【R18】俺は悪くねえ! ~愛しのお姫様が女騎士に変化しているのを知らずに後ろの穴を穿ってしまいました~

ももちく

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第10章:災厄の兆し

第7話:芋スープとパーン

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 レオナルト=ヴィッダーはリリベル=ユーリィが戦ってくれている最中、彼女に加勢したい気持ちでいっぱいであった。だが、リリベル=ユーリィが必死に戦う姿に心を打たれ、少しでも自分の身を休めることに努めきったのであった……。

「リリベル、すまない。俺の身体がまともだったら、お前に無茶なんかさせないんだが」

「いいの。感謝の言葉をもらえるだけで、わたしは救われた気分になれるの。だって、わたしはあなたに誓ったもの。レオの盾となり、剣となるのがわたしの運命よ」

 リリベル=ユーリィは鈍い汗を額から流しながらも、レオナルト=ヴィッダーのことを気遣った。麻痺毒が抜けてくると同時に、身体のあちこちにある切り傷から熱が発せられ、その熱が頭のほうに昇ってくる。リリベル=ユーリィは少しだけ眠らせてほしいとレオたちに願い出る。

「じゃあ、寝ている間、俺がリリベルの手を握っておくよ。良い夢を……」

 レオナルト=ヴィッダーはリリベル=ユーリィに言った通り、彼女が寝ている1時間ほどの間、ずっと彼女の左手を右手で握り続けた。クルス=サンティーモとエクレア=シューはそうされているリリベル=ユーリィが羨ましくてしょうがなかった。だが、その嫉妬心にも似た感情を口から漏らすことは決してなかった。

「だんだん、寝息が安定してきたな。ふぁああ。リリベルの寝顔を見ていると、こっちも眠くてしょうがないな」

「そうですね~~~。見張りは御者台に座っているデーブさんに任せて、あたしたちも寝ちゃいます~~~?」

「そうしようか。おーーーい、デーブ。何か起きたら、俺たちを起こしてくれ」

 レオナルト=ヴィッダーは荷台側から御者台に居るデーブ=オクボーンにそう頼む。デーブ=オクボーンからはあいよ! と快く返事がやってくる。了承を得たレオナルト=ヴィッダーたちは足を両腕で抱え込んだ姿勢で夕食前のお昼寝タイムへと入る。

 レオナルト=ヴィッダーたちが目覚めたのは夕刻過ぎであった。小1時間と考えていたが、デーブ=オクボーンが気を利かせたのもある。さらには彼の頭の上でちょこんと乗っていた蝙蝠羽付きの白いネズミが幌付き馬車の存在感を希薄にさせる魔術を使用してくれていたために、魔物モンスターの再襲来を防いでいてくれた。

「チュッチュッチュ。この借りは高くつくのでッチュウ。オールドヨークに到着したら、高級チーズとワインを所望するのでッチュウ」

「ダメなのですゥ。いくらフィルフェン王子から融資を受けているからといって、無駄遣いは厳禁なのですゥ。安物チーズと若いワインで勘弁してほしいのですゥ」

 フィルフェン王子からレオナルト=ヴィッダーは旅の資金をもらっていた。それの一切合切をクルス=サンティーモに預けているレオナルト=ヴィッダーである。彼の決断はある意味間違っていなかった。クルス=サンティーモは倹約家としての才能を十分に発揮し、無駄な出費を抑えてくれていた。しかしながら、フィルフェン王子からもらった金貨袋にどれほどの金貨が詰め込まれているのかをコッシロー=ネヅも確認していた。

 だからこそ、ちょっとばかりの贅沢をしても、なんら問題ない量の金貨をもらっていることを知っているコッシロー=ネヅである。旅から無事に帰還したのだから、パーティーを開いても問題無いのだが、クルス=サンティーモはダメですゥ! の一点張りであった。

「チュッチュッチュ。僕の見立てでは生活するのに2~3年は心配いらないほどの金貨が詰まっていたはずでッチュウけど? これだけの大所帯になったのだから、ここは親睦会を開くべきでッチュウ」

 太陽が西の大地の向こう側に沈みかけていようとする中、幌付き荷馬車を引いていた馬たちは足を止める。今日の行程はここまでとばかりに、レオナルト=ヴィッダーたちは夕飯にありつくことにする。干肉と芋のスープ。そして冷たく硬くなったパンパーンを千切り、芋のスープに軽く浸しながら、それを無理やり胃の中に押し込む。

 こんな質素すぎる食事に嫌気がさしまくりのコッシロー=ネヅは、未だに豪華な食事を楽しんだほうが良いと主張してやまない。

「ほんと、クルスは融通が利かないでッチュウ! 一晩や二晩、謝チーズ祭を開いたところで、もらった金貨袋の重さが大きく変わるわけでは無いでッチュウ!」

「ダメですゥ! 365日、干肉と芋スープ、そして冷たく硬くなったパンパーンで過ごし、さらには安宿を厳選することで、ここ10年は食べていくことが出来るとぼくは計算しているのですゥ!」

 クルス=サンティーモがそう言うのを聞いて、うえぇぇぇとあからさまに不満気な表情を顔に浮かべるのはコッシロー=ネヅだけではなかった。リリベル=ユーリィとエクレア=シューも、この不味い食事を365日、さらに10年も続けたいと思わなかった。

「えっと……。クルスには悪いけど、わたし、この食事だけだと1カ月ももたない……」

「そうです~~~。食事は元気の源なんです~~~。1週間に1回はせめて海産物たっぷりカレーが食べたくなるのです~~~」

 クルス=サンティーモは驚愕のあまり、眼を丸くする他無かった。同意してくれるはずと思い込んでいたリリベル=ユーリィたちが早々に裏切ったからだ。リリベル=ユーリィたちはレオナルト=ヴィッダーがフィルフェン王子からいくらもらったかを正確には知らない。だが、質素倹約を続けて、10年も暮らせるというクルス=サンティーモの言葉から、軽く計算をおこなうことで、相当量の融資を受けていることを理解している。

 リリベル=ユーリィとエクレア=シューはちらりとレオナルト=ヴィッダーのほうを見る。視線を感じたレオナルト=ヴィッダーはムムムと唸った後

「クルス。俺はもっと味のついた食事を楽しみたいと思っている。だから、オールドヨークに着いたら、ささやかながらもパーティーを開かないか? コッシローが言う高級チーズとワインまでは必要無いが、皆の士気をだだ下がりさせたくは無い」

「ううゥ……。レオン様まで敵に回るんですゥ? これから、家族が増えるかもしれないんですよォ? リリベル様、エクレアさん、そしてぼくに赤ちゃんが出来たら、とてもじゃないでけど、もらった分の金貨じゃ足りなくなってくるのですゥ」

 クルス=サンティーモの言いに、えっ!? と素っ頓狂な声をあげてしまうレオナルト=ヴィッダーである。まるでさび付いたドアノブのようにギギギッと音が鳴りそうな感じでレオナルト=ヴィッダーはリリベル=ユーリィとエクレア=シューの方へと顔を向ける。レオナルト=ヴィッダーに顔を向けられたリリベル=ユーリィとエクレア=シューは明らかに驚きの表情をその顔に浮かべ、さらにはぶんぶんと首級くびを左右に猛烈に振りまくっている。

 レオナルト=ヴィッダーは心底、ホッと安堵する他無かった……。
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