オールドヨーク本店の課長を務めております。この度はこちらがご紹介させてもらったヨン=ジューロが不手際を起こしたようで、こちらも参っておるのですよ」

「そんな自分には責任は無く、それよりも自分たちは被害者なんだと主張するのはやめるんだぜ。あんたらの常とう手段だからなっ。こちとら、そういう小役人のずる賢い手口には辟易してるんだぜ!」


 デーブ=オクボーンはあくまでも自分たちも被害者だと言い張るカゲツ=シュレインに対して、さらに喰いかかっていく。怒る相手をなだめる手法として、まずは共通の敵を置くというのは、話法の基本であった。それをカゲツ=シュレインが教科書通りに披露してみせたことで、デーブ=オクボーンは余計に腹立たしくなってしまう。お前たちのどこが被害者なのだと言ってみろとまくしたてる。

「ですから、ヨン=ジューロはあろうことか、自分で引っ張ってきた情報を顧客に売ることで利益を得るよりも、その情報で自分たちのみの利益にしてしまおうという節が見受けられたのですよ。これは顧客と情報屋の信頼を損ねる行為であり、仲介所としても彼を法に照らし合わせて罰する必要があるのです」

 仲介所の課長であるカゲツ=シュレインは、性質たちの悪い情報屋の場合、往々にこうした行為に走る者がいることを告げる。しかしながら、ヨン=ジューロは今までこういったことをしたことが無く、まさに一流と呼んで良い情報屋であった。その彼が何故に一時的ではあれ、顧客を騙すようなことをしでかしたのか、これがわからないと他人事のように言ってのける課長:カゲツ=シュレインであった。

 そんな態度に業を煮やしたデーブ=オクボーンは、せめてヨン=ジューロがどこで消息を絶ったのかわからないのか? と問い詰める。課長:カゲツ=シュレインは額からこめかみへ垂れ落ちる汗を白いハンカーチで拭きつつ、ヨン=ジューロに関する情報がまとめられた書類に眼を通していく。

 課長:カゲツ=シュレインの言葉には嘘偽りは無かった。それほどまでにヨン=ジューロはこの情報屋界隈では一流と呼ばれている男である。目先の利益で顧客を騙すようなことを一切してこなかった男だ。その男が失踪した理由は果たしてなんなのか? これがすぐわかるようであれば、課長:カゲツ=シュレインも困ることはなかったはずであった。

 そんな困り果てたカゲツ=シュレインに助け舟を出す人物が居た。その人物は個室のドアをノックして、入室してもいいかとお伺いを立てる。カゲツ=シュレインはその人物に入室の許可を与えると、その人物はドアを開き、中に入るや否や、深々とクルス=サンティーモたちに頭を下げてみせる。

「私はカゲツ=シュレインの娘であるアキヅキ=シュレインです。ヨン=ジューロさんが失踪前の夜に私とバーで飲んでいる時に言っていた言葉を思い出したので、それがお役に立つのではなかろうかと思いまして……」

 娘にそう言われて、明らかに挙動不審になるのは課長:カゲツ=シュレインであった。仲介所の職員は素性の知れぬ客に惚れることはほとんどないが、対して、情報屋と密に連絡を取り合うことから、仲が良くなりやすい。そして、ヨン=ジューロが自分の娘に粉をかけていたことを今更に知ることになり、驚きの表情をその顔に浮かべる。

「えっと……、パパ。私とヨン=ジューロさんはあくまでもお酒を一緒に楽しむまでの仲なの。パパが心配するようなところまでは発展してないから。だって、あのひと、仲介所の女性職員全員に粉をかけているんですもの」

 カゲツ=シュレインは娘とヨン=ジューロが一線を越えていなさそうなことに正直ホッと安堵しそうになったが、女性職員全員に粉をかけていると言われて、憤慨しそうになってしまった。情報屋たちとその彼らを客に紹介する仲介所は一蓮托生であり、同じ組織だと世間からは思われがちである。そして、本来なら別の存在であるはずだが、近しい関係であることから、情報屋と仲介所の職員がくっつくことは多々ある。仲介所の職員たちに眼を配っていなければならないカゲツ=シュレインとしては、あの野郎! と握りこぶしを作らざるをえない事案であった。

 そんな憤慨する父親を放っておいて、アキヅキ=シュレインはクルス=サンティーモの近くで膝立ち状態になり、何かが走り書きされたメモ用紙をクルス=サンティーモの左の手のひらの上に乗せる。そして、彼の左手を自分の両手を用いて、握りこぶしにさせる。

「情報屋が持ってきた情報に対して、仲介所の職員には守秘義務が課せられていますの。ですので、今渡したメモ用紙を私どもが居ないところでご確認ください。それが私たち仲介所が出来る精いっぱいのことです……」

 アキヅキ=シュレインはクルス=サンティーモにそう告げると、申し訳なさそうな顔つきのままで、またしても深々と頭を下げる。今まで課長:カゲツ=シュレインに対して、怒りの色を露わにしていたクルス=サンティーモとデーブ=オクボーンは、出来た娘の前でその父親をこれ以上、厳しく叱責するわけにはいかなくなる。

「カゲツさん、今日は出来た娘さんに免じて、この場は引き下がらせてもらうぜ。しかし、この子がもしも可愛い男の娘だったら、おいらはこうはいかなかった……。この子が女性だったことを幸運だったと思っときな?」

 デーブ=オクボーンの性癖の守備範囲はあくまでも男の娘であった。それゆえにお前の娘をどうこうしようとう気は一切無いと、まるで紳士のようであり、同時に盗賊めいた言葉を吐く。とりあえず、怒りの矛を収めてもらったようで、課長:カゲツ=シュレインとしては胸を撫でおろすこととなる。そして、仲介所から退出していくクルス=サンティーモとデーブ=オクボーンに対して、粗品を手渡し、またの御来店をお待ちしておりますという決まり文句を吐いてみせる……。
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