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第4章:ヴァルハラへの道
第6話:喧嘩別れ
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「んで、ヨン=ジューロさんが失踪前に残した言葉が『桃源郷』なのか?」
「はい、その通りなんですゥ。一緒に書かれている数字は、多分、『桃源郷』が現在そこにあるという座標を示していると思うのですゥ」
「クルスよぉ。これをそのまま地図に当てはめると、北ラメリア大陸の西海岸になっちまうぞ? その辺りはどう都合をつけるんだ?」
安宿に戻ってきたクルス=サンティーモとデーブ=オクボーンは、アキヅキ=シュレインから手渡されたメモ用紙に書かれている謎の英数字の羅列を並び替えて、おおよそ、これが正しいのであろうとういうキーワードへと変換してみせる。これが為せたのは、不規則に並べられた英数字をクルス=サンティーモがパッと見た時に、『桃源郷』というワードが頭の中に想い浮かべることが出来たことが大きい。
そもそもとして、クルス=サンティーモはその『桃源郷』の元住人であったからだ。だからこそ、無意味な英数字の羅列の中から、『桃源郷』というワードを掘り起こせたのである。それに関して、異論を唱えることはレオナルト=ヴィッダーだけでなく、デーブ=オクボーンもしなかった。何か確信めいたモノが彼らにあったからである。レオナルト=ヴィッダーとデーブ=オクボーンはあの日、あの場所で実際に『桃源郷』に足を踏み入れた者たちであるからだ。
『桃源郷』には、淫婦の天使たちが住んでいる。そして、『天使の嬉し涙』とは、天使が昇天する際に流す涙と言われているのだ。
「なら、話は早いな。桃源郷に行き、淫婦の天使たちをイカセれば良いわけだな?」
「そういう……ことになりますゥ。でも、お姉さんたちが客よりも先に果てたって話は聞いたことがないんですゥ」
クルス=サンティーモの話では、淫婦の天使たちは『桃源郷』で客に飲み食いさせたり、買い物させたりする代金として、客のスペル魔を徴収しているのだと。そして、徴収役である淫婦の天使たちが客相手にイカサれるのは恥だと強く思っているのだと。真偽はともかくとして、クルス=サンティーモが今まで先輩方たちに聞いた話では、彼女らは客相手に一度もイッタことなど無いと断言していたとレオナルト=ヴィッダーにそう告げる。そう言われたレオナルト=ヴィッダーは、黒金剛石の瞳に強い意志を宿しながら
「男がイクんだ。それに対して、女がイカナイのは自然の摂理から外れている。俺とデーブ=オクボーンが淫婦の天使たちから『天使の嬉し涙』を徴収してやるっ!」
レオナルト=ヴィッダーの迷言に対して、クルス=サンティーモはオォ……と感嘆の声をあげつつ、小さく拍手を送ってみせる。だが、デーブ=オクボーンはありありとその顔に怪訝な表情を浮かべてみせる。そもそもとして、淫婦の天使の性別は女性であり、デーブ=オクボーンの守備範囲の外側に存在する者たちだ。何故に自分も淫婦の天使攻略に名前を挙げられているのか、これがわからない。デーブ=オクボーンはわざとらしく一度、咳払いをし
「残念ながら、いくらおめえのためとは言えども、おいらは女を抱く気はこれっぽちも無いぜ。おいらをあてにするのはやめてくれ」
「なん……だと!? じゃあ、俺ひとりで淫婦の天使たちの相手をしてこいっていうのか!? 俺がアイリス以外の女性を抱くという禁忌を犯そうってのにか!? それは無いんじゃないのかっ!?」
「そもそも、女相手に立つもの立たないってのに、どうやって戦力にする気だったんだ!? こっちこそ、迷惑だわっ!!」
デーブ=オクボーンは女性を抱くことに拒否を示して見せるが、それに対して、レオナルト=ヴィッダーが長年の友情がこの一瞬で崩壊した! とでも言わんばかりの表情をその顔に映してみせる。こういう顔を見せた者が次に吐く言葉はいつも決まっている。
「この裏切り者がっ! 俺たちは一蓮托生だろうがっ!」
「うるせぇ! 金だけでなく、足も使って協力してやってきただろうがよぉ! それに対して、裏切り者扱いってのはどういうことだってんだっ! 立たないモノは立たないって言ってんだろうがよぉ!!」
「あ、あのゥ……。ふたりともその辺りで止めておいたほうが良いんじゃァ……。取り返しのつかない方向に行ってしまいますよォ?」
レオナルト=ヴィッダーとデーブ=オクボーンが互いを口汚く罵り始めたの見たクルス=サンティーモは、ふたりの間に割って入って、喧嘩を止めようとする。しかし、如何せん、クルス=サンティーモは蒼髪オカッパで伸長150センチュミャートルほどしかない。2年間の兵役をこなしたことで、戦士然となったレオナルト=ヴィッダーと元々豚ニンゲンと変わりばえしないデーブ=オクボーンとの取っ組み合いの喧嘩に割って入ることなど出来はしなかった。
もしクルス=サンティーモが半天半人で可愛い男の娘ではなく、屈強なドワーフであったなら、レオナルト=ヴィッダーとデーブ=オクボーンの喧嘩を止められていただろう。
『運命』は窮地に陥っている者をさらに奈落に落とす。
誰が言った言葉かは知らないが、その言葉通りにレオナルト=ヴィッダーとデーブ=オクボーンの間に決定的な溝を作ってしまう。レオナルト=ヴィッダーの右の拳とデーブ=オクボーンの左の拳が交差しあい、互いの頬をぶち抜く。そして、互いに捨て台詞を吐いた後、デーブ=オクボーンは部屋の出入り口のドアを右足で蹴っ飛ばし、ドスンドスン! という怒りを滲ませた足音を生じさせながら、レオナルト=ヴィッダーたちがいる部屋から出て行ってしまう。
「あ、あの……。すぐに謝ったほうが良いと思うんですゥ」
「知るかっ! 俺の覚悟を理解してくれないデーブのほうが圧倒的に悪いっ! そんなことよりも、俺を桃源郷に誘ってくれ、クルスっ!!」
「は、はいですゥ……」
クルス=サンティーモは操をレオナルト=ヴィッダーに捧げている。彼がデーブ=オクボーンを追うよりも、レオナルト=ヴィッダーの願いを叶える方向に動いたのは当然であった。だが、それでも、ふたりに仲違いをしてほしくはなかった。デーブ=オクボーンはレオナルト=ヴィッダーよりも4つ年上だ。だから、向こうから折れてくれる器量は持っているはずだと信じていた。しかし、クルス=サンティーモの望みが叶う日はすぐにやってくることはなかった……。
「で、では、呼び鈴を使いますゥ。ちょっとというか、かなりまぶしいと思うんで、眼がつぶれないように注意してほしいのですゥ」
クルス=サンティーモはチョーカーに結わえられている黄金色の鈴を外し、それを右手に持ち直す。そして、両手でそれを大事に包み込み、膝立ち状態になって、祈りを捧げるポーズを取る。クルス=サンティーモの体内に宿る魔力が黄金色の鈴に流れ込む。そうすることで、黄金色の鈴は虹色の光を部屋中にまき散らすこととなる……。
「はい、その通りなんですゥ。一緒に書かれている数字は、多分、『桃源郷』が現在そこにあるという座標を示していると思うのですゥ」
「クルスよぉ。これをそのまま地図に当てはめると、北ラメリア大陸の西海岸になっちまうぞ? その辺りはどう都合をつけるんだ?」
安宿に戻ってきたクルス=サンティーモとデーブ=オクボーンは、アキヅキ=シュレインから手渡されたメモ用紙に書かれている謎の英数字の羅列を並び替えて、おおよそ、これが正しいのであろうとういうキーワードへと変換してみせる。これが為せたのは、不規則に並べられた英数字をクルス=サンティーモがパッと見た時に、『桃源郷』というワードが頭の中に想い浮かべることが出来たことが大きい。
そもそもとして、クルス=サンティーモはその『桃源郷』の元住人であったからだ。だからこそ、無意味な英数字の羅列の中から、『桃源郷』というワードを掘り起こせたのである。それに関して、異論を唱えることはレオナルト=ヴィッダーだけでなく、デーブ=オクボーンもしなかった。何か確信めいたモノが彼らにあったからである。レオナルト=ヴィッダーとデーブ=オクボーンはあの日、あの場所で実際に『桃源郷』に足を踏み入れた者たちであるからだ。
『桃源郷』には、淫婦の天使たちが住んでいる。そして、『天使の嬉し涙』とは、天使が昇天する際に流す涙と言われているのだ。
「なら、話は早いな。桃源郷に行き、淫婦の天使たちをイカセれば良いわけだな?」
「そういう……ことになりますゥ。でも、お姉さんたちが客よりも先に果てたって話は聞いたことがないんですゥ」
クルス=サンティーモの話では、淫婦の天使たちは『桃源郷』で客に飲み食いさせたり、買い物させたりする代金として、客のスペル魔を徴収しているのだと。そして、徴収役である淫婦の天使たちが客相手にイカサれるのは恥だと強く思っているのだと。真偽はともかくとして、クルス=サンティーモが今まで先輩方たちに聞いた話では、彼女らは客相手に一度もイッタことなど無いと断言していたとレオナルト=ヴィッダーにそう告げる。そう言われたレオナルト=ヴィッダーは、黒金剛石の瞳に強い意志を宿しながら
「男がイクんだ。それに対して、女がイカナイのは自然の摂理から外れている。俺とデーブ=オクボーンが淫婦の天使たちから『天使の嬉し涙』を徴収してやるっ!」
レオナルト=ヴィッダーの迷言に対して、クルス=サンティーモはオォ……と感嘆の声をあげつつ、小さく拍手を送ってみせる。だが、デーブ=オクボーンはありありとその顔に怪訝な表情を浮かべてみせる。そもそもとして、淫婦の天使の性別は女性であり、デーブ=オクボーンの守備範囲の外側に存在する者たちだ。何故に自分も淫婦の天使攻略に名前を挙げられているのか、これがわからない。デーブ=オクボーンはわざとらしく一度、咳払いをし
「残念ながら、いくらおめえのためとは言えども、おいらは女を抱く気はこれっぽちも無いぜ。おいらをあてにするのはやめてくれ」
「なん……だと!? じゃあ、俺ひとりで淫婦の天使たちの相手をしてこいっていうのか!? 俺がアイリス以外の女性を抱くという禁忌を犯そうってのにか!? それは無いんじゃないのかっ!?」
「そもそも、女相手に立つもの立たないってのに、どうやって戦力にする気だったんだ!? こっちこそ、迷惑だわっ!!」
デーブ=オクボーンは女性を抱くことに拒否を示して見せるが、それに対して、レオナルト=ヴィッダーが長年の友情がこの一瞬で崩壊した! とでも言わんばかりの表情をその顔に映してみせる。こういう顔を見せた者が次に吐く言葉はいつも決まっている。
「この裏切り者がっ! 俺たちは一蓮托生だろうがっ!」
「うるせぇ! 金だけでなく、足も使って協力してやってきただろうがよぉ! それに対して、裏切り者扱いってのはどういうことだってんだっ! 立たないモノは立たないって言ってんだろうがよぉ!!」
「あ、あのゥ……。ふたりともその辺りで止めておいたほうが良いんじゃァ……。取り返しのつかない方向に行ってしまいますよォ?」
レオナルト=ヴィッダーとデーブ=オクボーンが互いを口汚く罵り始めたの見たクルス=サンティーモは、ふたりの間に割って入って、喧嘩を止めようとする。しかし、如何せん、クルス=サンティーモは蒼髪オカッパで伸長150センチュミャートルほどしかない。2年間の兵役をこなしたことで、戦士然となったレオナルト=ヴィッダーと元々豚ニンゲンと変わりばえしないデーブ=オクボーンとの取っ組み合いの喧嘩に割って入ることなど出来はしなかった。
もしクルス=サンティーモが半天半人で可愛い男の娘ではなく、屈強なドワーフであったなら、レオナルト=ヴィッダーとデーブ=オクボーンの喧嘩を止められていただろう。
『運命』は窮地に陥っている者をさらに奈落に落とす。
誰が言った言葉かは知らないが、その言葉通りにレオナルト=ヴィッダーとデーブ=オクボーンの間に決定的な溝を作ってしまう。レオナルト=ヴィッダーの右の拳とデーブ=オクボーンの左の拳が交差しあい、互いの頬をぶち抜く。そして、互いに捨て台詞を吐いた後、デーブ=オクボーンは部屋の出入り口のドアを右足で蹴っ飛ばし、ドスンドスン! という怒りを滲ませた足音を生じさせながら、レオナルト=ヴィッダーたちがいる部屋から出て行ってしまう。
「あ、あの……。すぐに謝ったほうが良いと思うんですゥ」
「知るかっ! 俺の覚悟を理解してくれないデーブのほうが圧倒的に悪いっ! そんなことよりも、俺を桃源郷に誘ってくれ、クルスっ!!」
「は、はいですゥ……」
クルス=サンティーモは操をレオナルト=ヴィッダーに捧げている。彼がデーブ=オクボーンを追うよりも、レオナルト=ヴィッダーの願いを叶える方向に動いたのは当然であった。だが、それでも、ふたりに仲違いをしてほしくはなかった。デーブ=オクボーンはレオナルト=ヴィッダーよりも4つ年上だ。だから、向こうから折れてくれる器量は持っているはずだと信じていた。しかし、クルス=サンティーモの望みが叶う日はすぐにやってくることはなかった……。
「で、では、呼び鈴を使いますゥ。ちょっとというか、かなりまぶしいと思うんで、眼がつぶれないように注意してほしいのですゥ」
クルス=サンティーモはチョーカーに結わえられている黄金色の鈴を外し、それを右手に持ち直す。そして、両手でそれを大事に包み込み、膝立ち状態になって、祈りを捧げるポーズを取る。クルス=サンティーモの体内に宿る魔力が黄金色の鈴に流れ込む。そうすることで、黄金色の鈴は虹色の光を部屋中にまき散らすこととなる……。
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