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第9章:海皇の娘
第4話:かつての|戦友《とも》
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レオナルト=ヴィッダーが正気を取り戻し、かつ、リリベル=ユーリィから折檻を受けることで、レオナルト=ヴィッダーが生み出した黒い大蛇たちはその暴威を一気に弱らせることとなる。残された5匹の大蛇たちは緋喰い鳥の身をがんじがらめにして、今まさに緋喰い鳥の長くて太い首をギリギリと搾り上げて、へし折りそうになっていた。
しかし、それを成し遂げるための呪力は既に失われようとしており、緋喰い鳥は自分の身を締め上げる呪力が弱まったのを好機と見て、自身の内側から神力を溢れ出させ、纏わりつく黒い大蛇の胴体をそれをもってし切り刻み、さらには紅い竜巻を両の翼から発して、千切れ千切れの黒い大蛇たちを宙に放り投げる。そして、舞い上がった黒い大蛇たちの身を全て、クチバシでついばみ、胃の中に収めてしまう。
「助かったゾ、そこの小娘タチヨ。ワレとしたことが、そこの小僧がここまで『自由を得るための暴力』から呪力を引き出せるとは思ってイナカッタ……。危うくというところまで追いつめられてシマッタワ」
緋喰い鳥はレオナルト=ヴィッダーたちから敵愾心を解き、再び、大きめの池の中心部でゆったりと座することとなる。緋喰い鳥の身体のあちこちにミミズがのたうち回ったかのように、黒い模様がくっきりと浮かび上がっていた。しかしながら、緋喰い鳥が毛づくろいとばかりに、その黒くなった部分をクチバシでついばむたびに、自分の身体に沁みついた黒色が元の緋色に戻っていく。
その一連の行為から緋喰い鳥は素戔嗚が発した呪力を食べることで除去出来ることをレオナルト=ヴィッダーたちは自然と理解するに至る。
「チュッチュッチュ。ヤタガラス。レオナルトは存外にやるだろう? でッチュウ」
「フンッ。まるで貴様の手柄のように自慢するのはヤメロ。そして、ワレを古い名で呼ぶのもついでにヤメロ」
「それはすまないのでッチュウ。しかし、お前を見ているとどうしても昔、お前と一緒にやんちゃをしたことを思い出ししまうのでッチュウ」
リリベル=ユーリィはふと気づく。憎まれ口を叩いておきながら、この蝙蝠羽付きの白いネズミの表情が懐かしさを表すものに溢れていたのを。そして、緋喰い鳥の方も同様であった。訝し気な表情でありながらも、柔らかさを持っていたのだ。この2匹? はかつては戦友と呼ばれる間柄であったのだろうと、リリベル=ユーリィはそう思えてしょうがないのであった。だからこそ、リリベル=ユーリィは緋喰い鳥にこう尋ねてみせる。
「緋喰い鳥様は、このクソ生意気なドブネズミとは仲が良かったんです?」
「ドブネズミとは失礼な物言いでッチュウ! せめて可愛らしいハツカネズミというべきでッチュウ!」
リリベル=ユーリィはどっちも汚いネズミに変わらないでしょ? と思いつつも、こちらに噛みついてくるコッシロー=ネヅを無視しながら、緋喰い鳥の返答を待つ。緋喰い鳥の顔はあからさまに柔和なモノに変わっていき、空のある一点を見つめながら、リリベル=ユーリィに返答を始める。
「確かに小娘の言う通り、コッシロー=ネヅとワレは縁深き間柄であったことは確かダ。しかしな? こやつは自由を求めすぎ、ワレはコッシロー=ネヅに対抗するために神力を望ンダ。もう遥か昔のコトダ……。あの『神々の黄昏』と呼ばれた時代を生き延びるには、ワレとコッシロー=ネヅはそれを選ぶしかなったダケダ」
リリベル=ユーリィは『神々の黄昏』という言葉を聞き、神話の時代と呼ばれた頃からコッシロー=ネヅと緋喰い鳥が存在していたことを知る。しかし、神話の時代とは、同時におとぎ話と呼ばれるほどに古い時代であり、リリベル=ユーリィがその時代に想いを馳せるには、どうしても情報量が圧倒的に足りなかった。
「色々と聞きたいことだらけだけど、この短い生を全うすることしか出来ないわたしには明らかに情報過多になりそう。心の片隅にでも置いておくわ」
「それが良イ。今更、あの『神々の黄昏』のことを聞いたところで、今の時代の価値観とはそぐわないことダラケナノダ。ヒトの大いなる過ちのひとつは、歴史を自分の生きている時代の価値観で断罪するコトナリ」
緋喰い鳥の含蓄が溢れる言葉にリリベル=ユーリィは深く納得するしかなかった。多くのヒトはその一生を全うすることに全力を注ぎ込むしかない。それゆえに、前しか見れないというある意味では正しく、ある意味では間違った感覚にとらわれてしまう。だからこそ、歴史書を編纂する歴史家たちは、俯瞰した視点から物事を判断するしかないのだ。そのことをとくとくと歴史ヲタクの兄:フィルフェン=クレープスから解説されたことがあるリリベル=ユーリィである。
だからこそ、リリベル=ユーリィは緋喰い鳥が何を言っているのかを普通にあっさりと理解できたのだ。エクレア=シューとレオナルト=ヴィッダーは首を傾げ、頭の中でクエスチョンマークが浮かんでは消えていっているという表情になっている。これが教養の差なんだろうなとリリベル=ユーリィはそう思わざるをえないのであった。今度、ゆっくりと緋喰い鳥の言わんとしていることをコッシロー=ネヅと共に解説しようと思うリリベル=ユーリィである。
「さて、小僧。地上の楽園と呼ばれた島までやってきたのだから、手ぶらで帰るわけにもいかないダロウ。ワレがその忌々しい呪物をもらい受けヨウゾ。そういう目的もあって、わざわざワレに会いにきたのでアロウ?」
「チュッチュッチュ。勘違いするんじゃないでッチュウ。長い年月を経て、『自由を得るための暴力』はお前の想像以上の思念を喰らってきたのでッチュウ。お前の胃袋でも収まる代物ではなくなっているのでッチュウ」
「ふむ……。では、コッシロー=ネヅ。お前がこの小僧をこの島に連れてきたのは、少しでもこの小僧を延命させるためダナ?」
緋喰い鳥の問いに、コッシロー=ネヅは珍しく真面目な顔つきでコクリと頷いてみせる。それだけで全てを理解したのか、緋喰い鳥は自分の翼をついばみ、無理やりに緋色の羽根を引っこ抜く。そして、引っこ抜いた羽根を10数枚、リリベル=ユーリィたちにクチバシを介して放り投げてくる。緋色の羽根は大小、それぞれ大きさが違っており、小さな羽根はエクレア=シュー、リリベル=ユーリィの身体に吸い込まれる。
その途端、エクレア=シューは卑肉周りに感じていた鋭い痛みが消える。リリベル=ユーリィは失っていた体力のほどんどを回復するに至る。そして、ひとかかえもある大きな羽根の一枚をレオナルト=ヴィッダーが地面に落とさないように抱えこむと、彼の身体は緋に包まれ、文字通り、緋だるまとなる。
「ちょっとぉぉぉ! レオ、大丈夫なの!?」
「クソッ! 神は俺にどんだけ試練を与えやがるんだ!? あちぃ、あちち、あっつぅぅぅいいい!!」
しかし、それを成し遂げるための呪力は既に失われようとしており、緋喰い鳥は自分の身を締め上げる呪力が弱まったのを好機と見て、自身の内側から神力を溢れ出させ、纏わりつく黒い大蛇の胴体をそれをもってし切り刻み、さらには紅い竜巻を両の翼から発して、千切れ千切れの黒い大蛇たちを宙に放り投げる。そして、舞い上がった黒い大蛇たちの身を全て、クチバシでついばみ、胃の中に収めてしまう。
「助かったゾ、そこの小娘タチヨ。ワレとしたことが、そこの小僧がここまで『自由を得るための暴力』から呪力を引き出せるとは思ってイナカッタ……。危うくというところまで追いつめられてシマッタワ」
緋喰い鳥はレオナルト=ヴィッダーたちから敵愾心を解き、再び、大きめの池の中心部でゆったりと座することとなる。緋喰い鳥の身体のあちこちにミミズがのたうち回ったかのように、黒い模様がくっきりと浮かび上がっていた。しかしながら、緋喰い鳥が毛づくろいとばかりに、その黒くなった部分をクチバシでついばむたびに、自分の身体に沁みついた黒色が元の緋色に戻っていく。
その一連の行為から緋喰い鳥は素戔嗚が発した呪力を食べることで除去出来ることをレオナルト=ヴィッダーたちは自然と理解するに至る。
「チュッチュッチュ。ヤタガラス。レオナルトは存外にやるだろう? でッチュウ」
「フンッ。まるで貴様の手柄のように自慢するのはヤメロ。そして、ワレを古い名で呼ぶのもついでにヤメロ」
「それはすまないのでッチュウ。しかし、お前を見ているとどうしても昔、お前と一緒にやんちゃをしたことを思い出ししまうのでッチュウ」
リリベル=ユーリィはふと気づく。憎まれ口を叩いておきながら、この蝙蝠羽付きの白いネズミの表情が懐かしさを表すものに溢れていたのを。そして、緋喰い鳥の方も同様であった。訝し気な表情でありながらも、柔らかさを持っていたのだ。この2匹? はかつては戦友と呼ばれる間柄であったのだろうと、リリベル=ユーリィはそう思えてしょうがないのであった。だからこそ、リリベル=ユーリィは緋喰い鳥にこう尋ねてみせる。
「緋喰い鳥様は、このクソ生意気なドブネズミとは仲が良かったんです?」
「ドブネズミとは失礼な物言いでッチュウ! せめて可愛らしいハツカネズミというべきでッチュウ!」
リリベル=ユーリィはどっちも汚いネズミに変わらないでしょ? と思いつつも、こちらに噛みついてくるコッシロー=ネヅを無視しながら、緋喰い鳥の返答を待つ。緋喰い鳥の顔はあからさまに柔和なモノに変わっていき、空のある一点を見つめながら、リリベル=ユーリィに返答を始める。
「確かに小娘の言う通り、コッシロー=ネヅとワレは縁深き間柄であったことは確かダ。しかしな? こやつは自由を求めすぎ、ワレはコッシロー=ネヅに対抗するために神力を望ンダ。もう遥か昔のコトダ……。あの『神々の黄昏』と呼ばれた時代を生き延びるには、ワレとコッシロー=ネヅはそれを選ぶしかなったダケダ」
リリベル=ユーリィは『神々の黄昏』という言葉を聞き、神話の時代と呼ばれた頃からコッシロー=ネヅと緋喰い鳥が存在していたことを知る。しかし、神話の時代とは、同時におとぎ話と呼ばれるほどに古い時代であり、リリベル=ユーリィがその時代に想いを馳せるには、どうしても情報量が圧倒的に足りなかった。
「色々と聞きたいことだらけだけど、この短い生を全うすることしか出来ないわたしには明らかに情報過多になりそう。心の片隅にでも置いておくわ」
「それが良イ。今更、あの『神々の黄昏』のことを聞いたところで、今の時代の価値観とはそぐわないことダラケナノダ。ヒトの大いなる過ちのひとつは、歴史を自分の生きている時代の価値観で断罪するコトナリ」
緋喰い鳥の含蓄が溢れる言葉にリリベル=ユーリィは深く納得するしかなかった。多くのヒトはその一生を全うすることに全力を注ぎ込むしかない。それゆえに、前しか見れないというある意味では正しく、ある意味では間違った感覚にとらわれてしまう。だからこそ、歴史書を編纂する歴史家たちは、俯瞰した視点から物事を判断するしかないのだ。そのことをとくとくと歴史ヲタクの兄:フィルフェン=クレープスから解説されたことがあるリリベル=ユーリィである。
だからこそ、リリベル=ユーリィは緋喰い鳥が何を言っているのかを普通にあっさりと理解できたのだ。エクレア=シューとレオナルト=ヴィッダーは首を傾げ、頭の中でクエスチョンマークが浮かんでは消えていっているという表情になっている。これが教養の差なんだろうなとリリベル=ユーリィはそう思わざるをえないのであった。今度、ゆっくりと緋喰い鳥の言わんとしていることをコッシロー=ネヅと共に解説しようと思うリリベル=ユーリィである。
「さて、小僧。地上の楽園と呼ばれた島までやってきたのだから、手ぶらで帰るわけにもいかないダロウ。ワレがその忌々しい呪物をもらい受けヨウゾ。そういう目的もあって、わざわざワレに会いにきたのでアロウ?」
「チュッチュッチュ。勘違いするんじゃないでッチュウ。長い年月を経て、『自由を得るための暴力』はお前の想像以上の思念を喰らってきたのでッチュウ。お前の胃袋でも収まる代物ではなくなっているのでッチュウ」
「ふむ……。では、コッシロー=ネヅ。お前がこの小僧をこの島に連れてきたのは、少しでもこの小僧を延命させるためダナ?」
緋喰い鳥の問いに、コッシロー=ネヅは珍しく真面目な顔つきでコクリと頷いてみせる。それだけで全てを理解したのか、緋喰い鳥は自分の翼をついばみ、無理やりに緋色の羽根を引っこ抜く。そして、引っこ抜いた羽根を10数枚、リリベル=ユーリィたちにクチバシを介して放り投げてくる。緋色の羽根は大小、それぞれ大きさが違っており、小さな羽根はエクレア=シュー、リリベル=ユーリィの身体に吸い込まれる。
その途端、エクレア=シューは卑肉周りに感じていた鋭い痛みが消える。リリベル=ユーリィは失っていた体力のほどんどを回復するに至る。そして、ひとかかえもある大きな羽根の一枚をレオナルト=ヴィッダーが地面に落とさないように抱えこむと、彼の身体は緋に包まれ、文字通り、緋だるまとなる。
「ちょっとぉぉぉ! レオ、大丈夫なの!?」
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