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第10章:災厄の兆し
第10話:幸せと災厄
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暴走モードから通常モードへと移行したレオナルト=ヴィッダーは、リリベル=ユーリィが風邪をひかないようにと、気遣いを見せる。リリベル=ユーリィが着ている鎧下の服にはレオナルト=ヴィッダーの小便がこびりついている。このままにしておけば、彼女は身体を冷やしてしまうのは当然の帰結であった。
レオナルト=ヴィッダーはおもむろに自分の服を脱ぎ、それをリリベル=ユーリィに与える。
「これに着替えてくれ。俺はあまり暑さ寒さを感じないから」
レオナルト=ヴィッダーは1月真っただ中の寒空の下、パンツ一丁の姿になっているというのに、彼の言葉を証明しているかのように振る舞う。リリベル=ユーリィは眉間にシワを寄せることになるが、まずはレオナルト=ヴィッダーに与えられた服と自分の服を交換する。そして、急いで荷馬車に戻り、ごそごそと荷物を漁り始める。いくら暑さ寒さを感じにくい身体になってしまっていたとしても、レオをパンツ一丁のままにしておくことは彼女には出来なかった。
荷台から代えの上着とズボンを引っ張り出してきて、レオナルト=ヴィッダーに手渡すリリベル=ユーリィであった。レオナルト=ヴィッダーは草地の地面に尻をつけながら、リリベル=ユーリィに持ってきてもらった服へと着替え始める。
寒空の上に位置する半月が地上に柔らかな光を降り注いでいた。レオナルト=ヴィッダーの身体の一部はその半月からの光を反射させていた。レオナルト=ヴィッダーの身体の2割近くが鉱物と化していたために起こった現象である。しかしながら、リリベル=ユーリィはレオナルト=ヴィッダーのその身体を見て、とある気づきを得る。
「レオ。前までは左足全体が鉱物化してたけど、今は生身の部分が多くなってる気がする」
「ああ、緋喰い鳥の羽根のおかげで、かなりマシな状態にまで戻ってくれたようだ。でも、あいつが言っていた通り、完全には元の身体には戻らないし、容易に俺が俺で無くなることも皮肉ながら証明されたんだけどな……」
実際のところ、レオナルト=ヴィッダーが緋喰い鳥に向けて黒い大蛇を放った時点で、レオナルト=ヴィッダーの身体の4割が鉱物化していた。しかし、さすがは緋喰い鳥である。かの者の癒しの神力は本物であり、レオナルト=ヴィッダーの不調の半分を文字通り喰ってしまったのだ。
「完全に無駄足じゃなかっただけマシだった。朱鷺は手に入れられなかったが、俺は他の秘宝を手に入れるまでの貴重な時間を得ることが出来たんだろうから」
レオナルト=ヴィッダーの独白めいた言葉にリリベル=ユーリィはどう返事をしていいか悩むこととなる。レオが自分の身を文字通り犠牲にしているのは、アイリス=クレープスのためである。そして、アイリス=クレープスはリリベル=ユーリィである。レオをこんな窮状に追いこんでしまった自分を責めたくてしょうがなくなってしまうリリベル=ユーリィである。
「レオ……。わたしが出来ることがあったら、何でも命じてください。先ほどは恐怖のあまりにレオを拒んでしまったけど、次から受け入れれるように努力しますので」
「何言ってるんだ。リリベルがああしてくれたからこそ、今、俺は正気に戻れたんだ。まだ子宝袋がジンジンと痛むけど、これはリリベルの成果でもあるんだ」
レオの優しさに溢れる言葉にリリベル=ユーリィは泣きそうになってしまう。実際に、眼尻には涙が貯まってきており、それが今にも溢れそうになっていた。そんな彼女の泣きそうな顔にレオが自分の顔を近づけていき、リリベル=ユーリィの眼尻に軽く接吻する。
「リリベルの涙はアイリスの味と似ているな。おっと……。こんなことをしたのはアイリスには黙っていてくれよ?」
「バカ……」
「俺は自分がバカなのは十分わかっている。アイリスから散々に言われてたからな、バカだって」
リリベル=ユーリィは心の底からレオがバカだと思ってしまう。バカにつける薬が無いという言葉が真実であることをリリベル=ユーリィは知っているのだ。それを証明したのが他でもない、眼の前で困り顔になりながらも、微笑んでいるレオナルト=ヴィッダーなのだ。リリベル=ユーリィはなんだか腹立たしい気持ちになり、零れ落ちそうになっていた涙もひっこんでしまっていた。
「レオはなんでそこまでアイリス様のことが好きなの? レオがそこまでして、結婚したいと思えるほどの相手なの?」
リリベル=ユーリィは返ってくる答えがわかっていながらも、聞かずにはいられなかった。自分自身がアイリス=クレープスでありながら、リリベル=ユーリィとして嫉妬心を抱かずにはいられなかったからこその発言である。レオナルト=ヴィッダーは視線を寒空に浮かぶ半月へと移したのちに
「アイリスは俺に言ったことがある。わたしは月で、あなたは太陽よと。あなたが居てくれるからこそ、わたしは輝けるのって。だけど違うんだ。俺にとっての太陽はアイリスで、月は俺なんだ」
レオナルト=ヴィッダーはそこまで言うと、一度、言葉をそこで切り、視線をリリベル=ユーリィの方へと向け直す。
「俺が俺でいられるのはアイリスのおかげなんだ。俺は『災厄』からアイリスを護るための盾になりたい。『災厄』を打ち払うための剣になりたい。占い師の世迷言と切り捨てることは俺には出来ないんだ」
リリベル=ユーリィの心臓はどドキンと一度、跳ね上がる。リリベル=ユーリィはアイリス=クレープスであった時のことを思い出す。レオナルト=ヴィッダーが言っている占い師とは2年前の祭りの日にまでさかのぼることになる。アイリス=クレープスとレオナルト=ヴィッダーは愛し合う宿に入る1~2時間ほど前に、浮浪者かと見間違う風貌をした占い師と出会っていた。
そのボサボサ髪の年老いた占い師が『そちらの女性に逃れられぬ災厄が訪れる』といきなり言ってきたのだ。アイリス=クレープスはその占い師に対して、聞き耳をもたずにいた。レオとの幸せを妬む言葉として認識していたのだ。
しかし、レオは違っていた。それは明確な予言であり、アイリスに降りかかるであろう火の粉を打ち払おうとしていたのだ。
「俺はアイリスには幸せになってほしいと願っている。たとえ、幸せそうなカップルを妬んだ占い師の言葉であったとしても、俺には何かひっかっかるものがあったんだ。その後、俺とアイリスはロータス国王によって物理的に離されてしまったけど、占い師が言っていた『災厄』は別でやってくる……」
リリベル=ユーリィは背中に小虫が這いあがってくるような感触に捕らわれる。気持ちの悪さが腰から背中、そして肩のあたりまで上がってくる。しかし、レオナルト=ヴィッダーはリリベル=ユーリィが感じている気持ちの悪さに気づかぬままに言葉を繋げていく。
「アイリスは俺が絶対に幸せにしてみせる。アイリスの身に『災厄』がやってきた時に、俺がアイリスの側に居られるように。俺は今、俺の身を犠牲にしているんだ」
レオナルト=ヴィッダーはおもむろに自分の服を脱ぎ、それをリリベル=ユーリィに与える。
「これに着替えてくれ。俺はあまり暑さ寒さを感じないから」
レオナルト=ヴィッダーは1月真っただ中の寒空の下、パンツ一丁の姿になっているというのに、彼の言葉を証明しているかのように振る舞う。リリベル=ユーリィは眉間にシワを寄せることになるが、まずはレオナルト=ヴィッダーに与えられた服と自分の服を交換する。そして、急いで荷馬車に戻り、ごそごそと荷物を漁り始める。いくら暑さ寒さを感じにくい身体になってしまっていたとしても、レオをパンツ一丁のままにしておくことは彼女には出来なかった。
荷台から代えの上着とズボンを引っ張り出してきて、レオナルト=ヴィッダーに手渡すリリベル=ユーリィであった。レオナルト=ヴィッダーは草地の地面に尻をつけながら、リリベル=ユーリィに持ってきてもらった服へと着替え始める。
寒空の上に位置する半月が地上に柔らかな光を降り注いでいた。レオナルト=ヴィッダーの身体の一部はその半月からの光を反射させていた。レオナルト=ヴィッダーの身体の2割近くが鉱物と化していたために起こった現象である。しかしながら、リリベル=ユーリィはレオナルト=ヴィッダーのその身体を見て、とある気づきを得る。
「レオ。前までは左足全体が鉱物化してたけど、今は生身の部分が多くなってる気がする」
「ああ、緋喰い鳥の羽根のおかげで、かなりマシな状態にまで戻ってくれたようだ。でも、あいつが言っていた通り、完全には元の身体には戻らないし、容易に俺が俺で無くなることも皮肉ながら証明されたんだけどな……」
実際のところ、レオナルト=ヴィッダーが緋喰い鳥に向けて黒い大蛇を放った時点で、レオナルト=ヴィッダーの身体の4割が鉱物化していた。しかし、さすがは緋喰い鳥である。かの者の癒しの神力は本物であり、レオナルト=ヴィッダーの不調の半分を文字通り喰ってしまったのだ。
「完全に無駄足じゃなかっただけマシだった。朱鷺は手に入れられなかったが、俺は他の秘宝を手に入れるまでの貴重な時間を得ることが出来たんだろうから」
レオナルト=ヴィッダーの独白めいた言葉にリリベル=ユーリィはどう返事をしていいか悩むこととなる。レオが自分の身を文字通り犠牲にしているのは、アイリス=クレープスのためである。そして、アイリス=クレープスはリリベル=ユーリィである。レオをこんな窮状に追いこんでしまった自分を責めたくてしょうがなくなってしまうリリベル=ユーリィである。
「レオ……。わたしが出来ることがあったら、何でも命じてください。先ほどは恐怖のあまりにレオを拒んでしまったけど、次から受け入れれるように努力しますので」
「何言ってるんだ。リリベルがああしてくれたからこそ、今、俺は正気に戻れたんだ。まだ子宝袋がジンジンと痛むけど、これはリリベルの成果でもあるんだ」
レオの優しさに溢れる言葉にリリベル=ユーリィは泣きそうになってしまう。実際に、眼尻には涙が貯まってきており、それが今にも溢れそうになっていた。そんな彼女の泣きそうな顔にレオが自分の顔を近づけていき、リリベル=ユーリィの眼尻に軽く接吻する。
「リリベルの涙はアイリスの味と似ているな。おっと……。こんなことをしたのはアイリスには黙っていてくれよ?」
「バカ……」
「俺は自分がバカなのは十分わかっている。アイリスから散々に言われてたからな、バカだって」
リリベル=ユーリィは心の底からレオがバカだと思ってしまう。バカにつける薬が無いという言葉が真実であることをリリベル=ユーリィは知っているのだ。それを証明したのが他でもない、眼の前で困り顔になりながらも、微笑んでいるレオナルト=ヴィッダーなのだ。リリベル=ユーリィはなんだか腹立たしい気持ちになり、零れ落ちそうになっていた涙もひっこんでしまっていた。
「レオはなんでそこまでアイリス様のことが好きなの? レオがそこまでして、結婚したいと思えるほどの相手なの?」
リリベル=ユーリィは返ってくる答えがわかっていながらも、聞かずにはいられなかった。自分自身がアイリス=クレープスでありながら、リリベル=ユーリィとして嫉妬心を抱かずにはいられなかったからこその発言である。レオナルト=ヴィッダーは視線を寒空に浮かぶ半月へと移したのちに
「アイリスは俺に言ったことがある。わたしは月で、あなたは太陽よと。あなたが居てくれるからこそ、わたしは輝けるのって。だけど違うんだ。俺にとっての太陽はアイリスで、月は俺なんだ」
レオナルト=ヴィッダーはそこまで言うと、一度、言葉をそこで切り、視線をリリベル=ユーリィの方へと向け直す。
「俺が俺でいられるのはアイリスのおかげなんだ。俺は『災厄』からアイリスを護るための盾になりたい。『災厄』を打ち払うための剣になりたい。占い師の世迷言と切り捨てることは俺には出来ないんだ」
リリベル=ユーリィの心臓はどドキンと一度、跳ね上がる。リリベル=ユーリィはアイリス=クレープスであった時のことを思い出す。レオナルト=ヴィッダーが言っている占い師とは2年前の祭りの日にまでさかのぼることになる。アイリス=クレープスとレオナルト=ヴィッダーは愛し合う宿に入る1~2時間ほど前に、浮浪者かと見間違う風貌をした占い師と出会っていた。
そのボサボサ髪の年老いた占い師が『そちらの女性に逃れられぬ災厄が訪れる』といきなり言ってきたのだ。アイリス=クレープスはその占い師に対して、聞き耳をもたずにいた。レオとの幸せを妬む言葉として認識していたのだ。
しかし、レオは違っていた。それは明確な予言であり、アイリスに降りかかるであろう火の粉を打ち払おうとしていたのだ。
「俺はアイリスには幸せになってほしいと願っている。たとえ、幸せそうなカップルを妬んだ占い師の言葉であったとしても、俺には何かひっかっかるものがあったんだ。その後、俺とアイリスはロータス国王によって物理的に離されてしまったけど、占い師が言っていた『災厄』は別でやってくる……」
リリベル=ユーリィは背中に小虫が這いあがってくるような感触に捕らわれる。気持ちの悪さが腰から背中、そして肩のあたりまで上がってくる。しかし、レオナルト=ヴィッダーはリリベル=ユーリィが感じている気持ちの悪さに気づかぬままに言葉を繋げていく。
「アイリスは俺が絶対に幸せにしてみせる。アイリスの身に『災厄』がやってきた時に、俺がアイリスの側に居られるように。俺は今、俺の身を犠牲にしているんだ」
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